《異世界の主人公共へ》

怠惰のあるま

《物語の始まり》

この世界には勇者と呼ばれる魔王と相対する者が存在する。魔王を倒すため永き旅にでる勇気ある者だ。

選ばれた者が勇者と呼ばれるのか?

魔王を倒す者が勇者と呼ばれるのか?

勇気を心の内に持つ者が勇者なのか?

しかし、それを決めるのはいつも周りの傍観者達である。
勇者に課せられた使命は一つ......魔王討伐。
魔王の玉座を目指す彼らの前に、最初に現れた者は魔王の直属の部下である四天王の一人《焔の四天王・フレイム》
彼が現れた部屋は温度が上昇し、何の装備も与えられぬまま砂漠に投げ捨てられたような暑さとなる。
しかし、パーティーの一人の魔法使いが呪文を唱えた。すると、暑さは下がり元の部屋の温度へと戻った。
悪影響を与える暑さがなくなり、戦いを始めようと勇者達が武器を取ろうとしたが、その手が止まる。
部屋の隅でフレイムは意気消沈としているからだ。
か細い声で彼は何かを訴える。
聞き取ると、どうやら暑いところで無いと力がでないタイプの魔物らしい。
その姿に勇者達は罪悪感を持つが魔法使いの呪文で完全に息の根を止めることにし、彼女の詠唱が部屋に響いた。
自分の死期を感じたフレイムは立ち上がる。
部屋中に響かせるように高らかに笑いながら、勇者達に向けて忠告する。

ーー貴様らと戦っていない俺が言うのもなんだが一つ教えてやろう......俺は四天王で二番目に強い!ーー

その言葉に驚愕の声が漏れた。
彼らは何処か哀れみがこもった瞳で見つめる。
しかし、彼はまるで勝ち誇ったように笑いながら話を続けた。

ーーが...!四天王最強の...あの男にはどうやっても勝てないだろうよ!!次元が違うからなぁ!せいぜいあいつの恐怖に見舞われるんだな!!ーー

フレイムの不気味な声が部屋中に響き、地響きのような音が鳴る。
彼の体に亀裂が走り赤い光が漏れ、目を塞ぐほどに輝く。
次の瞬間、火山の噴火の如く彼の体が弾け飛んだ。
火山弾のような肉片が勇者達を襲うが魔法使いは察知し攻撃から防御の呪文に切り替えていたおかげで火山弾を防いだ。
戦闘を終えた彼らの脳裏にはフレイムの言葉がこびりつく。

ーー四天王最強のあの男ーー

いったい、どれほどの強さなのか想定もできなかった。しかし、彼らは進むしかなかった。

△▼△

次の部屋に進むと、二人の女型の魔物が待ち構えていた。どうやら、四天王で二番目のフレイムがやられ一人では勝てないと踏んだのだろう。
右に構えるハーピーのような羽が生えているがほとんど人間と変わらない容姿、バチバチと電流のようなものが走っているのは《雷の四天王・ウェルザ》
左に構えるのは短髪の動きやすい服を着用し、ウェルザよりも人間に近い女性《風の四天王・エンダ》
先手必勝と叫び、エンダがハイスピードで接近した。そのスピードに全く反応できず、剣士は攻撃を受け吹き飛び、追い討ちをかけるように雷が彼に落とされた。
ダメージはそこそこあるが呪文耐性が多少強いおかげでかなり軽減されていた。自分の雷があまり効いてないことにウェルザは帯電を始めた。エンダも同じく集中し呪力を溜始めた。
だがこの時、魔法使いの呪文詠唱が終了した。彼女の背に五色の魔法陣が出現、それぞれの陣から属性の違う呪文が放たれた。動くことができない四天王の二人は呆気なく魔法使いの最強の魔法陣で敗北したのだった。
ここまで三人の四天王を余裕で倒した勇者達は残った最後の四天王が一番の実力と言われているが、そこまで強くないんじゃないか、またバカやって終わるんじゃないかと自惚れていた。だが、現実はそう簡単にはいかないのである..................
最後の一人がいる部屋へと入ると、そこに待っていたかのように仁王立ちで勇者達を見据える男がいた。

ーーお前が最後の四天王か?ーー

勇者が彼にそう問うと気だるそうに答えた。

ーーああ、そうだけど......ーー
ーーお前が一番と聞いたが......全然強そうに見えないぜ?ーー

大柄な肉体の戦士が見下すような口調でそう言ったが、意に介することもなく四天王はため息を漏らした。

ーー焔の馬鹿と修行不足の風雷の嬢ちゃんたちを見た後だろうしな、仕方ないーー
ーー私が言うのもなんだけど、四天王がそんなでいいのかしら......?ーー

魔法使いの女が呆れたように言う、それに対し四天王は頷いた。

ーー全くその通りだーー
ーー無駄話はいい、さっさとそこをよけてもらうよーー

勇者の言葉が合図のように全員が武器を手に取り戦闘態勢に入ったのに対し、四天王はお先にどうぞと言うように手を差し出していた。お言葉に甘えるように彼らは攻撃をしかけた、しかし、その光景は戦いと呼べるものではなかった。
魔法使いが放つ炎の魔法を全身で受け止め火が付くだけで死なず、指を鳴らすと土で四肢を拘束され......
武闘家の渾身の技を片手で受け止め、その衝撃を体で受け流すように手まで流動させ彼に返すように手を添えると壁に吹き飛ばされ......
戦士と剣士、二人の剣技を受け流し、いや受けながら進み胸ぐらをつかんで壁や床にめり込むほどに叩きつけられ......
僧侶の浄化魔法も喰らうが皮膚が焼けただれるだけで浄化せず、雄叫びをあげて恐怖を与えられ......
四天王最強の男にはどの攻撃も効いているように見えなかった。攻撃は通るのだが、即座に怪我が回復してしまうのだ。戦士によって斬り落とされた腕もトカゲの尻尾のように生え、焼け焦げ爛れた皮膚も脱皮したように綺麗になる。異常な再生力に勇者達は苦戦していた。

ーーつ、強い......ーー
ーー次元がちげぇ......本当の化け物だ...!ーー
ーーこれが四天王最強の男......!ーー

眼前の強大な強敵に足がすくみ、ある者は恐怖で気絶しかけ、ある者は失禁までするほどの恐怖の塊が目の前に立っていた。
勇者は一か八かの賭けに出ることにした、隙は大きいが魔王ですらまともに喰らえばただでは済まない勇者にしか使えない最強の呪文を詠唱した。勇者の手のひらに淡い光が漏れ始め、だんだんと大きくなって行き巨大な光球が出来上がった。
狙いをつけ光球を解き放つが大きすぎるためにスピードが遅かった.
勇者達は諦め死を覚悟した。しかし、何を思ったのかはわからない。
勇者の放った呪文に四天王自身から突撃したのだ。彼らは驚きを隠せなかった。
先ほどまで自身が有利だったのにも関わらず自滅行為に等しい事をするとは思いもしなかったからだ。
勇者達のモヤモヤが取れぬまま、四天王の奇想天外な行動のおかげで倒すことができたのであった。
その後、魔王を倒した勇者達は世界に平和をもたらしたのだった。
しかし、誰もが知らないことがある。四天王はいや俺はゾンビであること、だがただのゾンビではない。完全な不老不死であり永遠に腐ることがないゾンビである。
俺は大昔に魔族の王として君臨していた初代魔王の呪いによって不老不死になった土の四天王。
名前は忘れた。不老不死に名前などいらない。今回も殺されてしまった。いや死ぬことができた。
しかし、完全な死では無いためにまた普通に生き返って、また死ぬ。単調なことだ、と思っていたが今回はどうやら違うようだ。
だが例え、今回がいつもと違っても言うことは変わらない。

「ああ、死にたいな」

俺はいつも通りそう呟きながら今回も復活を果たす。少しずつ体に変化が訪れながら...............

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