学の知らないラストシーン

　ごく普通の会社のオフィス。そこに九郷用は椅子に座っていた。
　そこで読んでる資料は学から送られてきた報告書だった。
　「結局、日高香までたどり着いた理由は書かれてないか」
　そうボヤくと資料を投げ捨てた。
　「組織に忠誠心を誓う。上辺だけでどこまでやれるか」
　九郷用の顔に薄ら笑いが浮かんでいた。
　「そうだ、君もご苦労さま。しばらくは休んでいいよ。学くんに見つからないようにね」
　九郷は向いた先には一人の少女が立っていた。
　それは、死んだはずの安藤栄子だった。
　「しかし、いいのでしょうか？」
　「ん？何がだい？」
　彼女の問いに九郷は首をかしげる。
　「今回の事件に学を投入したことです。彼の顔が島崎浩一郎と同じだったことに何か気づかれませんか？」
　「気づくだろうよ。彼はそれほど馬鹿ではない」
　「では、なぜこの任務を彼に？」
　「彼も不思議がってる事があったからだよ。遺伝子ドーピングは決してオーバーテクノロジーというわけではない。専門家にコネと金があれば普通の人だって受けれる。そんなものが、その程度のものが、なぜこの組織で実験されてたのかと」
　「わかりませんね。それを彼がどう思うが関係ないのでは？」
　「情でも移ったのかもしれないな。ヒントをあげたかったのさ。お前が改造人間と呼ばれる所以はそんなもんじゃないと」
　九郷用は楽しげに笑い、安藤栄子は理解できないと表情を見せる。
　「さて、今回の事件について彼の感想でも聞いてみようか？」
　九郷は机にあった電話の受話器を手に取る。
　「どなたに聞かれるのですか？」
　「決まってるだろ？島崎浩一郎だ」

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