Sea Labyrinth Online
10 旅立つ者、立ち止まる者
その後、会議に向かったユカの話によると、攻略に参加しようという意思を見せてやってきたのは、約70人前後。あんな事があった翌日で、その人数が多いのかどうなのか。攻略するにあたって最低限必要な人数が居るのか……それは分からない。
ただ一つ分かるのは、俺はソコに居ない。それだけ。
「なあ、俺達、本当にコレで良かったのかな……」
会議を終え、一度戻ってきたユカが、再び集まりに戻るのを見送った後……ヨウスケがそう呟いた。
その呟きに答えられる物は誰もいない……何が正解かなんて分からない。俺達は此処に居る。そういう意思表示を示した。たとえ良く無くとも、それは変わらない事実だ。
「これから……どうするよ」
「とりあえずユカの見送りには行くさ……今日の五時出発だっけ?」
「ああ。あまり時間が立つと決心が緩むからだったっけな。だとしても……やっぱ早えよ」
早い……でもまあ、ある意味妥当なのかもしれない。
それに時間に関しても、五時というのは正しい判断だと思う。その時間に出れば、ユカ達がとりあえずレベル上げする為に潜るらしいダンジョン。海底洞窟周辺の村まで暗くなる前にたどり着く。
でもまあ……できれば送別会的な物をしてやる時間は欲しかった……いや、要らないか。
それをやると……やった時間だけ自分が辛くなるだけだ。
「攻略する連中はさ、しばらくその村を拠点にするんだろ? つまり今日別れたら……問題の北フィールドへ向かう直前まで、会えないわけじゃん……辛いな」
ホントにそうだ。
一応どの階層にもワープポイントがあり、各階層の都市部と言える街へと飛ばしてくれる。だけど、その階層の街どうしをつなぐ施設なんてなく、街から村なんてワープは精々出来てもモンスターのドロップアイテムを使用しての事だろう。
つまりは一度出てしまえば……会える時はそういう時になる。
「……何やってんだろ、俺」
俺は何度も口にしたその言葉を再び吐いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ユカ達が始まりの街を出発するまで……あと十分。
俺達は西門へとやってきていた。
決して旅立つ為ではない……見送る為に。
改めて自分がカッコ悪いと思った。それでも……自分も攻略に加わる最後のチャンスであるにも関わらず声を上げられなかった。
そんな俺に、支度を済ませたユカは言う。
「ユウキ君は抱え込みすぎだよ……今は無理かもしれないけど、もうちょっと気を楽にしたらいいよ」
それが出来たら……どんなに楽な事か。
「……ああ」
俺はその言葉に短く返す。
そして隣に居た二人も、それぞれ言葉を贈った。
「ユカちゃん……俺達は行けねえけどさ……応援すっから! んでっもって、出来る事なら何でもする! だからなんかあったら教えてくれ!」
「うん。わかったよ、ヨウスケ君。ありがとう」
「……死なないで」
「分かってる。絶対死なずに戻ってくるから」
そう言ってユカは笑みを浮かべるが……それはどう見ても作り笑いだった。
本当は不安で一杯な……そんな感じ。
「……頑張れよ」
そんな表情を見ても……最後の最後までこんな事しか言えない。
だんだん俺が俺でなくなっていく……そんな気がした。
だけどそんな俺に……ユカは笑いかけてくる。
「うん、頑張るよ、ユウキ君」
もう……それ以上、俺に言える事など無く……、
「じゃ、そろそろ行かなきゃだから……また会おうね、皆」
そう言ってユカが居なくなるその時まで……相槌程度の言葉しか発せられなかった。
そうして……ユカを含めた攻略組は始まりの街から居なくなる。
本当は行かなくちゃならない俺を残して。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あれから一週間が立った。
俺達がその日の生活日を得るために、街の中で簡単なクエストをこなしている間に……ユカ達はモンスター達と戦っている。
ユカからは毎日メールが送られてきて、そこには昨日レベル7になったと書かれていた。全員がレベル8を超えた時点で引き上げるらしいから、明後日頃には街に帰ってくるらしい。
「にしても、レベル7か……随分と差が開いちゃったな」
「そうだな……SLOはレベル5を超えた辺りから、少し上げづらいみたいだから……埋まらないだろうな、この差は」
とりあえず簡易クエストを終え、西門近くの広場のベンチに座っていた俺達は、飲み物を飲みながらそんな会話をしていた。
一応そのようなクエストでも経験値はもらえる。だがそれも、SLO最弱モンスター、アクアシープの半分にも満たない、微量な物。あって無い様な物だ。
その程度の経験値を稼いでいた所で、追いつく訳が無い。単純な話だ。
「あの時、弱き者の残骨をある程度狩っていたおかげか、あと数日もすればレベル3にはなると思うけど……レベル4は遥か先の話だな」
もっとも……レベルを上げた所で、俺達は戦わない。だから意味が無いわけだが。
「……私達、本当にこのままでいいんでしょうか」
口数の少ないチカが、珍しく自ら話題を口にした。
「このまま……簡単なクエストだけをこなして……ただ待っている。それで良いんでしょうか」
俺とヨウスケは黙り込む。ソレがいけない事位……百も承知だ。
だけど……仕方ないじゃないか。
赤信号、皆で渡れば怖くない。
皆で危険な橋を渡るタイミングで、渡らなかった人間が……もう今更どうにか出来ることなんてない。
俺がそう……何度も自分に言い聞かせた言葉を再び、心中で復唱したその時だった。
「……なんだ?」
西門の方が急にざわめきだした。
「何かあったのか?」
「とりあえず……言ってみよう」
俺達三人は飲み物を飲みほし、西門に向って駆けだす。
そしてそこにたどり着いた時……俺は今この場に居るはずの無い人間を目にした。
「……ユ……カ……?」
西門には……随分と疲弊した様子のユカや……攻略に出発した何人かが……ハリスさんが座り込んでいた。
なんで此処に居るのかは分からない……だけど俺は思わず叫んでいた。
「ユカ!」
野次馬をくぐり抜け、到達したユカの前で……俺は思わず驚愕した。
ユカのHPが……赤。それも死に限りなく近い所まで削られていた。
ユカだけじゃない……他のプレイヤー達も、赤……赤に限りなく近いイエロー……グリーンはいない。
「な、何があったんだ……」
俺は恐る恐るそう尋ねる。すると、その問いに……座り込んでいたハリスさんが答えた。
「部隊が……半壊した」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
疲弊したユカを宿屋まで連れて行き、事情を聞いていくと……半壊した理由は実に簡単な物だった。
まず第一に、アルゴリズムの変化。
モンスターが前日とは少々違う動きを見せ、群れの数も多くなった……だけど、これ自体はあくまできっかけに過ぎなかったらしい。
一番の原因は……誰かが一人死んだ事だった。
一番レベルが低かったプレイヤーが、その事態に対応できず死亡……結果、周囲は取り乱し、それにより死者が増えの、負のスパイラル。
つい先ほど街に帰ってきた人達は、攻略組の生き残りだと言う。
数にして実に十人。
七分の一もの攻略組が……たった一人の死をきっかけに命を落とした。
つまりは……もはや攻略は絶望的だという事だ。
「ごめんね……皆」
ユカは顔を俯かせたまま上げなかった。
ユカの所為じゃない。誰の所為でも無い。
「とにかく……お前が無事で良かったよ」
俺がそう言い、二人も頷く。
きっと……始まりの街に残ったプレイヤーの多くは、生き残りが居たことに安堵したと思う。
そして同時に……こうも思ったはずだ。
これからどうするんだ……と。
攻略する者達が、呆気なく崩れ落ちた今……海の底で俺達は、道標を完全に見失った。
ただ一つ分かるのは、俺はソコに居ない。それだけ。
「なあ、俺達、本当にコレで良かったのかな……」
会議を終え、一度戻ってきたユカが、再び集まりに戻るのを見送った後……ヨウスケがそう呟いた。
その呟きに答えられる物は誰もいない……何が正解かなんて分からない。俺達は此処に居る。そういう意思表示を示した。たとえ良く無くとも、それは変わらない事実だ。
「これから……どうするよ」
「とりあえずユカの見送りには行くさ……今日の五時出発だっけ?」
「ああ。あまり時間が立つと決心が緩むからだったっけな。だとしても……やっぱ早えよ」
早い……でもまあ、ある意味妥当なのかもしれない。
それに時間に関しても、五時というのは正しい判断だと思う。その時間に出れば、ユカ達がとりあえずレベル上げする為に潜るらしいダンジョン。海底洞窟周辺の村まで暗くなる前にたどり着く。
でもまあ……できれば送別会的な物をしてやる時間は欲しかった……いや、要らないか。
それをやると……やった時間だけ自分が辛くなるだけだ。
「攻略する連中はさ、しばらくその村を拠点にするんだろ? つまり今日別れたら……問題の北フィールドへ向かう直前まで、会えないわけじゃん……辛いな」
ホントにそうだ。
一応どの階層にもワープポイントがあり、各階層の都市部と言える街へと飛ばしてくれる。だけど、その階層の街どうしをつなぐ施設なんてなく、街から村なんてワープは精々出来てもモンスターのドロップアイテムを使用しての事だろう。
つまりは一度出てしまえば……会える時はそういう時になる。
「……何やってんだろ、俺」
俺は何度も口にしたその言葉を再び吐いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ユカ達が始まりの街を出発するまで……あと十分。
俺達は西門へとやってきていた。
決して旅立つ為ではない……見送る為に。
改めて自分がカッコ悪いと思った。それでも……自分も攻略に加わる最後のチャンスであるにも関わらず声を上げられなかった。
そんな俺に、支度を済ませたユカは言う。
「ユウキ君は抱え込みすぎだよ……今は無理かもしれないけど、もうちょっと気を楽にしたらいいよ」
それが出来たら……どんなに楽な事か。
「……ああ」
俺はその言葉に短く返す。
そして隣に居た二人も、それぞれ言葉を贈った。
「ユカちゃん……俺達は行けねえけどさ……応援すっから! んでっもって、出来る事なら何でもする! だからなんかあったら教えてくれ!」
「うん。わかったよ、ヨウスケ君。ありがとう」
「……死なないで」
「分かってる。絶対死なずに戻ってくるから」
そう言ってユカは笑みを浮かべるが……それはどう見ても作り笑いだった。
本当は不安で一杯な……そんな感じ。
「……頑張れよ」
そんな表情を見ても……最後の最後までこんな事しか言えない。
だんだん俺が俺でなくなっていく……そんな気がした。
だけどそんな俺に……ユカは笑いかけてくる。
「うん、頑張るよ、ユウキ君」
もう……それ以上、俺に言える事など無く……、
「じゃ、そろそろ行かなきゃだから……また会おうね、皆」
そう言ってユカが居なくなるその時まで……相槌程度の言葉しか発せられなかった。
そうして……ユカを含めた攻略組は始まりの街から居なくなる。
本当は行かなくちゃならない俺を残して。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あれから一週間が立った。
俺達がその日の生活日を得るために、街の中で簡単なクエストをこなしている間に……ユカ達はモンスター達と戦っている。
ユカからは毎日メールが送られてきて、そこには昨日レベル7になったと書かれていた。全員がレベル8を超えた時点で引き上げるらしいから、明後日頃には街に帰ってくるらしい。
「にしても、レベル7か……随分と差が開いちゃったな」
「そうだな……SLOはレベル5を超えた辺りから、少し上げづらいみたいだから……埋まらないだろうな、この差は」
とりあえず簡易クエストを終え、西門近くの広場のベンチに座っていた俺達は、飲み物を飲みながらそんな会話をしていた。
一応そのようなクエストでも経験値はもらえる。だがそれも、SLO最弱モンスター、アクアシープの半分にも満たない、微量な物。あって無い様な物だ。
その程度の経験値を稼いでいた所で、追いつく訳が無い。単純な話だ。
「あの時、弱き者の残骨をある程度狩っていたおかげか、あと数日もすればレベル3にはなると思うけど……レベル4は遥か先の話だな」
もっとも……レベルを上げた所で、俺達は戦わない。だから意味が無いわけだが。
「……私達、本当にこのままでいいんでしょうか」
口数の少ないチカが、珍しく自ら話題を口にした。
「このまま……簡単なクエストだけをこなして……ただ待っている。それで良いんでしょうか」
俺とヨウスケは黙り込む。ソレがいけない事位……百も承知だ。
だけど……仕方ないじゃないか。
赤信号、皆で渡れば怖くない。
皆で危険な橋を渡るタイミングで、渡らなかった人間が……もう今更どうにか出来ることなんてない。
俺がそう……何度も自分に言い聞かせた言葉を再び、心中で復唱したその時だった。
「……なんだ?」
西門の方が急にざわめきだした。
「何かあったのか?」
「とりあえず……言ってみよう」
俺達三人は飲み物を飲みほし、西門に向って駆けだす。
そしてそこにたどり着いた時……俺は今この場に居るはずの無い人間を目にした。
「……ユ……カ……?」
西門には……随分と疲弊した様子のユカや……攻略に出発した何人かが……ハリスさんが座り込んでいた。
なんで此処に居るのかは分からない……だけど俺は思わず叫んでいた。
「ユカ!」
野次馬をくぐり抜け、到達したユカの前で……俺は思わず驚愕した。
ユカのHPが……赤。それも死に限りなく近い所まで削られていた。
ユカだけじゃない……他のプレイヤー達も、赤……赤に限りなく近いイエロー……グリーンはいない。
「な、何があったんだ……」
俺は恐る恐るそう尋ねる。すると、その問いに……座り込んでいたハリスさんが答えた。
「部隊が……半壊した」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
疲弊したユカを宿屋まで連れて行き、事情を聞いていくと……半壊した理由は実に簡単な物だった。
まず第一に、アルゴリズムの変化。
モンスターが前日とは少々違う動きを見せ、群れの数も多くなった……だけど、これ自体はあくまできっかけに過ぎなかったらしい。
一番の原因は……誰かが一人死んだ事だった。
一番レベルが低かったプレイヤーが、その事態に対応できず死亡……結果、周囲は取り乱し、それにより死者が増えの、負のスパイラル。
つい先ほど街に帰ってきた人達は、攻略組の生き残りだと言う。
数にして実に十人。
七分の一もの攻略組が……たった一人の死をきっかけに命を落とした。
つまりは……もはや攻略は絶望的だという事だ。
「ごめんね……皆」
ユカは顔を俯かせたまま上げなかった。
ユカの所為じゃない。誰の所為でも無い。
「とにかく……お前が無事で良かったよ」
俺がそう言い、二人も頷く。
きっと……始まりの街に残ったプレイヤーの多くは、生き残りが居たことに安堵したと思う。
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