転生ヒロイン、今日もフラグを折るために奮闘する
フラグその3 ソリアーノ王国
入学式。
クラス編成をみたアーデルヘイトは焦った。
特別クラスである。
これって、ゲームそのまんまじゃん!! ここで生徒会役員やそれに準ずるメンバーと顔を合わせるのだ。……それからもう一人、三人目のヒロイン、リンダもこのクラスである。
攻略対象の顔と名前を覚えていなくても、このクラスにいたことだけは覚えている。
一応、「優秀な」生徒を身分の上下に関わらず集めたクラス。そして、社交シーズンになれば、有無を言わさずデビューするのが決まりだ。
そのため、貴族以外のクラスメイトは、放課後に社交マナーをみっちり学ぶという鬼コースつきである。
何故、アーデルヘイトがそれを覚えていたかというと、妹が「勉強になる」と嬉々としてやっていたからだ。そして、その意見にはアーデルヘイトも同意だった。
マナーだけは、金を出しても覚えるもの。それが前世で両親から学んだことでもある。
「フェーレンさんは、マナー訓練は要らないのでは?」
男性教員が声をかけてきた。
「私は貴族とは言っても名ばかりですので、恥をかきます。私一人恥をかくだけならいいのですが、この学院にいてマナーすらなっていないとなれば、学院も笑いものにされたおかしくありません」
「なるほど。向上心があるのですね」
少し感心したように男性教員が言う。それを同じマナー担当の女性教員が笑ってみていた。
「物覚えの悪い生徒かもしれませんが、よろしくお願いします」
アーデルヘイトは女性教員へ向かって頭を下げた。
「……あのフェーレン子爵の子供とは思えないほど利発だね」
最初にアーデルヘイトに声をかけた男が女に向かって言う。
「ふふふ。それは最初から言っているでしょう? 何せ、前生徒会役員たちが目をつけているくらいですもの」
「ほほう。それは将来有望だ。ということはフェルフーフ家の嫡男もか」
「勿論ですわ。何せ門限に遅れるからというふざけた理由だけで、馬車への乗車を許すのですよ? それにビュルシンク家でも興味を示したみたいですわ」
「これは困ったものだ。せっかくエルマー様のご婚約者に相応しいと思ったのに」
男がさも残念そうに言う。
男の名前をヨーゼフ・ギート・バシュ・オストヴァルトといい、女の名前をルーチェ・アーダ・カッサ・アンダルディという。
二人ともゼルニケ王国の隣に位置する国、ソリアーノ王国から講師で来ている。
そして、ソリアーノ王国第二王子、エルマーの嫁捜しも兼ねているのだ。
ゼルニケ王国の魔法学院には各国から優秀な生徒が集まる。人脈を作ると共に、出会いの場としても有用なのだ。
「でもね、まだどちらとも婚約はしてないから、問題ないわ。ただ、エルマー様がお気に召すかどうかが問題よ」
「エルマー様はもっと気高い方がお好みだからね。エルマー様にはもったいない」
それを聞いたルーチェが顔をしかめていた。
「俺は気に入ったよ。エルマー様には別の方を見繕うから安心して」
「駄目よ」
「おや、心外だね」
「フェーレン家と縁続きになるのはご免だわ」
「そんなことを気にしていたの? おそらく俺たちの身分さえ明かさなければ、あの愚かなフェーレン子爵はあっさりと手放すさ。その上で叔父上の養子に入ってもらう」
「そこまで考えているならいいわ。私も気に入ったのよ? だって、あの子、あなたにじゃなく、私に挨拶したもの」
二人の笑みが深くなる。
そして、一度に二つのフラグがたったことなど、アーデルヘイトは知らない。
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