続 他称改造人間になった俺

チョーカー

島崎邸にて

 普通に見える扉。
 あくまでこの屋敷の中では普通の部類の扉だ。 よく見ると高級素材のマホガニーで作られてるが気にしてはならない(ワシントン条約ってどうなってたけ?)
 さて、ここが島崎浩一郎の部屋と聞くと特別な部屋だと頭が認識した。
 「入っていいのか?」
 「無論、兄さんの部屋ですからご自由に」
 俺はドアのノブに手をかけた。
 中に入ってみると意外と質素でシックな部屋だった。
 めぼしいものは巨大な本棚くらいのもので、あとは机とベットしかない。
 本棚には多くのミステリー小説が並んでいる。いい趣味をしてると適当に手を伸ばしてみると原書だったので、そっと棚に戻した。
 部屋の中をキョロキョロと見回していたら、不意に美鈴が後ろから抱きついたてきた。
 背後を取られた!
 ジャーマンスップレックスの体勢! 完璧なタイミング! 殺られる!
 一瞬で判断した俺は腰を落とし、美鈴の腕掴みクラッチを外そうと・・・
 しかし、後ろから嗚咽が聞こえ動きを止めた。
 「兄さん・・・ お兄様・・・」
 美鈴に抱かれたまま、どうすればいいのか困ってしまった。
 俺は僅かに体をひねって、美鈴の頭を軽く、優しく撫でた。
 たぶん、呼び方を変えたのは、昔の事を思い出しているのだろう。俺の知らない昔の事を。

 それからいろんな事を話した。
 俺に気を使ってるのか過去の話はしなかった。それが妙に嬉しかった。
 俺も記憶を失った後の話をした。もちろん、すべてを話すわけにはいかなかったが、できる限り嘘はつかなかった。それが彼女に対する誠意だと思ったから。
 気がつけば、ずいぶんと時間が立っていた。
 そろそろ御暇おいとましようと立ち上がると、彼女は驚いた顔をした。
 あぁ、そう言えば家に帰るとか話だったな。
 仕事が残ってるとか、許可が必要だとか、いろいろ誤魔化し納得してもらうのに時間がかかった。
 と言っても納得はしてない表情だった。
 せめて、父と母に会ってからと言われたけれども、顔を合わせるのが恥ずかしいとか、驚かせる真似はしたくないとか、改めて家族で会うことを約束した。

 家から出ると乗ってきた車が用意されていたが丁寧に断った。
 運転手からは、随分と驚いた顔をされた。車で30分の距離だから、20キロ以上は確実だからだろう。
 「今日は、時間をかけて歩きたい気分なんですよ」

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