桜舞う丘の上で2nd Season

りょう

第80話 私達が居るよ

        第80話 私達が居るよ

光を浴びても覚めない
こんな悪夢から覚めない
どうして?
どうして?
「どうして目が覚めないんだよ! 悪夢なら目が覚めてよ!」
途端に涙が大量にこぼれる。
これが夢じゃない?
何で?
どうして?
「ゆーちゃん、これは夢じゃないですよ。これは現実なんですよ!」
「嘘だ!  これは夢なんだ!」
「嘘じゃないよ結心君! 桜さんはもう居ないの!」
「いるよ桜は! 死んでなんかいない!」
僕は必死に拒み続ける。こんなのが現実? 桜が居ないのが現実? そんな訳がない。桜は生きているんだ。あの時だって…。
『ゆーちゃん、ありがとう』
あの丘の上で華麗に咲く桜の木を見ながら、彼女は笑顔でありがとうって言ってくれた。その後部屋に戻って…。
あれ? 何かが違う。
彼女と桜を見ながら?
違う、桜はあの華麗に咲く桜の木を見れていない。
笑顔でありがとうって言ってくれた?
あの時は僕が桜を背負っていたから、その表情は見れなかった。
それにそれを言ったのは、階段を登っている時にひっそり言ったんだ。
それでその後に…。
「……桜は何にも喋らなくなったんだ……」
「ゆーちゃん?」
「僕は異変に気付けなかったんだ……桜がもう息をしていなかった事にも……」
頭が混乱してきた。もしかして今まで僕が考えていた事は妄想?
桜が生きていると勝手に思い込んで作り上げた勝手な想像。
本当は桜は…。
「桜は……」
「まだ生きているって言うのかお前は!」
「桜は……死んだんだ……僕の目の前で……」
「結心、お前……」
「僕は何をやっていたんだろう……勝手に生きているって思い込んで……桜はもう居ないのに……」
何て馬鹿なんだ僕は…。
桜を失った事から逃げて、皆に迷惑かけて。結局何にも変われてないじゃないか。
溢れ出る涙を止める事が出来なかった。桜の事を思い出しては泣いて、自分の情けなさに泣いて。
「僕はどうすればいいの? 桜が居ない世界なんて…」
一人嘆くそんな僕を、
「ゆーちゃん」
ゆりは優しく抱きしめてくれた。
暖かい…。
「ゆ…り…?」
「私達が居るよ…」
「…え?」
「どんなに苦しい時でも、悲しい時でも私達が居る……だから…」
この時初めてゆりが敬語で喋らなくなった。その理由は分からないけど、何か変化があったのかもしれない。
「これからも頑張ろうよゆーちゃん」
「そうだぜ結心」
「頑張ろう結心君」
「皆…」
僕はこの日、ずっと溜まり続けていた涙を、ゆりの暖かい腕の中で流し続けた。
                       第81話 暖かい輪の中で へ続く

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