自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

第九十九話 「それはきっと、気のせいよ」


 どれだけの間、殺し続けただろう。

 布切れを新しいマントの代わりにしていた。
 青いマントは捨てた。
 俺には、もう必要のないものだったから。


 レイレオスはどこだ。
 ジェヴェンはどこだ。
 エリーザベトはどこだ。
 ジャンヌはどこだ。

 まとめて掛かってきてもいい。

 叩き潰す。
 叩き潰す。
 何もかもが憎い。

 アンジェリカを殺した魔女の墓場も。
 アンジェリカを魔女にした魔王も。
 アンジェリカを守れなかった、俺自身も。

「いたぞ! 奴だ!」
「殺しても構わん、引っ捕らえるぞ!」
「しぶてえ野郎だ! レイレオスが苦戦するのも道理だな」
「だが、数の暴力には太刀打ちできまい!」

 灰色装束が現れた。
 俺はがむしゃらに剣を振り下ろす。

「ウオオオアアアアァ!」

 憎しみに反応した剣は、赤黒くきらめき、ドス黒い煙を飛ばす。
 灰色装束は瞬く間に両断されていく。

 そうだ、それでいい。
 何もかも、くたばっちまえ。

 魔女の墓場は残らず殲滅する。
 そしたら、魔王を倒しに行く。

 俺は勇者じゃなくていい。
 殺戮者だ。

 アンジェリカのいない世界なんて、いらない。
 この命が尽きても、俺は全てを潰してやる。


 *  *  *


 少し、疲れた。
 崩れた建物に座る。

 ここは、どこだろう。
 城下町からは、かなり離れてる。

「……」

「待って!」

「寄るな! 斬り殺されたいか!?」

 知らない女だ。
 いや、見覚えはあるような気がする。
 誰だ。

 ――思い出した。
 確か、アンジェリカの知り合いだ。
 メルツホルン線で、会った気がする。

 どんな奴だったか。
 駄目だ。
 思い出せない。

「いいわ……だって私は、アンジェリカを守れなかったもの」

 両手を広げて、前に立つ女。
 俺は、剣を振り上げた。

 けど、やめた。
 俺が殺したい相手は、コイツじゃない。

「協力、してくれるか」

「きょ、協力って……何を?」

「倒したい奴らがいる」

「……いいよ」

 満面の笑み。
 俺の悲しみを、癒やしてくれる。
 安らかな、笑顔。

「私は、ロミヤ・スターカム。よろしくね、ファルドくん」

 彼女の両目は綺麗な赤色をしていた。
 アンジェリカはもういない。

 けど、もう少し、生きていてもいい。
 そう思えるんだ。


 次は、どこへ行こうか。
 魔女の力を借りれば、効率が上がる。
 なら、次はグリーナ村だ。

 リーファは裏切った。
 あの時、会話は聞こえてた。

 奪われたから奪い返す。
 復讐は何も生まないなんて言葉は、詭弁だ。
 復讐は次の復讐を生み出す。

 魔女の墓場が牛耳るあの村を、俺は滅ぼす。

『お前は、それでいいのか?』

 うるさい。
 誰だ。
 俺の邪魔をしないでくれ。

『そんな事をして、アンジェリカは喜ぶのか?』

 黙れ。
 ……黙れ。

「どうしたの、ファルドくん」

「頭に、声が、響く……知らない声が、するんだ」

「大丈夫、大丈夫よ……ほら、おいで?」

 頭をなでられる。
 嫌な声は、少しずつ消えていった。

「もう、大丈夫だ」

『騙されるな! そいつはアンジェリカを見捨てようとした!』

「ぐ、うあああ!」

 女を突き飛ばす。
 駄目だ、駄目だ!
 どうして、消えないんだ!


 *  *  *


「ウルルルァアア! ガアァ!」

「こんなの無理だ! 本部に救援要請しろ!」
「だ、駄目です! 間に合いませんッ! 魔女がもう一匹!」

 逃げ惑う灰色達。
 俺はそれを一つずつ、両断していく。
 紙か、バターか、土くれか。
 奴等は弱すぎた。

「ごめんなさいね、お役人さん方! 残念だけど、ここでおしまい!」

 紫電を帯びた、石の槍。
 それが次々と地面から伸びて、奴等を串刺しにしていく。

 やれる。やれる。
 俺達二人なら、魔女の墓場はすぐに殲滅できる。


 ひたすらに、西を目指した。
 灰色も魔物も、一切の区別なしに次々と殺していきながら。

 命乞いをする奴もいた。
 潔く死を望む奴もいた。
 俺達は平等に、消し炭にしていった。


 謎の声はたったひとつの約束をしたら、何も言わなくなった。

『襲っていいのは、あっちから襲ってきた奴だけだ』

 この約束だ。
 別に、いい。
 俺が殺したい相手は、俺を見れば勝手に来てくれる。


 ある時、ロミヤが言った。

「ねえねえ。ちょっと見たい所があるのよ。エスノキーク魔法学校に寄って行ってもいい?」

「……?」

「アンジェリカの無実を、もしかしたら晴らせるかもしれないでしょ。証拠集め、したいのよ」

 何を今更。
 無実だって証明して、それでアンジェリカは生き返らない。

「それに、ほら。魔女の墓場もいるかも?」

 無意味だ。
 それだったら、城下町を襲いたい。
 けど、俺は手を引かれてそのまま強引に連れられた。

 途中で何度か襲われたりもした。
 俺達は、片っ端から返り討ちにした。


 魔女の墓場は、ここを拠点にしていたみたいだ。
 もしも誰かが証拠集めに来ても、アンジェリカは焼いていないと言いに来ても、こいつらは追い返すに決まってる。

 じゃあ、殺そう。
 いつものように。

 あっという間に、みんなバラバラになった。
 呆気無く終わった。
 死体は、剣に住み着いた闇が喰らい尽くした。

 ここの灰色達は全滅だ。
 なのに、枢機卿達は来ない。レイレオスも。
 俺が怖くて、出てこないのか。

 早く殺させてくれ。

 ……裾を引かれる。

「一仕事片付けたし、休憩しようよ、ファルドくん。私、疲れたわ」

「次へ行く」

 ここは故郷フェルノイエが近い。
 あんまり、長居したくない。

 それに五感を研ぎ澄ませると、何かが近づいてくるのがわかった。

 ロミヤは気づいてないのか。
 だから、俺は告げる。

「……誰かの気配がする」

 剣のメダルは赤く光らない。
 だとしたら、考えられるのはゾンビ、幽霊、虫……誰だ。

「それはきっと、気のせいよ」

「でも」

「見せつけてやればいいのよ。だって、ファルドくんを守ってあげられるのは、私だけだもの」

 怪しく光る、ロミヤの赤い瞳。

 気が付けば、瓦礫に座らされていた。
 背中に手が回される。

 俺はもう、抗えない……。



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