桜舞う丘の上で2nd Season

りょう

第76話 夜桜、雪に混じりて舞う

 第76話 夜桜、雪に混じりて舞う

1
その移動中。
「ねえゆーちゃん、一つ聞いていい?」
「ん?」
「ゆーちゃんはこの先私に何があっても、この桜島に居てくれる?」
桜があまりに唐突すぎる質問をしてきた。
「それはどういう意味?」
「あのね私…」
急に桜が黙る。しばらく待ってもその続きをしゃべらない。
「桜、どうしたの?」
しかし返事がこない。
「桜!」
体を揺らして、反応を伺う。それから少しした後、桜の寝息聞こえてきた。
「まさか…寝ちゃった?」
どうやら桜は移動している間に眠くなってしまったらしい。まあ、着いたら起こせばいいか…。
(それにしても…)
さっき桜は何かを言いかけた。それが引っかかって、頭から離れない。
(この先何があっても…か)
それはどういう意味なのだろうか。彼女はこの先自分に何か起こるのか分かって、そう言ったのだろうか?
それはつまり死んだらという意味で捉えられる。
(さっき怒ったばかりなのに…)
僕は胸に不安を抱えたまま、あの丘を目指した。
2
それから十分後、目的地である丘の麓まで来ていた。あとはこの階段を登るだけ。
(この先に桜が…)
咲いているという確証はない。でもきっと、桜が言っていた通り咲いていてくれる。伝説は伝説でも、可能性は零ではない。
(よし、行こう)
桜を背負いながら階段を上がって行く。本当は辛いのだが、彼女はもう歩けないほどまで弱ってしまっている。
「……う、ゆー…ちゃん?」
しばらく階段を登ってると、移動中眠っていた桜がようやく目を覚ました。
「桜起きた?」
「うん…ここは…丘?」
「うん、もうすぐ着くから待ってて」
「分かった…」
一歩一歩しっかりとした足取りで、確実に上がって行く。その道中、桜が突然こんな事を言った。
「ねえゆーちゃん…」
「何?」
「ありがとう…」
「え?」
それは感謝の言葉。
突然の感謝の言葉にちょっぴり恥ずかしくなる僕。
(それはこっちのセリフなのになぁ)

照れを隠すために、黙って僕を階段を登り続ける。
そして、残り数段になった所で、
「うぐっ…」
急に背中が重くなった。どうしてだろうか? 桜は何にも喋らないし、僕の気のせいだろうか?
「とりあえず登りきろう…」
僕は残りの数段を駆け上がり、丘の上に到着した。
3
登り切った先にあったのは、
「うわっ、すごっ!」
雪景色の中で華麗に舞う桜の花びらと、桜の木だった。それはすごく幻想的な光景で、僕は一瞬にして心を奪われてしまった。その光景を一番見たがっていた桜に見せるために、また眠ってしまった桜を起こすが、
「ほら桜、これが言っていた桜だよ」
返事がない。
体を揺さぶっても反応がない。
彼女は目を閉じていた。
肩にかかっていた手がぶら下がっていた。
先ほどまで耳に聞こえていた彼女の息も聞こえない。
「桜?」
そして心臓の音も聞こえなくなっていた。
                   第77話 愛、その腕の中で へ続く

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