自作小説の世界に召喚されたので俺は未完放置する(エタる)のをやめました!

冬塚おんぜ

第七十話 「その戦い、ちょっと待ったッス!」


「その戦い、ちょっと待ったッス!」

「何か異論がありまして?」

「いやいやいやいや! ありまくりッスよ!
 敵は魔王軍ッス! ここで人間同士が争い合ってる暇なんて無いッスよね!?」

「……なら、わたくし達を直接倒せばよろしいのではなくて?」

 何その脳筋理論。
 思わず俺も反論した。

「馬鹿じゃねえの!? どうしてそういう結論になるんだよッ!!」

「そうッスよ! だいたい殺せって話がおかしいッス。せめて、奴隷魔女にするとかッスよ!」

 ヴェルシェの提案は、なるほどそれは魅力的だ。
 だが、エリーザベトは不敵な笑みを浮かべる。

「あら? 奴隷魔女に反対するディシマギ家に肩入れしていたあなた方から!
 まさかそのような言葉が出てくるとは、夢にも思いませんでしたわ!」

 完全にハメられたな。これ。
 だから俺は言わないでおいたんだ。

「アンタ、はじめからそれを狙ってたような口ぶりね?」

「茶番はおよしになって下さいませ。あまり長続きするようでしたら……撃ってしまいますわよ」

「じゃ、じゃあこうしようぜ! そっちのジェヴェンさんと、俺とで決闘だ!」

 ファルドも何を言い出すかと思えば、決闘だって!?
 馬鹿じゃねーの!?
 いくらエリーザベトでもそんな……。

「決闘、決闘……! あぁん! なんて甘美な響きですの……!」

 えー、ノリノリでした。
 決闘って単語だけでそんなに恍惚とした顔になるかよ、普通!
 変態かよ! ドン引きだよ!

「ねえねえねえねえ! ジェヴェン、貴方、決闘でしてよ! 決闘!」

「私は少しも嬉しくないのですが」

 そうだよな。
 負けたら死ぬし、勝ったら聖杯の守人を殺さなきゃいけないし。

「ご不満でしたら、貴方が勝てばよろしいのではなくて? ジェヴェン・フレイグリフ」

「ううむ……仰せのままに」

「勝ったほうが、この場の魔女を好きにしていい。この条件でいいかな?」

 またでっかく来たな。
 確かに、墓場の手に渡るよりはマシなんだろうが。

「構いませんわ。ただし、奴隷化はさせる事。よろしくて?」

「……ああ」

「ちょっと、ファルド!」

「大丈夫。俺はジェヴェンを殺さないし、ルーザラカを殺させはしない」

 ところで、相手はあのジェヴェンさんなんですが。
 勝てる見込みはあるんだろうか……?

「なあ、石版の。下らぬことを言っても良いか?」

 それまで沈黙を守っていたルーザラカが、突如として俺に耳打ちしてくる。

「マジで下らない事だったら、命の保証はできないからな」

「ここで、わらわの為に争うのはやめるのじゃーって言ったら怒るか?」

 この重要なタイミングで、何を抜かすのかって話だよ。
 ガッデム馬鹿野郎が。

「良かったな、大声で言わなくて。総スカン間違いなしだぞ」

「そうじゃな……」

 色々と立て込んだ状況だから、気持ちは解らないでもないが。


 *  *  *


 決闘の会場は、さっきの大扉を通った先の大広間だった。
 魔女会に参加していた魔女達は全部で五人。
 少なすぎる気はするが、それは置いとく。
 魔女は全員ロープでぐるぐる巻きに縛られていて、クロスボウを突き付けられていた。

 殺さないだけ、まだ良心的って考えるべきなのか。
 俺達と遭遇するまでは、持って帰って奴隷にでもしようと思ったんだろうな。

「ファルド・ウェリウス。フォボシア島で約束したにもかかわらず、このような形で相まみえる結果になった事を申し訳なく思う」

「上からの指示なら仕方ないですよ。さっきも言ったけど、貴方は殺さない」

「いつまで前口上を続けていますの? ほら、さっさとやる!」

 エリーザベトが両手をパンパンと叩きながら、苛立たしげに促す。

 アンジェリカをはじめ数人が殺意に満ちた眼差しをエリーザベトに向けるが、手は出していなかった。
 手を出そうものなら、舞台上に座らされたルーザラカを、灰色装束が殺してしまうだろうからな。

「どちらかが降参するか、急所に切っ先を当てた時点で勝敗が決するものとする。いいな?」

「それでいいです」

「皿が割れたら決闘開始の合図ですわ。お前、この皿を上に投げなさい」

「は、はい!」

 灰色装束が呼び出され、小分け用の皿を持たされる。
 たどたどしい仕草で上に放り投げられた皿が……。

 ガシャン、と音を立てた。

「――!」

 両者の激しい剣戟が繰り広げられる。
 命の取り合いではないと宣言したものの、その様子はまさしく決闘。

 刃と刃がぶつかり合うたびに、辺りに衝撃波が飛ぶ。
 ろくに片付けられてもいないテーブルや食器が、次々と吹き飛ばされていく。

 ジェヴェンの横薙ぎがファルドの首の近くをかすめる。
 すんでのところでファルドはそれを避けた。

 両者、ギリギリの戦い。
 ……ふと俺は、違和感を覚える。

 なんで二人の実力が拮抗しているんだ?

 ファルドは、ようやく軌道に乗り始めた勇者。
 一方のジェヴェンは、かつて大陸全土を巻き込んだ戦争を生き抜いてきた、歴戦の猛者だ。

 ましてやあのレイレオスを御し、テオドラグナを倒すだけの実力者でもある。
 そのジェヴェンがどうして、圧倒できずにいるのか。

 嬉しい誤算ではあるが、もやもやが止まらない。

「何故ですの!? たかだか少年一人に、そこまで苦戦するなどと! 手加減はおやめになさい!」

 うるさい気が散る一瞬の油断が命取り。
 いや、まあ、確かに疑問ではあるよな。

「あ、そうか」

 鍔迫り合いが、ファルドの一押しで中断される。
 ジェヴェンが後ろに、たたらを踏んだ。

 これだよ。
 ジェヴェンはどういう理屈か、ファルドにパワーで押し負けているんだ。

 ゲームで言えば、ジェヴェンは全てのステータスに満遍なく振り分けている状態。
 ファルドは逆に、敏捷性と筋力に極振りしている状態なんだ。

 結果的に、両者とも一発でも貰えば勝負がつくが、その肝心の一発をどちらも命中させられずにいるという事か。

 しかも度重なる剣戟の影響で、障害物にできた筈のテーブル類が片付いている。
 ファルドはそれによって、持ち前の素早さを存分に活かせる状況なワケだ。

 総合的なステータスの合計値が、戦力の決定的な差でないことを教えてくれるな。
 戦いはいつだって、その場の状況が付いて回る。

 再び、鍔迫り合い。
 だがそれは、ジェヴェンがファルドの腹に蹴りを入れようとした瞬間――、

「ぐッ!」

 ジェヴェンが弾き飛ばされる形で終わった。
 その首元に、ファルドの剣が押し当てられた。

「……枢機卿。私の負けです」

 まだ違和感があるんだよな。
 これ、もしかしてジェヴェンは手加減したのか?
 障害物をわざと撤去させるような戦い方をしたという可能性がある。

 ファルドの持ち味を敢えて発揮させ、いくらでも言い訳できる状況に持ち込んだと……。
 ジェヴェンもなかなか、実直そうに見えて食えない野郎だな。

「ふん。役に立たない木偶の坊ですこと……」

 とはいえ、その偽装工作をエリーザベトは見抜けなかったようだ。
 手加減について言及する気配がない。

「エリーザベト。約束だぜ」

「ええ、ええ、構いませんわ。おい、お前。奴隷セットを、勇者へ」

 呼びつけられた灰色装束(多分さっき皿を投げた時と同じ奴だ)が、首輪と指輪を手にやってくる。
 どちらにも、深紅色の宝石みたいなものが埋め込まれていた。
 これを使って制御するって事だな。

「魔女に与する者共など、勇者であろうと容赦しないつもりでしたけれども。いたし方ありませんわ。約束は守って差し上げましょう。
 先程から、そちらの仮面の女が怪しげな装置を動かしていますもの」

「あ、バレちゃった?」

 メイはわざとらしく、後ろ手に何かを隠す仕草をする。
 ぺろりと舌を出しながら。

「何をしているかは存じませんけれど、こちらが約束を守って差し上げるのです。
 陛下に告発などなさったら。その時は、おわかりでして?」

 約束を守るのに上から目線すぎるだろ。
 確かに残念な三馬鹿の一人として設定したが、ここまでとは。
 俺が呆れて溜息をつくより先に、メイが口を開いた。

「あのさあ。さっきから聞いてるけど、何? 守って差し上げるって。そっちから喧嘩ふっかけてきたんでしょ?
 そっちがルールを決めたんでしょ? 負け惜しみだったら、もっと上品にやりなよ」

 馬鹿……!
 煽り過ぎだろ!

「め、メイさん! まだ力が戻ってないのに、まずいッスよ!」

「あらあら? それは良い事を聞きましたわ」

 得意気にエリーザベトが、灰色連中に目配せする。
 灰色連中は一斉に、クロスボウをメイへと向けた。
 だが、それでもメイは動じないどころか、更に続けた。

「へえ、殺すんだ? あたしを。言っておくけど、この会話は録音済みだよ?」

「なん、ですって……!」

「メイ、そろそろ――」

「――ていうか勇者とその仲間に手を出したら駄目って、国の間で取り決めがあったよね?
 無視して殺そうとしたよね? どうせ、こんな辺境の地で殺してもバレないとか思ってたんだよね?」

「それは不問になさって下さいまし」

「ふぅん? まあいいけど。じゃあなんでまた殺そうとしてるの? 負け惜しみ? 頭に血が登っちゃった? アレなの? 野蛮さを隠す為に、そのお嬢様言葉を一生懸命勉強したんでしょ? みんなも大変だね~? こんな馬鹿上司の言うこと聞かなきゃいけないんだもんねぇ~? ほら、言い返してごらん? あたし、何か間違ってる?」

「――くく、くふふふ……オーッホッホッホッホ!」

 大笑いしたかと思えば、テーブルに置かれていたワインのボトルを手にとった。
 未開封のコルク栓を、そのままかじって開封!
 しかも瓶ごと飲み干す。
 ヤケ酒かよ、たまげたなあ……。

「んくっ、ぷはぁ~ッ! じゃかあしゃあ、こんクソじゃりがァ!
 ハラワタ引きずり出されとうなかったら、今すぐ黙らんかい!」

 しまいにゃキャラクター崩壊だ。
 さすがのジェヴェンも、これには苦笑い。
 灰色装束も、既に何人かは頭を抱えてる。

「ほぁ~い、黙りまぁ~す♪」

「ケッ、ぶりっ子しくさって! おァイ! ジェヴェ~~~ン! 抱っこしぃ!」

「え!」

「は・や・く!」

「は、はあ……」

「うい~、ひっく! お前らみんなうんこ漏らして死ね! バーカバーカ! おたんこなすぅ~!」

 捨て台詞も、ガキそのものだ。
 こりゃあみんな腫れ物扱いするワケだ。

 気まずい雰囲気が周囲を支配する中、魔女の墓場はぞろぞろと退散していく。

「……オメーがくたばれよ。クソメガネ」

 メイはドスの利いた声で、そっとつぶやく。
 怖ぇよ! 普通に血の気が引いたわ!

「な、何か言ったか? メイ」

「ん~ん? 別にー? 酒は飲んでも飲まれるなって思っただけ」

 白々しいなあ。
 そして、アンジェリカもメイに頷く。

「そうよね。酒癖が悪いのも考えものよ」

「アンジェリカさんは、人のこと言えません! めっ、ですよっ!」

「う、うっさい!」

 ルチアのツッコミに、顔を真っ赤にして逆ギレするアンジェリカ。
 当事者同士は言葉の重みが違うな。

「メイさんも、言い過ぎですよ。どんなに悪い人でも、同じ土俵に立ってはご自身の品位を貶めてしまいます」

「そう、だね。ごめん」

 成長したな、ルチア……。
 この修羅場の中で、冷静にツッコミを入れられるようになるなんて。

 おっと、それより魔女共だ。
 何から聞き出そうか?



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