転生ヒロイン、今日もフラグを折るために奮闘する

神無乃愛

フラグその2 フェルフーフ兄弟 2

「申し訳ない。うちの使用人の礼儀がなっていないね」
「?」
「あなたを乗せたことを不満に思っている馬鹿がいるようですからね。人に貴賎なし、そう言っているはずなんですがね」
 何だ、そんなことか。アーデルヘイトは呆れるしかない。
「気にしてませんよ。どうせですから、ここで降ろしてください」
 ここから走っていけば門限に間に合うはずである。
「……馬車、止めるつもりはないよ」
「止めていただかなくて結構です」
 そう言って、アーデルヘイトが馬車の扉を開けた。

 ぎょっとしたのはドミニクスだけではない。御者も従者も、果ては「こっそり」見守っているはずのイザークもだ。

「ちょっ……」
「大丈夫です♪ ちょっと早い馬から飛び降りるだけですから」
 早い馬から領地で何度か飛び降りていた。……勿論ここまで早い馬ではない。
「わーーダメッ! 君何考えてんの!?」
 慌ててドミニクスが止めてきた。
「え? それがあと腐れないと思ったんですけど? 止めませんからあなたの帰りが遅くなるとかないですし」
「どこまで破天荒なのっ!? 君は!」
「お褒めに預かり光栄です?」
「褒めてないから!!」
 慌てたように従者が扉に鍵をかけた。
「……ちっ」
「女性が舌打しない。あの小屋に嬉々として住んでるってだけで変わり者だと思ってたけど、どこまで規格外なの?」
「他者を気にしなくていいですから、最高ですけど。雨風凌げますし」
 アーデルヘイトの基準などそれくらいしかない。
「……風呂は?」
「ふつーにお湯沸かして入ってますよ。最悪孤児院で子供たちと一緒に入ってますけど」
 従者が同情した目でドミニクスを見ていた。
「ほら、そんな規格外女ですから、ここから走ったって……」
「孤児院で入ってるなら、尚更ダメッ! 明後日入学式でしょ?」
「……そういえば」
 そうだった。
 そして、アーデルヘイトには制服がまだ届いていない。何度か学院に問い合わせているが「こちらでは送った。実家側では?」と言われ、フェーレン家では「こちらに届いていない」という返答が来ている。
 これは入学するなというお達しだ。そう思えば何も、無理して帰る必要はない。

 そこまで考えが至れば、アーデルヘイトの行動は早い。
「やっぱり降ります」
「どうして?」
「制服来てませんから。入学するなってことですよね。ってなわけで孤児院へ戻りま……」
 これを聞いた、ドミニクスとイザークが慌てた。

「ヘルマン」
「明日中に」
 ドミニクスの声に、従者が頷いた。
「制服なら大丈夫。昨年卒業した姉上のが我が家にある。しばらくそれで我慢して」
「歓迎されていない学校に入りたいと思わないんで。一応、入学証明書はありますし、今までの学校や家とのやり取りの文書なども残ってますから、入学拒否は学校側と言えますよ」
「抜け目ないんだね、君は」
「そうしないと生きていけないのが、平民ですから」
 アーデルヘイトはそっけなく答えた。

「弟と、私が迷惑をかけた分として制服だけは受け取って欲しい」
 真摯に言われ、アーデルヘイトは迷った。だが、真摯な顔して、影で嘲笑っていたやつもいたではないか。
「分かりました。制服はご用意していただかなくて結構です。入学式までは学校にいます」
 そこまで待って制服が来ないなら、出奔するだけである。勿論、あのコピーをばら撒いて。原本はアーデルヘイトが持って。
 言質は取らせない。

「そう。ならば、その方向で」
 ドミニクスが心なしかほっとしていた。

「では、気をつけて。先ほども名乗ったけど、私はドミニクス・ヘルト・エーヴェ・フェルフーフ。フェルフーフ家の嫡男で、レクスの兄。そしてこの学院の生徒会で昨年は書記をしていた。よろしく、アーデルヘイト嬢」
 そうやって自己紹介をするなり、ドミニクスはアーデルヘイトの手の甲にキスをしてきた。
「……あの……」
「ヘルト、と呼んでもらえると嬉しい。弟の傲慢な態度に対してのあの勇気ある行動、私は嬉しく思うよ」
「……えっと……」
 名前、長すぎておぼれられ無いっつーの!! その言葉をアーデルヘイトは飲み込んだ。
「ヘルト、と呼んでもらえると嬉しいとさっきも言ったはず。敬愛すべき叔父上がつけてくれた名前だから」
 ……思い出した。
「フェル……」
「今年、フェルフーフという苗字の者は二人いるよ。それでは分からないからね。ヘルト、と」
 変に気安いのが逆に困るのだ!! そう言ってやりたいのを堪えた。
「呼ぶまで、ついても開けないよ?」
 ……少しばかり、従者がアーデルヘイトに同情していた。
 そして表情で訴えてくる「嫌でも名前で呼べ、と。
「ヘルト様」
「そのうちでいい。様は取って呼んでもらえたら嬉しい」
 嬉しいイコール命令。
 二度と関わるものか。
「では、よい夜を」
 投げキスデでもしてくるんじゃないかと思うような甘ったるい声に、アーデルヘイトは礼を言うなり逃げ出した。

 俗にいう、敵前逃亡である。

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