ダークエルフさん、俺の家で和まないでください! ~俺はガチャを回しただけなのに~

巫夏希

プロローグ 未知との遭遇、ただし「未知」は現実世界にもう馴染んでいるものとする

 スマートフォンゲーム『クイズと魔法のリアライズ』。
 クイズで剣と魔法を使い世界の平和を守るという、まあいかにも最近の流行り的なスマートフォンゲームである。
 体力の回復、デッキゲージの拡張、ガチャ。そのすべてを『クリスタル』というゲーム内通貨で実施する。中でも最後に言った『ガチャ』。こいつはかなり厄介だ。ガチャの種類が豊富にあることもこのゲームの特徴だといえるだろう。
 そして俺、佐藤エイジもまたそのガチャをやろうとしていた。
 先ほども言った通り、このゲームはガチャの種類が豊富である。クリスタルを消費しない、一日一回無料ですることのできるノーマルガチャ、クリスタルを一個消費してしまうがノーマルよりかは珍しいものが出るラインナップのレアガチャ、クリスタル五個消費だがレアガチャよりさらにすごいラインナップのスーパーレアガチャ、クリスタル十個消費でさらにすごいものが出るハイパーレアガチャがある。それに追加して期間限定のものもあるが、それについては割愛しよう。話すと長くなる。
 ノーマルは無視して、レア・スーパーレア・ハイパーレアのいずれかとなる。イベント前ということもあるしできることならクリスタルの消費は避けておきたいところだが、しかしイベントに備えて強力なカードをそろえておくこともまた事実。だから俺はハイパーレアガチャを回そうとした――ところで、何か妙なものに気づいた。
 それはハイパーレアガチャの上にある、ただ文字のリンクしかない不思議なもの。
 『リアライズガチャ』。そう書かれていただけで、あとに説明も書かれていない。
 なんだろう、とても気になる。何が気になるって、クリスタルの消費量だ。まさか百個くらい一気に持っていかれるんじゃあるまいな。だとしたら運営に怒りのデスロード決め込んじゃうぞ。
 そんな冗談を言いつつも、俺はリアライズガチャのリンクを手でタップした。
 ……今思えば、それがこんなことになるなんて、思いもしなかったのだが。
 普段通りのガチャの演出。そして、そこから出てきたのは――ダークエルフの剣士だった。別段珍しいものでもない。というかはっきり言っていう程レアでもない。スーパーレアガチャで頑張れば手に入るレベルのレア度だ。

「……なんだ。普通のガチャだったか。で、いくつ消費しているかな……って、え? 一個だけ? なんだ、このガチャ。運営がいろいろと間違えた試作品的なやつだったのか、これ?」

 まあ、でももし一個でスーパーレアガチャ相当のものが出来るなら有難い。運営が気づく前にやるだけやっておいたほうがいい。そう思って俺はもう一度そのリンクをタップした。
 だが、リンクは反応しなかった。

「……まさか一度きりか、これ?」

 俺はそんな予感を感じ取って若干後悔していた。
 が。
 俺はすぐにそのガチャによる違和感に気づいた。
 俺の布団に誰かが寝ている。

「……おい、誰だよアンタ」

 俺がガチャにいそしんでいる間に誰かが侵入してきたってことか? まあ、そういうことになるかもしれない。どちらにせよこの人間には退散してもらわねば。今のうちだぞ、今ならまだ警察には連絡しないでやる。そう思って俺は布団を引っぺがす。
 そこにいたのは――ダークエルフだった。
 尖った耳に、銀髪。浅黒い肌に鎧と剣。いかにも寝にくそうな恰好をしていたが、いや、今はそんなことはどうでもいい。
 問題はそのダークエルフがゲームのカードと一緒だったということだ。コスプレでもここまで再現できないだろう。
 ……というか、何でここにダークエルフが?

「……寒い」

 ダークエルフはそう言って、呆気に取られていた俺から布団を奪い返し、そのまま自分にかけた。

「いや、そういう問題じゃねえだろ!」

 俺は再び布団を引っぺがす。

「なんだよ、寒いんだ。寝かしてくれ」
「寒いんだ、じゃねえよ。俺は全然納得できねえっての。しかもどんだけあんたここになじんでいるんですか!? あんた、ダークエルフだろ?」


 ――こうして俺とダークエルフの口論が始まった。


 ちなみにダークエルフが布団から出てくるのは、これから十分後のこととなる。

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