Sea Labyrinth Online
4 既に終わっていたという話 上
「チカちゃん趣味とかある?」
「スイーツ巡りです」
「あー、甘い物っておいしいよねー」
ボスの部屋へ向かう道中、ヨウスケがチカに色々と話しかけていた。
この元気の良さ。あと数分後には無くなるだろう。
「それにしても、よくβテストに参加出来ましたね」
俺は先頭を歩くリュークさんに、そう声を掛ける。
「いや、まあ運が良かっただけだよ……っと、モンスターだ」
通路の曲がり角から二匹の弱き者の残骨が現れ、俺達はそれぞれの武器を構える。
リュークさんの武器は俺と同じく太刀。チカはレイピアだった。
「じゃ、行こうか」
俺達は一斉に……いや、ヨウスケ以外は一斉に走り出す。
リュークさんが左手に居た弱き者の残骨に、カマイタチを喰らわせ、少し遅れて俺も右手の弱き者の残骨にカマイタチをヒットさせる。
カマイタチを喰らった弱き者の残骨は、大きく仰け反る。どうやらいい感じにヒットした見たいだ。
「ユカ!」
俺はパーティメンバーの頼りになる方の名前を呼んで横に跳び、弱き者の残骨の正面から離れる。
そして入れ替わる様に、ユカが飛び出してきた。
「ハァッ!」
弱き者の残骨の正面に躍り出たユカは、螺旋乱舞を繰り出す。
スイッチ成功だ。
俺達の連続攻撃で、弱き者の残骨のHPはほぼ削れた。だが若干残ってしまっている。
俺は再び弱き者の残骨に向かって走りだ……そうとしたら、弱き者の残骨の正面に居たユカの隣を、炎の球が横切り、弱き者の残骨に被弾した。
その体が燃え、HPバーが削れていき……弱き者の残骨消滅する。
俺達は経験値のリザルトを確認するよりも早く、炎の球の発生源に視線を向ける。
「うぉ……当たった!」
そこにはガッツポーズをしているヨウスケが居た。
なんだよ……やりゃできるじゃん。
「うぉら!」
隣でもそんな声が聞こえたので視線を向けると、リュークさんが弱き者の残骨にラストアタックを決め
、戦闘を終わらせていた。
「まあボス戦前の準備運動には、ちょうど良かったかな」
リュークさんはそう言った後、俺達に再び声を掛ける。
「どうやらあ、キミ達も大分戦闘に慣れてきた様だね。良い連携だったよ」
この人自分の戦闘中にコッチ見てたのかよ。すげえな。
「ありがとうございます……ところで」
俺はリュークさんに、少し気になっていた事を訪ねた。
「その武器は?」
リュークさんの持っているカタナは、少なくとも初期装備ではない。もう合成とかで作ったのだろうか。
「ああ。コレはね。βテスト参加者の特典の様な物だよ。まあ初期装備よりかは強いってだけで、いずれ変更しなくちゃいけないけど」
「うん……やっぱ、β出身者と、今始めた奴じゃ、それなりに溝がありますね」
「そんな事無いよ。どうせ俺達だって短期間やっただけなんだ。ある程度したら差は埋まるさ」
まあ……その差が早く埋まる様に頑張らないと。
「じゃ、その溝を少しでも埋められるよう、ボス戦頑張ろうか」
「はい!」
俺は元気よくそう返し……再び歩き出したリュークさんの後を追った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さ、此処がボスの部屋だ」
俺達の目の前に、巨大な扉がある。
その扉の前でリュークさんは立ち止まり、こちらに振りかえって俺達に話始める。
「じゃ、とりあえず此処のボス。弱者狩りの大骨のアルゴリズムを確認しておこうか」
モンスターのアルゴリズムが分かれば、ある程度攻略難易度は軽減される。ちゃんと聞いておかないと。
「まず奴には取り巻きがいない。そして、斬り下ろし、切り上げ、そして斬り払い攻撃を使用して来るが、斬り払い攻撃は、三人以上が奴の間合いに近づいた場合のみ発動する。アレは交わし辛い上に威力が頭一つ抜けている。だからアレは受けないようにしたい。幸いアイツ自体はその場から殆ど動かないタイプだから、ここは、ヨウスケ君の魔術による援護を受けながら、二人一組でスイッチといった風な戦法にしよう」
おお……大分有力な情報だな。多分俺達だけなら、三人一緒に突っ込んで……いや、そもそもヨウスケは突っ込んで来ないから変わらないか。
「で、問題は此処からだ。奴は、体力が五分の一になった瞬間から、スキルを使い始める」
「ど、どんなスキルっすかね?」
かなりビビリ気味に、ヨウスケが尋ねる。
「斬撃と、あと拡散型のファイアボールだ。まあ斬撃は各々のイメージ道理だと思うけど、拡散型のファイアボールは、初見はなかなかビビルぞ?」
ああ。なんとなくヨウスケがビビリまくってんのが目に浮かぶ。
「あと、その状況になったら、奴の方からこっちに突っ込んで来るようになる。そうなれば間合いを取るのは難しくなるから、ヨウスケ君以外の全員で特攻。これでいいか?」
「うん。いいと思うよ。なんか勝てる気がしてきた」
ユカの言うとおりだ。これだけ情報が揃っていれば、何も知らなかった時よりも自信がついてくる。
「じゃ、そんな訳で……行こうか」
リュークさんが扉を叩くと、物理法則を無視して、扉がゆっくりと開きだす。
「頑張ろうね、ユウキ君」
「おう!」
「俺は味方に当てないように頑張るからな」
「ソレはマジで徹底しろよ」
俺は一度ジト目でヨウスケを睨み、先に入って行った二人の後を追った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
学校の体育館位の広さの部屋の中心に、標的は居た。
全長5メートル程の人骨が、右手に剣を持っている。
「うわぁ……アレと戦うのかよ」
ヨウスケが情けない声でそう漏らす。
うん。確かにアレは……怖い。
「じゃあ、俺とチカで先に行く。合図したら入れ替わってくれ」
「分かりました」
そんなやり取りを交わし、俺達は走り出す。
リュークさんとチカは、そのまま弱者狩りの大骨の元へ。俺達はギリギリ間合いには間合いには入らず、すぐに入れ替われる立ち位置で剣を構える。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
弱者狩りの大骨は咆哮と共に、リュークさんに剣を振り下ろす。
「うらあああああああああッ!」
リュークさんはそれに合わせるように剣を振り、バランスを崩しながらもその一撃を受け止める。
「チカ!」
「分かってる」
静かにそう答えたチカは、レイピアに光を灯し骨を打ち抜く。
恐らくは、一撃の威力を増幅させるタイプの技だ。さっき弱き者の残骨と戦った時は聞こえなかったような、激しい衝突音が聞こえた。
そしてソレとほぼ同時。後方からファイアボールが飛んでくる。
味方の誰にも当たる事の無かったソレは、しっかりと攻撃対象に着弾し、燃え上がる。
僅かなダメージと隙を作ったその攻撃は、リュークさんが体制を立て戻す時間を稼ぎ、そして攻撃を打ち込む。
だが弱者狩りの大骨も、一筋縄ではいかない。
弱者狩りの大骨は、その剣をリュークさんを掬いあげる様に振り上げる。
「ちッ!」
リュークさんはそれをガードするが……そのまま高く打ち上げられてしまう。
そして、リュークさんとチカの両方に当てる様に剣を振り下ろす。弱者狩りの大骨はそんな構えを取った。
「スイッチ!」
リュークさんは空中でそう叫び、撃ち落とされる。
だが弱者狩りの大骨の剣の軌道に、既にチカはいない。
その代わりに……俺達が奴の間合いへと飛び込んでいた。
リュークさんは地面に叩きつけられた後のバウンドで、奴の間合いから離れている。よって、斬り払いは来ない。
「うおおおおおらあああああああああああッ!」
俺は奴が振り下ろした剣の上を数歩走って飛び、落下しながらカマイタチで切りつける。
それとほぼ同時に、ユカの螺旋乱舞が炸裂し、それに追い打ちを掛けるようにヨウスケのファイアボールが骨を燃やす。
いい感じだった。
SLOのポーションはジワジワと回復していくタイプだから、リュークさんの回復が済むまでは取りあえず持ちこたえなきゃだけど……問題無くやれそうだ。
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
弱者狩りの大骨が咆哮と共に、再び剣を振り下ろす。
対象は俺。ならすることは一つだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
迎え討……ってちょっと待て。
今一瞬……奴の剣が光らなかったか?
「ガァ……ッ」
迎え撃つために振るった俺の攻撃は、いとも簡単に押し負けた。しかもそれだけじゃない。そのまま力で押しこまれて弾かれ、俺は何度も地面をバウンドする。
視界に映るHPバーがどんどん減っていくのが分かった。攻撃事態は防いだのに、そのあとのバウンドだけで……すでに俺のHPは全快から3分の2へ。まだグリーンだが、あともう少し減ったらケージがイエローに変わってしまう。
「ク……ッ」
何が起こった?
明らかに今のは通常攻撃なんかじゃない。スキルだ。
情報が……間違っていたのか?
視界の先では、俺と入れ替わる様にチカが走り出している。
「今……スキルが発動しなかったか?」
隣でポーションで回復中のリュークさんが、俺にそう声を掛けてきた。
「ええ。多分アレはスキルです。威力が尋常じゃありませんでしたから」
俺も同じようにポーションを使用しながら、そう返す。
「まさかβ版からアルゴリズムが変わっているのか?」
「そんな事ってあるんですか?」
「まああくまで、β版はテストプレイだからね……あってもおかしくない筈だ。だけど……」
リュークさんは一拍空けて続ける。
「そもそも、勝たせてなんぼの東側ダンジョンを、あえて強化する必要性があるとは思えない。コイツのバランスは、満場一致でちょうどいいという評価だった筈だ。それがなんで……」
そう言った直後、リュークさんの回復が終わり、同時に……ユカが飛ばされてきた!
「ユカ!」
俺は思わずそう叫ぶ。
ユカは俺と同じように何度もバウンドして、俺の正面辺りで止まり、ユカと入れ替わる様に、回復がほぼ終わったリュークさんが走っていく。
俺はそんなリュークさんに視線を一瞬向けてから、すぐにユカへと視線を戻す。
「大丈夫か?」
「うん……ただHPはギリギリイエローで踏みとどまっているって感じだけど」
HPも防御も上げてなかったからな。俺と同じ攻撃をされても、ケージのヘ減りは変わってくるか。
「まあとりあえずポーション飲んどけ」
「う、うん……」
そう答えるものの……ユカはどこか動揺した感じだった。まあ俺も同じだけど、俺よりも1ランク上の動揺っつーか……まあ案外予想外の出来事に対応出来ないタイプなのかも知れない。
「でも……なんで、あんな……」
いや、本当にソレだけだろうか。
ユカの動揺っぷりは、そういうタイプではない気がする。
実は言っていないだけで、βテスターとか。そうであれば……何度もコイツと戦っていって、リュークさんの様に、アルゴリズムをしっかり把握していたなら……自分の予想通りに行かなかった動揺は、きっと俺達よりも大きい。
ソレでもほぼ揺らがないリュークさんは、恐らくメンタルが強いんだろう。だけどまあ、普通なら動揺を隠せないのかも知れない。
「まあとにかく、βと変わっちまってるもんは仕方ねえんだ。ポジティブに行こうぜ」
βと違っていようが何だろうが……どうせ死んでもデスペナが無い。変わっていた所為で負けた時は、また行動パターンを覚えなおせばいいだけだ。
「う、うん……そうだね」
少しだけユカの表情が明るくなる。それでいい。
「で、あと体力は半分くらいか……」
初心者向けのボスだからか、減りは早い。もう折りかえし地点だ。
その半分のHPも、ヨウスケのファイアボール。そしてリュークさんとチカの攻撃で削れていく。
俺達のHPが回復しきる頃には、問題の5分の1ゾーンまでいきそうだ――。
「リュークさん! チカ!」
俺は目の前に映った光景に、思わず叫んだ。
弱者狩りの大骨の攻撃モーションが……明らかに違っていた。
まるで剣を水平に振るう様なモーション。きっと上下攻撃しか想定していなかったであろうリュークさんとチカは、俺の叫びによって、ようやくその異変に気付いた。
だが……もう遅い。
「ぐぁッ!」
水兵に振るわれた弱者狩りの大骨の剣は、ガードし損ねたリュークさんの体を抉り、部屋の端へ弾き飛ばす。
若干リュークさんと距離が開いていたからか、チカは辛うじて防御をする。だが……、
「キャッ!」
同じように……軽々と飛ばされる。
なんだよコレ……マジで全然話と違うじゃねえか。
間合いには二人しかいなかった。だけど横払いは発動した。
もう……何が起こるか分からないじゃねえか。
「お、おい! ヤベえんじゃねえか!」
ヨウスケがファイアボールを放ちながら、焦り気味にそう口にする。
そう……マジでヤバイ。
両者とも今の攻撃で、一定期間身動きが取れなくなる状態異常『スタン』に掛ってしまっている。
それに加えて……今の勢いで飛ぶ程の攻撃を、リュークさんはガードも無しにモロで喰らってしまったんだ。多分HPがゼロになる。だけど両者スタンでアイテムすら使用できない状況だ。
「ヨウスケ、お前蘇生アイテム持ってるよな!」
「お、おう。最初から全員一つは持ってるっぽいし」
「じゃあ魔術はいいから、リュークさんのHPがゼロになったら、消える前に蘇生してくれ」
SLOはHPがゼロになったプレイヤーが街に送られるまで、15秒の猶予期間が与えられる。その間に蘇生アイテムを使用すれば、復活することができる。
「ソレなら足の速い私が!」
「いや、正直もうアイツが何をしてくるか分からない。だったら、俺達がアイツを引きつけとかねえと!」
5分の1になるまで動かない? そんな保証はもう無い。
じゃあ俺達が引きつけておかないと、仮にあの二人の所にアイツが斬撃や直接攻撃を仕掛けに行った場合、近づけなくなってしまうばかりか、同じようにやられてしまう。
それに、俺だけじゃアイツを引きつけておける自信が無い。すぐにやられてしまいそうだ。つまり今この場で動けるのはヨウスケだけという事だ。
「ヨウスケ!」
「お、おう!」
ヨウスケが全力で走りだすのを見て、俺と、まだ体力がグリーンゾーンに突入したばかりのユカが弱者狩りの大骨へと走り出す。
だけど……すぐにその足は止まった。
「……は?」
視界の端に映っていたリュークさんの体が……砕け散った。
まだ猶予期間は始まっていない。多分体力がゼロになっただけだろう。
しかも、SLOで街に戻される時、プレイヤーの体は透き通る様に消えて無くなる筈なのに……ガラスを割る様に砕け散った。
「……え?」
棒立ちのユカが、リュークさんの居た場所に視線を向け、力無い声でそう漏らす。
「ウソ……アレって……」
アレ……アレってなんだよ。
俺がそう尋ねる直前に……奴は動き出した。
その左手に炎の塊を出現させ、部屋中に拡散させる。それはもう無差別に……流星群の如く、炎の球が俺達に降り注ぐ。
「スイーツ巡りです」
「あー、甘い物っておいしいよねー」
ボスの部屋へ向かう道中、ヨウスケがチカに色々と話しかけていた。
この元気の良さ。あと数分後には無くなるだろう。
「それにしても、よくβテストに参加出来ましたね」
俺は先頭を歩くリュークさんに、そう声を掛ける。
「いや、まあ運が良かっただけだよ……っと、モンスターだ」
通路の曲がり角から二匹の弱き者の残骨が現れ、俺達はそれぞれの武器を構える。
リュークさんの武器は俺と同じく太刀。チカはレイピアだった。
「じゃ、行こうか」
俺達は一斉に……いや、ヨウスケ以外は一斉に走り出す。
リュークさんが左手に居た弱き者の残骨に、カマイタチを喰らわせ、少し遅れて俺も右手の弱き者の残骨にカマイタチをヒットさせる。
カマイタチを喰らった弱き者の残骨は、大きく仰け反る。どうやらいい感じにヒットした見たいだ。
「ユカ!」
俺はパーティメンバーの頼りになる方の名前を呼んで横に跳び、弱き者の残骨の正面から離れる。
そして入れ替わる様に、ユカが飛び出してきた。
「ハァッ!」
弱き者の残骨の正面に躍り出たユカは、螺旋乱舞を繰り出す。
スイッチ成功だ。
俺達の連続攻撃で、弱き者の残骨のHPはほぼ削れた。だが若干残ってしまっている。
俺は再び弱き者の残骨に向かって走りだ……そうとしたら、弱き者の残骨の正面に居たユカの隣を、炎の球が横切り、弱き者の残骨に被弾した。
その体が燃え、HPバーが削れていき……弱き者の残骨消滅する。
俺達は経験値のリザルトを確認するよりも早く、炎の球の発生源に視線を向ける。
「うぉ……当たった!」
そこにはガッツポーズをしているヨウスケが居た。
なんだよ……やりゃできるじゃん。
「うぉら!」
隣でもそんな声が聞こえたので視線を向けると、リュークさんが弱き者の残骨にラストアタックを決め
、戦闘を終わらせていた。
「まあボス戦前の準備運動には、ちょうど良かったかな」
リュークさんはそう言った後、俺達に再び声を掛ける。
「どうやらあ、キミ達も大分戦闘に慣れてきた様だね。良い連携だったよ」
この人自分の戦闘中にコッチ見てたのかよ。すげえな。
「ありがとうございます……ところで」
俺はリュークさんに、少し気になっていた事を訪ねた。
「その武器は?」
リュークさんの持っているカタナは、少なくとも初期装備ではない。もう合成とかで作ったのだろうか。
「ああ。コレはね。βテスト参加者の特典の様な物だよ。まあ初期装備よりかは強いってだけで、いずれ変更しなくちゃいけないけど」
「うん……やっぱ、β出身者と、今始めた奴じゃ、それなりに溝がありますね」
「そんな事無いよ。どうせ俺達だって短期間やっただけなんだ。ある程度したら差は埋まるさ」
まあ……その差が早く埋まる様に頑張らないと。
「じゃ、その溝を少しでも埋められるよう、ボス戦頑張ろうか」
「はい!」
俺は元気よくそう返し……再び歩き出したリュークさんの後を追った。
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「さ、此処がボスの部屋だ」
俺達の目の前に、巨大な扉がある。
その扉の前でリュークさんは立ち止まり、こちらに振りかえって俺達に話始める。
「じゃ、とりあえず此処のボス。弱者狩りの大骨のアルゴリズムを確認しておこうか」
モンスターのアルゴリズムが分かれば、ある程度攻略難易度は軽減される。ちゃんと聞いておかないと。
「まず奴には取り巻きがいない。そして、斬り下ろし、切り上げ、そして斬り払い攻撃を使用して来るが、斬り払い攻撃は、三人以上が奴の間合いに近づいた場合のみ発動する。アレは交わし辛い上に威力が頭一つ抜けている。だからアレは受けないようにしたい。幸いアイツ自体はその場から殆ど動かないタイプだから、ここは、ヨウスケ君の魔術による援護を受けながら、二人一組でスイッチといった風な戦法にしよう」
おお……大分有力な情報だな。多分俺達だけなら、三人一緒に突っ込んで……いや、そもそもヨウスケは突っ込んで来ないから変わらないか。
「で、問題は此処からだ。奴は、体力が五分の一になった瞬間から、スキルを使い始める」
「ど、どんなスキルっすかね?」
かなりビビリ気味に、ヨウスケが尋ねる。
「斬撃と、あと拡散型のファイアボールだ。まあ斬撃は各々のイメージ道理だと思うけど、拡散型のファイアボールは、初見はなかなかビビルぞ?」
ああ。なんとなくヨウスケがビビリまくってんのが目に浮かぶ。
「あと、その状況になったら、奴の方からこっちに突っ込んで来るようになる。そうなれば間合いを取るのは難しくなるから、ヨウスケ君以外の全員で特攻。これでいいか?」
「うん。いいと思うよ。なんか勝てる気がしてきた」
ユカの言うとおりだ。これだけ情報が揃っていれば、何も知らなかった時よりも自信がついてくる。
「じゃ、そんな訳で……行こうか」
リュークさんが扉を叩くと、物理法則を無視して、扉がゆっくりと開きだす。
「頑張ろうね、ユウキ君」
「おう!」
「俺は味方に当てないように頑張るからな」
「ソレはマジで徹底しろよ」
俺は一度ジト目でヨウスケを睨み、先に入って行った二人の後を追った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
学校の体育館位の広さの部屋の中心に、標的は居た。
全長5メートル程の人骨が、右手に剣を持っている。
「うわぁ……アレと戦うのかよ」
ヨウスケが情けない声でそう漏らす。
うん。確かにアレは……怖い。
「じゃあ、俺とチカで先に行く。合図したら入れ替わってくれ」
「分かりました」
そんなやり取りを交わし、俺達は走り出す。
リュークさんとチカは、そのまま弱者狩りの大骨の元へ。俺達はギリギリ間合いには間合いには入らず、すぐに入れ替われる立ち位置で剣を構える。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
弱者狩りの大骨は咆哮と共に、リュークさんに剣を振り下ろす。
「うらあああああああああッ!」
リュークさんはそれに合わせるように剣を振り、バランスを崩しながらもその一撃を受け止める。
「チカ!」
「分かってる」
静かにそう答えたチカは、レイピアに光を灯し骨を打ち抜く。
恐らくは、一撃の威力を増幅させるタイプの技だ。さっき弱き者の残骨と戦った時は聞こえなかったような、激しい衝突音が聞こえた。
そしてソレとほぼ同時。後方からファイアボールが飛んでくる。
味方の誰にも当たる事の無かったソレは、しっかりと攻撃対象に着弾し、燃え上がる。
僅かなダメージと隙を作ったその攻撃は、リュークさんが体制を立て戻す時間を稼ぎ、そして攻撃を打ち込む。
だが弱者狩りの大骨も、一筋縄ではいかない。
弱者狩りの大骨は、その剣をリュークさんを掬いあげる様に振り上げる。
「ちッ!」
リュークさんはそれをガードするが……そのまま高く打ち上げられてしまう。
そして、リュークさんとチカの両方に当てる様に剣を振り下ろす。弱者狩りの大骨はそんな構えを取った。
「スイッチ!」
リュークさんは空中でそう叫び、撃ち落とされる。
だが弱者狩りの大骨の剣の軌道に、既にチカはいない。
その代わりに……俺達が奴の間合いへと飛び込んでいた。
リュークさんは地面に叩きつけられた後のバウンドで、奴の間合いから離れている。よって、斬り払いは来ない。
「うおおおおおらあああああああああああッ!」
俺は奴が振り下ろした剣の上を数歩走って飛び、落下しながらカマイタチで切りつける。
それとほぼ同時に、ユカの螺旋乱舞が炸裂し、それに追い打ちを掛けるようにヨウスケのファイアボールが骨を燃やす。
いい感じだった。
SLOのポーションはジワジワと回復していくタイプだから、リュークさんの回復が済むまでは取りあえず持ちこたえなきゃだけど……問題無くやれそうだ。
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
弱者狩りの大骨が咆哮と共に、再び剣を振り下ろす。
対象は俺。ならすることは一つだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
迎え討……ってちょっと待て。
今一瞬……奴の剣が光らなかったか?
「ガァ……ッ」
迎え撃つために振るった俺の攻撃は、いとも簡単に押し負けた。しかもそれだけじゃない。そのまま力で押しこまれて弾かれ、俺は何度も地面をバウンドする。
視界に映るHPバーがどんどん減っていくのが分かった。攻撃事態は防いだのに、そのあとのバウンドだけで……すでに俺のHPは全快から3分の2へ。まだグリーンだが、あともう少し減ったらケージがイエローに変わってしまう。
「ク……ッ」
何が起こった?
明らかに今のは通常攻撃なんかじゃない。スキルだ。
情報が……間違っていたのか?
視界の先では、俺と入れ替わる様にチカが走り出している。
「今……スキルが発動しなかったか?」
隣でポーションで回復中のリュークさんが、俺にそう声を掛けてきた。
「ええ。多分アレはスキルです。威力が尋常じゃありませんでしたから」
俺も同じようにポーションを使用しながら、そう返す。
「まさかβ版からアルゴリズムが変わっているのか?」
「そんな事ってあるんですか?」
「まああくまで、β版はテストプレイだからね……あってもおかしくない筈だ。だけど……」
リュークさんは一拍空けて続ける。
「そもそも、勝たせてなんぼの東側ダンジョンを、あえて強化する必要性があるとは思えない。コイツのバランスは、満場一致でちょうどいいという評価だった筈だ。それがなんで……」
そう言った直後、リュークさんの回復が終わり、同時に……ユカが飛ばされてきた!
「ユカ!」
俺は思わずそう叫ぶ。
ユカは俺と同じように何度もバウンドして、俺の正面辺りで止まり、ユカと入れ替わる様に、回復がほぼ終わったリュークさんが走っていく。
俺はそんなリュークさんに視線を一瞬向けてから、すぐにユカへと視線を戻す。
「大丈夫か?」
「うん……ただHPはギリギリイエローで踏みとどまっているって感じだけど」
HPも防御も上げてなかったからな。俺と同じ攻撃をされても、ケージのヘ減りは変わってくるか。
「まあとりあえずポーション飲んどけ」
「う、うん……」
そう答えるものの……ユカはどこか動揺した感じだった。まあ俺も同じだけど、俺よりも1ランク上の動揺っつーか……まあ案外予想外の出来事に対応出来ないタイプなのかも知れない。
「でも……なんで、あんな……」
いや、本当にソレだけだろうか。
ユカの動揺っぷりは、そういうタイプではない気がする。
実は言っていないだけで、βテスターとか。そうであれば……何度もコイツと戦っていって、リュークさんの様に、アルゴリズムをしっかり把握していたなら……自分の予想通りに行かなかった動揺は、きっと俺達よりも大きい。
ソレでもほぼ揺らがないリュークさんは、恐らくメンタルが強いんだろう。だけどまあ、普通なら動揺を隠せないのかも知れない。
「まあとにかく、βと変わっちまってるもんは仕方ねえんだ。ポジティブに行こうぜ」
βと違っていようが何だろうが……どうせ死んでもデスペナが無い。変わっていた所為で負けた時は、また行動パターンを覚えなおせばいいだけだ。
「う、うん……そうだね」
少しだけユカの表情が明るくなる。それでいい。
「で、あと体力は半分くらいか……」
初心者向けのボスだからか、減りは早い。もう折りかえし地点だ。
その半分のHPも、ヨウスケのファイアボール。そしてリュークさんとチカの攻撃で削れていく。
俺達のHPが回復しきる頃には、問題の5分の1ゾーンまでいきそうだ――。
「リュークさん! チカ!」
俺は目の前に映った光景に、思わず叫んだ。
弱者狩りの大骨の攻撃モーションが……明らかに違っていた。
まるで剣を水平に振るう様なモーション。きっと上下攻撃しか想定していなかったであろうリュークさんとチカは、俺の叫びによって、ようやくその異変に気付いた。
だが……もう遅い。
「ぐぁッ!」
水兵に振るわれた弱者狩りの大骨の剣は、ガードし損ねたリュークさんの体を抉り、部屋の端へ弾き飛ばす。
若干リュークさんと距離が開いていたからか、チカは辛うじて防御をする。だが……、
「キャッ!」
同じように……軽々と飛ばされる。
なんだよコレ……マジで全然話と違うじゃねえか。
間合いには二人しかいなかった。だけど横払いは発動した。
もう……何が起こるか分からないじゃねえか。
「お、おい! ヤベえんじゃねえか!」
ヨウスケがファイアボールを放ちながら、焦り気味にそう口にする。
そう……マジでヤバイ。
両者とも今の攻撃で、一定期間身動きが取れなくなる状態異常『スタン』に掛ってしまっている。
それに加えて……今の勢いで飛ぶ程の攻撃を、リュークさんはガードも無しにモロで喰らってしまったんだ。多分HPがゼロになる。だけど両者スタンでアイテムすら使用できない状況だ。
「ヨウスケ、お前蘇生アイテム持ってるよな!」
「お、おう。最初から全員一つは持ってるっぽいし」
「じゃあ魔術はいいから、リュークさんのHPがゼロになったら、消える前に蘇生してくれ」
SLOはHPがゼロになったプレイヤーが街に送られるまで、15秒の猶予期間が与えられる。その間に蘇生アイテムを使用すれば、復活することができる。
「ソレなら足の速い私が!」
「いや、正直もうアイツが何をしてくるか分からない。だったら、俺達がアイツを引きつけとかねえと!」
5分の1になるまで動かない? そんな保証はもう無い。
じゃあ俺達が引きつけておかないと、仮にあの二人の所にアイツが斬撃や直接攻撃を仕掛けに行った場合、近づけなくなってしまうばかりか、同じようにやられてしまう。
それに、俺だけじゃアイツを引きつけておける自信が無い。すぐにやられてしまいそうだ。つまり今この場で動けるのはヨウスケだけという事だ。
「ヨウスケ!」
「お、おう!」
ヨウスケが全力で走りだすのを見て、俺と、まだ体力がグリーンゾーンに突入したばかりのユカが弱者狩りの大骨へと走り出す。
だけど……すぐにその足は止まった。
「……は?」
視界の端に映っていたリュークさんの体が……砕け散った。
まだ猶予期間は始まっていない。多分体力がゼロになっただけだろう。
しかも、SLOで街に戻される時、プレイヤーの体は透き通る様に消えて無くなる筈なのに……ガラスを割る様に砕け散った。
「……え?」
棒立ちのユカが、リュークさんの居た場所に視線を向け、力無い声でそう漏らす。
「ウソ……アレって……」
アレ……アレってなんだよ。
俺がそう尋ねる直前に……奴は動き出した。
その左手に炎の塊を出現させ、部屋中に拡散させる。それはもう無差別に……流星群の如く、炎の球が俺達に降り注ぐ。
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