Sea Labyrinth Online
5 既に終わっていたという話 下
炎の流星群……リュークさん曰く拡散型のファイアボールが、俺達に降り注ぐ。
「ク……ッ」
想像よりも、遥かに数が多い……どう交わせばいいかも、焦って検討が付かなくなる。
それでも何とか交わそうとするが……初見でこれを全て交わすのは、ハッキリ言って無理な話だった。
「グアッ!」
「ユウキ君!」
胸元にファイアボールがぶち当たる。直撃による衝撃、身を焦がす炎が、俺のHPを奪っていった。
HPケージの減少が止まる。辛うじてグリーンゾーン。たった一発で、さっきのダメージと同等だった。
「グガァ……ッ!」
右方からもヨウスケのうめき声が聞こえた。
視線を一瞬向けると、まるで盾にでもなるように、チカの前に立ちふさがっていた。
アイツ……ビビリの癖に、何やってんだよ。
俺がヨウスケの行動に、そんな感情を抱いた瞬間。ファイアボールの雨はやみ、一瞬の静寂が訪れる。
「……硬直時間……ッ」
弱者狩りの大骨には、先程の術の物と思える、硬直が発生していた。相当大技で硬直時間も長いのか、まだ次の行動をしてくる気配は無い。
一気に仕掛けるなら今がチャンスだった。今すぐにでも切りかかるべき。
「ユカ、一気に行くぞ!」
「待って! 待ってユウキ君!」
あまりに必死そうに俺を呼びとめるユカの声に、俺は思わず身を硬直させる。
「お、おい何だよ! 今攻撃しねえと――」
「逃げよ?」
「……は?」
まさかの逃亡宣言に、俺はそんな声を漏らす。
「おいおい……仮にHPがゼロになっても、デスペナは無いんだろ? だったら――」
「嫌な予感がするの……お願い。今回だけでいい……だから、一緒に逃げて……」
弱弱しくそう言うユカの表情は、あまりにも真剣で……もう俺は、まだ戦うという意思表示を出せないでいた。
「……分かった」
俺はそう呟いてからヨウスケ達の方に視線を向ける。
どうやらチカのスタンは治っているらしく、ダメージを喰らった二人はポーションを飲んで回復し始めていた。
俺はそんな二人に、声を荒立てて叫ぶ。
「おい! 一旦引くぞ!」
「あ、ああ!」
ヨウスケはすぐに承認し、チカも一拍空けてから頷き、二人はこちらに走り出す。
だけど……間にあうか?
もし奴の標的が二人に向いたら……まだ回復も碌に済んでいない上、前衛が一人じゃどうにもならない。
となったら……やるしかない。
俺は弱者狩りの大骨目掛けて走り出した。
「ヨウスケ君!」
後方からユカの声が聞こえる。
「来るな!」
俺は大声でそう返し、今度はヨウスケ達に向けてこう叫ぶ。
「俺が時間を稼ぐ! さっさとボス部屋から出ろ!」
そう言った直後、俺は全力の攻撃を放ち、すぐに後ろへ飛んだ。
様は俺を攻撃対象にすればいいだけなのだ。深追いはする必要が無い。
だからこそ二人もいらないし……そもそも一人だからこそできる戦法だってある。
まあとにかく……此処からは攻撃は必要ない。ひたすら防御に徹しろ!
「ウゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
再び部屋の中に弱者狩りの大骨の咆哮が響き、その手の剣が振り下ろされる。
俺はそれに合わせて思いっきりカタナを振るい、バランスを崩しながらもなんとか受けきる。
……コレでいい。
「ウゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
「うらああああああああああああああああああああああッ!」
お互いが声を張り上げ続け、何度も何度も攻撃を打ちあう。無論、俺は防御に徹するだけで、攻撃する暇など無い。そんな物はいらない。
「ユウキ! もういい! 戻ってこい!」
背後からヨウスケの声が聞こえる。どうやら無事にたどり着いたらしい。
だからこそ……ここが正念場だ。
決して今すぐ逃げるんじゃない。もう少し粘って……待つんだ、あの攻撃を!
「グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
今までと同じ様に、弱者狩りの大骨が剣を構える。
だが……その剣が一瞬光ったのを俺は見逃さない。
「来た!」
スキルの発動……待っていたのはコレだ。
俺は迎え撃つように、全力でカタナを振るう。だが、当然力負けし、押しこまれる。
だけど……それでいいんだ。
「グァッ!」
俺はそんな声を漏らしながら、トランポリンの様に何度も地面をバウンドして……随分と入り口に近い所で止まる。
ただし俺にもスタンが掛ってしまっていた。だけど、これも計算の範囲内だ。
「ユカ!」
「う、うん!」
格好悪いが、俺はユカにおぶってもらい、部屋の外を目指す。
もしあの場面で二人で突っ込んでいたら、万が一俺がもっと早い段階で飛ばされ、さらにユカまで飛ばされてスタンすれば、完全に無防備になってしまうし、そもそも飛ばされる以外に、スイッチで交代せずに奴から逃れる方法なんてなさそうだし、二人で行ったら、二度コレを待たないといけなくなる。ソレはあまりにも危険だ。
「とりあえず……なんとか出られそうだな」
「うん……とりあえず一旦街に戻ろ」
既に距離をある程度置いた今、この部屋から脱出する事は容易な事で、俺達は無事ボスの部屋から脱出する。
俺達の初のボス戦は……異常事態の連発による、退散という事で終わりを迎えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その後、ザコモンスターとの戦いを極力退けつつはじまりの街に戻った俺達を出迎えたのは、今現在ログインしているプレイヤーのほぼ全員が集まっているんじゃないかと思うほどの人混みだった。
とても騒々しい……そしてそれぞれの表情は暗く曇ってしまっている。
「……俺達みたいに、なんかあったのか?」
ヨウスケが辺りを見渡してそうつぶやく。
「とりあえず誰かに聞いてみようぜ?」
聞かないことには事態を把握する事が出来ない。
俺はとりあえず近くに居た、二十代後半の長身の男に尋ねる。
「何かあったんですか?」
「何だ……お前らはまだ気付いていないのか?」
「気付く?」
「メニューを開いて、端から端まで良く見てみろ」
面倒くさそうに言った男の言葉を聞き、俺達はメニューを開く。
至って変哲もない。普通に色々な項目が……アレ?
「……無い」
チカがボソリと呟く。
そう……無かった。あるはずの無い一つの……もっと大切な項目が。
「ログアウトボタンが……消えてる?」
まるで初めからソコに何も無かったと言わんばかりに……跡形も無く。
つまりソレが何を指しているかというと……、
「ログアウト……不能?」
思わず疑問形でそう言ってしまったが、確信を持って言える。
俺達はログアウト出来ない。少なくとも今は。
「……無い」
「マジだ……マジでログアウト出来ねえ……」
「……無い、無い!」
チカが一人、ひたすらその言葉を復唱していた。
「いや、まあ確かにログアウト出来ねえのはマジで焦るけどさ……」
「……違う」
「違う?」
「メニューを開いたついでに、今兄さんがどこに居るのか探そうと思って……フレンドリストを。そしたら……無い。兄さんの名前が……何処にも」
初めて長々と喋ったチカの表情は、不安の塊と言っていい様な感じだった。
「どうしたんだ、その譲ちゃんの兄貴は」
「はい……さっきボスと戦ってたときに、HPが無くなって……そのまま砕け散ってしまったんです」
「ああ……お前らの所もか」
「お前らも……ってことは」
「ああ。今此処に居る奴の中にも、お前らと同じように、仲間が砕けて消えちまった奴が大勢いる。しかも、その内の誰一人として、はじまりの街に帰ってきてねえ。文字通り……砕けて消えちまったのさ」
なんだよ……ソレ。
「その消えた人達がどこに居るのか分かりますか!」
「しらねーよ。まあ自動でログアウトしたか……リアルのHPが尽きてしまったのか――」
「止めてください!」
男の言葉を遮る様に、チカが声を荒立てた。
「そんな縁起の悪い事……言わないでください」
そう言うチカは震えていて……見ているのもかわいそうだった。
「私……ちょっと兄さんを探してみます」
「ちょ、ちょっと待って!」
俺は走り出そうとするチカを引きとめる。
「とりあえずこうして知り合ったんだ。何かあった時の為に、とりあえずフレンド登録しておこう」
今こうした訳のわからない状況下に置かれた中で、面識のある人間は大いに越したことは無かった。
「は、はい……分かりました」
そう言って、チカは再び俺達の方に向きなおす。
「じゃあお前ら二人も……ってユカ?」
先ほどから何も喋っていないと思ったら……ユカもユカで、凄く深刻そうで……辛そうで……何と言っていいかも分からない表情を浮かべていた。
しかも、今の俺の声にも反応しいない。耳に入っていないのだろうか。
「おい。ユカ!」
「あ……なに?」
俺がもう一度呼び直して、ようやく反応した。
「いや、だから、とりあえず全員でフレンド登録しておこうって話」
「あ、うん。分かった」
「どうしたのユカちゃん。尋常じゃない程辛そうだけど……大丈夫?」
ヨウスケが心配そうに尋ね、ユカも大丈夫と返す。
全くもって、大丈夫そうではないのに。
「ま、まあとりあえず……フレンド登録っと」
ヨウスケが暗過ぎる場の空気を少しでも明るくしようとか、軽い感じで言いながら登録作業をするも……その表情が暗ければ、何も変わらない。寧ろ本人が虚しくなるだけだろう。
「じゃあ……私は兄さんを探しに行きます」
「見つかるといいな」
「はい……ありがとうございました」
チカはそう言い残して、人混みの中に埋もれていく。
そんなチカを見送りながら……ヨウスケが呟く。
「ホント……何が起きてるんだ?」
分からない。さっぱり分からない。
「ていうか……マジでリュークさん何処行ったんだよ」
しかも……運営からのアナウンスも何もない。だから俺達に、現状何が起こっているのかを、正確に把握する術が無い。
「……マジでなんなんだよ……」
俺がそう呟いた時だった。
「あの……とりあえず、私も……少し行かないといけないところがあるから……コレで失礼するね」
ユカが俺達にそう告げた。
「行かなくちゃいけないところ?」
ログアウトはできない。つまり街の中という事なのだが、こんな状況で行かなくちゃいけないところって……何処だ?
俺が尋ねようとする直前に、ユカはこう言う。
「また後で……会おうね。今日は楽しかった」
それだけ行ったユカは、急に人混みの中を走り出す。
あまりに急な事で、追いかけることもできなかった。
そして……俺達二人が残される。
「どうする?」
ヨウスケが訪ねてきた……けど答えようがない。
「……どうしようもねえよ」
俺にはそう呟くのが精いっぱいで……俺達は暫くその場に立ち尽くしていた。
「ク……ッ」
想像よりも、遥かに数が多い……どう交わせばいいかも、焦って検討が付かなくなる。
それでも何とか交わそうとするが……初見でこれを全て交わすのは、ハッキリ言って無理な話だった。
「グアッ!」
「ユウキ君!」
胸元にファイアボールがぶち当たる。直撃による衝撃、身を焦がす炎が、俺のHPを奪っていった。
HPケージの減少が止まる。辛うじてグリーンゾーン。たった一発で、さっきのダメージと同等だった。
「グガァ……ッ!」
右方からもヨウスケのうめき声が聞こえた。
視線を一瞬向けると、まるで盾にでもなるように、チカの前に立ちふさがっていた。
アイツ……ビビリの癖に、何やってんだよ。
俺がヨウスケの行動に、そんな感情を抱いた瞬間。ファイアボールの雨はやみ、一瞬の静寂が訪れる。
「……硬直時間……ッ」
弱者狩りの大骨には、先程の術の物と思える、硬直が発生していた。相当大技で硬直時間も長いのか、まだ次の行動をしてくる気配は無い。
一気に仕掛けるなら今がチャンスだった。今すぐにでも切りかかるべき。
「ユカ、一気に行くぞ!」
「待って! 待ってユウキ君!」
あまりに必死そうに俺を呼びとめるユカの声に、俺は思わず身を硬直させる。
「お、おい何だよ! 今攻撃しねえと――」
「逃げよ?」
「……は?」
まさかの逃亡宣言に、俺はそんな声を漏らす。
「おいおい……仮にHPがゼロになっても、デスペナは無いんだろ? だったら――」
「嫌な予感がするの……お願い。今回だけでいい……だから、一緒に逃げて……」
弱弱しくそう言うユカの表情は、あまりにも真剣で……もう俺は、まだ戦うという意思表示を出せないでいた。
「……分かった」
俺はそう呟いてからヨウスケ達の方に視線を向ける。
どうやらチカのスタンは治っているらしく、ダメージを喰らった二人はポーションを飲んで回復し始めていた。
俺はそんな二人に、声を荒立てて叫ぶ。
「おい! 一旦引くぞ!」
「あ、ああ!」
ヨウスケはすぐに承認し、チカも一拍空けてから頷き、二人はこちらに走り出す。
だけど……間にあうか?
もし奴の標的が二人に向いたら……まだ回復も碌に済んでいない上、前衛が一人じゃどうにもならない。
となったら……やるしかない。
俺は弱者狩りの大骨目掛けて走り出した。
「ヨウスケ君!」
後方からユカの声が聞こえる。
「来るな!」
俺は大声でそう返し、今度はヨウスケ達に向けてこう叫ぶ。
「俺が時間を稼ぐ! さっさとボス部屋から出ろ!」
そう言った直後、俺は全力の攻撃を放ち、すぐに後ろへ飛んだ。
様は俺を攻撃対象にすればいいだけなのだ。深追いはする必要が無い。
だからこそ二人もいらないし……そもそも一人だからこそできる戦法だってある。
まあとにかく……此処からは攻撃は必要ない。ひたすら防御に徹しろ!
「ウゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
再び部屋の中に弱者狩りの大骨の咆哮が響き、その手の剣が振り下ろされる。
俺はそれに合わせて思いっきりカタナを振るい、バランスを崩しながらもなんとか受けきる。
……コレでいい。
「ウゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
「うらああああああああああああああああああああああッ!」
お互いが声を張り上げ続け、何度も何度も攻撃を打ちあう。無論、俺は防御に徹するだけで、攻撃する暇など無い。そんな物はいらない。
「ユウキ! もういい! 戻ってこい!」
背後からヨウスケの声が聞こえる。どうやら無事にたどり着いたらしい。
だからこそ……ここが正念場だ。
決して今すぐ逃げるんじゃない。もう少し粘って……待つんだ、あの攻撃を!
「グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
今までと同じ様に、弱者狩りの大骨が剣を構える。
だが……その剣が一瞬光ったのを俺は見逃さない。
「来た!」
スキルの発動……待っていたのはコレだ。
俺は迎え撃つように、全力でカタナを振るう。だが、当然力負けし、押しこまれる。
だけど……それでいいんだ。
「グァッ!」
俺はそんな声を漏らしながら、トランポリンの様に何度も地面をバウンドして……随分と入り口に近い所で止まる。
ただし俺にもスタンが掛ってしまっていた。だけど、これも計算の範囲内だ。
「ユカ!」
「う、うん!」
格好悪いが、俺はユカにおぶってもらい、部屋の外を目指す。
もしあの場面で二人で突っ込んでいたら、万が一俺がもっと早い段階で飛ばされ、さらにユカまで飛ばされてスタンすれば、完全に無防備になってしまうし、そもそも飛ばされる以外に、スイッチで交代せずに奴から逃れる方法なんてなさそうだし、二人で行ったら、二度コレを待たないといけなくなる。ソレはあまりにも危険だ。
「とりあえず……なんとか出られそうだな」
「うん……とりあえず一旦街に戻ろ」
既に距離をある程度置いた今、この部屋から脱出する事は容易な事で、俺達は無事ボスの部屋から脱出する。
俺達の初のボス戦は……異常事態の連発による、退散という事で終わりを迎えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その後、ザコモンスターとの戦いを極力退けつつはじまりの街に戻った俺達を出迎えたのは、今現在ログインしているプレイヤーのほぼ全員が集まっているんじゃないかと思うほどの人混みだった。
とても騒々しい……そしてそれぞれの表情は暗く曇ってしまっている。
「……俺達みたいに、なんかあったのか?」
ヨウスケが辺りを見渡してそうつぶやく。
「とりあえず誰かに聞いてみようぜ?」
聞かないことには事態を把握する事が出来ない。
俺はとりあえず近くに居た、二十代後半の長身の男に尋ねる。
「何かあったんですか?」
「何だ……お前らはまだ気付いていないのか?」
「気付く?」
「メニューを開いて、端から端まで良く見てみろ」
面倒くさそうに言った男の言葉を聞き、俺達はメニューを開く。
至って変哲もない。普通に色々な項目が……アレ?
「……無い」
チカがボソリと呟く。
そう……無かった。あるはずの無い一つの……もっと大切な項目が。
「ログアウトボタンが……消えてる?」
まるで初めからソコに何も無かったと言わんばかりに……跡形も無く。
つまりソレが何を指しているかというと……、
「ログアウト……不能?」
思わず疑問形でそう言ってしまったが、確信を持って言える。
俺達はログアウト出来ない。少なくとも今は。
「……無い」
「マジだ……マジでログアウト出来ねえ……」
「……無い、無い!」
チカが一人、ひたすらその言葉を復唱していた。
「いや、まあ確かにログアウト出来ねえのはマジで焦るけどさ……」
「……違う」
「違う?」
「メニューを開いたついでに、今兄さんがどこに居るのか探そうと思って……フレンドリストを。そしたら……無い。兄さんの名前が……何処にも」
初めて長々と喋ったチカの表情は、不安の塊と言っていい様な感じだった。
「どうしたんだ、その譲ちゃんの兄貴は」
「はい……さっきボスと戦ってたときに、HPが無くなって……そのまま砕け散ってしまったんです」
「ああ……お前らの所もか」
「お前らも……ってことは」
「ああ。今此処に居る奴の中にも、お前らと同じように、仲間が砕けて消えちまった奴が大勢いる。しかも、その内の誰一人として、はじまりの街に帰ってきてねえ。文字通り……砕けて消えちまったのさ」
なんだよ……ソレ。
「その消えた人達がどこに居るのか分かりますか!」
「しらねーよ。まあ自動でログアウトしたか……リアルのHPが尽きてしまったのか――」
「止めてください!」
男の言葉を遮る様に、チカが声を荒立てた。
「そんな縁起の悪い事……言わないでください」
そう言うチカは震えていて……見ているのもかわいそうだった。
「私……ちょっと兄さんを探してみます」
「ちょ、ちょっと待って!」
俺は走り出そうとするチカを引きとめる。
「とりあえずこうして知り合ったんだ。何かあった時の為に、とりあえずフレンド登録しておこう」
今こうした訳のわからない状況下に置かれた中で、面識のある人間は大いに越したことは無かった。
「は、はい……分かりました」
そう言って、チカは再び俺達の方に向きなおす。
「じゃあお前ら二人も……ってユカ?」
先ほどから何も喋っていないと思ったら……ユカもユカで、凄く深刻そうで……辛そうで……何と言っていいかも分からない表情を浮かべていた。
しかも、今の俺の声にも反応しいない。耳に入っていないのだろうか。
「おい。ユカ!」
「あ……なに?」
俺がもう一度呼び直して、ようやく反応した。
「いや、だから、とりあえず全員でフレンド登録しておこうって話」
「あ、うん。分かった」
「どうしたのユカちゃん。尋常じゃない程辛そうだけど……大丈夫?」
ヨウスケが心配そうに尋ね、ユカも大丈夫と返す。
全くもって、大丈夫そうではないのに。
「ま、まあとりあえず……フレンド登録っと」
ヨウスケが暗過ぎる場の空気を少しでも明るくしようとか、軽い感じで言いながら登録作業をするも……その表情が暗ければ、何も変わらない。寧ろ本人が虚しくなるだけだろう。
「じゃあ……私は兄さんを探しに行きます」
「見つかるといいな」
「はい……ありがとうございました」
チカはそう言い残して、人混みの中に埋もれていく。
そんなチカを見送りながら……ヨウスケが呟く。
「ホント……何が起きてるんだ?」
分からない。さっぱり分からない。
「ていうか……マジでリュークさん何処行ったんだよ」
しかも……運営からのアナウンスも何もない。だから俺達に、現状何が起こっているのかを、正確に把握する術が無い。
「……マジでなんなんだよ……」
俺がそう呟いた時だった。
「あの……とりあえず、私も……少し行かないといけないところがあるから……コレで失礼するね」
ユカが俺達にそう告げた。
「行かなくちゃいけないところ?」
ログアウトはできない。つまり街の中という事なのだが、こんな状況で行かなくちゃいけないところって……何処だ?
俺が尋ねようとする直前に、ユカはこう言う。
「また後で……会おうね。今日は楽しかった」
それだけ行ったユカは、急に人混みの中を走り出す。
あまりに急な事で、追いかけることもできなかった。
そして……俺達二人が残される。
「どうする?」
ヨウスケが訪ねてきた……けど答えようがない。
「……どうしようもねえよ」
俺にはそう呟くのが精いっぱいで……俺達は暫くその場に立ち尽くしていた。
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