今日お姫様始めました

りょう

第15話 この世界での幸せ

             第15話 この世界での幸せ

1
その日の晩、先程の事がどうしても気になった俺は、彼女を部屋に呼び出した。
「さっきお前、何で逃げ出した?」
「何の事ですか?」
「とぼけるなよ。戦いが終わった後、お前をみかけて呼んだのに、お前はすぐどこかに消えただろうが」
「はて? 私は姫が戻ってくるまでずっと城内に居ましたが」
「本当か?」
「本当ですよぉ。疑ってるんですか?」
「いや、別に」
とぼけてる様には見えない。俺の見間違いか? じゃあ何で俺が呼んだら逃げたんだ?
(前々から思っていたんだが…)
こいつ、謎が多すぎるだろ。
2
数日後、俺はミッシェルと共にある所へ出かけていた。女性と出かけるのは、男としては嬉しい事なのだが、あくまで俺は女子だ。本当悲しくなる。
「それで、私達はどこへ向かっているのですか?」
行き先をまだ聞いていなかった俺は、歩きながら彼女に尋ねる。
「実はユウさんに見てもらいたいものがあるんです」
「私にですか?」
「はい。ついて来れば分かりますよ」
見せたいものとは一体何なのだろうか? 男の感性と女の感性は若干異なるから、どんな反応をするのが正しいのか分からない。でもまあ、不自然に見えなければきっと大丈夫だろう。
「ユウさん、一つ聞いていいでしょうか?」
「はい」
「ユウさんって姫になる前は、何をしていたんですか?」
「姫になる前…ですか?」
つまりこの世界に来る前って事か…。正直言えば話したくない。理由は、嫌な事を思い出すからだ。現実での俺は、大切な妹を失い途方にくれていた。俺は彼女を守れなかったんだ。いつも側にいたのに気づいてやれなかった。後悔ばかりしていた。そんな自分が情けなくて…。
「ユウさん? どうかしましたか?」
「あ、すいません。姫になる前の話ですよね?」
「はい。でもその様子だと、あまりいい思い出ではないようですね」
どうやら不安や何やら全てが顔に出てしまっていたらしい。俺は慌てて首を振って、いつもの自分に戻した。
「ごめんなさい、ちょっと嫌な事を思い出してしまったんで」
「い、いえ。聞いたのは私ですから。悪い気にさせたならすいません」
「あ、謝らないでくださいよ」
確かにここに来る前は嫌な人生だった。何もかもがうまくいかなくて、現実から逃げてばかりで…。
でも今は、女性の姿でいる以外は、案外幸せを感じているのかもしれない。守ったり、守られたりされるこの世界で生きて行くことが…。

歩くこと十分、ようやくミッシェルが足を止めた。
「着きましたよユウさん」
「ここですか?」
いつの間にか森の奥に来ていたのか、周りは木が生い茂っている。そして、視界の真ん中には
「この国唯一の名所、幸せの泉です」
綺麗な泉があった。
泉の水は、とても透明で、中の魚が見える。これは…。
「綺麗…」
                                                続く

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