今日お姫様始めました

りょう

第21話 弱き者

                  第21話 弱き者

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三ヶ月。
姫の姿になってから早くも三ヶ月が経ってしまった。ミッシェルやサラと仲良くなったのはいいのだが、このままだと一生姫の姿のまま暮らす事になる。そんなの嫌に決まっている。せめてこの世界にいるなら男として、普通に暮らしていきたい。それが俺の今の本望だ。元の世界に戻っても構わないんだが…。
(正直こっちの世界の方が、楽しいよな)
あんなに帰りたい帰りたいと言っていたが、よく考えると元の世界はそんなに面白くなかった。ただ退屈な毎日を過ごすだけで…。
[ん?)
ある日の晩、そんな事を考えながら城を適当に散歩していると、背後から怪しげな気配を感じた。これは殺気?
(気のせいか…)
すぐに気配が消えたので、気のせいかもしれないが、簡単にスルーできる様なものではなかった。しかし下手に動くと、何が起きるか分からないので、ここは無視するという事で…。
『ターゲットを肉眼で確認、ただちに接触します』
「は?」
謎の声と共に盛大にガラス窓の割れる音が廊下に響く。慌てて振り返ると、そこには全身黒の服装(何か特殊な服なのだろうか?)を身に纏った一つの影が現れた。
「あ、あなたは誰ですか?」
つい冷静さを失ってしまう俺。それに対して、
「我が名はビンジェ、その首いただきにまいった」
首? つまり俺の命か! という事はラビダス王国の使いか。
「いざ参る!」
俺が何かを言おうとする前に相手がいきなり切りかかって来た。俺は慌ててそれをかわす。
「と、突然何ですかあなたは」
「戦いには突然起きる事は多々ある。それを心構えていないとは、情けないお姫様だ」
やばい、こいつマジだ。助けを呼びたいが、生憎俺が居る場所は滅多に人が通らない。相手もそれを狙ったのだろう。つまり…、
(絶体絶命って訳か)
だけどこの前みたいに俺は何も出来ないわけではない。アルクさんに俺は格闘術を学んでいるのだ。だったら、多少の危険をおかしてでもわ戦うしかない。
「私だって、やられてばかりにはいけないんです!」
「なっ!」
敵が横薙ぎをしてきたほんの一瞬の隙を狙って、相手の腹におもいっきり一撃を加える。
「ぐふっ!」
一点に力を込めて、拳で敵を吹き飛ばした。
「はぁ…はぁ…」
くそ、一撃加えるだけでもこんなに体力を使うのか。もっと修行が必要か…。
息を切らしながら敵を飛ばした方に目をやるが、そこには人の影すらなかった。
「え?」
「今の一撃は驚いたが、一発が限界のようだな」
背後から声が聞こえる。しまった、後ろか…。
「面白い、殺すには勿体無いくらいだ」
腹部に強烈な痛みが走る。う、嘘だろ…。
「さらばだ」
敵は姿を消し、廊下に残るのは刺された俺だけ。く…そ、こんな所で俺は…。
「ひ、姫!」
ステラの声が遠くから聞こえたような気がした。
ああ、ごめんな皆。俺、やっぱり弱い人間だよ…。
                                          続く

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