この異世界は小説でできています
Page.03 運動音痴な部長は危険が一杯
「おはようございます、部長」
グリニッツ部が活動している運動場へと向かうと、早速副部長のメルが声をかけてきた。彼女もユーリティアと同じ学年(クラスは違う)なので、別に敬語である必要はないのだけれど、異常な程に彼女を慕っているという設定になっている。
「おはようメル。ごめんね少し遅くなって」
「いえいえ。お気になさらないでください。部長はとてもお忙しい方なだと、それは皆も分かっています」
「そこまで別に忙しくないわよ」
メイドのキリハに怒られていただけだし。
「それで今は何をしているの?」
「他の子達にはすでにアップを済ませて、個人の練習に励んでいます」
「そう。じゃあ私着替えてくるからそのまま続けてて」
「はい」
僕はそのまま更衣室へと向かう。女子トイレといい女子更衣室といい、男として入ったらただの変態として扱われるこの場所に、堂々と入れるのはちょっとした特権かもしれない。
(でも、中に誰も入っていないといいな)
まだ女性の生身の体は、自分の物以外に見たことがないので、これに対しての耐性がない。なのでそれだけは避けたいのだけれど……。
「よかった、誰も着替えていない」
更衣室に入ると誰もいないことが確認されたので、カバンの中に入っている運動着にそそくさと着替える。
(よし、ここまでは問題なしっと)
ここからの問題としては、僕が極端に運動が苦手な事。そしてまだこの体としての運動も慣れていないので、もしかしたら部長としての尊厳を一日で失う事になるかもしれない。
「私部長なんだから、しっかりしないと」
「服逆に着ていますよ、お嬢様」
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
ここで一つグリニッツの事についておさらいしておくと、先ほども言ったようにハンドボールを魔法世界風にアレンジしたスポーツで、一チーム七人から編成されている。
と言ってもスポーツとは無縁だった僕は、ハンドボール自体詳しくは知らないので、実際の物通りとまではいかないけど、イメージとしてはそれに近い。
「では部長、軽いパス練習からしましょう」
「ええ」
色々な面で不安が残っている僕だけど、とりあえずメルとアップを始める。
「では行きますね」
そう言ってメルが軽くボールを投げた、と思った瞬間には何かが頬をかすめていた。
「え?」
少し反応が遅れる僕。それと同時に後ろで何か大きな破裂音がした。
「あー、しっかりとってくださいよ部長。ボールが割れちゃったじゃないですか」
「と、取れるわけ……じゃなくて、ごめんなさい」
「どうしたんですか部長。今日は体調が悪いんですか? いつもならあれくらい簡単に取っているじゃないですか」
平然と言ってのけるメル。投げる側もすごいけど、それを平然と取ってのけていたユーリティアもすごいのだが。
(そういえば、ここの学校の女子グリニッツ部って、強豪校だったっけ)
すっかり忘れてしまっていた設定を思い出す。ただ、一つ忘れないで欲しいのがあくまで強豪校なだけで、これよりも上のプレイヤーがいる事だ。
「確かに今日のお嬢様はどこか変なんです。いつも以上に」
「私いつも変なの?」
「全裸で登校してしまうくらいの変態です」
「わ、私そんな事していないわよ! でしょ? メル」
「あの時の部長は、変態を通り越して何かの悟りを開いていました」
「嘘でしょ? 嘘だと言ってよ」
僕の知らないところで、ユーリティアはとんでもない変態さんになってしまっていたらしい。
(僕、そんな設定なんてした事ないのに……)
ある特別な性癖はあるけど。
「では今度は部長の方から投げてくださいよ。取れないとなるとボールが勿体ないので」
そう言ってメルからグリニッツのボールを渡される。見た目は普通のボールと変わらないけど、少しだけ魔法の力(?)みたいな物が感じられる。
「そういいえば、まだ魔法を使った事ないや)
中身は全く駄目な人間だけど、本体は魔法の上級者に近い存在だ。それを駆使すれば、運動音痴もなんとかなるはず。
「じゃあ行くわよメル」
「はい!」
僕は速いボールが投げれるように念じてみる。よし、これならなんだかいけそうな気がする。
「えーい!」
僕はメルに向かって全力でボールを投げた。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
部活終了後、僕はメルとキリハの三人で下校していた。
「本当にごめんなさいメル」
「軽い怪我をしただけですから、気にしないでくださいよ部長」
だけどその道中、僕はずっと謝罪をしていた。
あの後ボールは真っ直ぐメルの元へと飛んで行ったのだけれど、あまりに勢いが強すぎてメルが吹き飛ぶという事故が発生。軽い怪我で済んだものの、迷惑をかけてしまった事に、申し訳なさでいっぱいだった。
「それにしても相変わらず魔法の力はすごいですよね、部長は」
「そ、そうでもないわよ。怪我させてしまったら、元も子もないし」
「お嬢様は生まれながらにして、魔法の才能はかなりのものでしたから」
「何でキリハが自慢しているのよ」
「でもその才能は、時に事故を起こしかねないので気をつけてください」
「はい……」
(何か今日悪いことばかりだな僕……)
転生して初っ端からテストだし、グリニッツでは人を怪我させてしまうし。おまけに帰ったら舞踏会の為の踊りを練習しなければならない。果たして明日の晩までになんとかなるのだろうか。すごく不安だ。
「あ、そういえばお嬢様」
「何よ」
「また服逆に着ていますよ」
「早くそれを言いなさいよ馬鹿!」
グリニッツ部が活動している運動場へと向かうと、早速副部長のメルが声をかけてきた。彼女もユーリティアと同じ学年(クラスは違う)なので、別に敬語である必要はないのだけれど、異常な程に彼女を慕っているという設定になっている。
「おはようメル。ごめんね少し遅くなって」
「いえいえ。お気になさらないでください。部長はとてもお忙しい方なだと、それは皆も分かっています」
「そこまで別に忙しくないわよ」
メイドのキリハに怒られていただけだし。
「それで今は何をしているの?」
「他の子達にはすでにアップを済ませて、個人の練習に励んでいます」
「そう。じゃあ私着替えてくるからそのまま続けてて」
「はい」
僕はそのまま更衣室へと向かう。女子トイレといい女子更衣室といい、男として入ったらただの変態として扱われるこの場所に、堂々と入れるのはちょっとした特権かもしれない。
(でも、中に誰も入っていないといいな)
まだ女性の生身の体は、自分の物以外に見たことがないので、これに対しての耐性がない。なのでそれだけは避けたいのだけれど……。
「よかった、誰も着替えていない」
更衣室に入ると誰もいないことが確認されたので、カバンの中に入っている運動着にそそくさと着替える。
(よし、ここまでは問題なしっと)
ここからの問題としては、僕が極端に運動が苦手な事。そしてまだこの体としての運動も慣れていないので、もしかしたら部長としての尊厳を一日で失う事になるかもしれない。
「私部長なんだから、しっかりしないと」
「服逆に着ていますよ、お嬢様」
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
ここで一つグリニッツの事についておさらいしておくと、先ほども言ったようにハンドボールを魔法世界風にアレンジしたスポーツで、一チーム七人から編成されている。
と言ってもスポーツとは無縁だった僕は、ハンドボール自体詳しくは知らないので、実際の物通りとまではいかないけど、イメージとしてはそれに近い。
「では部長、軽いパス練習からしましょう」
「ええ」
色々な面で不安が残っている僕だけど、とりあえずメルとアップを始める。
「では行きますね」
そう言ってメルが軽くボールを投げた、と思った瞬間には何かが頬をかすめていた。
「え?」
少し反応が遅れる僕。それと同時に後ろで何か大きな破裂音がした。
「あー、しっかりとってくださいよ部長。ボールが割れちゃったじゃないですか」
「と、取れるわけ……じゃなくて、ごめんなさい」
「どうしたんですか部長。今日は体調が悪いんですか? いつもならあれくらい簡単に取っているじゃないですか」
平然と言ってのけるメル。投げる側もすごいけど、それを平然と取ってのけていたユーリティアもすごいのだが。
(そういえば、ここの学校の女子グリニッツ部って、強豪校だったっけ)
すっかり忘れてしまっていた設定を思い出す。ただ、一つ忘れないで欲しいのがあくまで強豪校なだけで、これよりも上のプレイヤーがいる事だ。
「確かに今日のお嬢様はどこか変なんです。いつも以上に」
「私いつも変なの?」
「全裸で登校してしまうくらいの変態です」
「わ、私そんな事していないわよ! でしょ? メル」
「あの時の部長は、変態を通り越して何かの悟りを開いていました」
「嘘でしょ? 嘘だと言ってよ」
僕の知らないところで、ユーリティアはとんでもない変態さんになってしまっていたらしい。
(僕、そんな設定なんてした事ないのに……)
ある特別な性癖はあるけど。
「では今度は部長の方から投げてくださいよ。取れないとなるとボールが勿体ないので」
そう言ってメルからグリニッツのボールを渡される。見た目は普通のボールと変わらないけど、少しだけ魔法の力(?)みたいな物が感じられる。
「そういいえば、まだ魔法を使った事ないや)
中身は全く駄目な人間だけど、本体は魔法の上級者に近い存在だ。それを駆使すれば、運動音痴もなんとかなるはず。
「じゃあ行くわよメル」
「はい!」
僕は速いボールが投げれるように念じてみる。よし、これならなんだかいけそうな気がする。
「えーい!」
僕はメルに向かって全力でボールを投げた。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
部活終了後、僕はメルとキリハの三人で下校していた。
「本当にごめんなさいメル」
「軽い怪我をしただけですから、気にしないでくださいよ部長」
だけどその道中、僕はずっと謝罪をしていた。
あの後ボールは真っ直ぐメルの元へと飛んで行ったのだけれど、あまりに勢いが強すぎてメルが吹き飛ぶという事故が発生。軽い怪我で済んだものの、迷惑をかけてしまった事に、申し訳なさでいっぱいだった。
「それにしても相変わらず魔法の力はすごいですよね、部長は」
「そ、そうでもないわよ。怪我させてしまったら、元も子もないし」
「お嬢様は生まれながらにして、魔法の才能はかなりのものでしたから」
「何でキリハが自慢しているのよ」
「でもその才能は、時に事故を起こしかねないので気をつけてください」
「はい……」
(何か今日悪いことばかりだな僕……)
転生して初っ端からテストだし、グリニッツでは人を怪我させてしまうし。おまけに帰ったら舞踏会の為の踊りを練習しなければならない。果たして明日の晩までになんとかなるのだろうか。すごく不安だ。
「あ、そういえばお嬢様」
「何よ」
「また服逆に着ていますよ」
「早くそれを言いなさいよ馬鹿!」
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