自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

第百三十話 「だから、俺と一緒に来いよ!」


 日暮れ前の出発。

 夕日を背に、俺達はひーちゃんの低空飛行で領域へと向かう。
 運転手はジェヴェン。
 その後ろに、ファルド、アンジェリカ、ルチア、メイ、俺の鉄板メンバーだ。

 前方ではカグナ・ジャタを先頭に、飛竜兵団がそれを囲むようにして飛ぶ。

 後方の地上には、連合騎士団と魔女の混成部隊。
 そこには国境も、諍いも無いように見える。
 世界を欺く奴らから、この世界を守ろうとする想いが、彼らを団結させたんだと思う。


『――前方に多数の円盤! 散開、散開!』
『各個撃破を心掛けろよ! 数では劣るが、こっちには魂が乗っかってる!』
『制空権さえ確保すれば、地上の友軍がやりやすくなる! 爆撃は諦めてもいい!』

 最後の戦いが始まろうとしていた。

 誰が最後と決めるかって、俺だよ。
 これ以上は、もういいだろ。
 終わりにしよう、ヴェルシェ。

 お前が何を思って、この世界に手を加えたのか。
 その正確な理由を俺は知らない。
 だが、もういいだろ。

 意味が無いんだ。
 魔王は倒された。
 魔女の墓場は消えた。


「――オレも加勢するぜェ! 勇者共!」

「グラカゾネク……?」

 そういえば、ヴィッカネンハイム邸で戦ったきりだ。
 あの後、魔王城でも見かけなかった。

「魔王もドゥーナークもやられて、恨みは無いのか?」

「オレはテメェ等が大嫌いだ。だがなァ、魔女の墓場はもっと大嫌ェなんだ!
 それに、姐さんを生かしていてくれた。そいつでチャラにしてやるよ!」

「せっかくの加勢はありがたいけど、ホントにいいのね?」

「お許しがどうとか、先の事なんざ知ったこっちゃねェ。ドゥーナークは、オレの大事な兄貴だった」

 ドゥーナークは、円盤の群れへと突っ込んでいく。


 俺達はまた、しばらく進む。
 どうやって持ちだしたのか、攻城兵器の連弩が地上に確認できた。
 だが、俺達の敵にはならない。

「ホーミング・エンチャントを使います」

「頼んだわよ!」

 太矢の雨は勢いを失い、奴らに降り注ぐ。
 アンジェリカが火の玉を使って、連弩を破壊した。
 瞬く間に、対空迎撃部隊は壊滅した。

「容赦無いな……」

 思わず口をついてそんな言葉が出てくるくらい、圧倒的だった。

「けれど、警告はした筈です。次は狙うと」

「また撃ってきたら、そりゃ撃ち返すしかないよ。あたし、死ぬのは嫌だもん」

「まあな」

 会話はそれきりだった。
 だが、それだけで充分だった。


 *  *  *


『私は上空で、飛竜部隊の指揮を執る。何かあったら連絡してくれ』

「何もないようにしますよ」

『頼もしい限りだ。生きて帰れよ、誰一人欠けること無く』

「はい」

 廃墟群と化したヴァン・タラーナに到着した俺達は、周辺を探索する。
 この近辺なら、奴らが身を隠すのに丁度いい建物が点在している。

「……静かね」

「誰もいないのかな。剣のメダルも反応しないし」

「対抗策があったらマズいから、警戒は怠るなよ」

「それはもちろん」

「――!」

 メダルが光った。
 爆発音と共に、質量の気配が急速接近してくる。

「こ、の……!」

 それは砲弾だった。
 ルチアがホーミング・エンチャントで軌道を逸らして、俺達は事なきを得る。
 砲弾は近くの民家に着弾すると、大爆発を起こした。

 あれは榴弾のたぐいか?
 命中してたら大変な事になってたぞ……。

「殺せ!」
「この世界の自立の為に!」
「世界を弄ぶカス野郎が、死ね!」

 鉱山のほうから、岸壁を降りて灰色連中がやってくる。
 こいつらは騙されてるのか。
 それとも、言い訳してるだけなのか。
 ……悲しいよな。

 あっという間に、黒焦げの死体の山が出来上がった。
 ルチアはそれを見ても、顔色一つ変えなかった。
 一体、どれだけの修羅場を経験してきたんだ。
 初めはミンチを連想するだけで気を失っていたのに。

「平気なのか?」

「慣れちゃいましたから」

 ……おっと。
 不憫に思うあまり、頭を撫でたくなったが、俺は寸でのところで抑えた。
 今は、そんな事をしている暇は無い。
 早くヴェルシェを探さないと。

 鉱山の中に作業員の姿は無い。

「――!」

 だが、トロッコは俺達が近寄った瞬間、凄まじい勢いで走り始めた。
 十中八九、制御装置の仕業だな。
 つまり、どこかで操っている奴がいる。

「いい仕掛けだな。だが無意味だ」

 こんなレールなんてな!
 溶かせば終わりだよ!

「アンジェリカ、レールを熱で溶かせるか?」

「いや、ここは俺がやるよ」

 ファルドは爆走トロッコの一台に剣を突き立て、横転させた。

「今のうちに渡ろう」

「お、おう……」

 念の為に麻袋を持ってきたが、今回も無用の長物になりそうだ。
 なんだかんだで俺もグロ耐性が付いたから、ゲロ袋にもならないだろうな……。

 鉱山の通路は、以前に来た時よりもずっと丈夫になっていた。
 それに、いくつか新しい通路も出来ている。
 だが、そこは勝手知ったる管理区域って事で、モードマンが地図を用意してくれた。
 お陰で迷わず進めた。

 それよりも、問題は罠だ。
 簡単な地雷だったらモードマンの発明品である金属探知機(足を失う直前に、気まぐれで作っていた)でどうにかなる。
 細い糸を使ったブービートラップも、ファルドがすぐに見付けてくれた。

 そこまではいい。
 ブービートラップを解除したら他の罠が作動するという、えげつない罠がたまにある。

 ダメージに関してはアンジェリカが炎の壁で軽減できるし、傷を負ってもルチアが治療してくれるからいいが……こうやってリソースを削りに来るのは、うざったいな。


 *  *  *


 四苦八苦しながらも、どうにかこうにか奥へと辿り着く。
 懐かしい場所だ。
 オークがゴブリン共と集会してたんだっけ。

 集会場の手前だった大きな通路は、久々に来てみたらより一層広くなっていた。
 天井は大きく開けられ、空が見える。
 ぽつぽつと、雨が降ってきていた。

 そして、あれだけ沢山走っていたトロッコのレールは、その一切が取り払われていた。
 代わりに、タラップのようなものがある。
 もしかして、ここは飛行船の発着場になっていたのか?

 ……またしてもメダルが光る。
 今度は強い光――“あの時”と同じ、真っ赤な強い光だ。


「そこにいるのか、レイレオス」

 ファルドの問いに、答えは返ってこない。
 だが、凄まじい勢いでやってくる火柱が、何よりも物語っていた。
 アンジェリカが咄嗟に炎の壁を展開し、それを防ぐ。
 ぶつかり合ったエネルギーは爆発し、辺りに土煙が舞った。

 ――それだけじゃない。
 大量の太矢が、俺達目掛けて放たれる。
 今度は、ルチアがそれをホーミング・エンチャントで反転させた。

「自分もいるッスよ!」

「ヴェルシェ……」

 土煙が晴れると、通路の遠くに見知った顔があった。

 紺色のノースリーブの燕尾服みたいなワンピース。
 黄色のスカーフと、八つの鈍く輝く金色のボタン。
 柔らかそうな素材の長手袋とニーハイブーツ。

 どこを見ても、決して安っぽくない。
 どっかのエルフの里の令嬢が問題起こして人里に旅に出たって感じがする。

 その金髪の女エルフは、髪の色とよく似た金色の瞳で俺達を睨んでいた。
 あの時と同じく、スコップを背に。

「で? ググったんだろ? カース・マルツゥを!」

「誰がググるか! あんなグロいチーズ!」

「シン君、ググったんだ……」

「最悪だった。しばらくロクに飯も食えなかった。そもそもロクな飯も無かったが」

「まあね」

 いや、くだらん冗談を言いにここへ来たんじゃないんだよ、俺達は。
 ケリを付けるんだ。

「さておき。もう、終わりにしないか?」

「そうだな? 停戦協定、仲直りをしようじゃないか」

「……?」

 仲直りですか?
 今更、何を言ってんだ?

「お前、俺の仲間になれよ」

「え……」

 話が見えてこないんだが。
 レジーナの言っていたインベーダーに、俺もなれってか?
 やるワケねーだろ! アホか!

「相変わらず鈍いな、お前! 俺と一緒に、色んな作品の世界を導いてやるんだよ!」

 いや、鈍くねーし。
 勝手に人の気持ちを決めつけるのは結構だが、それを紋切り型で断じて小馬鹿にするとか、それ最低の行為だからね?
 ていうか……導くって、お前……。

「それが、お前の目的なのか」

「そうだよ。世の中にはカスみたいな作品が山ほど溢れている。
 お前は俺の“しごき”に見事耐え抜き、素晴らしいストーリーを作り上げた。なかなか真似できる才能じゃないと思う」

 突如、上から目線で俺を褒め始めるヴェルシェ。
 ファルドも、アンジェリカも攻撃の隙を伺っている。

「お前の構成力、俺の演出力、あとは……メイ。お前の演技力があれば百人力だ。
 シン、お前の復活といい、そこからの流れといい、俺は評価してるんだ。皮肉も嫌味もそこにはない、掛け値なしにお前は見事だ!」

 ヴェルシェは、俺に右手を差し出した。

「だから、俺と一緒に来いよ!」

 そうは言うがよ、ヴェルシェ。
 ……悪いが、初めから答えは決まってる。

「「お断りだね!」」

「せっかく誘ってやったのに、カギカッコ重ねたみたいにハモりやがって……やっちまえ、レイレオス!」

 無言のまま、レイレオスが降ってくる。
 奴は水しぶきを撒き散らしながら着地し、俺達に殺意のこもった双眸を向けてくる。

 頼むぞ、ファルド、アンジェリカ、ルチア、そしてメイ。
 ここが正念場だ。
 全ての決着を、ここで付けたい。



「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く