自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

第七十九話 「あの女がいけないのですよ……」


「な、なんという事だ!」

 ザイトンは呼ばれて開口一番に、天を仰いで叫んだ。
 何について嘆いてるのか知らないが、事情聴取でもしておくか。
 俺はファルドとジラルドに目配せし、ザイトンを監視させる。

 俺自身は今、ガンギマリ状態のレジーナを抱きかかえている。
 身動きが取れないのだ。
 せめて、嫌味の一つでも言ってやるとするか。

「これはご無沙汰してますねえ、ザイトン司祭」

「ん!? あ、ああ、然様ですな」

 状況を理解できず、しどろもどろなザイトン。
 対する俺達の視線は、殺気にまみれている。

「洗いざらい吐き出してもらおうじゃないか」

「スナファ・メルヴァン……いや、レジーナはどうしてアンタを呼んだの?」

「はて、何の話でしょうな」

 ここで、レジーナが意識を取り戻す。

「い、いたいけな女の子を散々こき使って、しらばっくれるなんて、いい度胸だニャ……」

「なんと! 気絶していなかったのか!」

「ニャフフ……腐っても、元聖杯の守人。やられっぱなしは、レジーナの矜持が、許さないニャ……」

 途切れ途切れに発せられたレジーナの言葉に、ザイトンが驚愕を露わにする。
 わざとだったらアレだが、もしもそうでなかったら?
 その反応は、自分が犯人だと言っているようなものだ。

 ザイトンは外套を羽織っていて、しかも汚れている。
 両足は水に濡れているし、この近くで見ていたのは間違いないだろう。

 そんなザイトンが、己の懐に手をやろうとする。
 だが、寸でのところでレジーナに肩を撃ち抜かれ、それも阻止。

「く、う……!」

 肩を抑えてうずくまるザイトン。
 ファルドがザイトンの懐から取り出したのは、何らかのリモコンのようだった。

「これは……」

「相棒! ダムにこんな物が!」

 ビリーが両手に抱えて持ってきたのは、どう見ても爆弾だった。
 なるほど、じゃあザイトンの懐にあったこれは起爆装置か?

「お前さんにゃ賞金が掛かってる。こっちの要求を拒否したら、首と身体がお別れする事になるぜ」

「……」

「好きなほうを選びな。生きて引き渡されるか、ここで荼毘に付されるか。
 お得意様が庇ってくれたら、少しは寿命が伸びるかもしれないぜ」

 ジラルドがザイトンの首元にサーベルを押し付ける。

「……仕方ありませんな」

 さすがのザイトンも、観念したようだ。

「レジーナを差し向けたのは、私です」

 レジーナが実は別の誰かに操られててザイトンを利用してるとかじゃなけりゃ、コイツが犯人で間違いないだろ。

「理由を聞かせてくれ」

「シン君。君が信用ならなかった。聖杯で魔王城への道を開くまでに、魔王軍の手の者によって消されればと思ったのです」

 ほ~ん。 
 それで石化したレジーナを操って、スナファ・メルヴァンに仕立てあげたと。

「レジーナは石化してた筈よ。どうやったの?」

「ガーゴイルの秘術ですな。ご存知ですか?」

「知らないわね。数十年前には、ゴーレムに取って代わられたから」

 アンジェリカは心当たりが無いらしい。
 だが俺は、なんとなく予想が付いちまったぞ。

「大きな鐘楼のある教会では、石像に魔術を施してガーゴイルを造ります。
 術者が世継ぎの際に作り直す事で、ガーゴイルは半永久的に教会の財産を守り続けるのです。
 私がレジーナに施したのは、それをほぼそのまま流用したものですな」

 ほらな!
 石像になったレジーナをガーゴイル化して、術式によって記憶やら人格やらを上書きしたって事だ。
 ザイトンが施したのが付け焼き刃の術式だったからか、それとも石化しただけで生きているからか、理由は解らないが。

「……じゃあ、レジーナは、まだ」

「本質的には石化したままです。術が解かれた今、再び石像と化すのは時間の問題でしょうな」

「そう、か……」

 がっくりと肩を落とすファルドとアンジェリカを、ジラルドが一瞥する。
 さて、次の質問に移るとしようか。
 メイの事についてだ。


 ――とにかく、俺は片っ端からぶち撒けた。
 メイがコイツを信用した結果、どうなったかを。
 俺達がコイツを信じてリントレアの村人に報告を任せた結果、どうなったかを。
 魔女の墓場がのさばって、カグナ・ジャタが降参するまで勇者の肩書はお飾りにしかならなかった事を。

「案内人から聞いたぞ。お前、裏切ったらしいな。何故だ」

 敢えてメイとは呼ばないようにしておこう。
 じゃなきゃ、どんな影響があるか判ったもんじゃない。

「あの女がいけないのですよ……」

 ザイトン、渾身の恨み節。
 やっちゃいけない事をやったんだ。
 裏切って、絶望させて、挙句に魔王軍に売って。
 だったら、その理由を教えてもらおうじゃないか。

「アイツが、案内人が、何をしたっていうんだよ」

「私が望んでいたのは、人間と魔女の共存!
 ゆえに、魔王の喉元にいつでもナイフを突き付けられる状況へと持ち込むべきだと思った!
 その為に、聖杯を集めていたのです……」

「ねえ。それって、はじめから魔王を倒す気は無かったって事?」

「まさか。当然ながら、魔王は勇者によってのみ倒されるべきだと思います。それ以外の存在が、差し挟むべきではないのです」

「だったら、どうして俺を撃った。わざわざ、レジーナまで洗脳して」

「貴方もまた、邪魔者だったからですよ。石版の預言者」

 これは随分と高く買われたもんだ。
 俺が戦況に与えた影響なんて、たかが知れている。

「予言の事など、先刻承知でした。神託を授かった私にしてみれば」

「何……!?」

「各地の協力者から、貴方の予言について情報を集めましてな。どれもが、神託と一致していた」

 おいおい。
 誰だよ、その協力者って。
 ふざけやがって、誰も信じるなって事かよ。
 神託とか、急展開を差し挟みやがって。

「神託によって示された道へと導くのが、私の役目です」

「それとメイやレジーナは何の関係があったんだ」

「さしあたって、魔王を倒す前に、魔女達を全て人間側へと引き込むのが私の目的だったのです。
 魔女の墓場は、魔女達があくまで被害者のままでいられる為の必要悪として、私は黙認してきました」

 こすっからい事を考えやがる。

「それを、あの銀狐と、レジーナは、魔女の墓場を根絶やしにせんばかりの勢いで! 私は、止めねばならないと思った!
 人は、許し合うべきなのだ。たとえ相手が、悪魔そのものであったとしても!」

「イカレてやがる。生存本能まで否定するつもりか」

 サイコ野郎がのさばるだけだろ、そんなのは。

「そうでしょうな! 君達のような方々は、みんなそうだ!
 寛容を是とするビルネイン教において、その考え方は異端です。それでも、私は神の名のもとに許しましょう」

 両腕を広げて、ザイトンが微笑む。
 全く、白々しいったら無いな。
 殺す気満々だった癖に、よく言うよ。
 奴の首元にサーベルを当ててるジラルドも、思わず苦笑するレベルだ。

「それで、肝心のメイはどこに行っちまったんだよ。会っただろ?」

「いえ、見ていませんな」

 ……どうなってんだ、これは。
 行き違いになっちまったか?
 まさか帝都でお留守番か?

「とりあえず、帝都に引き渡すかい?」

「そうしましょう」

「けど、ひーちゃんは……」

「流石に、上空を任せてる他の飛竜に運んでもらうってのは無謀だよな」

 飛竜達みんなで束になって縄で引っ張っていく、なんてのはちょっとな。
 一応、打診してみるか。
 ヒトデを口元に。

「こっちはケリが付きました。お願いがあるんですが……うちのひーちゃん、引っ張れませんかね?」



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