ロジカリスト(白)
1日目C 戸塚つぼみの場合
「……あなた、ケイリーって言うんだっけ?」
「そうだけど」
彼女は、沙織は、ケイリーっていうニックネームが一般化していて自己紹介をするときでさえ自らをケイリーと呼ぶ。なんでか知らないけど。
「……鬼才というか天才というかそういうカテゴリーに入らなさそうな人ではあるけど、いったい君はどういう存在かな?」
「それは私じゃなくて、こっちの方じゃない」
ケイリーは僕を指差して、言った。パーカーの少女は僕の方に視線を変えて――じろじろと眺めていく。
「ははあ。そうだ。君は、どちらかといえばケイリーや私のような存在ではないね?」
「ええ、まあ」
僕はケイリーの付き人できただけに過ぎないから。
「でも……君はどちらかといえば、私のような感じを秘めている気がするね。鬼才……でも天才でもない、ダイヤの原石のような存在だ」
「何を言っているかさっぱり」
「そうか」
彼女は首を傾げた。
「それを知っているのは他でもない君自身であると思うが……まだ自覚してないようだ。まあ、それもいいだろう。生き方は人それぞれだ。私が選ぶ生き方もあれば、君の選ぶ生き方だってある。千万の通りがあるんだから」
「……ぐーすか」
ケイリーが寝ちゃったよ。
話がつまらなかったわけじゃないけど、すこしつまらなかったみたいだ。
「じゃあ……僕はこれで」
「ああ。時間を取らせてしまって、すまなかったな」
そう言って、彼女は踵を返して歩いていった。
「……ちょっと待った。一つだけ、聞きたいことがある」
しかし、直ぐに立ち止まり僕の方に振り返った。ケイリーはもう僕の背中で気持ちよく眠っている。全てを任せているから、さっきより若干重い。
「なんですか。……出来れば、手短に」
「そうだな。ならば単刀直入に聞こう。……彼女は探偵役だろう?」
「なぜそんなことを? そうだとしたら、どうするんです?」
僕がそれを訊ねると、彼女はすこし考えて言った。
「……いや、別にそうではない。だがな、この探偵犯人ゲーム、――“そう簡単には終わらない”と思うぞ」
「そう簡単には終わらない?」
「なに、忠告だ」
そう言って、彼女は今度こそ去っていった。
「そう言えば、名前言ってなかったけど誰だったんだろ……」
「……むにゃ、戸塚つぼみ、だって」
「なんだ、ケイリー起きてたのか」
起きてたならさっさと自分の部屋まで歩いてくれればいいのに。
「無駄な運動はしたくない。頭の演算に支障を来すから」
「そうかもしれないけどさ……階段を二人分の体重で昇る僕の身にもなってくれよ」
「……そうだったね。ごめん」
「おっ、やっと謝ってくれた」
「だけど、歩くことはしないよ。いいじゃないか、すぐそこだし」
だからこそ歩いて欲しいんだけどなあ。
そんなことはぐっと心にしまい込んで、やっと僕らは自分の部屋へと戻ってきた。ケイリーはというと、ベッドに横たわらせたらそのまま動かなくなったので、寝てしまったのだろう。僕も後を追うように隣に寝転がり、目を瞑った。
寝ようとしても、眠気が無ければ案外眠れないものだ。眠気ってのは脳が疲れた信号を送っているからであって、つまり僕は脳をまだ疲れるほど使っていないのだ、と思うと少しため息が出た。
今日あったことを、整理してみる。
まず、オーナーは結局初日に姿を現さなかったこと。
次に、探偵犯人ゲームの開始合図が明確にならなかったこと。
次に、戸塚つぼみという謎の少女。特に最後が気になる。
当てずっぽうではないと思う。何故彼女はケイリーが探偵役であることを知っていたのか。まさか、部屋に入ったわけでもないだろうし。
「……明日、考えれば解るか……」
それだけを言って、僕はベッド脇の照明を消した。
「そうだけど」
彼女は、沙織は、ケイリーっていうニックネームが一般化していて自己紹介をするときでさえ自らをケイリーと呼ぶ。なんでか知らないけど。
「……鬼才というか天才というかそういうカテゴリーに入らなさそうな人ではあるけど、いったい君はどういう存在かな?」
「それは私じゃなくて、こっちの方じゃない」
ケイリーは僕を指差して、言った。パーカーの少女は僕の方に視線を変えて――じろじろと眺めていく。
「ははあ。そうだ。君は、どちらかといえばケイリーや私のような存在ではないね?」
「ええ、まあ」
僕はケイリーの付き人できただけに過ぎないから。
「でも……君はどちらかといえば、私のような感じを秘めている気がするね。鬼才……でも天才でもない、ダイヤの原石のような存在だ」
「何を言っているかさっぱり」
「そうか」
彼女は首を傾げた。
「それを知っているのは他でもない君自身であると思うが……まだ自覚してないようだ。まあ、それもいいだろう。生き方は人それぞれだ。私が選ぶ生き方もあれば、君の選ぶ生き方だってある。千万の通りがあるんだから」
「……ぐーすか」
ケイリーが寝ちゃったよ。
話がつまらなかったわけじゃないけど、すこしつまらなかったみたいだ。
「じゃあ……僕はこれで」
「ああ。時間を取らせてしまって、すまなかったな」
そう言って、彼女は踵を返して歩いていった。
「……ちょっと待った。一つだけ、聞きたいことがある」
しかし、直ぐに立ち止まり僕の方に振り返った。ケイリーはもう僕の背中で気持ちよく眠っている。全てを任せているから、さっきより若干重い。
「なんですか。……出来れば、手短に」
「そうだな。ならば単刀直入に聞こう。……彼女は探偵役だろう?」
「なぜそんなことを? そうだとしたら、どうするんです?」
僕がそれを訊ねると、彼女はすこし考えて言った。
「……いや、別にそうではない。だがな、この探偵犯人ゲーム、――“そう簡単には終わらない”と思うぞ」
「そう簡単には終わらない?」
「なに、忠告だ」
そう言って、彼女は今度こそ去っていった。
「そう言えば、名前言ってなかったけど誰だったんだろ……」
「……むにゃ、戸塚つぼみ、だって」
「なんだ、ケイリー起きてたのか」
起きてたならさっさと自分の部屋まで歩いてくれればいいのに。
「無駄な運動はしたくない。頭の演算に支障を来すから」
「そうかもしれないけどさ……階段を二人分の体重で昇る僕の身にもなってくれよ」
「……そうだったね。ごめん」
「おっ、やっと謝ってくれた」
「だけど、歩くことはしないよ。いいじゃないか、すぐそこだし」
だからこそ歩いて欲しいんだけどなあ。
そんなことはぐっと心にしまい込んで、やっと僕らは自分の部屋へと戻ってきた。ケイリーはというと、ベッドに横たわらせたらそのまま動かなくなったので、寝てしまったのだろう。僕も後を追うように隣に寝転がり、目を瞑った。
寝ようとしても、眠気が無ければ案外眠れないものだ。眠気ってのは脳が疲れた信号を送っているからであって、つまり僕は脳をまだ疲れるほど使っていないのだ、と思うと少しため息が出た。
今日あったことを、整理してみる。
まず、オーナーは結局初日に姿を現さなかったこと。
次に、探偵犯人ゲームの開始合図が明確にならなかったこと。
次に、戸塚つぼみという謎の少女。特に最後が気になる。
当てずっぽうではないと思う。何故彼女はケイリーが探偵役であることを知っていたのか。まさか、部屋に入ったわけでもないだろうし。
「……明日、考えれば解るか……」
それだけを言って、僕はベッド脇の照明を消した。
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