俺が少女になる時に

山外大河

12 覚悟を拳に乗せて

「次は……こっちか!」

 表示されている地図に従って、誰もいない町を、抜刀した刀片手に全力で走る。
 こうする事によって、俺のスピードは飛躍的に向上する。片手にスマフォ。片手に刀と、なんとも走り辛いが知った事か。

「……あと半分って所か?」

 そう呟いた時、ポケットに仕舞ってある俺の携帯の着信音が鳴り響いた。
 俺はスマートフォンと入れ替える様に自分の携帯を取り出す。

「……佳奈」

 ディスプレイに表示されているのは、佳奈の名前。
 そういえば……何も言わずに出てきてしまったな。
 俺は走りながら、佳奈からの電話に出る。

「アンタ何処までトイレしに言ってんのよ……ってなんか風の音が聞えるんだけど、まさか外に出てるんじゃないでしょうね!」

 まあこのスピードで走ってたら、風の音位聞えるよな。

「ああ、今外に居る」

「何考えてるのよ! 早く戻って――」

「……悪い、佳奈」

 俺は呟くようにそう言って、佳奈の言葉を遮った。

「今、俺にはやらなきゃいけない事があるんだよ」

「なによそれ……こんな時にやらなきゃいけない事って、一体何なのよ」

「悪い、それは言えない……でも、やっとの思いで決心を曲げられたんだ……頼む、行かせてくれ」

 電話の向こうの佳奈に向かってとにかく重いをぶつける。

「今行かねえと……何もかもが、終わっちまうんだよ」

 ギルドの皆も……俺を形造っている何かも。みんなみんな壊れてしまう。
 そうして一拍空けた後、佳奈の声が再び耳に届く。

「……わかったわよ。家の男は一度言いだしたら聞かないってのは嫌って言うほど知っているから……でも、これだけは約束して」

 佳奈は諦めた様にそう言うと、少しだけ間を空け、

「絶対……無事に帰ってきなさいよ」

「ああ……約束する」

 俺は通話を切って携帯をポケットに仕舞う。

「約束しちまったんだから……ちゃんと頑張らないとな」

「頑張るって、何を頑張るのかなー」

 上空から聞きたくなかった声が聞えた。

「な……ッ!」

 見上げた先に見えたのは、日本刀を構えて落下してくる木葉。
 俺は振りかざされる日本刀を、強化された瞬発力を生かして、後方に大きく飛んで交わした。

「まさかこっちの世界に戻ってきちゃうとはねー、予想外だったよ。監視用の魔装具を送っておいて正解だった」

 んなもん使われてたのかよ。

「あ、心配しなくても私生活とかは監視していないから。したのはあくまでキミが動く可能性がある今日だけだし」

 この日だけ俺を監視していたって事は……やっぱりアポカリプスの出現が早まったのはコイツの所為かよ。

「退いてくれ、時雨木葉。俺はこんな所で立ち止まっている程ヒマじゃないんだよ」

「退くと思う? 地道にアポカリプスの出現日時を直前に変える為の努力をしてきたって言うのに……キミが戦ったら、もしかしたら何とかなっちゃうかもしれないじゃん」

 だろうな……退いてくれるなんて初めから思っていないさ。
 俺は静かに刀を構える。

「やる気だね」

「やってやるさ」

 そう言って俺は、手にした刀に光を灯した。
 分かってる。
 例え無暗に突っ込んで切りつけても、斬撃で攻撃しても、時雨木葉はソレらすべてを跳ね返す。
 通用するのは魔法具や魔装具を使わない通常攻撃のみで、それすらもアイツに届かせる事は困難を極める。アイツの手札は結界だけではないからな。
 つまりアイツに攻撃を浴びせるための手段は二つに絞られる。
 あの結界を破壊する程の攻撃を放つか、アイツの意表を付いて拳を振るう何かを行うか。
 後者……考えはあるが、危険すぎる。多分やったら、成功しても立っていられるか分かんねえ。
 ……とにかく。
 なんにせよ俺はアイツを倒すしかないんだ。

「最初から全力で行くぞ! 時雨木葉!」

 俺は雨宮さんから受け取った、風を発生させる魔法具を使用して追い風を発生させ、それと同時にアスファルトを勢いよく蹴った。
 日本刀の魔装具の加速に加え、追い風による加速。そんな状態で、斬撃を纏わせた日本刀を構えて時雨木葉に接近していく。

「……ぶっ壊す!」

「なるほど、そう来たか。いいよ、受けて立つよ」

 そう言って時雨木葉は結界を始動させる。
 判断として間違っちゃいないさ。俺の攻撃をソレで防いで、その後攻撃を浴びせるもよし。違っていても、きっと時雨木葉はこのスピードに付いてくる。俺に狙いを定めて魔装具を振るうだろう。
 とにかく一旦結界を張る事が、最も優れたバトルスタイルなのだろう。
 一方俺に取れる選択肢。破壊と直接打撃。きっとどちらも通用しない。
 分かってる……分かってるんだ。
 まともな方法じゃ、俺程度の実力じゃ突破できない。魔法少女の魔装具が無ければ、俺なんて精々平均程度の実力しかねえんだよ。
 だったら……俺はどうすればいい?
 分かってる。後は覚悟を決めるだけなんだ。
 それさえ出来れば……突破できるかもしれない。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 そうして俺は……勇気を振り絞る事にした。
 日本刀の射程圏内まで後少しといったこのタイミングで強く地面を踏みこんで僅かに跳び上がりながら……一つのアクションを起した。

「……ッ」

 そのアクションを見た時雨木葉の表情が、驚愕の色に染まる。
 その視線は……俺の後方を回転しながら舞う、日本刀の魔装具に向いていた。
 俺の手にはもう何も残っちゃいない。
 意表を付く。コレが唯一の突破口。
 こんなスピードで、日本刀の恩恵を失い、強化制服以外の防御手段が無い俺が宙に放りだされたら……結果どうなる?
 それは走っている車から蹴り落とされる様な物だろう。
 しかも拳を振るうなんていうアンバランスな行動を取った場合、より衝撃を抑える事は難しくなる。
 跳ぶ事に寄り、走りながら転倒するリスクは抑えた。だがその後の事は何も考えちゃいない。
 考えようが無い。その時の俺の順能力に全てを任せた。
 そしてこの自殺行為の様な行動を……予想通り、時雨木葉は驚愕している。
 想定していた以上の捨て身の攻撃。予想されてたまるか。

「喰らいぃぃぃぃやがれええええええええええええええぇぇぇッ!」

 そうして俺は拳を振るった。
 女の子の顔面を殴るとか、酷い奴にも程が有ると思う。だがそんな事知るか。
 この程度じゃ死なないだろう。顔の傷だって魔法具や魔装具を使えば回復するだろうし、俺は敵のアフターケアまで考えて行動できる程、漫画の主人公みたいな事は出来ない。
 多分これで勝敗は決した。
 いくら魔装具で肉体強化が施されているとはいえ、この勢いの拳を顔面に受ければ、多分それで昏倒する。俺だって多分する。軽い脳震盪が起こるのは間違いないだろう。
 もう時雨木葉の事はどうだっていい。
 後は自分が生き残ることだけを考えろ。
 殴る事によってバランスを崩した俺は、柔道の受け身の様な耐性で衝撃を少しでも殺そうと着地に掛った……が。

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 そんな物で殺せる様な勢いでは無い。何度も堅いアスファルトの上を転がり、全身に激痛が走る。その激痛は、例えるならば、藤宮に魔法少女にならないかと誘われた際に上級精霊から受けた攻撃の痛みが、全身に回っているかのようだった。
 そうして止まった頃には……全身から血が流れ出て、車に撥ねられたと言っても相手を信じ込める様な程ボロボロになっていた。
 アスファルトが全身から流れ出る血液で赤く染まり、俺は一体何度アスファルトを赤く染めるんだと、内心で皮肉る。
 体を少しでも動かそうとすると全身に激痛が走った。正直立ち上がれる様な状態では無かった。
 だけど……寝ていられる状況でも無かった。

「……立てよ」

 自分にそう言い聞かせる。
 今立たなければ、こんな馬鹿げた自殺行為をした意味が無い。

「立てよ……俺は今までどうやって育ってきた」

 俺は馬鹿親父に育てられて此処まで来たんだ。多分親父だったら何の気無しで立ち上がる。そんな奴だ、俺の親父は。俺はそんな奴の息子だ。

「だったら……立ち上がれねえ道理はねぇ……ッ!」

 ゆっくりと……本当にゆっくりと、俺は立ち上がる。
 そのまま一歩、一歩と、途中何度も転びながら、時雨木葉の倒れている周辺に落ちている日本刀の魔装具にまで辿り着く。
 魔装具に触れると、身体能力が向上し、ちょっとばかし楽になった。
 俺はその楽になった体で、時雨木葉のポケットなどをあさり始める。
 端からみたら変態に思われる様な構図な気がするが、どうせ誰も居やしない。居た何処ろでそんなもん知るか。

「……あった」

 回復用の魔法具。どの規模の物かは分からないが、この状態でアイツらの元に向かうよりは、多少なりとも回復した方が幾分もマシだ。
 俺は時雨木葉になんの断りも居れず、その魔法具を使う。
 だが俺の今の傷をまともに癒せる様な物では無かったらしい。多少体が楽になり、流れ出る血がほぼ止まった程度。
 RPGでHPが三十回復するアイテムがあるとすれば、HPが一だろうが百だろうが回復量は変わらない。
 だけども現実では、軽傷用の回復道具は重症者にはさほど効果を齎さない。そんな物だ。
 というか……ハンターの時雨木葉が持ち歩く魔法具にしては、対した事の無い魔法具だった。俺がそう感じるのは、あの時の治療で使った魔法具があまりにも凄すぎたからなのだろうか。
 回復系の魔法具には瞬時に回復する物と徐々に時間をかけて回復させる物の二つがあり、前者は回復量が少なめというのを聞いていたから、これでも十分に凄いのかもしれない。きっとあの時のイレギュラーの様な回復量と一緒に考えちゃいけない。
 でもまあ、そんな考察は今は別にしなくてもいいだろう。
 とりあえず何本も骨は折れているだろうが、ある程度動けるようになった。それでいいんだ。
 俺は再びフラフラながらも走り出す。
 その時だった。

「……ッ」

 正面から轟音が鳴り響いた。
 そして視界に入って来た存在に、俺は思わず絶句する。
 なんだよ……アレ。
 答えはすぐに出てきた。
 ……アポカリプス。
 今まで見た事が無い程大きい、禍々しい人型の精霊。
 直径四十メートル程はあるんじゃないだろうか。

「……クソッ」

 急がねえと、とりかえしのつかない事になる。
 俺は刀をしっかりと握り、とにかく前へと歩みを進めた。

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