クリフエッジシリーズ第一部:「士官候補生コリングウッド」

愛山雄町

第十一話

 宇宙暦SE四五一二年十月二十三日 標準時間〇九時四〇分

<アルビオン軍アルファ隊・ドック外通路>

 〇九四〇

 クリフォード・コリングウッド候補生に率いられたアルビオン軍潜入部隊の本隊アルファ隊は、通商破壊艦の鎮座するドックから通路に撤退した。
 脱出に使用したエアロックから、ベース内へ潜入するために使った点検通路までは、移動距離にして百m程度だった。
 既にパワープラントPP行き通路から撤退したナディア・ニコール中尉率いる別働隊ブラボー隊は、点検通路横の保守エリアに到着していた。
 クリフォードは銃撃により意識を失った指揮官ブランドン・デンゼル大尉に代わり、アルファ隊の指揮を執っている。デンゼル大尉はセシル・バトラー一等技術兵とジェニファー・キーオン二等技術兵に運ばせ、クリフォードは自ら先頭に立ち、通路を進んでいた。

 ドックの外周にある通路から保守点検エリアに向かう通路への分岐点に到着する。その直後、ドックを迂回してきたベースの守備隊らしき敵に遭遇してしまった。
 敵との距離はまだ百mほどあるが、ブラボー隊がいる保守エリアまではまだ五十mほどあり、実用本位の通路には遮へいとなる物はない。
 更に敵を制圧できるグレネードや爆薬も使い尽くし、敵を防ぐ武器はブラスターライフルしか無かった。このような状態で、強引に通路を進めば、多大な損害が予想された。
 彼はアルファ隊の指揮官として一つの決断をする。

「フォックス(ガイ・フォックス三等兵曹)、アルファ隊全員を率いてブラボー隊に合流しろ。私がここで援護する。全力で進め!」

 フォックス兵曹が「しかし……」というが、クリフォードはその言葉を遮り、「時間が無い。命令だ!」と叫ぶ。そして、フォックスの返答を聞くことなく、十字路の角から狙撃を開始した。
 そして、ブラスターライフルを撃ちながら、思い出したかのようにこう付け加えた。

「ああ、ブラスターライフルを三丁ほど置いていってほしい」

 そして、更に「ニコール中尉にエアロック破壊とエリア一斉隔離信号の話をしておいてくれ」と狙撃を続けながら、フォックスに指示を出していった。

 フォックスは「はい、上官イェッサー」と答え、短く敬礼した後、アルファ隊とともに銃弾の飛び交う通路に突入していった。
 クリフォードは“上官サー”はいらないと思ったが、口に出す余裕は無く、十人ほどいる敵兵を釘づけにするため、狙撃から乱射に切り替えた。

(脱出に使う通路まで五十m以上。エアロック破壊とシャッターの閉止にどのくらいの時間差があるんだろう? 船外活動防護服ハードシェルのパワーアシストを使っても十秒はかかる……後ろから撃たれれば……これは詰んだかな?)

 彼は生き残る方策を考えるが、思いつかない。
 使っていたブラスターライフルのエネルギーが切れる度に、置いてある予備のライフルを手に取り、フォックスたちの援護を切らさないようにしていた。
 フォックスたちが逃げた方に目をやると、ちょうど全員が保守エリアに入ったところだった。その直後、ブラボー隊のニコール中尉から通信が入る。

「こちらブラボーリーダー、アルファツー聞こえる!」というニコール中尉の声が聞こえてきた。

「こちらアルファツー、聞こえています! 私に構わず逃げてください! ドック側のエアロックを早く破壊しないと爆薬を処理されるかもしれません! 早く!」と叫ぶ。

「いいから聞きなさい! 今から十秒間援護射撃を行います。そちらから見て右側を狙って射撃しますから、左側を全速で進みなさい! カウントダウン、五、四、……」

 彼は「中尉!」と叫んだ後、援護は不要と続けようとしたが、すでに保守エリアから味方の兵士五名が現れ、援護射撃を開始していた。
 彼は中尉の命令に従うことを即断し、運を天に任せて通路に飛び出す。

 その直後、ハードシェルの横を前後からブラスターの白い光の矢が飛び交った。
 背後から来る飛んでくるビームが頭のすぐ横を通り過ぎていく。
 彼は聞こえないはずの風切り音を聞き、髪の毛が燃える臭いを嗅いだような気がしていた。

 半分ほど進んだところで彼の左肩に敵の放ったビームが突き刺さった。
 衝撃と痛みにバランスを崩すが、

(クソッ! 諦めるにはまだ早い!)

 彼はハードシェルのアシスト機能と自らの運動神経をフルに生かし、何とか転倒を堪え、更に通路を進んでいく。

 長い十秒間が過ぎ、ブラボー隊のいる保守エリアに近づいた。
 その時には敵の攻撃は援護射撃を続けるブラボー隊にも加えられており、ハードシェルに何度かビームが掠めたが、何とか保守エリアに頭から突っ込むことができた。

 彼はすぐに自分の状態を確認する。

(ハードシェルの空気漏えい率リークレートは……検出限界以下NDか。ジェットパックも異常なしグリーン。生命維持装置……すべて異常なしオールグリーンか。肩は痛いが、運が良かったな……)

 命中したブラスターのビームはハードシェルの外殻を貫通せず、怪我は打撲のみで、ハードシェルの機能に異常はなかった。

「中尉、ありがとうございました」と礼を言うが、ニコール中尉は彼に構わず、全員に向かって命令を下していた。

「撤退します。フォックス、エアロックの爆破を! 全員、敵の銃撃は無視して通路に飛び込みなさい!」

 フォックスが「はい、中尉イエス、マム」と答え、すぐにカウントダウンを開始する。彼のカウントダウンがゼロになったところで遠くから爆発音が響き、通路内に緊急閉鎖を知らせる自動放送が流れ始めた。

「ドック常用エアロック損傷! 与圧区域減圧中! エリア一斉隔離信号AIS発信! 全与圧エリア非常用隔壁扉及び緊急用シャッター閉鎖! エリア一斉隔離信号AIS発信……」という人工知能AIの中性的な音声が響いている。

 アルビオン軍潜入部隊はすぐに保守エリアから飛び出し、点検用通路に次々と飛び込んで行く。
 敵兵もこの状況に一瞬戸惑いを見せ、攻撃の手を緩めてしまった。だが、通路に飛び出してきたクリフォードらを見つけると、再び激しい攻撃を加えて始める。
 アルビオン軍潜入部隊の何人かに命中するが、損害状況を確認することなく、強引に奥に進んでいった。彼らの後ろでは緊急用シャッターがゆっくりと閉じ始め、それと共に敵の攻撃は徐々に弱まっていった。

「ミスター・ラングフォード、被害状況を確認して」と疲れ切った声でニコール中尉がサミュエル・ラングフォード候補生に命じる。

 一分後、ラングフォードから、「負傷者十名、行動可能な人員は六名、ハードシェルはいずれも応急処置済みです。ですが、今の攻撃でリードが戦死しました」と答える。

「結局九名も戦死……判ったわ、すぐに外に出ましょう」と苦悩を一瞬だけ露にしたが、すぐに次の行動を命じていた。



<ゾンファ軍通商破壊艦P-331派遣部隊・ドック外周通路内>

 〇九四〇

 ゾンファ軍通商破壊艦P-331の甲板長チャン・ウェンテェンに率いられた別働隊はドックの侵入したアルビオン軍を殲滅するため、ドックの常用エアロックに向かっていた。
 彼らが使う非常用エアロックと目的地の常用エアロックはドックの円筒状の対角にあり、移動距離は約五百mにも及ぶ。
 彼らはエアロックの開閉時間ももどかしく、与圧された通路に出るとすぐに走り出した。

 五分後、常用エアロックからドック外周通路に出てくる敵を見つける。
 チャンは獰猛な笑みを浮かべながら、吠えるように射撃を命じた。

「全員、近くの遮へい物を確保したら撃ちまくれ! 生きて返すなよ!」

 彼は下士官上がりの叩き上げだが、それほど好戦的な性格ではない。だが、部下たちを鼓舞するため、そして主制御室MCRで聞いているであろう司令、カオ・ルーリン准将に聞かせるため、あえて好戦的な軍人を演じていた。

(奴らを釘付けにできれば、艦長が後ろから回り込める。幸い負傷者を運んでいるようだから、動くことはできまい……)

 彼の予想はすぐに裏切られる。
 ドック内にいた狙撃兵が間断なく銃撃を加え、身を乗り出しすぎた不用意なこちらの兵を確実に撃ち倒していく。
 二人が倒されたところで、味方の兵たちが一瞬怯んだ。そのため、加えていた銃撃が僅かに弱まってしまった。
 次の瞬間、敵兵たちは一気に飛び出し、勢いよく通路を押し進んでいった。

「逃がすな! 撃ちまくれ!」とチャンは必死に叫ぶが、その間にもまた一人狙撃兵の餌食になった。
 敵が通路を進む三十秒の間に、何発かは命中したが、百m以上の距離と狙撃兵の存在が味方の命中精度を下げ、有効な射撃とは言い難かった。

(まあいい。艦長の命令も「兵を無駄にするな」だった。狙撃兵に撃たれた兵も致命傷では無さそうだし、奥に逃げた敵を抑えることに専念すべきだろうな)

 そこまで考え、唯一人通路に残り反撃を続ける敵兵を見た。

(だが、あの狙撃兵だけは逃がしたくないな。奴のおかげでうちの乗組員が何人も怪我をさせられた。艦長が出てくるまで釘付けにすれば始末できるだろう)

「あの狙撃兵は逃がすなよ。奥に行った奴らの動きも見逃すな」と部下たちに命令した。

 彼がワン・リー艦長がすぐにでも合流するだろうと考えたとき、百五十m先の保守エリアに逃げ込んでいたはずの敵兵たちが、突然激しい攻撃を開始する。
 そして、くだんの狙撃兵が通路に飛び出していく姿が見えた。

 彼が命令するまでも無く、部下たちは味方に損害を与え続けた狙撃兵に向けて、銃撃を加えていく。だが、敵からの攻撃が激しく、なかなか命中しない。
 一度だけ、狙撃兵の左肩に命中したが、転倒することなく走り続けている。

「狙撃兵だけに拘るな! 反撃してくる敵にも銃撃を加えろ!」

 彼はここに至り、敵の戦力を少しでも低下させるため、敵の負傷者を増やすことを考えた。しかし、距離が遠いことが災いし、有効な損害が与えられたという確証は得られなかった。
 彼は指揮官であるワン艦長に指示を仰ぐため、通信回線を開く。

「ワン艦長、聞こえますか。敵はH点検通路の保守エリアに逃げ込みました。指示をお願いします」

 すぐにワン艦長から指示が届く。

「敵の反撃に注意しながら、できるだけ前進しろ。ようやく常用エアロックが使えそうだ。あと二分で……」

 突然、艦長からの通信が切れ、ベースの床にドーンという衝撃が響く。

「ドック常用エアロック損傷! 与圧区域減圧中! エリア一斉隔離信号AIS発信!……」というAIの中性的な音声が響いていた。

 彼は焦りながら、「ワン艦長、ご無事ですか! 応答願います!」と叫んでいた。
 その時、敵兵たちが次々とH点検通路に逃げ込む姿が目に入った。

「全員、通路に出て奴らを撃ち殺せ! 艦長がやられた! かたきを討て!……」

 彼はそう叫びながら通路に出ると、銃撃を加えながら敵兵に向かっていく。
 一瞬遅れるが、部下たちも同様に走りながら銃撃を加えていった。

 一人の敵兵の背中をビームが貫く。その敵兵はもんどりを打つようにして、その場に倒れていった。
 更に二人の敵兵にもビームが命中し、通路に転がるが、すぐに仲間が手を貸し、脇目も振らず通路を逃げていく。

 チャンはそれでも有効弾が出始め、更に敵にダメージを与えられると思った。だが、無情にも点検通路の入口にある重々しい緊急用シャッターが降り始める。シャッターが完全に閉まると、チャン甲板長たちは敵に逃げられた悔しさから、口々に悪態をついていた。

 チャン甲板長はMCRに「敵兵がH点検通路に逃げ込んだ! 緊急用シャッターを開放してくれ!」と怒鳴る。
 MCRからは、「AIS信号リセットに時間が掛かります。五分待ってください」という緊迫感の欠けた答えが返ってきた。

 彼はその声に脱力し、「了解した」と答えた後、ワン艦長たちの状況を確認する。

「ワン艦長はどうなった? P-331は?」

「ワン艦長とは通信不能です。P-331の方は問題ありません。どうやら敵がドックの常用エアロックに爆薬を仕掛けていたようです」

 彼は暫し絶句し、「常用エアロックの安全は確認しなかったのか?」と力なく尋ねる。
 それに対し、オペレータは「カオ指令の命令で追撃が最優先されました」と全く感情を込めない声で簡潔に説明する。

(クソッ! あの“頭でっかち”に艦長はやられたのか……奴の指示に従うと碌なことが無さそうだ……)

 そう考えた彼は、P-331で留守を預かるグァン・フェン副長に直接連絡を入れる。

「副長、こちらチャンです。艦長がエアロック付近で負傷した可能性があります。そちらから確認できないでしょうか」

 グァン・フェン副長は、「なに!」と叫んだ後、「了解した! こちらから確認する」と言って、戦闘指揮所CICにいる部下たちに命令を与えていた。
 十秒ほど待っていると、

「確認できた。艦長は負傷されたようだ。今救助に向かわせたから心配するな。そちらでできることをやってくれ」

 彼はその言葉に安堵し、H点検通路のシャッター前で待機することにした。



<ゾンファ軍P-331派遣部隊・ドック内>

 〇九四五

 通商破壊艦P-331艦長ワン・リーは閉じられた常用エアロックの前で主制御室MCRからの遠隔操作を待っていた。

(何をしているんだ。これなら非常用エアロックから走った方が速く行けたんじゃないか。それとも何かトラブルか?)

 彼はそう考え、MCRに連絡を入れる。

「MCR、こちらワン・リーだ。エアロックの状況と開放見込みを教えてくれ」

「艦長、連絡が遅れすいません。現在システムリセットが完了したところです。あと一分待ってください」と早口でしゃべるオペレータの回答が返ってきた。

 彼は「了解した」と答えたあと、「ところで敵の置き土産は確認しているんだろうな?」と疑問を投げかける。

「置き土産? ああ、トラップですか……すみません、エアロック内は敵にセンサー類を無効にされたので確認できません……」

 彼はそれを早く言ってくれと思いながら、「我々は非常用エアロックにまわる。常用エアロックの開放は不要だ」と伝えて、非常用エアロックに向かおうとした。

 その時、カオ司令の甲高い耳障りな声が割り込んでくる。

「艦長、常用エアロックを使え! 敵は減ったとはいえ、まだ十名以上が戦闘可能なようだ。チャン・ウェンテェンの班では人数的に無理がある。多少のリスクは許容してもらう」

(安全なMCRから多少のリスクは許容しろだと! 人が足りないならMCRの護衛から回せばいい! ……お前の指揮が悪いからこんな状況になったんだろうが!)

 ワン艦長はその言葉を聞き、内心の怒りを隠すのに多大な努力を必要とした。

「了解しました。常用エアロックを使います」とだけ答え、通信を切る。

 部下たちには「ドック側扉開放時は遮へい物の後ろに身を隠しておけ」と命じる。
 部下たちが身を隠したとき、ドック側の扉が開放された。
 彼は部下数名と共にエアロック内の確認に向かう。
 部下の一人がエアロックの中に入ると、エアロックの扉が吹き飛ぶように爆薬が仕掛けられていることを発見し、報告してきた。

「艦長! 爆薬です! 扉が吹き飛ぶように設置されています。遠隔方式だと思います!」

 彼はその言葉を聞くと、すぐに全員に退避の指示を出した。

「全員、退避! お前もすぐにエアロックから出ろ!」

 彼がそう言い終わった瞬間、エアロックで眩い閃光が走り、分厚い扉が彼に向かって迫ってきた。
 彼はその場を逃れようとするが、大型コンテナとエアロックの扉に挟まれ、戦闘用装甲服ごと押し潰される。
 それを見た部下たちが救出に向かうが、彼の装甲服の生命維持装置は破損しており、バックアップシステムに切り替わったことしか確認できなかった。
 部下たちはすぐに非常用エアロック側に彼を運び、破片が飛び交うドックから脱出しようとした。



<ゾンファ軍クーロンベース司令部・主制御室内>

 〇九四五

 クーロンベース司令カオ・ルーリン准将はシートから立ち上がって、使えない部下たちに怒りをぶちまけていた。
 そして、ようやく使えるようになる常用エアロックをワン艦長が使わないと言ってきたことが、彼の怒りに油を注いだ。

「艦長、常用エアロックを使え! 敵は減ったとはいえ、まだ十名以上が戦闘可能なようだ。チャン・ウェンテェンの班では人数的に無理がある。多少のリスクは許容してもらう」

 彼は自分では冷静に命じているつもりだが、声は裏返り、誰の目にも逆上していることが明らかだった。
 ワン艦長からの了解の言葉を聞き、ようやく司令席に身を沈める。

 オペレータが「常用エアロック開放」という言葉を聞いた十秒ほど後、爆発による微かな床の揺れと与圧区域が減圧中であるというAIの中性的な声を聞き、呆然としていた。
 オペレータたちが叫ぶように報告する各種警報名と各エリアの気圧などのパラメータを読む声が耳に入って来るが、彼には何が起こっているのか理解できていなかった。

「司令! エリア一斉隔離信号AIS発信しました! 全与圧エリア非常用隔壁扉及び緊急用シャッター閉鎖中! ドック常用エアロックが爆破されました! 指示をお願いします!」

「チャン・ウェンテェン甲板長より、敵がH点検通路から脱出を開始したとの報告です。現在、交戦中! 指示願うとのことです!」

「ワン艦長の部下より、艦長が負傷したとの連絡あり! ドック内から退避するとのことです! その後の指示を頼むとのことです!」

 次々と求められる指示に彼は完全に我を見失っていた。
 彼は一言、「マニュアルに従い、対処せよ」とだけ呟き、再びシートに座り込む。

 部下たちからは、「そのようなマニュアルは存在しません!」という悲鳴に近い叫びが発せられるが、彼は適切な指示を出すことができない。
 仕方なくオペレータたちは自らの判断で指示を出していった。

(何が起こっているんだ? これは夢だ……私がこんな目に逢うはずが無い……夢なんだ)

 彼が自らの殻の中に逃げ込んでいるとき、P-331のグァン・フェン副長から通信が入った。

「司令、こちらはグァン・フェンです。P-331は無傷です。艦長をふねに収容してもよろしいでしょうか?」

 グァン副長はワン艦長を収容したいと具申つもりだったが、カオ指令にとっては「P-331は無傷」という情報だけが聞こえていた。

「そうだ。まだP-331がある。これで敵のスループを沈めれば……アルビオンが再びここに来るまでに商船を拿捕して脱出もできる……そうだ、P-331だ……」と呟く。

「グァン副長、ワン艦長は負傷した。よって、君がP-331の指揮を執ることになった。敵のスループを沈めて、かたきを討つぞ! すぐに出撃準備をしろ!」

 そして、H点検通路で待機しているチャン甲板長にすぐに艦に戻るよう命令する。

「逃げた奴らはアウルとかいう搭載艇で脱出するつもりだろう。アウルの戦闘力は……大したことはなかったな……よし、汎用小型艇で撃ち落してやる……」

 彼は血走った目で汎用小型艇の発進準備を命じていた。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品