クリフエッジシリーズ第一部:「士官候補生コリングウッド」

愛山雄町

第十五話

 宇宙暦SE四五一二年十月二十三日 標準時間一一時〇五分

<ゾンファ軍クーロンベース司令部・主制御室内>

 一一〇五
 ゾンファ軍クーロンベースの主制御室MCRでは、人工知能AIの警告と警報音、各ブロックからの悲鳴のような報告が飛び交い、修羅場と化していた。その状況に司令のカオ・ルーリン准将は成すすべが無く、ただ立ち尽くすのみだった。僅か十分前にはあれほどあった余裕は、既にどこにもない。

 アルビオン軍スループ艦ブルーベル34号の攻撃は攻撃した側が思っている以上の損害をクーロンベースに与えていた。
 初弾でドック入口ゲートが損傷し、損傷したゲートの一部がドック内を破壊していった。
 味方の通商破壊艦P-331がクーロンベースを出港する際にもかなりの被害を出しており、それに輪をかける形でドックが破壊されていく。そして、ベース全体にもその影響が波及していった。
 彼が立ち尽くしている間も、ベース全体で継続的に空気が漏れる状況が続いていた。

 オペレータたちは必死に作業員たちに指示を出し、放棄すべきブロックと確保すべきブロックを選別しているが、指揮を執る司令が呆けており、各自の判断で行うしかない。
 このため、MCRとパワープラントPP付近の極狭い範囲のみ、減圧が食い止められている状況であり、大量に空気を失ったベースは空気残量が危険なレベルになっていた。

 ここで冷静な指揮者がいれば、空気の漏出防止と切り離された隔離エリアの空気の回収、再循環系への酸素供給方法の検討などを指示するのだが、その指示を出すべきカオ司令にはその意思も能力もなかった。
 絶望が支配し始めたMCRではオペレータたちが悲鳴のような声で、自らの生存本能に従い、思いつく限り――正しいかどうか別にして――の指示を次々と出していく。
 彼らは顔から表情が抜け落ち、呆然とした表情で立ち尽くすカオ司令を一瞥することすらしなかった。

 そんな混乱の中、P-331の臨時の艦長、グァン・フェン艦長から通信が入る。
 喧騒と混乱が支配するMCR内に一瞬秩序が戻り、彼の報告を聞くため、MCR内に静寂が戻った。
 彼は呆然と立ち尽くすカオ司令を無視し、自艦の損傷を報告していく。
 その中に、超光速航行機関FTLDに重大な損傷があり、ジャンプ航行ができないとの報告があり、MCR内に一気に絶望が広がった。
 そもそも、彼らの脱出するすべはP-331しかなかった。
 本来であればドック内での修理という選択肢もあったが、敵によりFTLD調整設備が破壊されており、修理は不可能だ。ベースが健全ならここに篭って不用意な商船が近づくのを待つと言う選択肢もあったが、設備の損傷が激しく、長期間に亘る駐留は不可能な状況だった。
 これで彼らが自力で助かる見込みはすべて無くなってしまった。

「本艦は若干の問題があるものの戦闘継続に支障なし。これより敵スループ艦を撃滅する」

 グァン・フェンはそう宣言すると通信を一方的に切り、MCR内は絶望と諦観に支配され、重苦しい空気に包まれていった。
 必死に声を荒げて対応していたオペレータたちもすでに声は無く、無言でシートにへたり込んでいる。
 彼らの中にはベース所属の汎用艇を発進させて潜入部隊を殲滅させることを思いつく者もいたが、降伏できる可能性があるなら、敵を刺激しない方がいいと司令に進言しなかった。
 だが、その気遣いもグァン艦長が放った「敵スループ艦を沈める」という一言に意味を成さないようにも思えていた。

 静かになったMCRでは、全員の憎悪がまだ立ち尽くしているカオ司令に向かうが、既に何も聞こえていなさそうな彼を罵倒するほどの気力を持ったものはいなかった。


 カオ・ルーリンは喧騒渦巻くMCRの中にいながら、彼の耳には何も聞こえていなかった。部下たちの報告と指示を求める声、AIの警報メッセージ、それらは唯の騒音として彼の頭は処理していた。

(夢だ、夢なんだ……この私が、軍の上級士官養成コースを優秀な成績で修了した私が、こんな辺境の拠点ベースにいること自体が間違っている……それならば、こんな状況に陥っていることも間違いに違いない……は、ははは……)

 彼は司令席のシートに座り込むと静かに笑い始めていた。

(そうだ、夢なら、間違いならリセットすればいい。こんなベースがあるからおかしなことになっているんだ。なら、無くしてしまえばいい……そしてもう一度やり直そう。そう、軍事委員会の委員も慎重に選びなおして、最も出世しそうな人、そうだな、リー委員がいいな。彼に何か手土産を持って取り入ろう。うん、いい考えだ。そう、私はいつだって一番いい方法を思いつくんだ……)

 誰にも相手にされなくなったカオ司令は、自分の目の前にある司令用コンソールをいじり始めていた。



<ゾンファ軍通商破壊艦P-331・戦闘指揮所内>

 一一一〇
 クーロンベースのMCRに一方的に報告を行った通商破壊艦P-331の艦長代行グァン・フェンは、敵スループ艦への攻撃を継続させたまま、緊急対策班からの詳細報告を待っていた。
 しばらくすると甲板長のチャン・ウェンテェンから想像以上に酷い損害状況が報告されていく。

「……右舷防御スクリーンは修理不能。いつ止まってもおかしくありません。……主砲はエネルギー集束コイルの損傷が激しく、出力を三十%以上にすると加速コイルを損傷し使えなくなります。……超光速航行機関FTLDも応急修理不能。まともなのは主推進装置NSDくらいなもんです」

 グァン艦長は苦い顔を隠せず、「了解した」とだけ答える。
 そして、軍医に通信を入れ、「ワン艦長の容態はどうだ?」と確認する。

「先ほど意識が戻られました。ですが、まだ絶対安静であるため状況報告はしていません」

 その言葉にグァン・フェンは喜び、「すぐに艦長に代わってくれ」と命じていた。軍医は絶対安静と言って抗議するが、

「今の状況はそれを許さんのだよ、先生。艦長もこの状況を気にされるはずだから、すぐに代わってくれ、これは命令だ」

 軍医は渋々、ワン艦長に通信を繋いだ。
 ワン・リーは血色の悪い顔でベッドに横たわっている。肺に肋骨が刺さったようでうまく声が出せないようだ。

「ふ、副長、状況は、ゴボ、状況を説明してくれ。て、敵は……」

 その姿を見て、強引に話をさせたことを後悔するが、グァン・フェンはワン・リーが意識を失ってからの状況を説明していった。
 それに対し、ワン艦長は、

「すぐに撤退しろ! 敵は味方を拾えばすぐに引上げる。……ゲホ、ゲホ……敵が引上げてから燃料だけ何とか補給すれば、ウッ、燃料だけ補給できれば生き延びられる……生きていれば状況はどう転ぶか判らん……グ、グァン・フェン、は、早まるな……早まるなよ……」

 最後は気力が切れたのか呻くような感じになっていた。
 グァン・フェンは敬礼した後、通信を切り、敵スループの状況を確認する。

「敵の状況は。ダメージは与えられたか」

「敵は健在。こちらに向けて加速中。三百秒後に相対速度最小、二千秒後に最接近と予想……攻撃は何度か命中していますが、主砲の出力を抑えたためと集束率が下がっているため、この距離ではスクリーンで防がれています。幸い敵からの攻撃は途絶えています」

(敵の主砲も損傷しているのか? それともリアクターに異常か? クソッ! 艦長はああ言われるが、この状況下で敵を逃がすのはどうにも我慢ならんな……クーロンで待っていれば敵は勝手に近づいてきてくれる……)

 彼は艦長の言葉に従おうか、自らの心に忠実であろうか悩んだ後、決断した。

「攻撃止め! 敵を十分引き付けてから攻撃を掛ける。なあに敵はこっちに向かってくる用事があるんだ。ゆっくり待っていてやろうじゃないか。索敵士、敵の搭載艇を見失うなよ。大事な囮だからな」

 彼は努めて陽気に部下たちに語りかけ、敵が接近してくるのを待つことにした。



<アルビオン軍ブルーベル34号搭載艇アウル1・操縦室内>

 一一〇五
 アルビオン軍スループ艦ブルーベル34号搭載艇アウル1の操縦室内では二人の若者が、自分たちのふね、ブルーベルが最大加速で遠ざかっていくのを見ていた。
 自分たちは見捨てられたのではないかとサミュエル・ラングフォード候補生は思ったが、口には出さず、操縦に集中している。
 隣にいる一年後輩のクリフォード・コリングウッド候補生が、

「ブルーベルが一旦・・引くようだね。僕たちも自分の仕事に専念しよう」

 彼が明るくそう言うと、サミュエルは「一旦」という言葉を強調した意味を尋ねてきた。

「どうして、一旦・・だと思うんだ? この状況なら潜入部隊全員を置き去りにしても仕方ない状況だろう?」

「ああ、確かにね。でも、ブルーベルが遠ざかるのは敵艦を無力化できなかったからだと思うんだ。だとすれば、ブルーベルが攻撃を受ける番になる。四百m級の通商破壊艦の主砲に撃たれればデイジー(フラワー級スループ艦デイジー27号:偽装した通商破壊艦に破壊された僚艦。第三話参照)の二の舞だよ。だから、一旦距離を取ってから相対速度を上げて霍乱するしかないと思うんだ」

 クリフォードはサミュエルの不安を感じ、いつも以上に饒舌に説明していった。
 彼の考えが妥当だと判断したサミュエルは、

「了解。クリフ、ニコール中尉に通信を入れてくれ。十分以内に着地できると」

 クリフォードは頷き、潜入部隊の次席指揮官ナディア・ニコール中尉に連絡を入れるため、通信機を操作し始める。

(サムにはああ言ったけど、本当は戻って来ざるを得ないだけだ。ブルーベルの後部スクリーンは薄い。ある程度加速が終わっていれば向きを変えて慣性航行で逃げることが出来るけど、今の速度では敵に後ろを見せるしかない。それなら、敵から少し離れられた今、向きを変えて正面から加速し、一気に抜けていくしかないんだ。……そうなれば、僕たちは置き去りにされる……)

 彼にはもう一つ懸念があった。

(敵の通商破壊艦からアウルは丸見えになる。この距離でミサイルを数発撃ち込まれるか、後部砲塔から撃たれれば対応のしようが無い。敵が小物を無視するか、”餌”として見逃してくれるかに期待しないといけないんだ……)

 そこまで考えた彼も気付いていないことがあった。
 敵の小型艇が一隻であるという保証がないことを。ブルーベルが離脱した今、小型艇がもう一隻あればアウルは絶体絶命の状況に陥る。幸い、クーロンベースの主制御室が混乱しており、小型艇が出てこないだけだ。
 このように潜入部隊もまだ薄氷を踏み続けていることに違いは無かった。

「こちら、アウル1。ニコール中尉、応答願います」

「こちらニコール。ミスター・コリングウッド、無事のようね。あとどれくらいかしら?」

 いつものようなのんびりとした口調の声に少し力が抜けるが、

「あと十分ほどで到着します。まだ、地表は細かいちりが消えていないので高度を取って停止することになりそうです。準備をお願いします」

「了解。クリフォード、専用回線を開きなさい」

 彼女はのんびりとした口調でそう命じると、すぐに指揮官用の専用回線を開く。

「状況を教えて! ブルーベルが攻撃したのは判ったわ。敵が出てきたの?」

 彼は素早くニコール中尉に状況を説明していく。

「そう、それじゃ、まだかなり危険ね……ブルーベルに今送っているデータを転送しなさい」

 彼は何のことかと思い、アウルに送信されてくるデータを確認する。
 詳細は判らないが、どうやら敵ベースのシステムから情報を盗み出したもののようだった。
 彼はあのいつも眠そうな”のんびり屋カームリィ・ナディア”が行ったことに驚いていた。

(中尉もああ見えて抜け目が無いな。認識を改めないと……)

了解しました、中尉アイ・アイ・マム」と答えて、ブルーベルにデータを転送し始めた。


 一一一五
 アウル1はニコール中尉たちが待つ地点アルファに到着した。
 サミュエルが人工知能AIの補助をほとんど受けずに、上空十mの位置にアウルを静止させる。
 後部ハッチを開放すると、すぐに掌帆手のガイ・フォックス三等兵曹が命綱を手にアウルに飛び込んできた。

「ミスター・ラングフォード、ウインチを使います。姿勢制御をよろしく!」と言って後部ハッチにあるウインチで負傷者たちを吊り上げていく。
 五分後、全員の収容を終え、負傷者の固縛を確認したニコール中尉が操縦席に入ってきた。

「二人ともご苦労様。さて、これからどうすべきかしらね」

 彼女は状況をより把握している候補生二人に意見を求める。
 先任であるサミュエルが先に口を開くと、「クリフ、君の意見を言ってくれ」といってクリフォードに考えを説明させる。
 その状況を見たニコール中尉は、目を見開き驚いていた。

(あら、いつの間に仲良くなったのかしら? 何にせよ、いいことだわ。無事に帰れさえすればね)

 意見を求められたクリフォードは、

「この場所は敵通商破壊艦から丸見えです。すぐにAZ-258877の陰に逃げ込むべきです」

「陰に隠れるだけでいいのかしら? ここにいてもブルーベルには帰れないわよ」

 ニコール中尉の疑問に対し、サミュエルが答えていく。

「今、ブルーベルに向かったとしてもランデブーは無理です。相対速度が大きすぎます。……それにブルーベルに近づく前に敵艦がアウルを攻撃してくるでしょう」

「そうね。私たちにできることは……うーん、なさそうね。せめて艦長の邪魔をしないようにおとなしく隠れていることくらいかしら……」

 彼女はアウル1の副操縦席に座り、二人の候補生に、

「ミスター・ラングフォード、アウルを小惑星の陰にゆっくり持っていって。ミスター・コリングウッド、ブルーベルへの回線を開いて」

 アウル1は小惑星AZ-258877の陰に向け、姿勢制御装置だけでゆっくりと流れていく。



<アルビオン軍スループ艦ブルーベル34号・戦闘指揮所内>

 一一一〇
 アルビオン軍スループ艦ブルーベル34号は敵通商破壊艦からの攻撃を受け続けていた。敵の主砲の出力は想定される最大のものの四分の一以下とかなり低く、二百m級のコルベット並の出力しかない。このため、ブルーベルの防御スクリーンでも何とか対応できている状況だった。
 戦闘指揮所CIC内は敵の攻撃が命中するたびに微かに床が振動し、人工知能AIの警告メッセージが流れていく。一方的に敵からの攻撃を受けるという状況に、ブルーベルの乗組員たちに徐々にストレスが溜まっていく。
 その時、情報士のフィラーナ・クイン中尉の明るい声が響く。

「アウル1より通信が入りました。アウルは無事です! 五分後に潜入部隊を回収するとのことです!」

 エルマー・マイヤーズ艦長は感情を表に出さず、

「了解、中尉。二人にご苦労だったと伝えてくれ」

「了解しました、艦長アイ・アイ・サー! アウルからデータが送信されてきました……敵ベースの情報のようです」

 艦長は目を見開き、

「クイン中尉、君の部下にその情報を解析させてくれ。……よくやってくれた……」

 最後は呟くような声だった。

 突然敵の攻撃が止み、CICに静けさが戻る。
 その状況に疑問を感じた戦術士のオルガ・ロートン大尉は、

「どういうことでしょうか? 敵の主砲が故障したのでしょうか?」

と誰に言うでもなく、呟いていた。

「主砲は死んでいないはずだ。何らかのトラブルを抱えていることは間違いないが、罠の可能性も否定できない……AZ-258877への再接近時間はあとどのくらいだ?」

 艦長の言葉に航法担当下士官から、

「約千三百秒です」

 最大加速で敵に艦首を向けつつ、相対速度を維持しながら機動するため、かなり複雑な軌道を描いている。
 最終接近速度は〇・一光速以上と小惑星帯を抜けるには非常に危険な速度ではあるが、敵をかわせれば、百秒程度で敵の射程から脱出できる。

(敵を撃破できればアウルを拾いに戻れる。失敗してもブルーベルは脱出できる……あとは敵の出方次第か……)

「オルガ、カロネードの発射パターンを検討しておいてくれ。カロネードで敵艦を沈める」

 彼がそういうとロートン大尉は驚き、

「カロネードの散弾では敵のスクリーンは突破できませんが?……あっ、判りました。敵のスクリーンの弱ったところに当てる。これですね」

 彼は頷き、「主砲は囮に使う。相対速度が上がっているはずだから、散弾の威力も高い。敵に悟られないようなうまい方法を考えてほしい」

 ロートン大尉は目を輝かせて「了解しました、艦長アイ・アイ・サー!」と答え、すぐに自らのコンソールを操作し始めた。



<ゾンファ軍通商破壊艦P-331・戦闘指揮所内>

 一一一五
 ゾンファ軍通商破壊艦P-331の戦闘指揮所内では、メインスクリーンに敵スループ艦がこちらに接近してくる様子が映っている。
 ちょうど相対速度がゼロになり、これからこちらに向かって突き進んでくるはずだ。
 艦長代行のグァン・フェンは敵への攻撃のタイミングを最接近するときに決めていた。

(主砲の集束率が落ちているのが痛いな。ユリンファントムミサイルと合わせて攻撃すれば敵も対応できないのだろうが、敵は相対速度を緩めるつもりがあるのか? 俺なら少々危険でも加速を続けて突っ込んでいく。味方を拾うつもりが無ければだが……)

 彼は敵の動きを読みきれていない。
 P-331を沈めるだけの武装は敵艦には無い。クーロンに潜入した部隊を拾うなら、減速する必要があるが、長時間の攻撃を受けるだけの防御力はない。

(いまいち、敵の目的が判らんな。どうもこういう”待ち”の作戦は性に合わん)

 彼は敵の搭載艇のことを思い出し、「敵の搭載艇の様子はどうだ?」と索敵士に尋ねる。

「クーロンベース上空で停止中。味方を収容しているものと思われます」

(逃がすのも癪だが、餌が無くなるのも困るな。もう少し様子を見るか)

 彼は「了解」とだけ答え、具体的な指示は出さなかった。


 一一二〇
 敵スループ艦が加速を停止する予想時刻になったが、敵の加速は依然続いていた。

「敵スループ艦、依然六kG加速を継続中。このペースで加速を続ければ六百秒後に最接近します」

 戦術担当士官からの報告を受け、グァン・フェンは敵の意図がP-331の撃破にあると悟った。

(どうやら雌雄を決するつもりのようだな。なら、敵の搭載艇を破壊しても問題ないだろう)

 そう考えた彼は、「敵搭載艇を攻撃する。艦尾砲で沈めてしまえ」と命じるが、戦術担当士官から、

「敵搭載艇、クーロンベースの陰に入ったため、艦尾砲では攻撃できません」

と言う答えが返ってくる。
 彼は索敵士に対して、「何をしていた! 敵の位置が変わったのなら報告せんか!」と思わず怒鳴ってしまった。
 索敵士は申し訳無さそうに、

「申し訳ありません。加速して逃げたわけでもなかったので、報告しませんでした」

 グァン・フェンは具体的な指示を出さなかった自分に非があると認め、怒鳴ったことを後悔していた。彼は軽く手を挙げ、無理やり笑顔を作ってから、

「いや、いい。すまん。搭載艇が逃げ出したら報告してくれ」

(どうも感情的になってしまったな。スループさえ沈めれば搭載艇など瑣末な話だった。ここは敵スループに集中すべきだ……)

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品