今日お姫様始めました

りょう

第48話 新しい命は春風と共に

 第48話 新しい命は春風と共に
1
「にしても、あの姫が男だったとは、今になっても信じられへんわ」
「いつまで言っているんですかアルクさん。もうだいぶ前の話ですよ?」
「そんな辛気臭い事言ってたら、大人になれへんよ」
「もうとっくに俺は大人ですからね」
今日も平和だった。
俺はアルクさんと共に城下町である買い物をしていた。ミッシエルはとある事情で、この場にはいない。
「にしても、あんたがパパになるとは思っておらんかったわ」
「結婚したんだから、あり得なくはない話ですよ」
「毎日イチャイチャしとるからな」
「そ、それは言わないでくださいよ」
ミッシエルのとある事情とは、勿論出産への準備。そう、結婚式から約一年がたち、俺たちの間に新しい命が生まれる事になったのだ。そして出産予定日が一週間後という事で、俺はアルクさんと共にベビー用品の買い出しにきていたわけだ。
「と言っても、何を買えばいいんですかね」
「その辺はうちに任せておき」
「あれ? アルクさんは子持ちではないですよね」
「せやけど、女の子ならそのくらい知っておくもんやで」
「へぇ」
男の俺には関係ない話か。
(それにしても…)
この国にやってきて、もうすぐ二年半が経とうとしている。最初はあんなに帰りたがっていたのに、今じゃすっかり馴染んでしまっている。まあ、女装とかしてないから全く問題ないのだが、ちょっとだけ親の事が心配になったりしている。二年も息子が行方をくらましていたら、もう大事件になっているだろうし…。
「ん? どうしたんや? そんな胡散臭い顔して」
「あ、いや。ちょっと考え事をしていたんです」
「考え事?」
「俺元々はこの世界の住人ではないじゃないですか。俺がいなくなった元の世界はどうなってるのか気になって…」
「そういえばあんた、異世界から呼ばれたんやったっけ?」
「はい」
サラは未来から来ていたけど、俺に関しては全く別の世界から来た。しかも強制的に。今更ながらホームシックになってしまっている。
「そこら辺はうちじゃ、どうにも出来へんし、我慢するしかないんちゃう?」
「やっぱそうですよね…」
分かってはいたが、ちょっと寂しい気持ちになる。まあ、今更嘆いたって仕方ないか。
「そんな事より、早く買い物すませようや」
「あ、はい」
2
それから一週間後、ウマンディア王国では桜が咲くと共に小さな命も誕生した。
「よく頑張ったなミッシェル」
「はい。私…頑張りましたよ…」
俺は小さな小さな命を手に取る。
その体はとても小さくて、今にでも消えてしまいそうな小さな存在。でも守ってあげたいようなその小さな命。感動した俺は、ついつい涙を流してしまった。
「産まれてよかった…本当に…」
「私も…幸せです…」
この国には季節がないはずなのに、部屋の窓から暖かな春風が吹いたような気がした。
                                         続く

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