絶望世界の最強機≪インフィニティ≫ ~三十五歳、異世界に立つ。~

巫夏希

第四話 襲撃者(後編)

「さぁて、作戦会議と行きますかねぇ」
「どうしてヴィエンス、お前がリーダーぶっているんだよ」
「なんだ、それじゃお前がリーダーになるか?」
「それはそれでなぁ」
「ちょっとちょっと! 私のことを忘れないでよ!」

 崇人たちは敵を目の前にしておちゃらけた気分で話をしていた。内容は敵に対する作戦会議ということで、至極まともな内容ではあるが、しかしながら外から見ればそれはただの痴話喧嘩にしか見えない。

「違う、そういうのをするために集まったんじゃない。作戦会議だ。どうする?」
「ひとまず、急所を探そうぜ。そうじゃなきゃ倒すことも出来やしねえ。そもそもレーザーが効かないんだ」

 崇人の発言にふたりは首肯する。そのとおりだ――とヴィエンスは思った。
 エスティと崇人が同時に放ったレーザーは、確かに襲撃者の身体を貫いたはずなのに、それが起こってもいないような感じになっている。つまり、ノーダメージだということだ。
 エスティも崇人も、『ハートの女王』の恐ろしさを身で実感した。
 そして、ヴィエンスもそれを目の当たりにした。
 彼らに、倒せるのか――と自らの意志で問いかける。

「……なぁ、エスティ、ヴィエンス」

 崇人は重く、口を開いた。

「どうした?」
「――ちょっと、いい案があるんだけど」



 ところは変わり、それを眺めていたのは『白の部屋』の少年だった。
 部屋にはテレビがいつの間にか生成されていて、それを通して現在の戦いの状況を眺めているということになる。

「……しかしまぁ、敵前にして作戦会議とは余裕があるよね」
「人間というのはそういうつまらない、気味が悪い、意味の解らない、我々とは相反する存在だろう。君も……かつてはそうだったのだから知っているはずだ」
「そうだけど。少なくとも、あんな人間じゃなかったかなぁ。僕がしっている人間はどう見てもクズばかりだったよ。敵前逃亡なんて当たり前、仲間を見捨てるのも朝飯前だったね」
「くっくっく。そうだったな。だから君は人間を見捨てたんだったな?」

 少年は天井を見上げて、少しだけ顔を顰めた。

「……僕と戦うかい?」
「おぉっと、今君と戦って勝てるとは思っちゃいないさ」
「そうだね。そうであって欲しいよ」

 少年はため息をついて、俯いた。

「……ほら、戦いが動き出したようだよ」
「――どれ」

 そう言って、少年は再びテレビの画面に視線を集中させた――。


「行くぞ……っ!!」

 そのころ、崇人は行動を開始した。
 崇人の乗るリリーファーが動いたのと同時にエスティ、ヴィエンスの乗り込んだリリーファーも動き始める。
 そして。
 三体が『ハートの女王』らにレーザーを一斉に撃ち放った。

『おいタカト! どこを狙えばいいんだ!!』

 崇人のリリーファーに、ヴィエンスから通信が入る。

「胸にあるトランプだ!! あれを狙え!!」
『了解っ!!』

 そう言ってヴィエンスは照準を胸の中心――『ハートのキング』へと変更した。
 変化は直ぐに訪れた。

「ぐぇええええええ」

 『ハートの女王』らから叫び声が聞こえた。それは怨嗟の叫びにも見えた。だが、その声は徐々に弱々しくなっていった。

「……行ける!!」
 崇人はそう確信した。
 しかし。
 その直後、崇人の乗るリリーファーは活動を突如として停止した。

「は? ……どういうことだよ!!」

 それは、エスティ、ヴィエンスの乗るリリーファーも同様のことだった。
 リリーファーには、殆どがエネルギーを自らの手で生産することが出来ない(≪インフィニティ≫のように一部例外もあるが)。そのため電源は外部から供給するか、蓄電した電池を用いるほかない。このリリーファーは前者では自由性に欠けるため、後者を用いているのである。
 つまり。
 今の活動停止とは、エネルギーが切れたことを指す。

「お、おい……嘘だろ……?」

 崇人はこの事態をまったくもって予想していなかった。
 それはエスティとヴィエンスも同じだった。

『おい、エスティ、ヴィエンス! お前らのリリーファーは稼働するか!?』

 マイクを通してそれぞれのリリーファーに崇人は通信した。それぞれ返ってきた返答は、

「同じだ、まったくうんともすんとも動きやしねえ」とヴィエンス。
「こっちも全然よ」とエスティ。

 まさに八方塞がりの状態になった。
 しかも、まだ敵は余力を残している。
 このままではもたない――!
 崇人がそう思った、その時だった。

「――待たせたな、新米起動従士くん♪」

 まるでこの状況を楽しんでいるような、爽やかな声が聞こえてきて、崇人は顔を上げた。
 するとそこには、崇人たちのリリーファー以外にもう一体リリーファーがいた。
 赤いカラーリングのリリーファーに、彼らは見覚えがあった。

「……マーズ様、マーズ・リッペンバー様のリリーファー『アレス』じゃないか!!」

 まず、声を上げたのはヴィエンスだった。
 もちろん、崇人はそれを知らない訳ではない。
 現に、崇人が『アレス』のコックピットを見たところ、余裕ぶった面持ちだった。なぜなら、崇人たちに向かってピースサインをしていたからだ。

「まさか出待ちしていたわけじゃないよな……」

 崇人は最悪の可能性を考慮したが、少なくとも今そんなことを言っている場合ではない。
 そう考えている間にも、アレスは行動を開始した。
 アレスの撃ち出したのはレーザーだった。
 しかし、崇人たちのリリーファーに装備されているレーザーとは違うものである。
 レーザーにも種類があり、崇人たちの乗っているリリーファーに装備されているのは媒体がイットリウムの固体レーザーである。グレードを落としたもので出力も小さい。
 対して、アレスに装備されているのは自由電子レーザーと呼ばれるものだ。これは媒質によって発する光の波長がただ一つに決まってしまう一般のレーザーとは大きく異なり、電気的な操作によって波長を自由自在に変えることができるという代物だ。その出力はメガワット……いや、この『アレス』にはテラワット級のレーザーすら照射することが可能であると言われている。
 しかしながら、電源的な理由からアレスですらレーザーはメガワットのオーダーまでとなっている。
 それでも、固体レーザーと比べればその攻撃力は天と地の差がある。
 そして、アレスから照射されたレーザーは『ハートの女王』の身体を――正確にトランプを中心として――貫いた。




[4]
「いやぁー助かりました。まさか、マーズ大尉が直々に来られるだなんて」
「なんだか変な気分ですね……。もとはあなたの方が上司だったのに」

 戦いが終わり、崇人たちの乗ったリリーファーはアレスが先導となり訓練学校へと戻ってきた。
 マーズ・リッペンバーは国内で有名な起動従士であるから、起動従士クラスの面々はマーズの周りに群がっていた。
 そして、アリシエンスとマーズが話をしているのを見て、少し遠くに離れていた崇人たちも話をしていた。

「……疲れた」
「結局、頼っちゃったな」
「しょうがないでしょー、だって私たち訓練生なんだよ?」

 エスティはそう言って紙パックのオレンジジュースを一口飲んだ。

「訓練生だからって、出来ないことはないんだ。俺は……もっと強くならなくちゃいけないんだ。……この国を、守らなくちゃ……!」

 ヴィエンスがそういうのを見て、崇人は訊ねる。

「……何かあったのか?」
「お前には関係ないだろ……!」

 それから、ヴィエンスは何も答えることはなかった。
 その後、エスティと崇人は幾らか会話をしたものの、長く続くことはなかった。
 そして、放課後になった。

「今日も終わりかー……」
「なんだか長く感じたねー」

 崇人がカバンに教科書類を仕舞い終わったと同時に、エスティはそう言った。

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