Sea Labyrinth Online

山外大河

2 初陣

「あ、あの……」

 歩き出した直後、ショートカットが特徴の整った顔の少女が、俺達に声を掛けてきた。

「えーっと、何か――」

「なになに、どうしたの!」

 突然テンションを急上昇させたヨウスケが、俺の声を掻き消して少女にそう声を掛ける。

「テンション上げすぎ。ビビってんだろ」

 まあテンションが上がるのは無理もない。
 だって……すげえ可愛いからな。
 俺も表面上は平然を保っているが、実際テンション上がりまくりだからな。それにこのゲームは、容姿をそのままキャラメイクに使うので、ネトゲでよくあるネカマが存在する心配はない。それがテンションを上げる要因の一つになっていた。
 俺はそうして上がったテンションを表に出さずに、少女と会話を始める。

「で、どうしたの?」

「あの……パーティメンバー探しているみたいだったから……あ、別に自分の事を可愛いとか思った訳じゃないよ!」

 自分の事をナルシストだとか思われたくないのか、あわてる様にそう付け足す。
 まあ……普通に可愛いんだけどな。

「という事は、俺達とパーティー組みたいの?」

「うん……なかなかパーティを組むのって勇気が居るし……ちょうどキミ達みたいに、パーティメンバーを探している人を探していたんだ」

 ヨウスケが目をキラキラさせて聞いた問いに、少女はそう答える。
 まあ確かに、パーティ探しは案外大変かもな。実際に会って話すわけだから、街中で知らない人を遊びに誘うみたいなもんだし……そう考えると、それなりのコミュ力があっても、なかなか辛いんじゃねえか? パーティ組むの。
 そう考えると……気軽に話しかけられる友人が、無事購入できた俺は、非常に運が良かったという訳だ。

「それで……どうかな?」

「うん、いいよー、大歓迎だよー!」

 両手を挙げてヨウスケがそう返す。
 なんかもう、ヨウスケのテンションが臨界点を突破しちゃってるんだが……ホラ、お前の反応に、若干驚いてるぞ、この子。

「俺達でよかったら、歓迎するよ」

 俺はヨウスケを反面教師にし、落ち着いてそう返す。まあ、反面教師にしなくても、あそこまでテンションを表面に出すことは、絶対にしないと思う。アイツが特別高いだけだ。

「あ、私ユカ。二人の名前は?」

 少女、ユカが自己紹介をし、俺達に名前を聞いてくる。
 一応会話相手の名前は分かるのだけど……やっぱ教えてもないのに呼ばれるのは違和感があるから、自己紹介はしておいた方がいいだろう。

「あ、俺はヨウスケね! ちなみに武器はショートソードね。変えるかもだけど」

「俺はユウキ。武器は太刀な。えーっと……よろしく」

「うん! よろしくね、ヨウスケにユウキ!」

 俺たちはそれぞれ自己紹介を終える。で、俺は、ユカに聞いておきたい情報を聞くことにした。

「ちなみに、ユカの装備は?」

「あ、私は双剣。手数が多いと強そうだからね」

 なるほど。俺みたいに、ただカッコいいからっていう理由じゃなく、ちゃんとした理由があるんだな。確かに手数多いと強そうだし。
 まあとにかく、全員武器は被っていないようで良かった。
 まあ結果的に、全員近接型となった訳だが、序盤なら別にそこまで気にする必要も無いだろう。

「とりあえず、これでパーティも揃った。つーわけで、狩行ってみるか?」

「そうだね。せっかくパーティ組んだんだし」

「よし、じゃあ気合入れて行こー!」

 そんな訳で、俺達は初狩へと向かう事となった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 俺達は街を出るため、街の東門へとやってきていた。
 始まりの街には、東、西、北と三つの出入り口があり、その中でも東門の先にあるマップはモンスターも弱く、初心者の狩り場となっているらしい。さっきNPCに聞いた。

「さ、準備はいいか?」

 俺は二人に尋ねる。

「問題ねーよ」

「私も大丈夫」

「よし」

 その確認を取り終え、俺達は微動だにしない門番を横切り……ついにフィールドへと一歩踏み出した。

「うわ……」

 広がる世界がそこにはあった。
 東門から出られるフィールドは、初心者向けとあって、それほどの広さでは無いらしい。
 だけど、一面に大地が広がっていて……そこにはモンスター達や、ソレを覚束ない様子で狩るプレイヤー。そして大地の果てには、海底の青。
 改めて……俺が居る世界に、とてつもない程の興味が沸いてきた。
 一階層から最終階層。そのすべてを冒険し尽くしたい。その意欲があふれ出てくる。 

「……あのモンスターとか、マジで生きているみたいだよな」

 ヨウスケがそう呟き、俺達二人が頷く。
 アレがプログラムだなんて、正直まだ実感が無い。 

「私達、今からその、本当に生きてるみたいなモンスターと戦うんだよね」

「だよなぁ……ホントに勝てんのかな?」

 ヨウスケが自信なさげにそう言う。

「まあ、怖がって棒立ちとかしてなかったら、勝てると思うよ。私が聞いた話じゃ、この辺に出るモンスターは、本当に弱いらしいから」

「へぇ……まあ何にせよ、やらない事には始まらないよな」

「お、おう……じゃあ行こうぜ、二人とも」

 ヨウスケが、弱弱しくそう言ったのを合図に、俺たちはフィールドを掛け出した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「うおおおおおらああああああああああああああッ!」

 俺は正面の羊型モンスター。アクアシープに向かって、全力でカタナ系の初期装備のである≪古びたカタナ≫を振るった。
 レベル1の段階ではスキルを覚えていない。レベルアップボーナスのポイントを使用することで、ようやく最初のスキルを会得する事ができるのだ。故に通常攻撃での戦闘になっている。
 だけどまあ、ユカの情報通り、確かに此処に出現するモンスター≪アクアシープ≫は弱かった。攻撃は突進のみだし、その突進すらも遅い。
 だから攻撃を交わして、そこに打ち込む。この単純動作だけで、十分なんとかなる。
 そういった余裕があるので俺は、それぞれ同じく、アクアシープと戦っている二人の戦闘に視線を向けた。

「はッ!」

 本当に無駄の無い動きで攻撃を交わしたユカは、流れる様に攻撃を繰り出す。
 同じレベル1なのに、随分とレベルが離れているようにも思えた。他のVRMMOを相当やりこんでいたのかな。
 一方ヨウスケはというと……

「ちょ、待てよオイ! う、動くな! 黙って攻撃させ、ウォッ! 突進怖!」

 物凄い腰が引けて、ビビリ発言しまくっているという、非常に残念な状態に陥っていた。

「おーい。いくらゲームでも、もう少し真剣にやれよー」

「お、俺はしんけ……ってあぶねえ!」

 ヨウスケは転がるように、アクアシープの攻撃を交わす。

「クソ……ジンギスカンにされたくなかったら、あっち行けよ!」

「いや、俺達コイツら狩りにきたんだから、どっか行ったら駄目だろう」

 俺は攻撃を交わしながら、ジト目で突っ込む。

「こっち、終わったよー」

 ヨウスケがヘタレプレイをしている間に、ユカは自分の担当分を終わらせていた。

「とりあえず、ヨウスケの救援に向かってくれ! 俺も片づけて加勢する」

「分かった!」

 そんな風なやり取りを交わし、俺は再び目の前のアクアシープに神経を集中させる。
 突進してくるアクアシープに合わせ、俺も走り出す。
 交差する直前に刀を構え、突進を交わし、交差したアクアシープを切り抜いた。
 背後でモンスターの消滅音が聞こえる……どうやら今の攻撃がラストアタックになったようだった。

「ふぅ……」

 初めて自分でモンスターを倒した。これはいくらアクアシープが弱いとはいえ、もの凄い達成感を俺に与えた。今なら何だって倒せそうな気分だ。
 ……さてと。とりあえずまだ戦闘中だ。ヨウスケに加戦しよう。

「おーい。大丈夫かヨウスケ」

 振り向いた直後、ユカがラストアタックを決めた。

「ど、どうだ……俺も倒したぜ?」

「多分殆どユカのおかげだろう」

 俺はヨウスケをジト目で睨むが、すぐにフォローを入れてやる。

「まあ案外最初はビビりまくるプレイヤーも多いみたいだし、慣れればお前も普通に戦えるようになるよ」

「お、おお……マジでか」

「うん。多分なれるよ!」

 ユカもそう言う……が、多分という事は、絶対とは言い切れないほどの逃げ腰っプリだったんだろう。
 まあとりあえず……初戦は勝利だ!
 俺は少々遅くなったが、ガッツポーズし、そして直ぐに切り替えて二人にこう言う。

「じゃ、もうちょっと頑張ってみようぜ」

「うん!」

「お、おう……」

 ヨウスケがあまり乗り気じゃなさそうだったのは目を瞑り、俺たちは再びフィールドを走り出した。

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