桜舞う丘の上で2nd Season

りょう

第90話 感謝の気持ちをこめて

        第90話 感謝の気持ちをこめて

1
「おい結心、そろそろ焼きあがったか?」
「はい」
「じゃあ持って来てくれ」
「はい」
僕は残り少ない時間の中で、二人のために何をしようかと考えた結果、パン屋の手伝いだった。桜が亡くなってから一切手伝えてなかったというのもあるけど、今できる事といえばこれくらいだと思ったからだ。

「ふぅ」
「お疲れ様結心さん。お茶でもどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
朝から働いて一時間半が経ち、ようやく休憩。夏海さんが出してくれたお茶を飲みながら一息ついていると、秋久さんがぼくの横に腰掛けた。
「昼にはここを発つんだよな?」
「はい」
「いつこっちに戻ってくるんだ?」
「今のところ一回忌には戻ってくる予定です」
「そうか…」
寂しそうに呟く秋久さん。
「秋久さん?」
「桜が居なくなって、お前が居なくなるとなるとやっぱり寂しくなるよな…」
「居なくなるって、僕はただまた戻ってきますよ?」
「桜はもう戻ってこないだろうが」
「あ…」
「お前は戻ってくるかもしれないど、あいつはもう戻ってこねえんだよ…どんなに願ったってあいつは……」
とんだ失言をしてしまった。
大切な娘を失った二人は、僕以上に辛いはずなのに、何て軽はずみな発言をしてしまったのだろう。そう、桜はもう戻ってこないんだ。死んだ人間は二度と戻ってくるはずがないんだ。なのに、なのに僕は…。
(まだ心の中では桜の死を受け入れられてないんだ僕は…)
何て馬鹿なんだろう…。
2
そんな辛い気持ちが晴れるよりも先に時間は経ってしまい、もう港に向かわなければならなくなってしまった。
「秋久さん、夏海さん、今までお世話になりました」
「元気でな」
「結心さん、必ず帰ってきてくださいね」
「はい」
店の外で二人に挨拶をする。
一年前、この場所で僕は宮崎家に迎えられた。最初はおかしな家族だなと思ったけど、同じ時を過ごしていく中で、二人がいかに家族を大切にしているかが分かった。血が繋がっていないのにも関わらず、二人は桜を一生懸命に育ててきた。それは僕にも伝わってきたし、二人は桜と同じように僕と接してくれた。一人の家族として…。それがとても嬉しくて嬉しくて…。二人には感謝しきれない程だった。こんな僕を一年間も引き取ってくれた二人には本当に感謝しきれない。だから僕は…。
「行ってきます」
色々な意味をこめて、『行ってきます』と笑顔で二人に言って歩き出した。
               第91話  サヨナラのかわりに へ続く

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