ロジカリスト(白)

巫夏希

2日目C 考察一(後編)

「まずは、これを見てくれ」

 そう言ってケイリーはパソコンを僕に見せた。画面には今までの相関図が描かれていた。今のあいだになんて仕事の早さだろう。

「……それで、これから考えるに、まだ情報が足りなすぎることが解った」
「だろうね。だって、あのことが起きたばかりだ。そう簡単に話すこともないだろう。なにしろ、警戒もされているだろうし」

 僕は『凡人』だからね、というのは付け足さないでおく。
 案外、ケイリーはそういうのを気にしてしまう。僕は凡人なんかじゃない、と言ってくれる時がある。嬉しいけれど、とてもじゃないけど、ケイリーたちには適わないし、二度と適うこともないのだと思う。
 ケイリーはさっきからパソコンに夢中になっている。画面を見ると、何か調べている様子だった。どうせ、今回の事件に関することなのだろうが、それでも、僕にはよく解らない。探偵のケイリーに任せることにしよう。
 しばらくして、ケイリーはパソコンの画面から離れて息をついた。どうやら、ひと段落ついたらしい。

「できたのかい?」

 訊ねると、「まあまあ」と返った。どうやら、芳しくないらしい。

「……そうか。出来れば、少しは役立つのだろうけれど」
「そうだね」

 そう言ってケイリーは先程縣さんに作ってもらった特製水筒を開ける。確認はしている。中身は麦茶だ。

「ああ、美味しい」

 一口飲んで、思わずケイリーは口に出す。けれど、そんな変わらないと思うのだけれどなあ。

「ケイリー、美味しい?」
「ああ。麦茶ってのは本当に沁みるものだと思うよ。特にこんなに暑い日だと。水分補給はきちんと行わねばね」

 この部屋はパソコンを使うのもあって、冷房が利いているというのは突っ込まなくてもいいのだろう。
 ともかく、こんなことをしている場合じゃないのは、僕にだって理解できた。
 第一の殺人が起きてしまったのだ。
 犯人を、探さねばならない。
 かくいう僕も凡人ではあるのだが、ともかくそれを悪いと思ったことはない。かくして、僕は凡人たる所以を知っているからこそ、凡人であるのかもしれない。恐らく、彼女や、天才と呼ばれる人間は天才たる所以を知っているからこそ、天才であるということにも、僕は考えられるのだ。
 つまりは、僕が僕であって、ケイリーがケイリーである所以は、それ自身の存在でしか解り得なかったし、それは自明であることも僕は知っている。
 さりとて、僕が僕らしい生き方を送ってしまうのもどうかと思うし、どうかと知れる。生きてる意味はほんとうにこれであっているのか、正しいのかもしらないし、生きているのは、本当にほんとうなのかも解りはしない。
果たして、僕は僕なのか?
 思うことは――ないだろうか。僕は常に思ってしまうし、思うこともある。分かりたくもないし、けれども、いつかは対面せねばならない議題であることにはかわりないのだ。

「……ひとまず、ではあるが、完成したってのもあるし。次に行動を起こそう。ただし、私が探偵だとばれてしまえば元も子もないがね」
「それはそうだけれど……どういう行動を起こすつもりだい、ケイリー?」
「間違ってはいないけれど、間違いたくもない行為さ。間違ってしまったら、私はこの世から消えてしまうことには間違いないだろうし、間違っていること自体が間違っている可能性だって充分に吟味出来る」
「何を言っているかわからないし、そもそも目的を言っていないよね」
「ああ、そうだったね。とりあえず、結論だけを述べるのも、なんというかつまらないよね、って思ってさ」
「別につまらなくはないだろう。さっさと話せばいいんじゃないか」
「果たしてどうだろうね」

 ケイリーが考えていることは、やっぱり解らないし、いつになっても解ることはないのだろう。解るのだとすれば、それはもともと『天才』といえる立場の人間であろうし、僕みたいな凡人には解ることもない。そもそも、凡人と天才が分かれているのは、こういう自意識の高さも考慮されているのではないか、と思うときすらある。

「……それで、だね」
「うん」

 おっと、忘れていた。
 それで、ケイリーの結論とは、なんなのだろう。

「――それは」

 ケイリーがそれを言う、ちょうど、その時だった。

「キャ――――!」

 階下から、悲鳴が聞こえた。あれはきっと……縣さんの声に違いない!

「行くよ、ケイリー」
「解った!」

 こうして、僕らは大急ぎで部屋の外に出た。

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