絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第三十二話 第一回戦3

「やった……。倒した……!」

 崇人はそう言って、高々と腕を掲げた。それを切っ掛けに、歓声が今まで以上にどっとセレス・コロシアムを包み込んだ。

「勝者っ、ヴァリエイブルのタカト・オ――――――ノ――――っ!!」

 そのアナウンスを聞いて、崇人はようやく安寧を得た。第一回戦はひとまず勝利したことに、喜んでいた。

「……勝った……!」

 ベスパが戻り、リリーファーから降りると、エスティが抱きついてきた。それを見て思わず崇人は顔を赤らめる。

「え……ちょ……人が見てるって……」
「よかった……。はじめは危ないんじゃないかとか思っちゃったけれど、タカトくんにはそんなこと問題じゃなかったね……!」
「ちょ、ちょっとエスティ、近すぎだって……」

 エスティは気にしているのか気にしていないのかは解らないが、崇人の身体とエスティの身体が密着しているもので、胸とかが当たっているのだが、それにエスティ自身は気づいていないようだった。
 崇人はエスティの身体を剥がし、平静を装う。

「水が欲しいのだけれど……どこにあるんだっけ」
「向こうにウォーターサーバーがあるよ」

 そう言って、エスティはそちらの方を指差す。それを見て、崇人はそちらへ足を進めた。
 ウォーターサーバーに向かい、紙コップを手に取り、水を注ぐ。そして、コップを傾け、水を飲み始める。

「……ふう」

 そこで、漸く彼は一息ついた。
 戦っていたあいだは、正直なところ余裕などなかったのだから、今やっと一息つけたということである。
 彼は、一先ず試合を振り返る。
 疑問などなかったが、特徴もなかった。振り返る点といえば、一時の予想外なポイントに対して柔軟な対応が出来なかったことだ。第一回戦は何とかなったが、これ以降の試合がどうなるかは――目に見えている。
 だからこそ、それを次の試合で対策しなくてはならない。水を飲み干し、空になった紙コップをゴミ箱に捨てると、エスティの方に振り返る。

「そういえば、エスティの試合はいつなんだ?」
「私は第七試合だから、あと三つ先かな。とりあえず、お疲れ様。あとは明日以降だね。第二回戦の組み合わせが決まるのは今日の午後、試合が凡て終わってからだったはずだから」
「そうだな」

 そう言って、崇人はエスティと別れた。


 ◇◇◇


 対して、北ヴァリエイブル陣営。

「おい、どういうことだよ。あの戦い方は」

 アレキサンダーがほかのチームメンバーに文句を言われていた。アレキサンダーの顔や髪は恐ろしいほどに白い。目の黒と、リリーファー操縦時に着るユニフォームの黒が映えるほどだ。

「なあ、お前があそこでヘマしなけりゃ、あのへっぽこリリーファーに勝ったのによ!」

 そう言うリーダーと思われる男に、アレキサンダーは微笑む。

「……なにがおかしいってんだ」
「なんかうざったくなってね。……もうフェイクを演じるのもここまでとしようか」
「何が言いたいんだ」

 リーダーは語気を強める。アレキサンダーはシニカルに微笑む。

「だからさ……そのうす汚い手をどけろ、下等生物ゲテモノが」
「なにをおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 リーダーはそう言って、右の拳をアレキサンダーの身体に叩きつけた――はずだった。
 アレキサンダーは浮いていた。
 それは、彼らにとって予想もできないことだった。
 この世界には魔法がある。だが、それは詠唱を行う等の順序を積んで行うもので、こんな簡単に魔法が使えるはずもなかった。
 いや、そもそもの話。
 これは魔法によって浮かび上がっているものなのか。
 魔法ではないとすれば、何だというのか。
 しかし、彼らはそれが何なのかは、結局は理解できなかった。

「……これだから、人間は嫌いなんだ」

 そして。
 彼の周りに、無数の棘が出現する。そこで漸く彼らはこれから何が起こるのかを察し、一目散に逃げ出していく。
 しかし――それを正確に棘は捉える。

「チェックメイト」

 その一言で。
 棘は発射され、それが北ヴァリエイブルの起動従士クラスチームのメンバーの身体を貫いた。
 倒れた姿を眺め、アレキサンダーは外へ出る。
 廊下を歩くと、一人の女性とすれ違った。
 先程もすれ違った、アーデルハイトだった。
 しかし、今度は立ち止まり、彼女から話しかけてきた。

「……『帽子屋』。まさかあなたが直接ここに乗り込んでくるとはね」

 それを聞いて、今度はアレキサンダー――帽子屋が呟く。

「アリス。君こそここに居るとはね。驚きだよ……計画がこれで進むことを、君自身は理解しているのかな?」
「私はアリスという名前ではない」

 そう言ってアーデルハイトはその言葉を突き返す。

「ならば、誰さ?」
「私はアーデルハイトだ」
「……やっぱりアリスだ」
「だから私は――」
「違わない。君こそが――アリスだ」

 帽子屋とは異なる声が聞こえたので、彼女は振り返った。
 そこにいたのは、金髪のロングヘアーの少女だった。アーデルハイトの腰ほどの小ささであり、ニコニコと微笑みを湛えていた。

「……誰?」
「この姿で失礼。私は『ハンプティ・ダンプティ』だ」

 その姿とは似つかぬ口調で、アーデルハイトは一瞬驚きを隠せなかった。

「……それで、『ハンプティ・ダンプティ』が何の用?」
「君たち人間の立ち位置を考えてもらおうと思ってね」
「だったら、急いで話してもらえるかしら? 私も急いで向かわなくては。次に試合が待ち構えているのよ」
「それだったら問題ない」

 少女――ハンプティ・ダンプティが微笑む。

「すでに、南ヴァリエイブルのエリーゼ・ボンラジュアは棄権をしているはずだ。我々の手によってね」
「……それに、北ヴァリエイブルの面々も、あなたの様子からして全員棄権でしょうね」

 それを聞いて、今度は帽子屋が微笑む。

「人生を途中退場はしていないと思うよ。さすがにそれほどのダメージは与えていないつもりだ」
「そうかしら。あなたたちの感じからして完全抹殺でもしていそうなものだけれど」
「隠しきれていないようだぞ、帽子屋」
「……だが、それで大会が中止に追い込まれるようなことはない。なぜなら、『彼らは既に全員棄権している』のだから」

 帽子屋の言葉に、アーデルハイトは首を傾げる。

「……どういうこと?」
「言葉通りの意味さ。どちらにしろ君たちは殆ど戦わなくていいことになる。別に君たちのためにやったわけではない。僕らが、目的を果たすための最善な選択……と言って理解してもらえれば、いいがね」
「理解するとでも思っていたの?」

 アーデルハイトはそういうと、袖口から棒状の物体を滑り出した。それは警棒だった。警棒とはいえ、バカにできない。この警棒はリリーファーの外装と同じ成分で作られており、なおかつボタンを押すことで電気が発生する。『シリーズ』二匹に対して満足とは言えない装備だが、何も無いよりはましであった。

「その警棒では僕らには適わないと思うけれどね」
「……ないよりはマシよ」

 そう言って、彼らは同時に地を蹴った。



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