《異世界の主人公共へ》

怠惰のあるま

《最強生物vs戦闘狂》其の壱

広大な平原に突然と出来上がった強大な空中のコロッセオ、その中で戦いが始まろうとしていた。
コロッセオの中心に二人の生き物が向かい合うように、自分の武器を相手に向けて動きを伺っている。
一人は真っ赤な髪を逆立て、防御を考えていない薄着服装の筋肉隆々の大男ガルフ団の頭バッグル、自慢の筋肉で全ての攻撃を防ぎ敵をなぎ倒し、世界に名を轟かせる戦闘狂である。
彼は目の前に立っている生き物へ、腰に下げていた炎のように煌めく刀《豪炎》を向けニヤリと笑った。
その手に持つ刀は、何千度の熱にあてられても溶けずに形を保つことができ何トンの重さをかけても決して変形することのない金属オリハルコンの刃、持ち手の部分には《紅の花》と呼ばれる、埋め込んだ道具に炎を纏わせ、大きさと純度によって火力が変わる希少な魔結晶クリスタルが埋め込まれている魔法具の一つだ。
その男の見据える先に立っている者は、エメラルドブルーとアッシュシルバーの髪色の独特なソフトモヒカン、赤と青が入り混じった両眼、不思議な文字で描かれた魔法陣が付いたタンクトップ、右脚には鎖が巻き付き数十本ものナイフが備え付き左脚には刃、組み立て可能な棒、銃など多種の武器の部品、弾倉が入っている完璧なまでに武装をされたズボン、少し異様な格好をしたこの男は何百年も前、すなわち初代魔王が生きていた時代から生きる不老不死の歴史上最強生物と呼ばれる男、今は時間により名は忘れ去られた魔王軍の四天王が一人.........《強すぎる自殺の四天王》
その強さは最強生物と言われるだけあって歴代魔王軍の中で最強の実力者である。
彼が持つ武器は武装されたズボンだけに限らず《異法》によって変化した全身武装の体といかなる攻撃を受けても怯まない回復力と精神力である。
両者は睨み合い、相手の力の度量を見定めた。どちらも動かず時間が止まっているように思えるほどだ。しかし、そんな睨み合いも我慢できず先に動いたのはバッグルだ。

「先手必勝だぁぁぁぁ!!くぅらえぇぇいぃぃぃ!」

雄叫びのような叫び声をあげ四天王に向けて剣を振るった、もちろん彼はよけるはずもなく斬撃を受けた。スパッ!と包丁で食材を切るように軽快な音が鳴り、右腕を体から削がれた。しかし、四天王動じず。
切られた右腕を拾って接着、魔力を流した。
ーー異法《剣のようで金槌のような拳》発動ーー
心臓部から拳に向け黒い光がほとばしるように魔力が流れた、両拳の光が治まると彼の拳から奇妙な音が聞こえた。ギャリ...ギャリ...と剣の刃同士を擦り付けるような音だ。

「なんだぁ?その拳はぁぁ?」
「俺の《異法》の一つ《剣のようで金槌のような拳》だ」
「ほほおぉ?見た感じだと拳を剣に変えたように見えるが.........実際にぃぃぃ?受けてみよぉぉうじゃあないかぁぁぁぁ!!」

獲物に飛びかかるように剣先を向けバッグルが襲いかかる。しかし、四天王はニヤリと笑い拳を握る、腰を深く下げ、左手を的に定めるように前へと突き出し、右腕を後ろに引き指を曲げ掌を開いた。

「喰らって後悔しな?」

空気を一気に吐き出し静かに呼吸をし、四天王は久々に本気を出すと決めた。右腕の筋肉に100%の力をいれ、敵を見据えた。相手との距離は一気に縮まり左手に的が定まった。
近くまで接近したバッグルが攻撃を繰り出す前に本気の掌打が繰り出された。
メキメキ...と骨が軋み衝撃が走った、その衝撃は斬撃に変わり内臓が切り裂かれた。無防備な体内を傷つけられた彼は堪らず口から血を吐いた。
しかし、彼の顔は痛みで歪んでいるわけでもなく圧倒的な力に怯んでいるわけでもない、喜びに満ち溢れた笑顔である。

「お前ってマゾヒストか?」
「いぃぃいぃやぁぁぁ?俺の体にここまでの痛みを与える奴は久々だったからなぁぁぁ.........嬉しくて笑いが止まらないんだよぉぉ!!」
「そんな装備で俺の全力を受け止め、吐血だけで済んでることにちょっとショックだ」

どれだけ頑丈な鎧、魔法具で体を守っていても俺の異法《剣のようで金槌のような拳》の前では無いに等しい。超絶的な硬さの拳で全身に伝わるほどの衝撃を伝える、その衝撃は巨大な金槌と同等の威力を持つ。そして、衝撃を任意で斬撃にすることができ内面まで伝わった衝撃は鉄をも切り裂く斬撃となる。
大抵の相手は体内まで伝わり内臓がズタズタにされ絶命する。どんなに強い者だろうと内臓をやられればただでは済まない。
しかし、この男は吐血をしたが平然と立っているのだ。俺でさえも恐怖しそうだ、まるで裸で重戦車を相手にしてるようだ。
ここまでの化け物が今も存在していることに驚く反面、少し喜んでいる。少々、親近感のようなものを覚えるよ。

「一発喰らっただけで勝った気でいるなよ筋肉ダルマァァァ!!」

俺は叫びながらバッグルに殴りかかったことを後悔した、なぜなら奴は自分から喰らいにはもう来てはくれないからだ。
殴った拳は奴を捉えたはずだった、だがそれは速すぎるスピードによって発生した残像であった。

「戦闘狂のおお俺でもおおぉぉぉ!同じ攻撃を喰らうわけがあぁあるかぁぁ?」
「あの巨体でなんつぅスピード出しやがる...!」
「お前は筋肉をただの重りとでも考えているのか?バァァァカモノがぁぁ!筋肉は力を出すために必要なものだ、すなわち筋肉が多ければ遅いのではない............多いから速いのだぁぁぁぁぁ!!」

確かに足が速い奴らは細身よりガタイのいい奴が多い、けど早くなるかどうかは筋肉の付け方だと思うが......こいつの場合全てにおいて満遍なく筋肉をつけてそうだな。腐生を思い返してもここまで筋肉隆々でうるさい奴は初めてだ、いやそもそもここまで化け物じみた人種はそうそういない。もはや人間と見てもいいのかわからない化け物級の生き物だが............ある意味人間の《はぐれ》と言えるな、ちょっと考えておくか。
しかし、よくこんなに舌が回るな。なんだろうだんだんイライラしてきた、俺がこうゆううるさいキャラに慣れてないからか?いや絶対に違うな、ただただ耳障りなだけだ。

「どうしたぁ?こないのかぁぁぁ!?」

ぶちん!と頭の血管が何本か切れる音がした。どうやら俺の頭が怒りに対して我慢の限界を突破したようだ。
数百年ぶりに俺は《憤怒》という感情をあらわにした。

「さっきからゴチャゴチャうるせぇぇんだよ!!普通に喋れねぇのか!?楽しもうかと思ったが限界だ!ガチリアルマジで本気を出してやるよ!!」

武装ズボンの全ての武器を組み立て地面に突き刺した。その行動にバッグルは不思議そうな顔をするが一切隙を見せていなかった。
ベキッ!と骨が鳴った、そしてゴキッ!ボキッ!と痛々しい音がコロッセオに響いた。目の前で起こっている四天王の異様な変化を見ているバッグルは今までに一度も感じたこともない感情を抱き始めた。
その感情は四天王の身体が変化していくごとに強くなり、体からは冷たい汗が滲み出し足は小さく震え呼吸は荒くなっていく、彼が感じ始めているそれは《恐怖》であった。今まで周りに恐怖を抱かせてきた彼の、人生で初めて敵に恐怖した瞬間であった。
そして、その恐怖の根源である生き物は先ほどの人間味を感じる姿とは程遠い姿と化していた。
眉間に真っ赤な瞳ができギョロギョロと忙しなく動き回り、肩甲骨の辺りから筋肉と皮膚がない骨の腕が二対、筋肉繊維のような物が腕の形を模した二対の腕、計六本の腕が生えた三眼六手の生き物となっていた。

「これから始まるのは戦いではない......決闘でも、殺し合いでもない......ただの一方的な虐殺だ......」

ポツリとつぶやく声がバッグルの耳に届いた時には彼の体はただの生ゴミのように打ち捨てられた肉片に変わり果てていた............



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