俺が少女になる時に

山外大河

5 魔法少女――降臨?

 全然楽しいイベントじゃねえよ! 最悪だよ!

「もたもたしてないで早くしなさいよ」

 不機嫌そうに藤宮がそう言う。
 不機嫌なのはコッチだ!

「早くしろって言われてもよ……やっぱちょっと……」

 そうやって躊躇う俺に、村上さんが近寄ってきて、ポンと右肩に手を乗せる。

「宮代君。男には……人生の中で、乗り越えなくちゃならない関門が、何かしら有るものなんですよ」

「乗り越えなくちゃいけない関門が女装な俺の人生って一体なに!」

「ブームが過ぎ去った後の、ダン○ィ坂野の芸能人生のようなもんじゃない?」

「酷いな俺の人生!」

「いや、でもダンディは一発屋だけど一発は当てたから。何も当ててない宮代君よりはよっぽどいいと思うわ」

 本当に酷い言われ様だなチクショウ……って、オイ。

「松本さん、なんでカメラなんか構えているんですか!」

 俺の女装写真を取ってどうするつもりなんだこの人!
「YOUTUBEにアップする」

「動画なんだ!」

 ますますタチ悪いぞオイ。

「コラ、駄目でしょ松本さん」

「藤宮……ッ」

 思わぬ助け船に、俺はそんな声を漏らした。
 てっきり乗っかると思っていたから……まさか藤宮から助け舟が出るとは思ってなかった。
 でも……ありがたい! やっぱり、なんだかんだでいい奴なのかもしれない

「そんな物投稿したら、精霊や魔装具の事が世間に露見しちゃうでしょ」

「注意することそこなんだ!」

 まあその辺も重要なんだろうけども!

「せめて俺の肖像権の事も考慮しようよ」

「いや、私、宮代君の肖像権がどうなろうと知ったこっちゃ無いし」

「鬼だ! ここに鬼がいる!」

 一瞬でも、藤宮をいい奴だと思った俺が馬鹿だった……ッ!

「ああ、女装なんてしたくねえ……ッ」

「さっきから宮代君、女装女装言ってるけど、別に女装する訳じゃないから安心しなさい」

「あ? でも男なのに魔法少女って、女装以外の何者でもねーだろ」

「そうね、確かに男のままで魔法少女何かになったら、宮代君が言うとおり女装以外の何者でもないわ。でも、それは男だからでしょ? それさえクリアしたら立派な魔法少女よ」

「えーっと、藤宮。お前は何が言いたいんだ」

「鈍いわね。少し考えれば分かるでしょ? アンタが女の子になればいいのよ」

「なれるかあああああああああああああッ!」

 心の底からそう叫んだ。
 もうコレほどまでに心の底から出てきた叫びなんてのは無い。

「は? なに、訳分かんねーよ! モロッコに行けってか!」

「何言ってんのよ。そんな訳無いでしょ」

 で、ですよねー。流石にこれはジョークだよねー。

「モロッコへの旅費は誰が払うっての」

「そういうこと言ってんじゃねえよ俺は!」

 分かんねえ。本気で藤宮の言っている事が分かんねえ。

「……仕方ないわ。ちゃんと説明するわよ」

 と、呆れた様子でため息を付いてからそう言う。
 何故呆れられなきゃならないんだ。

「えーっとね。その魔装具を使うと、使用者は魔法少女になれるの。その際に使用者の身を、様々な魔術で武装させる」

「それと、俺が女になるのと、どういう関係があるんだよ」

「ったく……人の話は最後まで聞きなさいよ」

 藤宮がため息を付いた。
 だって仕方ねえだろ? 気になってしょうがねーんだから。
 藤宮は俺に呆れるような素振りを見せながら、説明を続ける。

「で、その魔術武装の一つに、使用者を女の子にする魔術があるの。これで理解した?」

「つまり……俺が変身すると同時に、俺は女になるって事か」

「そういうこと。凄いでしょ」

 藤宮がドヤ顔でそう言う。
 ってなんでお前がドヤ顔すんだよ。作ったのミホちゃんだろ?

「にしてもなんでもありだな……魔法具しかり魔装具しかり。で、これで女になって、ちゃんと男に戻れるんだろうな?」

「その辺は保障するわ。大丈夫よ」

「そ、そうか……分かった」

 とりあえずそれを聞いて安心だ。戻れなくなったら洒落にならない。

「で、ここまで説明させたんだから、勿論やるんでしょうね」

「説明してなくても無理やりやらせていただろうが……ったく、分かったよ。やるよ!」

 俺が半ばやけくそ気味でそう言うと、

「よし、みんなーッ。宮代君の説得終わったよー」

 と、随分と軽いノリで周りのみんなに報告する。

「……こっちも撮影準備が終わった」

「ああ、それは勘弁してもらえませんかね」

 俺がそう訴えるも、松本さんは両手でバッテンを作り、それを拒否する。チクショウ、社会的に死ぬぞ俺!

「うまく取れたらダビングしてくれよ」

「あ、私もお願いします!」

「……五百円」

 折村さんと中村さんは松本さんと商談してるし、村上さんと雨宮さんも止める気配は無い。

「あ、私欲しいわ。それ使って脅せば宮代君を簡単にコントロール出来そうだし」

「やっぱお前鬼だな!」

「あ、流石にこれは冗談よ。私もそこまで外道じゃないわ」

「前にも言ったが、お前が言うと本当にしか聞えねえんだよ!」

 宮藤なら本当にやりかねねえよ。

「で、どうやったらこの魔装具を使えるんだ?」

「魔装具を持って、起動と念じるだけ。簡単よ」

「本当に簡単だな……」

 まあ簡単に越した事は無いが。

「じゃあそろそろ始めましょうか」

 そう言って藤宮は、俺から二メートル程距離を取る。

「じゃあ私がカウントするから、ゼロになったら念じなさい」

「分かった。ゼロになったらだな」

 そうすれば俺は女の子になるのか……なんか複雑な気分だ。

「じゃあカウント始めるわよ」

 心拍数が高まるのが分かる。
 流石に緊張してきた。

「三……二……一……ゼロ!」

 起動!
 俺は魔装具を握り、そして念じた。
 魔装具が光り輝いたのが分かる。

「これが……魔装具……」

 俺の体を光りが包んでいく。
 そしてその光が全身を包みきった時、

「グハァ……ッ!」

 突如全身を襲った痛みに、俺の口からそんな声が漏れ出す。
 軽い爆発音と共に小爆発が発生し、俺はよく分からない声を上げながら後方に吹き飛ばされたのだ。

「い……今……爆発が……」

 痛みをこらえながら全身を見て見るが、俺は男のままだった。
 これじゃあ起動っつーより、起爆じゃねえか。

「宮代君! 大丈夫!?」

 藤宮が一目散に駆け寄ってきた。

「あ、ああ……なんとか……大丈夫」

 助かったのは多分この強化制服という奴のおかげだと思う。
 殆ど傷が無い。
 あるのは軽い焦げ跡位だ。

「で、これはどういうことだよ藤宮。変身するどころか爆発したぞ」

 俺は、俺が落とした魔装具を拾って眺めている藤宮にそう叫んだ。

「多分……調整ミス」

「え? 俺、調整ミスで死にかけたの?」

 俺がそう言うと、藤宮が若干だが表情を曇らせる

「あ……うん。……ごめんなさい」

 そう言う藤宮は、なんというか、今までの暴君っぷりからすると考えられない程、反省の色を浮かべていた。俺は結構、テレビの謝罪会見なんかを信用できない達なんだが、そんな俺でも心から反省していると伝わってくる様な感じだった。

「……なんかお前が謝ると調子狂うな」

「本当に……ごめんなさい」

 なんというか……本当に調子が狂う。どうした今までの暴君っぷりは。

「もういいよ……なんかお前が謝っているってことは、相当反省してるんだと思うからさ」

 俺は、そんな今まで見てきた様子と百八十度違う藤宮を見ながら、大きなため息を付いた。

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