自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

第百六話 「良かったよ、すっごく」


 俺の周りにはもう、生きている魔物はいなかった。
 ことごとくが両断され、倒れていた。

 呼吸が苦しい。
 肺が爆発しそうだ。
 俺は本来、バリバリのインドア系だぞ。
 いくらメイの援護があっても、数百の単位を延々と斬り続けてたら息切れにもなる。

 なんでテレポートに頼らなかったって、そりゃアレだ。
 離れすぎると、駄目な気がするんだよ。

 やっぱり俺の近くに味方がいれば、その味方が強くなるっぽいんだよ。
 今までの経験からすると。

 確証は無いが、レジーナなら詳しく知ってるか?
 聞きそびれてたから、後で教えてもらおう。


 とにかく少し休憩したいので、丁度近くにあったやぐらに寄りかかった。
 ドーラは、大丈夫か?
 俺を守るために奮戦してくれていたんだ。

「おのれ……この私をここまで追い詰めるか!」

 ドーラは単身で、オフィーリアをここまで追い詰めた。
 どこでこんなに鍛えたんだって思ったりもしたが……違う。
 覚悟が、テオドラグナ・カージュワックという一人の人間をここまで強くさせたんだ。

「相手の武を褒めるのが騎士の礼儀と心得ていたが、貴公は違うのか」

「ふん、抜かせ! 私の力はこんなものではない!」

 今度は……何が始まるんだ?
 アレで本気じゃないとしたら、第二形態でもあるのか!?

「破ッ!」

 オフィーリアの鎧がヒビ割れて、剥がれ落ちる。
 露わになったのは……。
 黒く禍々しいビキニアーマーだ。

「なあ、メイ……あれって」

「うん」

 案の定、ドーラは顔をしかめる。

「――その鎧は、何だ」

「これこそ、我が主より賜りし最強の鎧! 私の美麗なる姿を最高に引き出す鎧だ!」

「ふしだらな。男の見世物に堕ちたか」

「相容れぬものだな。お前はもっと、認めてくれるものだと思っていたが」

 再び始まる剣戟。
 オフィーリアは防御を捨てたためか、動きのキレが先ほどとは段違いだ。
 当たらなければどうということはない理論ってか!

 ここにきて、一気に旗色が悪くなってきたな。
 これは、いつまでも守られてる場合じゃない。

「――!?」

 ドーラの剣が、折れた……!?
 こりゃ加勢しないとマズい!

「メイ、行くぞ!」

「うん!」

「くはははは! 剣が折れては形無しだなあ! カージュワック卿! お前の、負けだ!」

 オフィーリアはドーラに一瞬で距離を詰め、首根っこを掴んで地面に叩き付けた。
 そして、剣を振りかぶる。
 間に合え、間に合え……!

 俺はメイの瞬間移動でオフィーリアの前に立った。
 その勢いで、パソコンを使って剣を受ける。

「自ら首を差し出しに来たか、石版の賢者!」

「冗談! 俺が首を捧げるのは、メイだけだ!」

「ちょ、シン君!?」

「メイ、オフィーリアをお仕置きするぞ!」

 オフィーリアは高笑いをする。

「ふははは! 雑魚が二人に増えたところで、もはや無意味! 魔王様はお前にご執心だからな。一瞬で終わらせてやる!」

 ……第二ラウンドの始まりだ。
 オフィーリアの太刀筋は、言葉にできないヤバさがある。
 素人目では見きれないのだ。

 メイの槍はリーチこそ勝っていたが、オフィーリアはそれを物ともしない。
 槍を弾いて、袈裟斬り。

 メイは寸でのところで避け、距離を取ろうとする。
 追いすがるオフィーリア。
 俺がすかさず追撃しようとすれば、オフィーリアの左手の剣が横薙ぎに振り払われる。

「くっそ!」

 挟み撃ちもダメだ。
 ライダーばりの跳躍、そして真上からの斬り下ろし。
 防御だけで、手一杯だ。

「美しいだろう! 私の剣術は! お前達のような軟弱童貞処女とは土台が違うのだ! 土台が!」

「ど、どどど、童貞ちゃうわ!」

「そーだそーだ!」

「言われてみれば確かに、童貞臭さが無いな……? まさか! やったのか!?」

 俺は、脱力した。
 あのさあ……戦いの最中にそういうの訊くかね、普通?

「……うん。やったよ。それがどうかした? もしかして、君、そういうの気にするの?」

「あー、その……どうだった?」

 だからさあ!
 いい加減にしなさいよ!

「良かったよ、すっごく」

「~~!」

 何故かじだんだを踏む、オフィーリア。
 どうした、お前……。
 他人の事を童貞だ何だとこき下ろしておいて、実はそれはコンプレックスの裏返しとかそういうオチか。

「卒業した身で言うのも何だが、あんまり気にしないほうがいいぞ。こじらせると生きるのが辛くなるから」

「う、うるさい!」

「あと、あたしが言うのも何だけど……」

「何か」

「控えめに言っても、その鎧を自分で美しいとか言っちゃうセンスは無いと思うな」

 なんという特大ブーメラン。
 いや、メイの場合は自分を美しいとか言ってないから、おまいう案件じゃないが。
 ……槍を地面に突き立てて、ポールダンスしながら言うセリフではない事は確かだ。

「お前が、言うなあああああッ!」

「うわっと」

「私だってなあ! 魔王様から頂いて、初めはどうかと思ったのだぞ! だがなあ、普段の鎧の中に着ていくうちに、なんだか愛着が湧いてきたというか! 他の魔女はそういった装備品のプレゼントは貰っていないから、私だけ特別というか、なんというか……」

「けど、一向にやらせてもらえないんでしょ?」

「うるさああああい! もういい! 貴様の大事な男を、目の前で両断してやる!」

 一瞬で俺の目の前まで移動し、オフィーリアが剣を振りかぶる。

 ……――速い!
 このままじゃ俺の首が……!

「――甘いな」

 しかし、オフィーリアの凶刃は俺の首には届かなかった。
 何が起きたのか。
 最初は理解できなかった。

「何!?」

 白刃取りだ!
 ドーラが俺とオフィーリアの間に立ち、剣を素手で受け止めていた。

「貴公の武勇、見事だった。しかし、惜しいな」

 驚愕に顔を歪めるオフィーリア。
 ドーラの手から剣を引き抜こうとしても、びくともしない。

「んぐぐ! こ、の……まだ、戦おうというのか! ぬっ、抜けん!」

「鉄拳騎士の由来、貴公なら察しが付くかな?」

「ま、まさか……!」

「鉄拳騎士の本分、それは徒手空拳! 我が剣は折れても、その誇りまでは折れぬッ!!」

 オフィーリアの剣が横に逸らされ、ドーラが懐に潜り込む。
 そして……渾身の一撃!

 オフィーリアの白い肌に、ガントレットに覆われたドーラの拳がめり込んだ。
 ビキニアーマーゆえ、腹の防御は薄い。
 容赦無い一撃に、

「――ぶっ、かはッ!」

 オフィーリアは胃液を宙にぶちまける。
 そのまま、オフィーリアは膝をついた。

「安心しろ。急所は外してある。ファルド殿が待っているぞ」

「お、の、れ……!」

 ドーラはオフィーリアを担いで、やぐらに登る。
 担ぎ方は……いつかにオフィーリアがメイを担いでいたのと全く同じやり方だ。
 ドーラはそんなの知る由もないだろうが、俺とメイにとっては意趣返しだな。

「魔王軍に告げる! オフィーリア・アーケンクランツは我が拳の前に敗れた!
 それでもなお挑むなら、喜んでその挑戦を受けよう! 次に殴られたい者は誰だ!」

 静まり返る戦場。
 だが、静寂は一瞬だった。

「――や、やべええええ! 先生がやられた!」
「撤退だ! 撤退しろォー!」
「テメーら! 誰が下がれっつった! オイ! カァーちくしょー! 誰もオレのいうことを聞きやがらねえ~!」

 おおおおおお!
 マジかッ!!

 勝っちゃった。
 勝っちゃったよ!

「俺達、やったのか!」

「シン君、あっちも見て!」

 灰色連中だ。
 あきらかにうろたえている。

「魔王軍の幹部を、素手で……!」
「奴は只者じゃない!」
「本部にて作戦を立て直すぞ! 枢機卿をお守りしろ!」
「ジェヴェンが離反したぞォー!」
「馬鹿、知ってるって! それも含めて報告だ!」

 このまま黙って撤退させるか?
 だが、少しくらい捕虜は必要な気がする。

「ちょっと待ってて。軽くお仕置きしてくる」

「お仕置きって」

 メイが姿を消す。
 と、思ったら、気絶したクロムウェルを片手に戻ってきた。

「お前、そんな、樹の実を取ってくるみたいに……」

 テレポートして殴って連れてきたんだろうが、こんなにアッサリでいいのだろうか。
 ちょっと肩透かしだ。

「だって、みすみす見逃して、後で大事な情報を持ってたなんて嫌じゃん?」

「まあ、枢機卿連中とはケリを付けなきゃだもんな」

 こうして、ヴィッカネンハイム邸をめぐる戦いは一応の収束を見た。
 魔女の墓場を離反した灰色連中は、数にして数十人。
 六万人に比べたら些細なものだが、俺達にとっては心強い味方でもあった。



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