続 他称改造人間になった俺

チョーカー

笑い声と事実

 島崎邸を後にして10分ほど、携帯端末が音を鳴らす。
 狙ったようなタイミングだ。まぁ、実際に狙っていたのだろう。
 『やぁ、調子はどうだい?』
 耳を当てると、予想通りに九郷用の声が聞こえてきた。
 「どうもなにも監視してるんだろ?見たとおりだ」
 『中々、つれない返事だな。何か怒ってるのか?』
 「そうだな。怒ってるよ」
 『なるほど、機嫌が直るように今なら何でも質問に答えるぜ』
 そうきたか。俺の質問に答えるという設定で自分の知ってる事を語りたいのだろう。まるで関係ない質問をしてやろうかとも思ったが、悲しい事に利害が一致してしている。正直に聞くとしよう。
 「じゃ、質問だ。俺は島崎浩一郎とは無関係なんだろ?」
 『アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッハハハハハハハハッ・・・ゲホゴホッ』
 返ってきたのは大爆笑だった。最後、咳き込んで終わってるし。
 『ヒッヒッ。あまり人を笑わせるなよね。無関係なわけないだろうよ?同じ顔なんだから』
 「ごまかすなよ。仮に俺が島崎浩一郎本人なら、簡単にわかるだろう。だったら、関係者がいるような任務に向かわせるわけないだろ」
 『そうかな?案外、そのくらい無能な組織なのかもしれないよ?我々の組織は』
 九郷は笑いながら話を続けるがそんなはずはない。
 俺がこの任務以前の準備で顔と名前を覚えた生徒は300人中100人。無論、その100人は学校において重要度の高い100人だ。その中に島崎美鈴は入っている。出会った時点で俺が名前を知っていたのだから、それは確かめる必要はない。
 その100人の身内が俺だと? 重要人物の家族をチェックしないほどの無能な組織だと?
 そんな馬鹿な話があるか?
 「俺が記憶喪失になる前、覚えてることがあるって知ってるよな?」
 『ええ、大切な部下のことだ。それに貴重な実験体だからな。データとして大切に補完される部分だ』
 「俺が唯一残ってる記憶は、1200円のズボンを持って試着室に入っていったところだぞ?今日、美鈴と話してわかったことがある。それは、島崎浩一郎は1200円のズボンなんて買わない男だということだ」
 しばらく、沈黙したかと思うと端末から音が聞こえてきた

『アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッハハハハハハハハッ・・・ゲホゴホッ』

 それは肯定を意味する笑い声だった。
 

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