自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

第百話 「俺達は親友通り越して盟友、マブダチだ」


 先客は、ファルドと女生徒だった。
 メルツホルン線でも出会った、あのスイーツさんの一人だな。
 二人は俺達に背を向けて、瓦礫に腰掛けている。

 あー、何やら怪しい雰囲気だぞ……。
 女生徒がファルドの背中に手を回してるし。
 顔も近い。

「……」

 アンジェリカはツカツカと足早に歩いて行く。
 もちろん、目指すはファルドだ。

 呪! 泥棒猫に奪われた感動の再会!

 ああ、解るよ……そりゃ解る。
 出方を伺っている間に、二人は幸せなキスをして終了なんてやられたら、それこそ心が折れそうだ。

 やっちまえ、アンジェリカ。
 この先、バックスタブが有効だ。

 あ。
 キスしようとしたのを頭掴んで止めたな。

「ロミヤ……アンタがそこまで見下げ果てた奴だとは思わなかったわ」

「え……アンジェリカ、どうして、生きてるの……!?」

 ロミヤと呼ばれた女生徒は、声がめちゃくちゃ震えている。
 世間的には、アンジェリカは死んだことになってるもんな。

「死神に蹴り出されたのよ……――で? 私のファルドに、なあに手出ししようとしてるワケ?」

 声のトーンが一気に下がる。
 魔女の本能が活性化しているのかもしれない。

 最悪、仲裁したほうがいいんだろうが……今の俺は丸腰なんだよな。
 城には武器も無かったからな。

「ち、違うの! これは違うのよ……! ファルドくん、助けて!」

 助けを求めて懇願するロミヤ。
 だが、ファルドはぴくりともしない。
 修羅ファルドがやけにおとなしい。
 寝てる、ワケじゃないよな?

「なんで、動かないの……? お願い、ファルドくん!」

 アンジェリカが拳を振り上げ、炎を纏う。

「こっちを向きなさい!」

「こ、殺さないで!」

 ロミヤはカサカサと這いずってファルドの陰に隠れ、手で頭をかばいながら震える。
 アンジェリカはといえば、肩をすくめた。

「なぁんてね!」

 突如、空中に魔法陣が現れる。
 そこから、紫電を帯びた岩の槍がアンジェリカに飛んで行く。
 アンジェリカは、すんでのところで避けた。

「キャハハ! アンジェリカは女の子らしくないわよねえ。ファルドくんをほっといて、そうやってすぐに手を出そうとするんだから!」

 立ち上がったロミヤの顔がようやく見えた。
 両目は、赤い。

「アンタ、魔女に……!」

「ふふ。アンジェリカが悪いのよ? いつも私の前を行く。守られてばかりの私が、歪んでいくのは、当然でしょう?」

 はい?
 守られてばかり?
 ロミヤはあの尻軽グループの一人ってだけじゃないのか。

「それとも、なあに? 恩を仇で返されてご立腹だったのかしら? 可哀想に!」

「恩を売った覚えは無いわ。ただ、曲がったことは大嫌いなのよ」

「お高く止まってんじゃないわよォ!」

 うお、あぶねえ!
 こっちにまで破片を飛ばすんじゃない!

「もういっちょ! ストーンサイクロン!」

 ロミヤを中心に砂利が浮き上がり、竜巻のように飛び回る。
 アンジェリカはその中を、仁王立ちした。
 砂利が頬をかすめて傷を作っても、微動だにしない。

「可愛い顔が台無し! お嫁に行けなくなっちゃったわね!」

「……アンタも台無しにしてやるわ」

 アンジェリカは口元に炎を溜め込み、怪獣の如く熱線を浴びせる。
 だが、ロミヤには当たらなかった。
 正確には、ロミヤに向けられなかったのだ。

「私の授かった力は、魅了! 私に抗うなんて、できないのよ」

「……」

「さあ、攻撃してみなさい? 無理でしょう? 無理よねえ!?」

「あっそ。凄いわね」

 あ、胸倉を掴んだ。
 そこからの、頭突き! ビンタ! 正拳突き!

「あ、あれ……!? どうして!?」

「残念だけど、私には通用しないわ。だって、私も魔女だもの」

 止めるべきか。
 止めざるべきか。
 それが問題だ。

 魅了が魔女に通用しないっていうのなら、だ。
 この世界のシステム的に魔女として分類されるメイも、ロミヤに攻撃できるって事だよな。

「なあ、メイ。実は、メイも平気じゃないのか?」

「それを言ったら、シン君だって。精神攻撃効かないじゃん」

「まあ、そうなんだが。あとはあのエクストリーム砂遊びフィールドさえ無ければ、武力介入もやぶさかではないんだが」

「でもさ。こういうのってあたし達が手を出したら、あの子が納得しないじゃん」

「それも、そうだが」

 ドーラも観戦しているし、俺達も引き続きウォッチングだな。
 せめてファルドだけでも、あの渦中から連れ出せないかと思うんだが。
 まあ、ロミヤは寝取る目的があるし、ファルドはそうそう傷付けられないだろう。

 まさかここから「Nice boat.」しないだろうし。
 ……ならないよな?

「アンタのお友達はどうしたのよ?」

「散々いじめてきたクセに友達ヅラしてる尻軽女どもなんて、知らないもん!」

「ハッ、せめて友達関係は頑張りなさいよ」

「女の友情は憎しみと表裏一体なのよ? ぼっちのアンジェリカには解らないだろうけど」

「もう私、ぼっちじゃないわよ」

「う、うるさい!」

 今度はキャットファイトですな。
 拳と拳のぶつかり合いだ。
 何なのホントにもう。

 いつからここはネオトーキョーになったんだ。
 頼むからロミヤは暴走するなよ。
 もしこれでパロディ展開が挟まれたら、アイツの腕がグネグネになって巨大化して、助けてくれぇってなるからな。

 うん。
 大丈夫そうだ。
 どっちも凄まじい形相で殴り合っているが。
 とてもゴールデンタイムには放映できない絵面だ。
 いつからここはロアナプラになったんだ。
 頼むからアンジェリカは気絶するなよ。
 もしこれでパロディ展開が挟まれたら、俺はバケツいっぱいの水をぶっかけて連れ帰らなきゃならないからな。

「アンジェリカの大切な人を奪ってやろうと思ったのに! どうして、どうして!」

 鼻血を出しながら、ロミヤが叫ぶ。
 と、ここでファルドが立ち上がった。
 今まで岩のように動かなかったファルドが、ようやくだ。

「そういう、事、だったのか……」

 ジャキンっと鞘から引きぬかれたロングソードは、漆黒に染まったままだ。

「ひっ、ファルドくん!? ち、違うの!」

 処刑人のように、ゆっくりと歩みを進めるファルド。
 いや、駄目だ。
 殺しちゃ駄目だろ。
 お前がここまででどれだけの灰色連中を殺してきたか解らないが、俺の目の前で無抵抗な相手を殺せば、いよいよ後戻りできなくなるぞ!

「おいファルド、やめ――」

「――やめなさいよ」

 振り下ろした剣は、アンジェリカが受け止めた。
 腕に浅く食い込む刃。
 その切り口から、血がだくだくと流れ出る。

「アンジェリカ……!? ごめん……」

 落とした剣は、床に刺さった。

「俺……」

 からの、アンジェリカが背伸びして濃厚なキス!
 ファルドは一度、身体をビクリとさせ、所在なさげに両手が宙をさまよっていた。
 だがやがて、アンジェリカを抱きしめる。

 シチュエーション的には色々と物申したいが、二人はやっと結ばれたのだ!
 思えば長い道のりだったよな。

 あらゆる障害を乗り越えた二人の愛に、言葉はいらない。
 俺は安堵と感激を胸に、二人を見守る。


 ……おっと、いつまでもそうしてるワケにも行かないな。
 他の連中はどうだ?

 ロミヤは諦めた顔だ。
 こりゃ勝てないな、的な。
 隙を見て背後からグサリとか、来ないよな?
 一応、警戒だ。

 ドーラは、表情が雄弁に語っていた。
 なんていうか、青春っていいよね的な。
 てっきりこの手のシチュエーションは好きじゃないと思ったが、自由意志の恋愛に関しては関知しないスタンスなのか?

 メイは……あ、珍しく泣いてる。
 メイは俺の視線に気付くと、俺の肩に寄りかかってきた。

「良かった。やっとだね」

「……ああ。やっとだよ」

 色々あったからな。
 アンジェリカが処刑されそうになったあの日、メイが咄嗟に助けてなければ実現しなかった事だ。
 礼を言うにも、言いきれないな。
 だから、俺はメイの手をそっと握った。


「――ぷは、アンジェリカ。恥ずかしいから、そろそろ離れよう?」

「何よ。照れ屋さんなんだから」

「それに俺、みんなに謝らなきゃ」

 アンジェリカは、やれやれといった表情でファルドを見送る。
 ファルドは俺達に向き直ると、頭を下げた。

「迷惑かけて、ごめん」

「そんなのお互い様だろ」

「シン……!」

「俺達は親友通り越して盟友、マブダチだ」

「盟、友……!」

「盟友と書いてマブダチと読――うわっと!」

 熱烈にハグされる。
 いや、その……苦しいです。
 最初は握手で次がハグ。じゃあその次はキスでもするか?
 ここはアメリカじゃねえんだぞ!

 何か脳裏に鼻血の噴水をぶっ放すルチアが浮かんだが、まあそれは捨て置く。
 まったく、世話の焼けるマブダチだな。

 メイの事はどう説明しよう?
 いや、今は自分の事で精一杯だろう。
 後回しだ。

「こんな俺を、探しに来てくれたのか……!」

「出会ったのは偶然だがな。良かったよ。無事でいてくれて」

「でも、俺、魔女の墓場を殺しちまったよ……沢山、沢山、殺しちまったんだよ」

「やらなきゃやられるんだ。あんなの山賊と同じ扱いでいい」

 少なくとも、話し合いが通じる相手でもなかったしな。
 しかも徴兵制じゃなくて、自由意志での参加だろ?
 それはもう、仕方がないんだ。

 そうとでも思わなきゃ、良心の呵責に押しつぶされちまうだろ。
 モードマンも、そう言ってた。


 ……ルチアとまだ合流できてないのが心残りだな。
 早く二人の元気な姿を見せてやりたい。
 アンジェリカは生きてるし、ファルドの目は赤から青に戻ってる。

 再スタートは、ひとまず順調だ。
 あとは、もう二度と仲間を失わないよう頑張る事が大切だ。
 気を引き締めて、次のステップだな。

 ルチアと合流して、その次は聖杯奪還だ。
 魔女の墓場とはその二つの過程で、どの道ぶつかり合う。

 六万か……やってやれない数じゃない。
 何も、殺し合いだけが戦いじゃないんだ。
 だったら、俺にしかできない戦い方をしてやる。



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