桜舞う丘の上で2nd Season

りょう

第89話 幸せな時間

         第89話 幸せな時間

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無事昼食の危機を回避した後、僕とゆりは島中のありとあらゆる場所を一緒に回った。時間があるわけでも無いので、全部とまではいかなかったけれど、それでも僕達は限られた時間の中で、幸せな時間を過ごした。
「はぁ、やっぱりここはいい景色だね」
「うん」
そんな時間もすぎていき夕方。あの桜の木がある丘にやって来た僕達は、その木の下で腰をおろして夕焼け空を眺めていた。
「ねえゆーちゃん」
「何?」
「本当に引っ越しちゃうの?」
「うん」
「私がどんなに言っても?」
「うん」
自分の意志を変えるつもりはない。引っ越しの準備が完了しているというのもあるけど、一度決めたことは貫き通したいというのもある。だから、誰が何を言おうと…。
「ゆーちゃんはやっぱり間違ってるよ」
「え?」
「だって自分が好きだった人と一緒に過ごした場所から離れようとしているじゃない。ここでの思い出を全部捨てて、新しい生活を始めようとするなんて、間違ってる」
「思い出を全部捨てようなんてしてない。僕はただ過去の過ちを償いたいだけなんだよ。勿論桜やゆりの事は絶対に忘れない。だからゆり、僕を許してほしい…」
彼女の前で頭を下げる。認めてもらえなくてもいい。でも自分の思いだけは分かってもらいたい。
それから数分の時が流れ…。
「じゃあさゆーちゃん、一つだけ約束してほしいんだけど」
ゆりが口を開いた。僕はまだ頭を下げている。
「約束?」
「いつかまた、桜島に戻ってきた時は私と…」
「ゆりと?」
「また今日みたいにデートしてほしいな」
「勿論いいよ。それだけで許してくれるなら」
「じゃあ…いいよ。桜島から離れて。もう一度桜島に戻ってくれるって、約束できるなら」
「ゆり…」
「その代わり、お土産忘れないでね」
「勿論忘れないよ。忘れるとゆりはうるさいもんね」
「そ、そんな事ないよ」
「この前もうるさかったくせに」
「あ、あれは…」
僕達はずっと笑っていた。本当は別れは辛いのに、それを我慢してずっと笑っていた。寂しい事を感じないように、とにかく笑って、残り少ない時間を過ごしていった。

そして二日後、出発の朝を迎える。一年過ごしてきた桜島をついに離れる日がやってきてしまった。
「本当に行くんですね結心さん」
「はい」
「ったく、勝手な奴だよなお前は」
「いくらでも言ってください」
朝食を取りながら夏美さん達と会話をする。出発はお昼。まだ時間はある。最後ぐらい、この二人に何かしなければ…。
朝食を済ませた後、すぐに僕は行動にうつることにした。
             第90話 感謝の気持ちをこめて へ続く

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