俺が少女になる時に

山外大河

1 目が覚めると謎の組織

 今週は俺の人生の中で、もっとも波乱に満ちた一週間だった。
 一週間前。母さんが早くに亡くなったため、現在中三の妹である佳奈が作る事になっている晩飯を、俺と佳奈、そして親父の三人で頂いていた時の話だ。

「ああ、父さん来週からアメリカ行くから」

「「はぁ!?」」

 俺と佳奈は、ほぼ同時にそう叫んだ。
 何を思ったのか、休みの日に竜巻旋風脚の練習を始めたりした事を始め、いろいろと無茶苦茶な親父だったのは十六年も育てられてきた過程で知っていたが、流石に許容範囲外だった。
 そんな訳で俺達は親父の実家に預けられる事になった訳だが、この時点で嫌な予感はしていた。
 無茶苦茶な親父の親父がまともな人じゃないのは、過去数回の里帰りで立証済みだ。
 案の定、預けられた次の日に石油を掘る旅なんて馬鹿な行動に乗り出してしまった訳だ。
 老後は好きな事をして暮らすのをモットーにしているらしいが、いくらなんでも好き放題しすぎではないだろうか。
 一体この時代のどこで石油を掘るつもりだよ……しかもつるはしで。
 ちなみに、流石にこれはマズいというわけで、佳奈と全力で止めた訳だが、『宮代の男は、常に波乱と隣り合わせじゃ』とか言いながら行ってしまった。
 精々他国の軍隊に撃ち殺されない様に頑張ってほしい。
 というか、宮代の男は常に波乱と隣り合わせと言っていたが、それはアンタら二代だけではなかろうか。俺を巻き込まないで欲しい……と言いたい所だが、どうやらじいちゃんの話は間違っていないようだった。
 俺も随分と波乱に満ちた漫画の様な展開に巻き込まれたもんだ。
 そんなわけで、現在俺は三途の川にプカプカと浮かびながらの川下りの真っ最中。
 三途の川は、岸から岸まで泳ぐ様なものだと思っていたが、どうやら違うみたいだ。
 川の上流から下流まで流れて行く様な感じになっている。
 体は金縛りでほとんど動かない。なんというか、本当に浮かんでいるだけだ。
 ちなみに何故こんな状況で、この一週間の日々を振り返っていたかと言うと、処刑執行までの時間が、あまりにも長すぎる為である。

「ぎゃああああああああああああああああああああああッ!」

 野太い男の叫び声が響く。どうやらまた一人、執行されたらしい。
 三途の川の行きつく先は岸ではなく……滝だった。
 人思いにさっさと落としてくれればいいのに、川の流れは異常な程に緩い。
 精神的に来るよ、コレ。

「ああ、俺が死んだら……佳奈は泣いてくれるかな」

 きっと泣いてくれ……いや、どうだろう。
 昨日不可抗力とはいえ、着替えを覗くと言うイベントを起しちまったもんなぁ。
 すげえキレた顔で、死ね! って怒鳴られたし。
 妹に死ねとか言われるのって相当辛いよ。
 なんか……軽く死にたくなってきた。

「うぎゃあああああああああああああああああああああああッ!」

 ごめん、死にたいとか言ってたけど嘘! 無理無理無理、滝は無理だわ!
 こんな悲鳴聞いてると、恐怖感増すわ!

「どうすんの! 俺本当に死んじゃうぞ!」

「おわああああああああああああッ!」

 俺の前を流れていた人が落ちて行った。そろそろ俺もすぐにああなるだろう。

「マズイな。早めに見積もって、あと三十秒くら……ぶおはぁッ!」
 落下までの時間を計算していると、俺の体を、水中から現れた無数の手がつかみ、水の中に沈ませ始めた。

「ぶわぁ、ぶわぁんぶわぁぼぼれッ!」

 なんか分からないけど、溺れる! どうなってんだコレ!
 何も分からないまま息が苦しくなって、俺の視界は再びブラックアウトした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「おわっ!」

 よく分からない声を上げながらベッドから体を起した。
 俺を掴んでいた無数の手はもう無い。そして俺が居る所は三途の川ではなくなっていた。
 まさか今見ていたのって……夢?
 死の窮地に立たされていると、あんな夢を見るのかよ……心臓に悪い。

「ってかここは……どこだ? なんか保健室みた……ってうおぁ!」

 俺の膝を枕にして寝ている、腰にポーチを付けた小学校低学年くらいの女の子の存在に気が付き、そんな声を上げてしまった。
 いかん、落ちつけ。状況が飲み込めない時は、深呼吸をして落ちつくのが一番だ。
 という訳で深呼吸……よし、とりあえず落ち着いてきた。

「にしても……なんで俺、生きてるんだ?」

 俺の血で真っ赤に染まった制服を捲り、抉られた腹を確認してみるが、傷一つ残っちゃいない。完全に治癒している。
 さっきのは夢だった様だけど、実際に三途の川を渡ってもおかしくない状態だったはずだ。
 どう考えても治せる怪我ではなかったはず。それなのになんで……。

「良かった……目が覚めた様ね」

 部屋の扉が開く音と共に、聞き覚えのある声が聞えた。

「ふ、藤宮!」

「その様子だともう大丈夫みたいね。本当に良かったわ」

 そう言いながら藤宮は、俺が横たわっていたベッドに歩み寄る。

「な、なんでお前がここに?」

 ここが何処かは分からないが、とりあえずそんな事を聞いた。

「なんでって、此処が私達のアジトだからに決まってるじゃない。ちなみにここは医務室ね」

 当然の様にそういう藤宮。

「決まってるじゃないって……知るかよそんなこと。大体なんだアジトって。秘密基地みたいなもんか?」

 此処が医務室だと言う事しか分からなかった俺は、そんな例えを提示した。

「そんな子供の遊びと一緒にしないでよ。遊びじゃなくてギルドよギルド。理解した?」

「今の説明で理解できた奴がいたら、俺はそいつを褒め称えたい」

「あら、ちゃんといたわよ」

「いたの!?」

「なんか『よく分かんねーけど面白そうって事は分かった』ってガッツポーズで言ってたわ」

「それ何一つ分かってないからな!」

「そんな彼がギルトに加入した所、モテ期到来で金運もアップしました」

「なんで怪しい通販番組みたいになってんだよ! さっさと本題に入れよ、本題に!」

 俺がそういうと、露骨に嫌な顔をする藤宮。

「えー、今から体験者のコメントコーナーだったのに」

「本格的に通販番組じゃねーかよ」

 俺が呆れてそんな返しをしていると、勢いよく扉が開いた。

「ギルトに入ってからの僕はまるで生まれ変わったようでした」

 と、怪しい通販の購入者のようなコメントをしながら一人の青年が入ってきた。

「今まで振り向きもしなかった女の子達が、僕を囲むようになり――」

「あ、折村君! コメントやんなくていいって!」

「え、マジかよ! ……結構楽しく原稿書いてたってのに」

 藤宮に止められ、不満そうに退室する折村という人。

「じゃ、茶番も済んだ事だし、本題入りましょうか」

「茶番だって認めてたんだ!」

 その割にはさっきの人、真剣そうだったけど!?
 そういう事なら、こんな事せずにさっさと本題に入って欲しかった……さっきの人の為にも。

「何から話したらいいかな……じゃあまず私達ギルドの事についての説明ね」

 藤宮はコホンと喉を鳴らす。

「じゃあまず最初に、私達の周りには精霊が沢山居るって事は知ってるわね」

「いや知らねーよ!? なんで知ってて当たり前みたいな言い方するの!」

「なに? まさか習ってないの? これだからゆとりは……」

「お前もそのゆとり世代の一人だからな!」

 何世代なら習ってんだよ、その謎知識!

「まあいいわ。精霊っていうのはゲームとかに出てくるような奴って認識しておいて」

「え、そんなアバウトな解釈でいいのか?」

「いいわけ無いでしょ。アンタこの業界なめてんの?」

「お前が説明しといて何だよそれ! じゃあちゃんと説明しろよ、説明!」

「いいけど、大体六時間程掛るわよ?」

「……アバウトなままでいいです」

 流石にそれは勘弁してほしいので食い下がった。

「じゃあ続けるわよ」

 そう言って藤宮は、ようやく本題に入ってくれる。

「人間の住む世界と精霊の住む霊界とは、通常は行き来できない。でも暴走した精霊は、その理を無視してこちらの世界にやってくるわ」

「ちょっと待てよ。こっちの世界にやってくるって、お前さっき俺達の周りに精霊が沢山いるって言ってたよな。話が違うぞ」

「別に嘘は言っていない。精霊が居るのはここの並行世界。座標的には周りに沢山いるわ」

 それって周りに沢山としてカウントしていいのだろうか。

「で、その暴走精霊ってなんなんだ。あの時もそんな事を言ってたな」

「暴走精霊っていうのは、文字通り暴走しちゃった精霊の事をいうわ。アンタを襲ったのも暴走精霊ね」

 あの猫が……精霊? まあ普通の生き物ではないとは思っていたが。

「精霊は負の感情を受け入れやすいのよ。こっちの世界から流れ込んだ負の感情が精霊に蓄積され、暴走する。その暴走精霊を止めるのが私達ギルドよ」

「なるほど……マジで漫画みてえだな」

「まあ大体みんなそんな事を言うわね」

 そりゃそうだろうな。

「で、藤宮。俺ってその暴走精霊って奴にやられたんだよな」

「そうよ。現代医学じゃ手の施しようが無いって位にね」

「じゃあなんで俺は生きてるんだ? 手の施しようが無かったんだろ?」

「それは現代医学ならって話でしょ」

 そう言って、まだ眠っている少女のポーチを開ける藤宮。

「お、おい。いいのかよ」

「いいのよ」

 そう言って取りだしたのは、手に収まるサイズの青い宝石の様な物。

「それは?」

「魔法具。暴走精霊が死んだり、我に帰って霊界に帰っていく際に落としていく魔法の道具よ」

「魔法の道具? えーっと、具体的にどんな感じの物なんだ? 魔法の道具っていう位だから、使うと魔法が使えたりすんのか?」

「そうね。例えるなら、ドラ○エで炎の爪を使うとメ○ミが出るみたいな感じね」

「随分と具体的な例だなオイ」

 懐かしいな炎の爪。ムド○戦ではお世話になりました。

「じゃあその魔法具ってのを使って、俺の傷を治したのか?」

「そういうこと。まあ炎の爪とかと違って使い捨てだから、一回使って壊れちゃったけど。結構貴重なのに」

 貴重な物……ね。
 そんな物を使ってまで、自分の頼みを断った相手を助けるなんて……結構いい奴だな、藤宮。

「ありがとな……ちょっとお前の事見直したよ」

「どうしたのよ、改まって」

「お前が助けてくれなかったら、俺は死んでた訳だしな。あの暴走精霊も、お前が何とかしてくれたんだろ?」

「……ええ。下級精霊だったから、あの後余裕で撃退したわ」

 何故か少々躊躇って、藤宮はそう言う。

「まあ、宮代君を無傷で助けられなかったのは……素直に謝るわ」

「謝る必要なんかねえよ……こうして無傷で生きてるわけだし」

 あんなのを一人でなんとかしちまうなんて、マジですげえよ。

「そう言ってくれると助かるわ。今後はあんな事にならない様に、もっと気を引き締めるわ」

「おう、頑張れ」

「アンタもこれから暴走精霊と戦っていくんだから、気を引き締めなさいよ」

「ああ……って……は?」

 なんか今とんでもない事を言われた気がする。

「わ、悪い、よく聞こえなかった。もう一回頼む」

「だから、アンタもこれからギルドの一員になるんだから、気を引き締めろって言ってんの」

 俺が……ギルドに?

「ど、どういうことだよソレ! 俺にあんなのと戦えってか!」

「そうよ。魔法少女になって暴走精霊と戦うの。あの時言ってたでしょ?」

「ならねえし戦わねえよ! 大体なんで俺が既にギルドに加入する流れになってんの! 俺は暴走精霊となんか戦わねえからな!」

 感情的になり叫ぶ俺に、藤宮はクスリと笑って、俺に問う。

「あら。じゃあどうやって一億円も返すのかしら」

 ……身に覚えの無い金額の返済方法を。

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