俺が少女になる時に

山外大河

14 VS特級精霊

 黒煙の中は数メートル先の景色が見えないほど視界が悪かった。
 おそらく折村さんは風を操れるから、煙を退かして視野を広げられただろうが、俺にはできない。
 変身した時に、魔法少女として戦うための知識や感覚を自動で叩きこまれる素晴らしい機能があったが、その知識の中にこの黒煙を何とか出来そうな物は存在していなかった。
 魔法少女なのに、そんな簡単そうな魔術も使えない。
 体を強化する術はオートで起動するから、実質俺が使える魔術は、必殺技的な魔術一つのみで、後は強化された体を駆使して、殴る蹴るの応酬を行うだけだ。
 正直言って、これで魔法少女と呼ぶのは詐欺な気がする。
 メイン攻撃が殴る蹴るって全然魔法少女じゃねえ……なんというかバイオレンスだ。

「にしても、マジで何も見えねえ……」

 闇雲に突っ込んで大丈夫なのか?

「って言っても……突っ込むしかねえんだよな!」

 俺がそう覚悟を決め、空を蹴ろうとすると――

「……ッ!」

 物凄いスピードで折村さんが落下してきた。
 俺は咄嗟に全身で抱え込む様に折村さんを受けとめる。
 全身傷だらけで、ズタボロだ。

「だ、大丈夫ですか、折村さん!」

 俺がそう声を掛けると、折村さんの目がゆっくりと開いた。

「えーっと……もしかして宮代か?」

「はい! 宮代です!」

 良かった……無事だ。

「サンキュ、助かった」

「こちらこそ……おかげで助けに入る事が出来ました」

 俺はにっこり笑ってそう言う。
 その時、耳に風を切る音が聞えた。

「宮代! 交わせ!」

 俺は折村さんに言われるがまま、無我夢中で右に飛ぶと、さっきまで俺がいた位置に黒竜の腕が存在していた。

「くっそ……煙が邪魔で全く攻撃が見えない」

 俺が顔を顰めてそう呟く。
 今のは運よく避けられたけど……次がうまくいくとは限らない。

「じゃ、俺はもう戦えそうにねえし、最後に後輩の戦うフィールドを用意しといてやるよ!」

 折村さんが手に持っていたウインドイーターを正面に突き出す。

「全開で行くぞ!」

 ウインドイーターから突風が発生した。

「す、すげえ……」

 思わずそんな声が漏れた。
 辺り一面を覆っていた黒煙が一気に晴れる。
 そして今まで隠れていて見えなかった黒竜が視界に入った。
 改めて対面すると、緊張で体がガチガチになるのが分かる。

「じゃあ宮代、俺が此処に居ても足手まといだろうから、下に降ろしてくれ。今ので風を使いきったから、もう飛べねえんだよ」

 そう言った折村さんは、思い出したように付けくわえる。

「あ、あとこれだけお前に言っておく」

 折村さんは俺に向かってグーサインを出す。

「お前の胸、いい感じに柔らかくて気持ちよかったぜ!」

「それ今言うことなんですか!」

 恥ずかしくなって、黒竜の攻撃を交わしながらもそう叫んだ。
 この人はなに考えてるんだこの状況で!

「どうだ。今ので緊張解れただろ?」

 言われてみれば……確かにそんな感じがする。
 俺は全力で空を蹴り、一旦地面に着地し、折村さんを地面に下ろす。

「じゃ、後は任せた」

「はい。任されました!」

 そんなやり取りをしてハイタッチする。
 そして俺は折村さんと入れ替わるように再び空に飛び立ち、拳を握った。

「じゃ、始めようぜ暴走精霊!」

 そう叫んで黒竜に急接近し、顔面に拳を叩きこむ。

「グギャッ!」

 そんなよくわからない声を発する黒竜。
 効いてるぞ俺の攻撃!
 すげえ……これが魔法少女の力か。
 俺はそのまま回し蹴りで追撃する。
 すると、巨大な黒竜が若干ではあるが揺らいだ。
 よし、もう一発!

「ウオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 雄たけびを上げて黒竜に突っ込んで、俺がもう一度拳を叩きこもうとしたその時だった。

「グハッ!」

 黒竜の手に薙ぎ払われ、地面に叩きつけられ、全身を激痛が走る。

「ってて……」

 後頭部を摩りながら起き上る。
 地面に小さなクレーターができている事から、如何にとてつもない攻撃だったかという事が想像できるが、同時にそんな攻撃を受けても普通に立ちあがれるという事で、魔法少女の魔装具が如何に凄いかを身をもって実感できる。
 にしてもミスったな……攻撃に夢中になりすぎて、あっちも攻撃してくるって事を忘れてた。
 とにかくもう一度飛びあがって――、

「な……ッ!」

 上空を見上げた俺の視界に映ったのは、黒竜が放ったと思われる巨大な炎の球。
 俺は隕石の様に降ってくる巨大な炎の球を、地面を転がるように左へと飛んで回避する。

「あっぶねえ……」

 魔法少女になってなかったら、あんな攻撃避けられなかったぞ。
 俺は地面を全力で蹴り、再び黒竜へと突っ込む。
 そんな俺目がけて再び腕が振るわれるが、

「当ってたまるかよ!」

 俺は直進しながら、間一髪のところで交わす。
 そして拳を握りしめ、黒竜の眉間に叩きこんだ。
 当たり所が良かったのか、黒竜が大きく揺らめく。
 よし、隙ができた……アレで一気に畳み掛ける!
 俺は上半身を左右に振り、戻ってくる反動を利用して、黒竜の側頭部にフックブローを放つ。
 確か名前はデンプシー・ロールだった筈だ。
 隙が無い相手には使えないけど、今の黒竜になら当てる事が出来る。
 まさか親父がは○めの一歩にハマったせいで、一週間程無理矢理特訓させ、形だけ覚えたのが、まさかこんな所で役に立つとは思わなかった。
 勿論何のトレーニングも積んでいない俺に、あんな複雑な動きなんて出来るはずも無く、仮にできたとしても、一メートル近い大きさの頭に撃ち込むなんて事は出来ないだろう。
 でも今は違う。
 俺は魔法少女だ。
 この位の激しい動きは勿論、無理矢理巨大な頭にデンプシーを打ちこむ事だって可能だ。

「うおおおおおおおおおおおッ!」

 もう何発目かも分からない右フックは、とてもパンチとは思えない音を立てて、黒竜の頭を弾く。
 でもまだ黒竜は倒れない。
 ふらつきながらも俺のデンプシーから逃れ、後方へと飛ぶ。

「結構タフだな……」

 そう漏らした俺に向かって、黒竜は再び炎の球を俺に向かって吐きだす。

「それはさっき避けて見せただろうが!」

 俺は放たれた炎の球を飛び越えながら接近する。
 そして黒竜の頭上までやってきて、体を捻って一回転からの踵落としを眉間に食らわせた。

「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 黒竜はそんなうめき声を上げながら地面に倒れる。
 倒れたって事は……踏みとどまる余力が無くなったって事だよな。
 どうやらデンプシーが相当効いたみたいだ。

「じゃ……一気に決めるぞ!」

 そう言って俺は倒れた黒竜に右手の掌を向ける。
 すると、俺の右手を中心に、魔法陣が展開された。
 これが俺の唯一使える攻撃魔術。
 魔法少女に変身した俺の体には、魔力が魔装具から供給されている。
 その魔力は、体の各部位の強化や空を飛ぶのに使っている訳だが、それでも余りが生じる。
 この魔術は、その余りの魔力を一気に正面に撃ち放つ。

「喰らえええええええええッ!」

 そう叫んで右手から魔力を、半径一メートル程の規模のビームの様に放つ。
 俺が放った魔力は、黒竜に向かって降り注ぎ、その身を轟音をあげながら破壊していく。
 すげえ……これ、俺が撃ってるんだよな。
 思わず顔がにやけてくる。

「ウガアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 俺の魔力を受け続けた黒竜は、十秒程した所で全身から黒煙を放ち消滅した。

「やった……のか?」

 黒煙に包まれた空中でそう呟いた。
 消えたって事は……倒したんだよな。

「……ハハ、ハハハ……」

 思わず口からそんな声が漏れる。
 我慢しているが笑いが止まらない。
 駄目だ……もう我慢はよそう。
 そう思った直後、俺の口から歓喜の声が発せられた。

「いよっしゃああああああああああああああッ!」

 すげえ、すげえよ! 魔法少女!
 俺は興奮そのまま、地上に降りて変身を解く。
 服装も変身前に着ていた強化制服へと移り変わった。
 なんというか……衣服まで変わっちまうって凄いよな。

「へぇ。今のを一人で相手にするなんて凄いね」

「……ッ!」

 突然、黒煙の中から聞き覚えのある声が聞え、俺は慌てて声のした方へと視線を向ける。
 ……誰だ?
 少なくともギルドメンバーの声ではない。

「それにしても男が魔法少女かー。随分と面白いことしてるね。傍から見たら変態だよー」

 そう言って黒煙の中から現れたのは……ラーメン屋で激辛ラーメンを平らげていたあの木葉とか言う子だ。
 ……なんでこんな所に居るんだ。

「って……馬鹿にしてるのに反論しないの?」
 正直言って反論したい気持ちは十二分に有るわけだが、今はそんな事をするより、すべきことがある。

「なあ……なんでこんな所に居るんだ。下手したら死ぬところだったぞ」

「キミも下手したら死ぬよ? 社会的に」

「怖い事言わないでくれ」

 それは……マジで勘弁してほしい。

「で、なんでこんな危ない所に平然と居るんだよ」

「そりゃ目的があるからだよ」

 そう言って、地面から何かを拾い上げる。
 あれ……多分、今倒した黒竜の魔法具だよな。

「はい、回収しゅうりょー」

「え、ちょっと……ソレって……」

「うん。さっきの暴走精霊の魔法具だよ」

 そう言って笑う木葉。
 知ってて拾ってるって事は……精霊と関わりがある様な人だったのかこの人は。
 いや、そんな事より。

「そういう事を言ってるんじゃなくて、俺らが倒したのに、どうしてお前が持ってくのって話をしてるんだよ」

「なんでって……世の中早い者勝ちが常識だよ? 倒したのが君たちギルドだったとしても、先に魔法具を取ったのが私なら、私の物だよ。まあ仮に先に取られちゃったりしても……奪うだけだけどね」

 満弁の笑みで言うことじゃねえだろ……今の台詞。
 ってかなんで俺達がギルドだって事を知っているんだ?

「じゃあ私はもう行くよ。目的も半分達成できたし……今日は様子見って事にしておこうかな」

 様子見……何の事だ?
 ていうか半分って……もう半分は一体何なんだよ。
 こんな危険な所に態々来たのが、魔法具の為だけじゃないって……他に利益の出る様な事があるってのか?
 俺が考えを纏める前に木葉は、

「じゃあまた会おうね、男の魔法少女さん」

 と、言い残し、黒煙の中に消えて行った。
 一体……なんだったんだ……あの子。

「宮代君! 大丈夫!」

 後方から藤宮の呼び声が聞えた。

「ああ、大丈夫だ」

「とりあえず、今そっち行くから!」

 藤宮がそう言って大体十秒ほどして、藤宮は黒煙の中を通ってやってきた。

「あれ? 折村さんと中村さんは?」

「通信が回復したから、車を呼んでもらってるわ。折村君も怪我してるし、歩かせるのもアレでしょ?」

 まあ、確かにそうだな。

「にしても……まさか俺が本当に暴走精霊を倒せるなんてな。すげえよ魔法少女」

「お疲れ様、宮代君」

 俺にそう言った後、藤宮はキョロキョロと辺りを見渡し始めた。

「ねえ宮代君。この辺に魔法具落ちてなかった?」

 落ちてはいた……落ちてはいたけど……。

「そ……それがさあ……」

 俺はみんな苦労したのに、魔法具を持って行かれた事に申し訳なくなって、後頭部を掻きながら視線を離して、今あった事を藤宮に説明することにした。

「俺が少女になる時に」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く