Sea Labyrinth Online
7 安全圏内の死闘 上
ブレイククラブが再び動き出した。
本来横にしか進めないはずのカニの足で地を蹴り、正面に居たユカに向かって跳ぶ。
「ユカ!」
「集牙閃!」
ユカは両の剣を纏めるようにし、そして光を灯し、向かってくるブレイククラブに向かい打つ。
おそらく……新しいスキルだ。見た所二本の剣を束ねて、剣激の威力を引き上げるという技だろう。
そしてブレイククラブの爪と、ユカの集牙閃が交差し……そしてユカが打ち負けた。
「……ッ」
ユカの剣は弾かれ、ユカの体が持ち上がる。
そして振り下ろされる一撃。
だがその攻撃は、ユカの頬を掠めるに留まった。
炎の玉……後方から飛んできた炎の塊が、ブレイククラブの爪に被弾していた。
俺は反射的に、炎の飛んできた方向へと視線を向ける。
「ヨウスケ!」
そこには、荒く息を吐きながら、杖を構えるヨウスケの姿があって……相変わらずHPは尽きかけていた。
そしてその間、もう一度剣と甲羅がぶつかり合うような音が聞こえる。
ユカが……再び攻撃を仕掛けていた。
今度は一方的な一撃……それでもほとんどHPは削れない。
ユカのレベルは確か11だったはず。そのレベルでこのダメージ……レベル3の俺が放ったカマイタチなんて聞くはずが無かった。
当然ながら、ヨウスケが放ったファイアボールも、殆どダメージを与えることができていない。
これが……三層の実力。
「ユウキさん! ヨウスケさん! とにかく回復を!」
チカがレイピアを構えつつ、俺達にそう呼びかける。
「あ、ああ!」
ヨスウケがそう返し、俺達は即急にウインドウを開く。アイテム一覧からポーションを使用して取り出し、一気に飲み干した。
体が少し軽くなったような錯覚に陥る。ダメージが回復していっている証拠だった。だけども回復は徐々に行われていくため、完全回復にはまだ時間がかかる。
ヨウスケの場合……今攻撃を喰らえば終わりだ。
「クソ……」
どうする。本当にこの状況をどう打開すればいい。
やっぱり駄目元で逃げてみるか?
だけど逃げてもすぐに追いつかれる。背中を見せている訳だから防御が疎かになり、さっきみたく、ユカのサポートが無ければ、死んでいた。
だけどあんな芸当は、きっと何度もできるような事ではない。さっきのファイアボールで攻撃の軌道を反らせたのも、いうならばまぐれだ。きっとそうだ。
とにかく言える事は……逃げられない。
逃げ切れても、誰か一人は死ぬ。その誰かが殺される隙に逃げなくてはならない。
……そんなの駄目だ。
そうこうしている内にも、ユカは再び集牙閃で、ブレイククラブの攻撃に迎え撃つ。
「ア……ッ!」
結果は同じ。ユカが打ち負けた。
唯一違うことがあるとすれば、先程の俺みたく、勢いよく吹っ飛ばされたという事だろうか。
そしてそのユカを追撃する為に、再びブレイククラブは動き出そうとする。
「させません!」
チカが動き出し、レイピアを、今にも動き出すブレイククラブに突き刺す。
甲羅と甲羅の隙間。そこにうまくヒットしたレイピア攻撃はクリティカルヒットとなり、ブレイククラブが仰け反る。
HPは相変わらず殆ど減ってはいない。だけど……動きは止まった。
俺は再びブレイククラブに向かって走り出す。
HPはグリーンまで到達した。さっきと同じようなダメージなら……残る。
HPを全快にする事を考えるな。多分攻撃が直撃すると、俺はHPをすべて持っていかれる。それはあの泡だってそうで、俺よりHPに経験地を振っているヨウスケでギリギリだったんだ。絶対に一発で死ぬ。
だから……さっきのダメージ。あれが耐えられればそれでいい!
「ヨウスケ、詠唱! ユカ! 同時攻撃頼む!」
自然と指示を出し、俺はブレイククラブとの間合いに入り刀を振るう。
それと同時に、ユカも螺旋乱舞を繰り出す。
きっと攻撃力では、集牙閃の方が高いだろう……だが、このレベル差では大差は無い。
今大事なのはヒット数。ブレイククラブに……反撃する暇を与えるな!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
必死に日本刀を振り回す。連打連打。とにかく打ち続ける。
だがそれでも、ブレイククラブの攻撃を完全に止める事は適わない。俺とユカの連撃の間に生まれた僅かなスキ。その隙にブレイククラブは俺に爪を振るう。
「ク……ッ!」
俺は咄嗟に刀でガードし、同時に後方へと飛んだ。
勢いを殺す為だ。
「グアッ!」
先程と同じように、何度も地面をバウンドし、その衝撃でHPケージが削れていく……だけどゼロにはならない。元からの読みに加え、勢いをうまく殺せたのも大きかった。
そして俺が抜けた穴に、チカが飛び込み、レイピアを光らせて打ち込む。
弱者狩りの大骨戦で使っていたあの技……確か名前は『ブレイクスティック』だったはずだ。
今度は先程と同じようにクリティカルは起こらない……だけども、技の特徴からか、大きな音が周囲に響く。
音でブレイククラブは……怯まない。
俺は二人の先頭を見ながら、再びウインドウを開く。
そしてソレと同時に、ヨウスケの声が響いた。
「二人とも、どいて!」
ヨウスケの詠唱が終わり、ファイアボールが放たれる。
それと同時に二人は後ろに飛び、俺はポーションを飲み干した。
炎はブレイククラブの甲羅を燃やす……しかし、やはりダメージは殆ど与えられない。
そして炎が被弾した直後、再び二人がブレイククラブに攻撃を仕掛ける。
俺は……剣を構え、体力がグリーンに戻るのを待っていた。
「クソ……」
確かにうまくはいっている。ボス級モンスターと違い、フィールドモンスターは攻撃によるノックバックが適応される。つまり囲めばある程度攻撃は止められる。だから今、四対一という陣営のおかげで、ある程度様になっている気がする。
だけど……気がするだけだ。
奴のHPはまだ殆ど減っていない。それにこちらは、一度でも連携が崩れたら、終わりに等しい。集中力が切れて攻撃がはずれでもしたら終わり。連撃が止まってしまえば終わりだ。
そして……その時は訪れる。
「……ッ」
攻撃を繰り出したチカが、声にならない声を上げた。
攻撃が……外れた。
ブレイククラブが一瞬の隙を付いて……後方に跳んだのだ。
そして攻撃を交わしたブレイククラブは……再びあの体勢を取る。
……泡。
「まずい、下がれ二人とも!」
ユカは俺の声に反応したのか、それとも自分の直感だったのか、右方に飛ぶ。
だが……攻撃を外したチカのバランスが崩れていた。
「チカ!」
ヨウスケが声を張り上げる。
今のチカは泡が被弾する範囲内に居る。そして体制を崩し、すぐには回避行動を取れない。場合によっちゃ次の攻撃でチカが……ッ。
俺はHPがグリーンに到達するのを待たず、走り出した。
何ができるかなんてのは分からない。それでも止まれなかった。自然に足が動いていた。
だけど……間にあう様な距離ではない。
何も……出来ない……ッ。
俺が走りながらそう心で叫んだ瞬間だった。
「……ッ」
俺の真横を……凄まじい速度の斬撃が通過した。
それはそのままブレイククラブへ向かい飛んでいく。
そして同時に、斬撃。矢。雷魔法。炎魔法。そういった攻撃が次々と真横を通過し、ブレイククラブに向かっていく。
ある攻撃はブレイククラブの直撃し、またある攻撃はブレイククラブの放った泡にぶつかり、その攻撃を掻き消す。
「なんだ……今の」
少なくとも同レベルの攻撃では無かった。もっと上。ユカクラスの攻撃。
それさえ分かれば、一体誰なのか大体把握することができた。
「たった四人でよくこの場を持ちこたえてくれた……ありがとう」
その言葉は聞きなれた言葉で……おそらくこのSLOにて、今もっとも人望があるのではないかと思われる人物。
「ハリスさん……」
俺の口からは、安堵の言葉が漏れた。
そして恐らくその言葉は聞こえていないが、それを皮切にするタイミングで、ハリスさんが声を上げる。
「全員! それぞれ戦闘配置に付き、加戦しろ!」
高らかに響いたハリスさんの声……それに答える周囲の声。
そうして、彼らは戦闘配置に付く。
攻略組。及び部隊壊滅後にリタイアした元攻略組。総勢九名。
現SLO最強戦力が……此処に集結した。
本来横にしか進めないはずのカニの足で地を蹴り、正面に居たユカに向かって跳ぶ。
「ユカ!」
「集牙閃!」
ユカは両の剣を纏めるようにし、そして光を灯し、向かってくるブレイククラブに向かい打つ。
おそらく……新しいスキルだ。見た所二本の剣を束ねて、剣激の威力を引き上げるという技だろう。
そしてブレイククラブの爪と、ユカの集牙閃が交差し……そしてユカが打ち負けた。
「……ッ」
ユカの剣は弾かれ、ユカの体が持ち上がる。
そして振り下ろされる一撃。
だがその攻撃は、ユカの頬を掠めるに留まった。
炎の玉……後方から飛んできた炎の塊が、ブレイククラブの爪に被弾していた。
俺は反射的に、炎の飛んできた方向へと視線を向ける。
「ヨウスケ!」
そこには、荒く息を吐きながら、杖を構えるヨウスケの姿があって……相変わらずHPは尽きかけていた。
そしてその間、もう一度剣と甲羅がぶつかり合うような音が聞こえる。
ユカが……再び攻撃を仕掛けていた。
今度は一方的な一撃……それでもほとんどHPは削れない。
ユカのレベルは確か11だったはず。そのレベルでこのダメージ……レベル3の俺が放ったカマイタチなんて聞くはずが無かった。
当然ながら、ヨウスケが放ったファイアボールも、殆どダメージを与えることができていない。
これが……三層の実力。
「ユウキさん! ヨウスケさん! とにかく回復を!」
チカがレイピアを構えつつ、俺達にそう呼びかける。
「あ、ああ!」
ヨスウケがそう返し、俺達は即急にウインドウを開く。アイテム一覧からポーションを使用して取り出し、一気に飲み干した。
体が少し軽くなったような錯覚に陥る。ダメージが回復していっている証拠だった。だけども回復は徐々に行われていくため、完全回復にはまだ時間がかかる。
ヨウスケの場合……今攻撃を喰らえば終わりだ。
「クソ……」
どうする。本当にこの状況をどう打開すればいい。
やっぱり駄目元で逃げてみるか?
だけど逃げてもすぐに追いつかれる。背中を見せている訳だから防御が疎かになり、さっきみたく、ユカのサポートが無ければ、死んでいた。
だけどあんな芸当は、きっと何度もできるような事ではない。さっきのファイアボールで攻撃の軌道を反らせたのも、いうならばまぐれだ。きっとそうだ。
とにかく言える事は……逃げられない。
逃げ切れても、誰か一人は死ぬ。その誰かが殺される隙に逃げなくてはならない。
……そんなの駄目だ。
そうこうしている内にも、ユカは再び集牙閃で、ブレイククラブの攻撃に迎え撃つ。
「ア……ッ!」
結果は同じ。ユカが打ち負けた。
唯一違うことがあるとすれば、先程の俺みたく、勢いよく吹っ飛ばされたという事だろうか。
そしてそのユカを追撃する為に、再びブレイククラブは動き出そうとする。
「させません!」
チカが動き出し、レイピアを、今にも動き出すブレイククラブに突き刺す。
甲羅と甲羅の隙間。そこにうまくヒットしたレイピア攻撃はクリティカルヒットとなり、ブレイククラブが仰け反る。
HPは相変わらず殆ど減ってはいない。だけど……動きは止まった。
俺は再びブレイククラブに向かって走り出す。
HPはグリーンまで到達した。さっきと同じようなダメージなら……残る。
HPを全快にする事を考えるな。多分攻撃が直撃すると、俺はHPをすべて持っていかれる。それはあの泡だってそうで、俺よりHPに経験地を振っているヨウスケでギリギリだったんだ。絶対に一発で死ぬ。
だから……さっきのダメージ。あれが耐えられればそれでいい!
「ヨウスケ、詠唱! ユカ! 同時攻撃頼む!」
自然と指示を出し、俺はブレイククラブとの間合いに入り刀を振るう。
それと同時に、ユカも螺旋乱舞を繰り出す。
きっと攻撃力では、集牙閃の方が高いだろう……だが、このレベル差では大差は無い。
今大事なのはヒット数。ブレイククラブに……反撃する暇を与えるな!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
必死に日本刀を振り回す。連打連打。とにかく打ち続ける。
だがそれでも、ブレイククラブの攻撃を完全に止める事は適わない。俺とユカの連撃の間に生まれた僅かなスキ。その隙にブレイククラブは俺に爪を振るう。
「ク……ッ!」
俺は咄嗟に刀でガードし、同時に後方へと飛んだ。
勢いを殺す為だ。
「グアッ!」
先程と同じように、何度も地面をバウンドし、その衝撃でHPケージが削れていく……だけどゼロにはならない。元からの読みに加え、勢いをうまく殺せたのも大きかった。
そして俺が抜けた穴に、チカが飛び込み、レイピアを光らせて打ち込む。
弱者狩りの大骨戦で使っていたあの技……確か名前は『ブレイクスティック』だったはずだ。
今度は先程と同じようにクリティカルは起こらない……だけども、技の特徴からか、大きな音が周囲に響く。
音でブレイククラブは……怯まない。
俺は二人の先頭を見ながら、再びウインドウを開く。
そしてソレと同時に、ヨウスケの声が響いた。
「二人とも、どいて!」
ヨウスケの詠唱が終わり、ファイアボールが放たれる。
それと同時に二人は後ろに飛び、俺はポーションを飲み干した。
炎はブレイククラブの甲羅を燃やす……しかし、やはりダメージは殆ど与えられない。
そして炎が被弾した直後、再び二人がブレイククラブに攻撃を仕掛ける。
俺は……剣を構え、体力がグリーンに戻るのを待っていた。
「クソ……」
確かにうまくはいっている。ボス級モンスターと違い、フィールドモンスターは攻撃によるノックバックが適応される。つまり囲めばある程度攻撃は止められる。だから今、四対一という陣営のおかげで、ある程度様になっている気がする。
だけど……気がするだけだ。
奴のHPはまだ殆ど減っていない。それにこちらは、一度でも連携が崩れたら、終わりに等しい。集中力が切れて攻撃がはずれでもしたら終わり。連撃が止まってしまえば終わりだ。
そして……その時は訪れる。
「……ッ」
攻撃を繰り出したチカが、声にならない声を上げた。
攻撃が……外れた。
ブレイククラブが一瞬の隙を付いて……後方に跳んだのだ。
そして攻撃を交わしたブレイククラブは……再びあの体勢を取る。
……泡。
「まずい、下がれ二人とも!」
ユカは俺の声に反応したのか、それとも自分の直感だったのか、右方に飛ぶ。
だが……攻撃を外したチカのバランスが崩れていた。
「チカ!」
ヨウスケが声を張り上げる。
今のチカは泡が被弾する範囲内に居る。そして体制を崩し、すぐには回避行動を取れない。場合によっちゃ次の攻撃でチカが……ッ。
俺はHPがグリーンに到達するのを待たず、走り出した。
何ができるかなんてのは分からない。それでも止まれなかった。自然に足が動いていた。
だけど……間にあう様な距離ではない。
何も……出来ない……ッ。
俺が走りながらそう心で叫んだ瞬間だった。
「……ッ」
俺の真横を……凄まじい速度の斬撃が通過した。
それはそのままブレイククラブへ向かい飛んでいく。
そして同時に、斬撃。矢。雷魔法。炎魔法。そういった攻撃が次々と真横を通過し、ブレイククラブに向かっていく。
ある攻撃はブレイククラブの直撃し、またある攻撃はブレイククラブの放った泡にぶつかり、その攻撃を掻き消す。
「なんだ……今の」
少なくとも同レベルの攻撃では無かった。もっと上。ユカクラスの攻撃。
それさえ分かれば、一体誰なのか大体把握することができた。
「たった四人でよくこの場を持ちこたえてくれた……ありがとう」
その言葉は聞きなれた言葉で……おそらくこのSLOにて、今もっとも人望があるのではないかと思われる人物。
「ハリスさん……」
俺の口からは、安堵の言葉が漏れた。
そして恐らくその言葉は聞こえていないが、それを皮切にするタイミングで、ハリスさんが声を上げる。
「全員! それぞれ戦闘配置に付き、加戦しろ!」
高らかに響いたハリスさんの声……それに答える周囲の声。
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