《異世界の主人公共へ》

怠惰のあるま

《勇者とは》

拠点を出てから三日が経過。
俺は半壊したコロッセオの上で盗賊団の頭領バッグルと意気投合。
まあ、ぶっちゃけ意気投合した理由は戦闘狂と言う共通点もあるが、何よりこいつらは義賊と呼ばれる盗賊らしい。
義賊と言うのは市民を下劣に扱う領主や威張り散らしてるだけの貴族から金品を巻き上げ、貧しいものに分け与える者たち。
そんな彼らの心意気と言うか優しさに胸を打たれたわけですよ。
それに俺の魔王軍設立の理由を話すと共感してくれたんだ。
だが、ひとつ気がかりなことを聞いた。

「確かに、最近くだらない戦争が増えているな」
「最近?昔から戦争は多かっただろ?」
「ん?知らないのか?年々戦争の激しさが増して今じゃ平和な街の方が少ないぞ」

嘘だろ。この二年間に何があったって言うんだ。
エンリが魔王の時はごく少数の場所だけだった。それが今じゃほとんどの場所が戦争の場になってると言うのか。
どうせ貴族がくだらない理由で始めた戦争がほとんどだろ。
あいつらは自分達以外は使い捨て同然の駒にしか見えてない。
それほど腐った根性をしてるからな。

「だが今は、お前の宣戦布告のおかげで少なからず停戦へと向かっている」
「終戦じゃないのか...」
「同じ思想の元で戦うなら未だしも、私欲に満ちた貴族どもだ。仕方がないさ」
「......俺がどうこうできる問題ではないしな」

人間の戦争に魔族が加入して直接止めたところで意味を為さない。
むしろ悪い方向に持って行くだけだろう。だったら遠回しに戦争を止めるしかない。
それが俺にできる最低限の行為だ。
魔族が人間同士の争いを止めたいと思うのも変だけどさ。
まあ...元人間だから思い入れが何処かにあるのかも。
ま、魔族を殲滅のために攻めてくるならこっちからしかけて根絶やしにする。
その時は同情の余地はない。たぶん...

「そうだ。俺の部下たちはどうする?」

すっかり忘れてた。
このコロッセオの下に閉じ込めておいたんだ。
いやまったく...完全に存在を忘れてたよ。バッグルが仲間になるんだ。必然的にあいつらも魔王軍に入ることになる。
俺たちの攻撃の余波で死んでなければだけど......
とりあえず、コロッセオを壊そう。邪魔だから。

「バッグルゥ今からコロッセオ破壊するから受け身とってねぇぇ?」
「.........はっ!?いや!待てまーーーーっ!!」

バッグルの必死の制止も聞く耳持たず。コロッセオの中心に立ち、拳に異法を唱える。

「《異法:硬化》」

鉄の硬度に拳を変化。
鉄拳を高々と振り上げ...全力で振り下ろす。拳はコロッセオの中心に深々と突き刺さった。
衝撃は勢い良く伝わり、中心からコロッセオの端まで衝撃が走る。
数秒...たった数秒だけその場にいた俺たちの動きは止まる。
そして、俺はコロッセオに刺さっている拳を引き抜いた。
それがスイッチかのようにコロッセオの崩壊が始まり、俺たちが立っている足場も崩落する。
高々と荒野にそびえ立っていたコロッセオは跡形もなくその姿を消したのだった......
崩れ落ちた瓦礫から這い出るように俺は脱出。
バッグルは持ち前の筋肉で自分の上に乗っかる瓦礫をのかした。部下達も難なく脱出。
いやぁ...以外に生き残るもんだね。
一人笑っているとバッグルの拳が俺の顔面にめり込んだ。
殴り飛ばされた俺はまた瓦礫の中にキャッシュバック。一瞬、顔だけぶっ飛んで行きそうだったよ。

「貴様ぁぁ!!生きてたからよかったものを!もう少しで生き埋めになるとこだったぞ!!」
「死んだら死んだで復活させるから大丈夫」
「《腐った死者》にする気だろ!?絶対に嫌だ!」

こいつの場合、特攻していくタイプだから腐った死者になっといた方がいいのに......
まあ、無理強いはしないけどさ。

「さぁ!帰ろう!」
「ったく...調子のいいやつだ。もっと緊張感を持てないのか?」
「人生もっと楽に生きてかないと辛いぜ?」

俺の場合はそうでもしないと精神的に持たない。
お前ら、人が何度も何度も死ぬ体験をして冷静でいられると思うか?
骨を生きたまま体から抜き取られたことがあるか?
内蔵をグチャグチャに潰されたことはあるか?
頭だけ切り離されて意識を保ったことがあるか?
動くこともままならないように肉ダルマにされたことあるか?
他にも残酷な殺され方、拷問方法を俺は何千回も受けた。
最初は発狂して狂いかけたさ。
けど、どうせ死なないなら...どうでもいっか!そう思えば急に楽になれた。
まあ...なにが言いたいかと言うと

「俺のように生きれば感情が無くせるぜ?」
「お前のどこが感情を消しているんだ?」
「はっはっは!それもそうだな!」

ゲラゲラと笑い、前を進んで行く最強生物の背中を見ながらバッグルは小さく呟いた。

「お前が心の底から怒りを覚えた時...どうなるんだ?もし......そうなれば俺が止めよう...」

戦友として......
少しだけ優しさが生まれた彼は自分の部下を連れて、戦友の背中を追いかける。
部下たちはバッグルの雰囲気が変わったことに気づき、皆、嬉しそうに笑った。


△▼△



俺は言葉を失った。
豪勢に作り上げた立派な魔王の城 (仮)が半壊し、ところどころに瓦礫の山が築かれている。
だが、俺の心配はそこではない。
パンドラ達が見当たらないのだ。まさか...もう勇者の手の者がここまで来たというのか?
ありえない!それ以上に城が壊されれば俺が気づけるはずだ!
ん?もしかして、バッグルとの戦闘中に襲われて俺が気づけなかっただけ?
もし、そうだとしたら......

「バッグルのバカヤロー!!」
「なぜ急に罵倒!?そ、それよりも部下に辺りを散策させたら男が倒れていたぞ?」
「男?」

まさかムー?いや、今は女だから違うか。
じゃあ一体誰だ?
バッグルの部下達に連れて来てもらうと、そいつは見覚えがあった。
いや、つい最近伝令として使ったばっかだ。覚えている。

「クズ勇者がなんでここに!?」

俺が世界に宣戦布告のために利用させてもらった温室育ちのクズ勇者。
貴族のくせに顔は割とイケメン。

「知り合いか?」
「宣戦布告をする時に大いにに利用させてもらった」
「......ああ、こいつが例のボコボコにされたと言われている勇者か」

そんな噂流れてるんだ可哀想に。俺のせいですけど何か?
でも、なんでこいつがここにいるんだ?完膚なきまでボコボコにして精神的に潰してあげたのに。
起こすか。

「バッグル耳塞げ。お前らもちゃんと塞げよ?」
「な、なにをするんですか?」

心配そうな声を出したのはバッグルの部下で数少ない女性の一人、ナズナが不安そうに言った。
小さい体をまたさらに小さくしちゃって、そんな怯えないでくれよ。

「ちょっと起こすだけさ乱暴に。だから耳塞げ」
「は、はい!」

深く息を吸い込み...異法を唱えた。

「【異法・声変わり】《掠め盗る女ハーピーの目覚め》」

周りに響く金切り声は、眠りについた者。気絶した者でも目覚めるほどに頭に響く。
本来、《掠め盗る女ハーピー》の声は相手の意識を奪う甘い声だ。
しかし、四天王の異法の声は元のハーピーの声を変化させ意識を呼び覚ます声。
だが、起きている者がまともに聴けば逆に意識を奪う。
気絶しているクズ勇者の耳元で声を発すると飛び起きた。

「うぐぅぁぁ!?み、耳がぁぁぁ!!」
「起きたか。久しぶりだなクズ勇者」
「お、お前は...あの時の!」

ほう。俺を覚えているか。まあ、忘れれるわけがない。恐怖を植え付けるために叩きのめしたんだ。覚えていて貰わないとな。

「めんどくさい話はするな。俺の質問にだけ答えろ」
「......あの女の子達のことだろう?知っている...」
「なら十分だ。教えろ」
「俺のお爺様のところだ」
「お爺様?ということは勇者か?」
「ただの勇者じゃない。一つの国を治める勇者王だ」

勇者王か。
大層な名前を背負っているな。しかし、祖父が勇者ということは何代前の勇者だ?
エンリの時は十三代目だった。
ということは、十代目あたりか?あそこらへんの時代の勇者は本当にクズばっかだったな。
自分の勇者という立場を使って私利私欲を満たしていたと部下達の情報で耳にした。
いつからだろうな...勇者がここまで地に落ちたのは............
感傷に浸ってる場合じゃないか。
パンドラ達を襲ったであろうこいつの祖父に会いに行かねえとな。

「今回も大いに利用させてもらうぞ?クズ勇者」
「はは...無駄だよ......私はもう勇者ではない。ただの...クズさ...」
「......なにがあった?」
「お爺様は昔から厳しい方でね。勇者として魔王軍にやられた私に見切りをつけたんだ」
「たった一度の敗北でか?」
「ああ、家族に汚点があっては恥だろ?」

最近の勇者ってやつは...馬鹿馬鹿しい。

「おい。勇者エクリプス」
「...!!なんだい、改まって」
「このままでいいのか?」
「だって...私には勇者の資格なんて」
「勇者って言うのは他人に決めてもらうものなのか?血縁で生まれるのか?神から与えられた資格が必要なのか?...違うだろ」

絶望に染まった瞳に光が灯る。
力なく腰をついているエクリプスの襟を掴み立ち上がらせる。

「勇気と誇りを持ってこその勇者だろうが!いちいち周りを気にして生きるな!勇気を持って前を向け!進め!今の世の勇者よ!!」
「......ふっ...ふふ......ふははは!!」

先ほどまでの力ない笑いではなく、感情がこもった笑い声。
自分を掴む腕を離すように促し、絶望にひしがれていた顔は明るく希望に満ち溢れた。

「まさか、魔族に勇者を諭されるとは...思いもしなかった。だが、礼を言わせてくれ」
「気にするな。それで、連れて行ってくれるんだな?」
「私は今回の件、お爺様に聞きたいことがあるんだ。一緒に行きたいならついてこい」

さっきとは打って変わって元気になやりがって。自身に満ち溢れた顔してやがる。
まあ、これでやっと勇者の卵ってところか?
パンドラ達を救出するついでにこいつの成長を見届けるのも悪くない。

「いざ、向かおう。勇者の国【ダート・ルート】へ!」

はてさて...なにが待ち受けるのやら。
俺を殺せるような相手がいてくれることを願おう。



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