この異世界は小説でできています

りょう

Page.22 旧校舎に潜む闇②

 謎の揺れからなのか、それともただ旧校舎が古いのか分からないまま僕は抜け落ちた床に落ちた。

「いてて」

 階一階分を落ちたせいか、体が少し痛い。とりあえず骨とか折れていないみたいだし、体的には問題ないみたいだ。

「それにしてもここって……」

 あの開かずの扉の真下は普通の教室と思ってはいたけど、どうもそうではないらしい。その証拠にこの部屋には謎の大きな扉があった。それは部屋の扉とは全く関係ないもので、むしろこの部屋に扉すら存在していなかった。

(いかにもなにかありそうだけど……)

 開けて大丈夫なやつなのだろうか。こういうのって、漫画の世界とかだと異世界に繋がっていそうだけど、そもそもここが異世界なわけだし……。

(とりあえず出る場所もないし、開けてみる以外ないか……)

 緊張しながらも僕はドアノブに手をかける。だけどそれと同時に、身体に尋常じゃない数の何かが流れてきた。

(これは魔力?)

 扉から魔力を感じるだなんて不思議な話ではあるけど、とりあえず問題はなさそうなので、そのまま開いてみる。その先で僕を待っていたのは……。

「え? ここって……。でもどうして」

 見覚えのある風景。忘れるはずもない、僕がかつて住んでいた日本そのものだった。こちらからすれば、僕達の世界は異世界のようなものだけど、それがどうしてこんな所に……。

『この扉は、お前の中に眠る真実を具現化する扉だ』

 その光景にただ驚いていると、どこからか声が聞こえる。

「誰?」

『名乗るほどのものでもない。ただ、お前を連れてくるように頼まれていてな神楽坂優』

「どうしてその名を……」

 それに僕の中に眠る真実を具現化する扉って、つまりこれは別に僕が元の世界に戻ってきたわけではないようだ。

『その辺りの話はそこにいるやつに聞くんだな』

「そこにって……え?」

 僕の目の前に現れたその人物。僕はその人物に見覚えがあった。

「元気にしてた?優君」

 その姿はまさにユーリティアそのもの。そう、彼女はユーリティアだけど、ユーリティアではない。ユーリティアはあくまで僕の小説の中の存在。そして目の前にいるのは、そのモデルとなった人物……。

「シャロ?」

 僕が小さい頃に出会ったお嬢様、シャロだった。

「どうして君がこんなところに?」

「それはこっちのセリフだよ。優君こそ、私を置いてこんなところにどうしているの?」

「それは……」

 忘れていた記憶の断片。いや、忘れていたのではない。思い出したくなかっただけの思い出。僕と彼女の一つの物語。

「優君の裏切り者」

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「……ティアちゃん……起きて!」

「ユーリティア……」

 僕を呼ぶ声がする。重い瞼を開くとそこにはルナ先輩と、何故かハクア先輩の姿があった。

「あれ、先輩達どうして……。私は確か床から落ちてそれから……」

 思い出そうとするけど、何があったか思い出せない。確か扉があったりして、その先に僕の……。

「そういえばハクア先輩はどうしてここに?」

「床から落ちたって聞いて、心配してみにきた」

「見にきたって……じゃあここは」

「ティアちゃんが落ちた場所よ。下の教室に繋がっていて私が急いで助けに来たの」

「教室?でも確かここは」

 辺りを回すけど、先ほど見たあの場所とは全く違う場所だった。扉も何もない。あれはただの夢?

「どうしたの」

「あ、いえ、何でも」

 それにしてはあまりにはっきりしていた出来事だったような気がする。

「とりあえずティアちゃんが無事なら良かった。それよりも大変なことが起きちゃったから」

「大変なこと?」

「この旧校舎、私達が知らない何かが住み着いている」

「それが今この旧校舎を動き回っているの」

「じゃあここを出たら」

「間違いなく遭遇する」

「アッちゃんの魔法の効果で、存在は消してもらっているけど、多分下手に動くと危ない」

「どうしてそんな状況に……」

 夢と思われるあの出来事とも何か関係あるのかな。でもあれはどちらかというと、この世界のというより僕にしか関係なさそうなものだったし、それとは別って事なのかな。

「ルナがあの扉を開けたから」

「ええ! 私が原因なの?」

「まあ、あれだけ綺麗に破ったら事件の一つや二つ起きますよね」

 縁起でもない言い方をするけど、調査とはいえ壊す以外の選択肢は他になかったのだろうかと思う。まあ、そんな事今更考えても意味がないけど。

「じゃあこの旧校舎の開かずの扉の正体って」

「開かずの扉と呼ばれていたのは、開いてはいけない理由があったから」

「そしてそれが今回の事と直接的な関係にあるって事ですか?」

「ん」

 つまり本当は開けてはいけない扉だったという事なのだろう。それをルナ先輩はいとも簡単に破ってしまったのだ。正拳突きで。しかも尋常じゃない威力で。

「と、とにかくこの状況を早くなんとかしないと、日が暮れちゃう」

「最悪一泊は考えている」

「わ、私は嫌よ! こんな不気味な所で一泊だなんて」

(さっきは私の力って、笑顔で正拳突きかましていた癖に)

 か弱いアピールは全く意味ないです先輩。

「でも私も一泊はちょっと嫌ですよ。キリハに心配かけちゃいますし」

「それならどうする?」

「どうするって、それは……」

 もはや一択しかないその答えを、僕はあえて言った。

「戦うんじゃないんですかね、それと」

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