自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

第八十話 「何故、兄の名が出てくるのですか?」


 帝都ゲールザナクの官邸へと戻ってきた俺達を待ち受けていたのは。

「てっきり先に行っちゃったのかと思って、お迎えを頼んじゃったッスよ!」

 などと頭をかくヴェルシェと。

「その様子ですと、もう終わったようですね……お役に立てず、ごめんなさい」

 そう言って俯くルチアだった。
 一体何を考えて、行き違いなんて結果になったんだ?

「おかしいッスね、メイさんは現地集合って言ってた筈なんスけど」

「待て。どういう事だ」

 これ以上、面倒を増やさないでくれ。
 頼むから。

「状況を整理しましょ」

「賛成だ」

 みんなして混乱してちゃ、前に進めないからな。


 グループは大きく分けて三つだ。
 レジーナを正気に戻してザイトンを捕まえた俺達だろ。
 遅れてやってきたルチアとヴェルシェだろ。
 そして置き手紙を残したまま合流しそこねたメイだ。

 それぞれに与えられた情報を知っておこう。

「まず、ヴェルシェとルチアは、メイ曰く現地集合って事で、二人でやってきたと」

「はい。皆様に確認を取っておくべきでした」

「自分がメイさんに聞いた時は、メイさんがもう確認を取ったから大丈夫だって言ってたんスよねえ……」

「戻る時間も惜しかったので、そのまま屋敷に戻らずに出発したのです」

「回復係がいなくても、ポーションがあるから大丈夫って触れ込みッスね。
 むしろ分散して動いたほうが、まとめて狙い撃ちにされずに済むとかで。
 場所の目星がついているなら、瞬間移動で順番に回りながら様子を見ればいいって言ってたッス」

「合流も簡単ですしね」

「筋は通ってる気はするけど……なーんか引っ掛かるわね」

 つまるところ、メイはヴェルシェにだけ伝えたと。
 で、ヴェルシェはルチアにそれを伝言して、二人で帝都へと向かった。
 個別行動は各個撃破のリスクがあるんですがそれは……。

 案の定、ファルドの機嫌が悪い。
 ファルドは個別行動反対派の最右翼だもんな。

「俺達が見た置き手紙には、こんな事が書いてあったぜ」

 ファルドは懐から例の手紙を取り出し、ルチアとヴェルシェに見せる。
 二人とも、その表情は曇りに曇っていた。
 そうだよな。
 自力でケリを付けたいとか、かっこつけんじゃねえって話だよな。

「だが現場には来てないし、ザイトンも会ってないって言ってたんだよな」

「おっかしいッスねえ~……」

「で、帝都にはもう一人、スナファ・メルヴァンを名乗る人型の魔物が現れた。
 コイツが本物だと思いたいが、今となっちゃ、魔王にでも訊かなきゃ判らないな」

「ザイトンがレジーナを操って、シンを撃たせたのは、多分本当の事だと思う」

「レジーナが使ってた、見たことのない道具が気掛かりね」

 アンジェリカの言う、見たことのない道具というのはライフル銃だ。
 こんなの、この世界には存在しないからな。

「誰かが嘘を付いている、そういう事情かい?」

「ジラルドさんは何か解りました?」

「すまないが、女の嘘は苦手でね」

「案外、役に立ちませんね」


 あーあ……マジでふざけんなよ。
 異世界に召喚されたと思ったら気付けば人狼ゲームとか、前代未聞だろ。
 世の中にはそういう作品もあるかもしれないが、少なくとも俺の手に負える範疇じゃない。

 人狼っていうのは、数人の村人とだいたい二人くらいの人狼がそれぞれ“村人チーム”と“人狼チーム”に分かれて、互いの正体を隠しながらやるゲームだ。
 このゲームは昼と夜のフェーズを繰り返す。
 夜になったら人狼達が示し合わせて、犠牲者の村人を決める。

 その次に、全員で誰が人狼かを当てる会議が開かれる。
 そのフェーズで人狼認定された奴が処刑される。

 村人チームは、人狼を殲滅すれば勝ち。
 人狼チームは、人狼と同じ数まで村人を減らせば勝ち。
 だから、上手く運ぶように各プレイヤーは交渉スキルが問われるのだ。

 ……詳しくはググれ。


 とにかく、この前のヴェルシェの発言。

『誰かと誰かが騙し合ってるような……』

 まるで今の人狼ゲーム状態を暗示しているかのようだ。
 それじゃあ、俺の命を狙ってるっていうのは?

『上手く言えないッスけど、騙してる人は、シンさんの命を狙ってるような感じがするんスよね』

 これは、どう説明するんだ。
 ザイトンは俺の命を狙っていた。

 メイが犯人なら、ザイトンとメイはグルだった事になる……?


「とりあえず、ザイトンは王国に引き渡すのがいいと思うわ。なんだかんだで、色々と主導権を握ってるワケだし」

「そんなの反対ッスよ! あの悪辣非道などグサレ司祭なんて、さくっと悪即斬でワンパンキル安定ッスよ!」

 ワケの解らない事を叫びながら、ヴェルシェがガタンと席を立つ。
 いや俺ね、それはちょっとどうかなって思うワケよ。

 確かに裏から色々と手を引いて俺達をハメたし、事実として俺も怪我をしたがな?
 だからって軽はずみに殺したりしたら、それこそ奴の思う壺だろって思うワケよ。

 そもそも、奴絡みで片付けなきゃいけない問題が山積みなんだ。
 俺達だけじゃ、手に負えないだろ。

「引き渡すほうに一票。この場で殺したら、駄目だ」

「俺もそう思う。ジラルドさんとビリーさんはどう思いますか?」

「とりあえず、ひーちゃんの怪我を治さなきゃいけないんじゃないかい」

「治さなきゃって、ひーちゃん怪我したんスか!?」

 某ヤンデレ妹に愛されて眠れないCDみたいな口調をやめろ。
 ただでさえナーバスになってるんだから、これ以上俺の胃袋をいじめないでくれ!

「翼に風穴を開けられてな。ルチア、悪いんだが手を貸してくれ。
 帝国軍の人達が治療してくれてるが、いかんせんあの図体だ。絶賛手に余り中だと思う」


 *  *  *


「……ザイトン司祭、何かの間違いですよね」

 ひーちゃんの治療をしながら、ルチアは呟く。
 まあザイトンの事は前々から疑ってたが、まさかレジーナを差し向けて暗殺までしてくるとは思わなかったからな。

「残念だが、間違いない事実だ。レジーナの証言もある。
 物的証拠はまだ出てないが、そこもキリオさんが遅かれ早かれ見つけると思う」

「何故、兄の名が出てくるのですか?」

 あ、やべえ。
 そういやザイトンがルチアを人質代わりに勇者パーティへ加入させた事、内緒だったよな。

 えっと、キリオはどこまでルチアに打ち明けたんだ?
 魔女の墓場関係者である事は間違いなく打ち明けてるだろ。
 ええい! こんがらがってきやがった!
 とりあえず、知ってそうな内容だけを話せばいいか?

「キリオも魔女の墓場の関係者だからな。ザイトンとは因縁浅からぬ仲だ」

「そう、ですか……」

「とんでもない事になっちまったよな。
 魔王を倒せばそれで済む筈なのに、色んな連中が碌でもない事を考えてやがる」

「まったくですよ」

「それぞれみんな、自分の価値観ではそれが正しい事だとか、みんなが幸せになれるとか主張せざるを得ない状況になってる」

 その内容が本音か建前かはともかくな。
 ザイトンや魔女の墓場はその最もたる例だ。

 ザイトンは魔女と人間の共存を望んだ。
 確かにそれは、ビルネイン教の「互いを許し合う」という教義には忠実なんだろう。
 争いを捨てて、共に魔王を倒す。
 原作のテーマにも沿っている。
 だが、やり方が雑なんだよ。

 一方で、魔女の墓場は魔女を徹底的に排斥する道を選んだ。
 人に害をなす魔女は多い。
 元々が人間であるからこそ、むしろ許せないんだろう。
 まあ、解るよ。

 人であることを捨てて強い力を手にした魔女。
 そんな魔女に、真面目にコツコツ頑張ってる横でお手軽数十秒で色々こなされたら、そりゃ怒る。

 だが墓場も墓場だ。
 やむを得ない事情で魔女になるしかなかった奴まで、十把一絡げに殲滅なんて。
 少なくとも、まともな人間の理屈じゃない。

 劣等感を原動力にヘイターとなった奴が、権力を持ったらどうなるか。
 独裁者スイッチという単語を知っているなら誰もが想像できる。

「結局、俺達が勇者という肩書を利用して、みんなに道を示すのがいいんじゃないか」

 考えようによっては傲慢だろうがな。
 そうでもしなきゃ、悪い流れを断ち切るなんてのは無理だ。

「後は、あの突撃狐娘だよ……」

 このままじゃ、アリバイも何も無いから変な疑いを掛けられても仕方ない。
 早いところ出てきて、詳しく説明してほしいもんだな。

 アイツの悪い癖だ。
 いつも説明不足。

「早いところ、ひーちゃんの翼を治さないとな」

「ええ、そうですね。人間とは構造が違うので、早く慣れたいです」

 俺達と出会ってから、今まで全く怪我をしてこなかったからな。
 ヒールをかけようにも練習しようがなかったのだ。
 怪我を実際に治療しないと、勝手が判らないだろうしな。

 俺は加護が使えないから、所在なさげに右往左往するしかなかった。
 その間に、これからの事を考えた。



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