転生ヒロイン、今日もフラグを折るために奮闘する

神無乃愛

生徒会副会長ロビン、アーデルヘイトに興味を持つ


 生徒会室に入ってまず驚いたのが、食事が広げられていることである。
「……えっと?」
「僕の趣味。お気に召してもらえたら嬉しいな」
 そう言ってきたのは生徒会副会長のロビン。さり気なく茶も淹れている。そして、それを止めないあたり日常茶飯事なのだろう。
「男がこういうのするのは嫌なタイプ?」
「それは貴族様だけでしょう。私の周りは『立ってるものは年長者でも使え』の風潮でしたから」
 料理はその時手の空いている年長者が作っていた。それに混じって年少者が手伝っていた。
 それが孤児院でありふれた風景だった。
「そっか、よかった。ボーは最初嫌がったからさ! それに先輩たちも不思議そうな顔をしてたし」
 そんなことを言っているうちに、ロビンは裁縫セットを取り出し、クンラートの制服のほつれを直していた。
 その睦まじさは夫婦じゃないかと思うくらいである。
「どうしたの?」
「いいえ。かなり器用だなと。慣れた方なのはよく分かります」
「そう? 不思議じゃないの?」
「……それを言ったら、ブティックのお針子さんたちはどうなるんですか? 半数は男性ですよね」
「そう来たか」
 そう言うものの、ロビンは嬉しそうだった。


 ぶっちゃけ、アーデルヘイトの前世において、家事全般を教えてくれたのは父だったりする。母親は仕事と家族をこよなく愛する人だったが、家事とは相性が悪かった。勿論、アーデルヘイトの節約料理にも前世の父に教えてもらったことが礎になっている。
 そんなわけで、アーデルヘイトの中で家事全般を男性がするということに、抵抗は全くない。


 男性がこういったことをするということに、全く嫌悪感を示していないというのは態度で分かる。そして、当たり前のように受け止めてくれたことがロビンにとって何よりも嬉しかった。


「……おいしいです!」
 いや、おいしいという言葉では表せないほどに洗練されていた。その辺の女性より女子力が高すぎる。
「そう? 嬉しいな」
 ロビンの顔も綻んでいた。

 正直な話、生徒会役員は食べてくれるが、感想すらまともに言わない。「当たり前」のように食べるだけだ。
 それに対して、アーデルヘイトは本当に嬉しそうに食べる、それが嬉しかった。
「これ、筍ですよね」
「よく知ってるね! えんの国でよく食べられるらしいよ」
「孤児院ではよく食べてましたから」
「この高級食材を?」
「竹林へ行けば見つけられますよ?」
「教えて! 父上も母上もこれが好きなんだ! でも燕の国から輸入するしかないから大変なんだ!」
「いいですよ? 今度の休みに孤児院へ行きますし。その時に筍を取るつもりをしてますし」
「じゃあ、約束だ!」
 待ち合わせ場所を孤児院にされたが、ロビンはそれどころではなかった。

 アーデルヘイトとしては、筍如きでここまで驚かれると思わなかった。
 燕とは、中華圏の文化を持つ隣国の名前である。中華圏なので筍料理もあると思っていたが、その通りだったとは。
 さすがファンタジーの世界とでも言うべきである。筍の収穫時期は冬以外。量は日本ほど多くはない。料理する際、灰汁抜きは必要だが。
 筍が高級食材ならば、孤児院の子供たちに収穫させ、灰汁抜きをして出荷すれば小遣い稼ぎになるな、とアーデルヘイトは考えていた。

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