自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

第百三十一話 「脱獄の秘密は、それか?」


 黒い炎を纏った、圧倒的な暴力。
 それがレイレオスを表す全てだ。

 冷徹にして非道。
 残忍にして狡猾。
 だが、その生い立ちは悲劇に満ちている。

 それでも、それでも……。
 お前は、やり直す事ができた筈なんだ。
 お前達は二人とも、やり直せた筈なんだ。

「考えなおせとは言わない! お前は、やりすぎた!」

「それを決めるのはお前じゃない」

 レイレオスの大剣が炎を纏う。
 モードマン邸を破壊した大技を、使うつもりだろう。

「みんな、下がれ!」

「シン!? また刺されるわよ!」

「次はヘマしない!」

「……もう遅い」

 振り下ろされた、巨大な炎の渦。
 俺はその根本へと向かう。

「この技は……」

 パソコンを両手に持ち、大剣の先端に叩き付ける。

「こうやって防ぐ!」

「――!?」

 レイレオスの両目が、僅かに見開かれた。
 そうだろうよ。
 たかが板切れ一枚で、渾身の必殺技を防がれたんだ。
 そりゃあ心中穏やかじゃねぇだろ。

「ファルドォッ!!」

「ああ!」

 電光石火の如く、ファルドはレイレオスへと肉薄する。
 コンマ数秒という人間離れした速度でありながら、レイレオスはすぐさま反応した。
 大剣から爆発を発生させ、それを推進力にして跳躍。

 更に、火の玉を放つ。
 ヴェルシェがそれに便乗して、いくつかのスイッチを作動させたようだ。

 油の入った革袋が投擲され、地面で破裂する。
 そこにレイレオスの火の玉が引火した。

「ゴリ押しで俺達に勝てると思うなよ、ナハトぉおおおおッ!!」

 天井の吹き抜けから、何かが降ってきた。
 豆粒くらいの大きさのそれは、引火した油溜まりに触れてパチンパチンと弾けた。

「ちなみにこれは小手先じゃねェ、れっきとした作戦だ! 戦いは、頭を使うものだろ?」

 異変に気付いたアンジェリカが、弾けた玉から出てきた煙のようなものを出力を落としたスネーキー・フレイムで一掃する。

 危ない危ない。
 避けられなかったら、もろにガスを吸い込んでるところだった。

「小手先でしょ」

「それはどうかな? レイレオス、今がチャンスだ」

「お前の指図は受けない」

「指示通りに、やれ!」

「ぐ……く……!」

 ヴェルシェの左手が赤く光る。
 レイレオスは、頭を抱えだした。

「今のうちに――」

 メイが接近するが、剣山のトラップが目の前で作動して阻まれる。
 トラップは、すぐに引っ込んだ。
 そしてレイレオスが次に顔を上げた時には、虚ろな目で棒立ちしていた。
 なるほど……無理やり操るつもりかよ。

「ひでぇ事しやがる」

「自前のキャラクターは制御しきってこそ、一人前だろ。
 一つ一つが自立した人間みたいな扱いをするなんて、お前は本当に気持ち悪いよなぁ、ナハト?」

「抜かせ」

「主張を押し通したいなら、俺を倒してみろ!
 量産型のクソノベルっていうのは、そうやって“SETTOKU”するんだろ?」

「気に入らない言い方だな!」

「ほら、ほら! 俺をブチのめして、SEKKYOUしてみな! 多分無理だけど!」

 挑発には乗らない。
 だが、確実に仕留めるしかない。
 ヴェルシェを倒して、制御下を外れたレイレオスが何をするかは予想できないが……。
 実際、今のレイレオスはヴェルシェの体の一部も同然なのだから、その連携には隙がない。

「くっ……!」

 アンジェリカの魔力が底をつきかけている。
 早く、何とかしなきゃいけない。

「この!」

 俺は踏み込んで、ヴェルシェに攻撃しようと試みる。
 だが、その度に罠が作動して、足止めを食らう。

 と、そこに。

「紙飛行機だと!? うざったい!」

 ヴェルシェを目掛けて幾つもの紙飛行機が飛んで行く。
 命中した紙飛行機は、様々な属性魔術を炸裂させた。

 一体、誰が?

「メイさん、シンさんの所へ行ってあげて下さい!」

「ありがと!」

 ルチアだった。
 魔術に使用する術符を紙飛行機にして、ホーミング・エンチャントを使ってヴェルシェに飛ばしているのだ。

「シンさん! レイレオスはこちらで抑えます! 早く、ヴェルシェを!」

「すまん! 借りは返す!」

 寂しげに微笑むルチアの口の動きが見えた。
 つぶやいている内容は「私が借りを返しているのに」というものだった。

 感傷に浸る暇は無い。

「ヴェルシェ!」

「ナハト!」

 ヴェルシェの登ったハシゴを、俺も追う。
 ハシゴに電流が走り、俺は咄嗟に手を離す。
 メイが俺を連れて、上の階へと跳ぶ。

「なあ、ナハト! だったら合作しよう! 俺が添削してやるから!
 勇者が魔王と戦う話なんてどこぞのSS板でさんざん作られたし、もういいだろ?
 倒した後に残された国々の暗部とか色々あるし、書いてみろよ!」

「残念だが、俺はそっちの技量も無いし書きたいとも思ってないんだ。読む分には楽しいがな」

 壁から剣山が突き出る。
 俺はそれをパソコンで押しこむ。
 奥から太矢が飛んで来る。
 メイがそれを槍で弾く。

「勿体ない。じゃあいっそファルドはここで死なせちゃえば?
 勇者とか古いよ。時代が求めるのは一騎当千の個人じゃない。質の良い訓練を受けた、統率の取れた軍隊だ。
 折しも、お前らの軍勢がそれを証明したじゃないか! 見事に防衛網を突破してみせた!」

 放電まきびし。
 なあに、大した痛手じゃない。

「俺はそうは思わない。時代が求めたからって、そうでないものを書いちゃいけない理由なんて無い!
 ましてやそれは、お前個人の好みだろ!?」

 吊り下げられた丸太。
 こんなの、宙吊り野郎の魔術ブッパに比べれば!

「だからって、みんなと同じように、アホみたく異世界転生・チート・ハーレムを量産するのか?
 楽だもんな、そのほうが! くははは!」

 落とし穴。
 ファイト一発、崖っぷちを掴んで登るくらい、ギルゲス・ガンツァほどの辛さはない!

「勇者と魔女の共同戦線レゾナンスは転生モノじゃねーよ。
 そりゃチートとハーレムは否定しないが、でもそれは作品の本質じゃないだろ」

 レーザービーム。
 メイの瞬間移動で楽勝だ。

「嘘だね! 所詮、頭のユルいクソ読者共なんて、空想の中でずっと甘やかされる話じゃなきゃ読み続けてられない!
 少しでも暗い展開になれば、みんなしてそっぽ向く! 下半身でしか物を考えられない、頭空っぽの、赤ん坊以下のゴミクズ共だ!」

 トリモチ……これは、参った。
 引き剥がすのに時間が掛かったし、武器は完全に埋まっちまった。
 それでも、追撃は諦めない!

「……」

 何度も追いかけては引き離され、引き離されては距離を詰めた。
 正直、息が切れる。
 肺が爆発しそうだ。
 それでも、手の届く距離まで追い詰めた。

「お前が何をしてきたか、俺は知らないけどさ。読者のせいに、してんじゃねえよ」

「あ? さっきからお前さ、何反論してんの? この世界から出られなくなるけど? また死にたいの? お前」

「ちょっと脅せば何でも言うとおりになると思ったら大間違いだぞ! このミザリー野郎ッ!!」

 途中でトリモチに武器を絡められたせいで、俺もメイも丸腰だ。
 だから、素手で殴りかかるしか無かった。
 ヴェルシェは何の抵抗もせず、胸倉を俺に掴ませた。

「こっわ。暴力振るうんだ? 逆ギレとか最低ッスよぉ~! 場所が場所ならブロック確定ッスよぉ~!」

「さんざんやらかして、いざやられる身分になったら被害者面か。良かったな、ここがネットじゃなくて」

 さんざん何かを叩いてきたヘイターが辿る末路は一つだけだ。
 憎悪を振りかざす奴は、他の憎悪に呑まれる。

「俺はお前みたいな奴が大嫌いだ。他人事だからって、無責任にいたぶって、蔑んで、嘲笑って」

「くっさ! あ痛ッ――!」

 右の頬に一発。
 メイには悪いが、罠を警戒してもらっている。
 ヴェルシェ……お前は、お前だけは、絶対に許さない。

「生憎ここは現実だよ。ニオイも痛みも感じるんだ」

「クソが。お前の作った妄想の世界だから現実じゃないだろ。付き合わされるこっちの身にもなれよカス」

「何度でも殴ってやる。お前みたいな奴が、二度とここに土足で入ってこないように!」

「まあ落ち着きなよ、みっともない」

「自分の事なんだ! 落ち着いてられるか!」

「んンー? 大学生が中二病とか、痛いにも程があるッスよ! ブレイヴメイカー君!」

「るせェ!」

 鼻っ柱に、もう一発ブチかます。
 嫌な感触が拳に伝わるが、知った事じゃない。

「あー、ヤバい、今のでレイレオスの制御が外れたかも……お前、知らないよ? どうなっても」

「別にいいだろ。操り人形と戦うよりは」

「ハァ!? 頭おかしいんじゃねえの!?」

「自分で作ったキャラクターを操り人形にしないと、共闘する事すらできない寂しい奴よりマシじゃない?」

「うるせぇブス! オフパコレイヤーは黙ってろよ!」

 お前……。
 それ、コイツに一番言っちゃいけないセリフだろうがよ。

「……は?」

 メイは、底冷えするような無表情でヴェルシェを見下ろす。

「メイ、俺とポジション代わるか?」

「ううん。殴りたくもない、こんな奴……でもごめん。やっぱり、我慢できない! 足ならいいよね!」

 メイがヴェルシェの顔を蹴飛ばそうとした瞬間――、

「やーだよ!」

 するりと、ヴェルシェは俺のマウントポジションを抜け出した。
 一体どうやってとも思うが、本当に一度霊体にでもなったかのようだった。

「脱獄の秘密は、それか?」

「ご想像にお任せするよ。クリエイター気取りの中二病諸君!」

 その言い回しも、充分こじらせてると思うが。

 とにかく、抜け出されたんじゃ仕方ない。
 第二ラウンドだ。



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