絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第八話 馬鹿と天才は紙一重

 次の日、崇人はマーズとともにある場所へと足を踏み入れた。
 リリーファーシミュレーションセンター。
 名前のとおり、リリーファー同士の戦闘を電子空間でシミュレートする機械が置かれており、それを用いてシミュレートすることが出来る場所である。
 黒塗りのリムジンに載せられ、ここまでやってきた崇人は現時点で不満しかなかった。

「どうして朝叩き起されてそのまま連行されなくちゃならないんですかねぇ……」
「文句言わないでよ。私だって急のことでびっくりしたんだからさ」

 それは嘘だと崇人は知っていた。何故なら、朝叩き起されたかとおもったらマーズに強引に引っ張られリムジンへ連行されたからである。
 マーズは何を考えているんだろうか、そんなことを思いながら重い瞼を擦って、崇人はマーズに付いていくのだった。
 リリーファーシミュレーションセンターの中に入るとエスカレーターが待っていた。エスカレーターを昇っていくとガラス張りの空間が目の前に現れた。
 前方が全てガラスで覆われており、その中には小さなカプセルがあった。小さな、とはいえ人一人が入るほどの大きさであることには変わりないが。

「……ここは?」
「ここが、シミュレート室。おーい、メリアー!」

 誰もいない部屋で、マーズは奥へと声を上げた。

「……はーい」
 暫くして、部屋の奥から小さい声が聞こえた。
 そしてペタペタとスリッパの音を響かせながら、誰かがやってきた。
 黄色いツインテールの少女は、研究員に有りがちな白衣を着ていた。白衣のボタンは付けておらず、その中はブラジャーとパンツだけだった――

「へ、変態だああああああああ!!」
「失敬な! 利便性を追求した結果の格好が解らないのか!」

 崇人の叫び声に少女は顔を真っ赤にさせて答えた。そして手に持っていた水筒を開け一口飲んだ。

「……どうしたのさ、マーズ? なんか用事でもあるん?」
「あるから来たんでしょうが。馬鹿か」

 たはは、と笑いながら少女は再び水筒の中身を一口飲む。

「……んで、こいつは誰だ?」
「タカト・オーノ。インフィニティを操縦出来た人間よ」

 そう言ってマーズは崇人の頭をぽんと叩いた。
 その言葉を聞いていた少女はみるみるうちに顔が青ざめていった。

「……なんだと? インフィニティを!? 誰も操縦が出来ないと言われ、封印せざるを得なかった、最強のリリーファーを、か!?」
「そ。あんたの憧れ、“O”の最高傑作を動かした唯一の人間だよ」

 少女の目は輝いていた。そして、崇人の肩を掴むと、がしがしと揺らし始めた。

「ほんとうか!? ほんとうにあの≪インフィニティ≫を動かしたのか!?」
「ああ、そういうことになるな……」

 いいから揺らさないでくれ、と崇人が呟くとようやく少女は揺らすのをやめた。
 そして、少女はニヒルな笑みを零して、言った。

「自己紹介だ。私はメリア・ヴェンダー。研究者というものをしているよ」
「研究者?」
「ああ、そうだ。いろいろなものを開発したよ。そうだね……例えば、このシミュレーションマシンなんてそうだ。あれは数多のパターンを登録していてな、毎回別のパターンでシミュレートすることが可能になっているんだ。どうだ、すごいだろ?」

 メリアが目を輝かせて崇人に同意を求めるが、正直なところ崇人は未だに理解頻っていないので、「ああ、うん」と曖昧な返事しか出来なかった。

「なんだ、つまらなそうに言って」
「メリア。あんたの話を嬉々として聞くのはライアンだけだから」
「そうだけどさー、ライアン最近私に冷たいのよねー」

 突然ガールズトークが始まってしまって、崇人は混乱してしまった。
 しかし、崇人の混乱を他所に、二人の会話は続く。

「ライアン忙しいものね。確か、ティパモール関連のテロ捜査してるんでしょ?」
「そうなんだよね。だから私が科学で何とかしてあげよう! とか思っても、いいよいいよとか言って遠慮しちゃうんだよ……。なんでだろうね?」
「そりゃあんたがオーバーテクノロジー過ぎちゃうからでしょうが……。あんたの造るの凄すぎて誰も使えないんだよ。私のだって、何世代か下げたものだって言ってたじゃない」
「あれはいやいやだよ。私だって好きでグレードを下げたんじゃない。王様が『これじゃこの時代の人間には使い物にならない』とかほざくからやってやったんだよ。自分の開発した技術を自分で改悪するのがどれだけ辛いか?」
「そうだけど。あのときアイツ……いや、王様泣いて私の家来たっけかな。即蹴ってやったけど。蹴ったあとすっごい喜んでいたけれど」
「いやー相変わらずの変態ぶりのようで!」

 お前が言うな、と崇人はツッコミをするとメリアがパソコンの画面を眺めた。画面にはたくさんの0と1が上から下に流れていた。

「あっちゃー、どうしたこりゃ? なんかやらかしたかな?」

 カタカタとキーボードから何かを打ち込むも、それは収まる気配はなかった。
 崇人が気になったので画面を眺めると、

「……これ、コンパイルにエラー起こしてないか?」
「えっ?」

 予想外の人物から声をかけられたことで、メリアは一瞬狼狽えてしまった。

「どういうことよ。私が間違っているとでも?」
「おまえそんなんじゃ彼氏というか友達出来ねえぞ……。まあ、いいや。ちょっとコード見せてみろよ」

 そう言って崇人は強引にマウスを奪い、タブを開くと、メモ帳いっぱいにコードが現れた。

「うわっ、見づらいコーディング。これだと共同作業のときアウトだぞ。どこが間違っているのか解りづらいし」
「私がわかればいいんだ」
「解ってねえだろうが。えーと……78行目に定義ミス? ……ああ、これか」

 そう言ってその箇所を適当にキーボードで打ち込み修正していく。修正はたった数分で出来上がってしまった。そして、それを再びコンパイルすると、結果は『OK』と出た。
 何故彼は理解できたのか。
 ほかの人間は知らないが、彼自身前の世界ではプログラミングを行っていたからだ。音声認識システムなどを作成するにはどうしてもプログラム技術を要求される。そのために彼はプログラミングを独学で学んでいた、その知識であった。

「……ありゃ」
「だろ?」

 まさか異世界まで来てプログラミングするとはな――と崇人は思いながらメリアの方を見て、小さく笑った。
 メリアは呆気にとられていたが、直ぐに小さく呟いた。それは崇人に聞こえることはなかった。

「……とりあえず、使えるのかしら?」

 マーズがメリアに訊ねる。

「ああ。今、プログラムは完璧に動作する。使うのか?」
「私じゃないけれどね」

 そう言ってマーズは自分の目の前に指を差した。そこにいる人間とは、もう一人しかいなかった。

「……俺?」
「当たり前じゃない。昨日も言ったでしょう? 普通のリリーファーの操縦も慣れないとね、大会とか出るんだから、って」
「ふぅん、大会出るのか。私はあまり興味がないがな」

 メリアは再びキーボードからびしばし文字を打ち込んでいた。その様子はまさに一心不乱だった。

「なんでメリアはいつもそう素直じゃないのかなー」

 そう言ってマーズは両手をメリアの首に通した。

「お、おい何をするんだよ」
「だって素直じゃないんだから」

 そう言ってマーズはメリアの耳元に口を持ってきて――ふぅと息を吹きかけた。
 直ぐに「ひゃんっ」と今までのメリアとは似ても似つかぬ声が聞こえた。

「ま、マーズ!!」
「いやあ、ごめんごめん。でも、素直にならない君が悪いんだよ?」
「そういう問題かよ!」

 随分置いてけぼりにされている――崇人はこのやり取りを見て、そう思うのだった。

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