絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第二十八話 リリーファーを決めよう

 会話を終えて、二人はエスティたちのいる場所へと戻ってきた。

「あら、会話はもう終わったの?」

 訊ねるエスティに、崇人は頷く。

「いい作戦を立てることができたよ。これで明日以降、戦っていい結果が出ることを、あとは祈るだけだ」

 そう言ったのはヴィーエックだった。ヴィーエックの顔は笑っていた。それを見て、崇人も同じように笑った。

「……ふうん。まあ、いいけれど。とりあえず、この機体、いいと思わない?」

 エスティが指差す方向には、一機のリリーファーがあった。全身を黄色で着色されたリリーファーで、ほかにあったリリーファーとは大きく異なっていた。
 その大きな特徴が、頭についている鶏冠のような鋭く尖った角。
 それがまるで、ほかのリリーファーとは異質と思わせていた。リリーファーであるのに、リリーファーでない。

「これは……?」
「リリーファーだと思うけれど、ほかのよりも違うイメージがあると思わない?」

 エスティがつぶやく。

「確かにそう思えるね」

 崇人が言うと、エスティは微笑み、

「そうでしょう? このリリーファー、違うように見えるでしょ。これでビビーンと来ちゃってさ。決めた! 絶対にこれに乗る! 整備員さん! このリリーファーの名前を教えて!」

 そう言って嬉々としてエスティはリリーファーの近くにいる整備士のもとへ向かった。
 ちなみに一体のリリーファーにつく整備士は五名居る。その中でも赤いキャップを被っているのがその中でもリーダーとなる人間だ。エスティはその人間に聴きに行った。このリリーファーの整備リーダーは、栗色のカールした、キャップにまとめきれないほど長い髪の女性だった。

「……はいはーい、うん。これはねー、『ベスパ』って言います。いい名前でしょ? その兵器の中で一番のやつがこの『鶏冠』ですよ。鶏冠は鋭く尖っており、頭突きするとすっごい痛いんですよ。いやー、そこに力込めましたからね! そこで死んだ整備士が多数というくらい……」
「すごい縁起悪い話聞いちゃったよ!」

 エスティと整備士の会話に思わず崇人はつっこみを入れる。

「おやおやー、君はいったいどうしたんだい。突っ込んじゃってさ。夢は芸人かな?」
「そういうことじゃなくて! すげえ縁起の悪い話聞いちゃったよ! 人が死ぬほどの鶏冠……いや、リリーファーの大きさを鑑みれば当たり前なんだが!」
「うるさいなあ……。とりあえずその鶏冠で攻撃するのが一番だ、って話だよ。あとね、この鶏冠は頑丈に作ってあるから乱暴に扱っても問題ないよ」
「いいわね、私このリリーファーに乗るわ。名前……は」
「ベスパ」
「そうそう、ベスパ。いい名前よね。可愛いし」

 可愛いのか? と崇人は疑問に思ったが、そんなことは一切考えないことにした。というか崇人の元居た世界にもベスパというものはあるし、それはバイクか何かだったのだが、それをエスティたちに言う必要などもない。
 エスティはこれ以外のものには頑として変えないらしい。目移りすることもないので、それはそうであるのだが。

「それじゃ、私、このベスパで行くから。よろしくね、ベスパ!」

 そう言ってエスティはベスパに向かってウインクする。ああいうものなのか、と崇人は考えるが、あいにくこの世界でリリーファーを生き物のように扱う人は数少ない。だが、それが正しいのかもしれないと、時に見られることもあるのだ。

「それじゃ俺はどうするかなあ」

 そう言うとヴィエンスは離れ、どこか別の場所へ向かった。大方彼もリリーファーを見に行ったのだろう。アーデルハイトもすでにどこかへ消えていた。
 となると残ったのはヴィーエックと崇人である。

「……どうする?」
「どうしようか」

 二人は顔を見合わせて言う。しかし、それだけでは結論が出てこないのは自明であった。

「……一先ず、回ることにしようか」
「そうだな」

 そう言って、二人は適当に歩き出した。


 ◇◇◇


 結論として、彼らに見合うリリーファーは見当たらなかった。

「……どうするか」
「どうしようかねえ」

 結局、最初のベスパの場所に戻ってくるほかなかった。ベスパの前では先ほどの整備リーダーがニコニコと二人の帰りを待っていた。

「どうだい? リリーファーを見て? 大会のリリーファーはどれもいいものばかりだろう?」
「そうですね……けれどいいのはあまり」

 崇人がそう言うと、待ってましたと言わんばかりに整備リーダーは崇人の方に顔を近づける。

「そういうと思っていてね! ベスパ、まだ使えるよ! チーム貸切ってのもありなんじゃないかな!? なんて」
「チーム貸切……なるほど、その手が」

 整備リーダーの言葉にヴィーエックは頷く。理解していない崇人はヴィーエックに訊ねた。

「なあ、『チーム貸切』ってなんだ」
「チーム貸切というのは、名前のとおりだよ。チームで一機、リリーファーを貸し切るんだ。それしか使うことができない代わりに、細工をされる心配も少ない。最近はあとの選手を妨害するためにわざとりリーファーコントローラーを盗んだりする輩も居るからね。その対策には効果的、ってもんだ」

 整備リーダーの言葉に、彼らは頷いた。確かにそのとおりである。この大会は勝てば『国お抱えの起動従士』になれるチャンスを得られる。そのためならば何だってするだろう。それがたとえ規約を違反していても、だ。
 だからこそ、その対策をしなくてはならない。する必要があり、する義務があるのだ。

「……けれど、エスティはいいよ。ヴィーエックもいいかもしれない。だが、アーデルハイトとヴィエンスの二人には何も言ってないじゃないか。このまま俺らで決めていいものなのかねえ」
「いいんじゃないの?」
「って、アーデルハイト!? いつの間に……!」

 気がつけば、ヴィーエックの後ろにはアーデルハイトが立っていた。ヴィーエックの肩に手をかけて、したり顔で笑っていた。

「いやあ、楽しそうな話をしているもんだからさ。ついつい参加しちゃうわけですよ。……んで? チーム貸切だって? なんか面白そうなことしようとしているねえ」
「面白そうなこと、というか、チーム貸切は一番リスクが低いからね。便利っちゃ便利だ。それが一番だと思うし」
「まあ、そいつはそうだ。それが国のお抱えと違うところだね」

 アーデルハイトは手に持っているミルクティーの紙パックジュースを一口飲む。いつの間に買ってきたのだろうか。

「だけれど、まだ全員の意見を聴いてないから、ダメだと思うんだよね」
「いいや、タカト。そんなことは問題ないと思うぞ? 特に問題もなく、全員の了承を得られるはずだ」
「どうして?」

 崇人の問いにアーデルハイトは小さく微笑む。

「……なんとなくさ」

 アーデルハイトはそう言って、崇人の肩をぽんと叩いた。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品