New Testament
最終話・序
オリジナルフォーズの姿を見て、シルバは思わず身体を震わせていた。
遅れて今から――ということになるが、オリジナルフォーズの姿に圧倒されない人間はもはや居ないだろう。特に偉大なる戦いとセカンドインパクトを知っている彼らならば尚更である。
「作戦を確認する……というが、ただひとつだ。オリジナルフォーズを行動停止に追い込み、リニックを解放する」
作戦を指揮しているのはガラムドだ。彼女は過去に戦っているからかもしれないが、それでも彼女は未々不安でいっぱいだった。
本当に自分たちだけでオリジナルフォーズを倒すことが出来るのか。それが彼女の頭の中を埋め尽くしていた。
オリジナルフォーズはこのまま封印を続ければ、きっとまた誰かが封印を解くだろう。そのときガラムドは今ほどのエネルギーを持てているのか、そして人間はそれに立ち向かうことが出来るのか。
ガラムドはまったく、その先を見透かすことが出来なかった。
「……持てる力を、オリジナルフォーズにぶつけること! 私はオリジナルフォーズの破壊を試みる!!」
その言葉を聞いて、ガラムドを先頭に行動を開始した。
「リニック……ほんとうに君はいろいろと手を患わせる……!」
シルバはそう言いながら手を叩き目を瞑った。
そうして両手を地面に置くと、シルバの周りに広がる地面が高く上がっていく。
その地面はさらにさらにさらに上がっていき、最終的にその地面はオリジナルフォーズの心臓の位置までやってきた。
なぜ彼はここまで来たのか?
オリジナルフォーズも含まれるかどうかは別だが、メタモルフォーズには人間の心臓がある位置に知恵の木の実が埋め込まれている。知恵の木の実はエネルギーの固まりだ。知恵の木の実に入っているエネルギーがカラになってしまうとメタモルフォーズは行動を停止してしまう。
ならばエネルギーをカラにするにはどうすればいいのだろうか?
エネルギーを使ってしまえばいいのである。メタモルフォーズをそうやって撃退したこともある。
ならば、オリジナルフォーズもそうしてしまえばいい――そう考えたのだが。
『お前も、私をどうにかしようとするのか……!』
オリジナルフォーズにある無数の顔。そのうちの一つについている口が開いて、そう言ったのだ。その顔つきはとても人間には見えなかったが、しかし話した言葉ははっきりと聞き取れるくらい流暢だった。
そして、シルバはそれを聞いて一瞬狼狽えてしまった。
それが、それが不味かった。
刹那、オリジナルフォーズの巨大な腕がシルバの身体にモロに命中した。
「がはっ……!」
オリジナルフォーズの攻撃をモロに食らったシルバだったが、倒れることはなかった。
ここで倒れたらリニックを誰も救えない――シルバはそんな強い思いを抱いていたからだ。
リニック・フィナンスはあの時ジークルーネに会うことが無ければこんなことにはならなかっただろう。それどころか、今は生きているかどうかすら怪しい。
リニックはこの僅かな時間で様々なことを知った。いや、知りすぎたのだ。知らなくていいことまで知ってしまった。『知るべきこと』でもあったその出来事は、もしかしたら『知らなくてよかったこと』なのかもしれなかったのだ。
「……リニック、君はこんなところで死ぬような人間ではないはずだ!」
シルバはそう言って手を叩く。
生み出したのは巨大な槍だった。
シルバはその槍を持つと、それを思い切りオリジナルフォーズに突き刺した。
目的は知恵の木の実だ。それを取り出すことで、オリジナルフォーズは行動を停止すると考えていたからだ。
しかし、それを見ていたオール・アイは高らかに笑い出した。
「そんなもので知恵の木の実を取り出せるものですか……! あぁ、まったく滑稽な話だ!」
知恵の木の実は取り出せない。
そんなことは知っていた。
だが、諦めたくはなかった。リニックを救うために……諦めるわけにはいかなかったのだ。
「知恵の木の実を抜き取ってオリジナルフォーズを停止させる……考えとしてはまずまずだろうが、そんなちんけな槍じゃあ、無理に決まっている。何故なら……」
そこまでぺらぺらと話していられるのは、『絶対に倒されない』といった余裕があるからなのだろう。
そして、オール・アイが言ったその事実はシルバたちに大きな絶望を与えることとなった。
「……このオリジナルフォーズはエネルギーの固まり。知恵の木の実が集まって出来たものなのだから。この世界で一番のエネルギーを持つ存在……それがオリジナルフォーズ」
◇◇◇
リニックは微睡みの中に沈んでいた。
どちらが上だかどちらが下だか解らない世界にリニックは居た。
「ここはいったい……」
リニック自身にもここが何処なのかははっきりしない。
そしてリニックは、自分が生きているのか死んでいるのかも解らなかった。
「自分はたしか……十字架に磔にされて……」
――そしてオリジナルフォーズの体内に吸い込まれた。
それを思い出して、リニックは確信する。
ここはオリジナルフォーズの体内なのだ。
オリジナルフォーズに溶け込まれ、意識のみがオリジナルフォーズの体内に居着いているだけなのだ――と。
ならば、はやく脱出せねばならなかった。
だが、どうやって脱出すれば良いのだろうか? 今の彼は完全に肉体が崩壊し、精神のみと化している。リニックがリニック自身でここから脱出するのは不可能に近いだろう。
ならば、何も出来ないのか。何もすることが出来ないのか――。
それは誰にも解らない。
だからリニックも無理に空間をじたばたと暴れるなどということはしなかった。
聞こえるからだ。外から、シルバたちが戦っている音が。
「……彼らに任せるしかないかな……」
そうリニックが呟いた、その時だった。
「なんだ、あれは……?」
光が、見えた。
仄かな光ではなく、はっきりとした光だった。
「なんだ、あれは」
再び同じ言葉を呟く。
それほど衝撃的なことだったからだ。
そしてリニックは気になって――そちらへと向かっていった。
◇◇◇
人間がオリジナルフォーズを封印したのは、過去二回存在する。
一回目は『偉大なる戦い』でのこと。ガラムドが莫大なエネルギーを知恵の木の実から得て、封印した。
二回目は『喪失の一年』でのこと。予言の勇者フル・ヤタクミが自身の記憶エネルギーを糧にして封印した。
オリジナルフォーズは元から莫大なエネルギーを手に入れていたわけではない。
オリジナルフォーズは無限の生命こそ持っていたが、無限のエネルギーは持ち合わせていなかった。
さて。
ここからはただの推測に過ぎない。
無限の生命と無限のエネルギーを兼ね備えたオリジナルフォーズは……カミサマと同義とはいえないだろうか?
そして、オリジナルフォーズがエネルギーを吸収することが出来るとするならば?
そして、そのエネルギーがはっきりとしたかたちで残っているとしたら?
それはあくまでも推論に過ぎない……のだろうか。
◇◇◇
光に向かって、リニックは進んでいた。そして漸くリニックは光にたどり着いたのである。
『……お前も閉じ込められたのか。或いは吸い込まれたのか』
光はリニックが近付くまで朧気な球体だったが、リニックが近づいた時になると、それはゆっくりと形を為していく。
そして、それは、ある人間になっていった。
それはリニックにも見覚えのある人間だった。
「あなたは……!」
『俺は……人間だ。予言の勇者とかどうとかいってちやほやされた。そして現に倒した……はずなのに、どうしておれはここに居るんだ?』
そこに居たのは、予言の勇者フル・ヤタクミだった。
遅れて今から――ということになるが、オリジナルフォーズの姿に圧倒されない人間はもはや居ないだろう。特に偉大なる戦いとセカンドインパクトを知っている彼らならば尚更である。
「作戦を確認する……というが、ただひとつだ。オリジナルフォーズを行動停止に追い込み、リニックを解放する」
作戦を指揮しているのはガラムドだ。彼女は過去に戦っているからかもしれないが、それでも彼女は未々不安でいっぱいだった。
本当に自分たちだけでオリジナルフォーズを倒すことが出来るのか。それが彼女の頭の中を埋め尽くしていた。
オリジナルフォーズはこのまま封印を続ければ、きっとまた誰かが封印を解くだろう。そのときガラムドは今ほどのエネルギーを持てているのか、そして人間はそれに立ち向かうことが出来るのか。
ガラムドはまったく、その先を見透かすことが出来なかった。
「……持てる力を、オリジナルフォーズにぶつけること! 私はオリジナルフォーズの破壊を試みる!!」
その言葉を聞いて、ガラムドを先頭に行動を開始した。
「リニック……ほんとうに君はいろいろと手を患わせる……!」
シルバはそう言いながら手を叩き目を瞑った。
そうして両手を地面に置くと、シルバの周りに広がる地面が高く上がっていく。
その地面はさらにさらにさらに上がっていき、最終的にその地面はオリジナルフォーズの心臓の位置までやってきた。
なぜ彼はここまで来たのか?
オリジナルフォーズも含まれるかどうかは別だが、メタモルフォーズには人間の心臓がある位置に知恵の木の実が埋め込まれている。知恵の木の実はエネルギーの固まりだ。知恵の木の実に入っているエネルギーがカラになってしまうとメタモルフォーズは行動を停止してしまう。
ならばエネルギーをカラにするにはどうすればいいのだろうか?
エネルギーを使ってしまえばいいのである。メタモルフォーズをそうやって撃退したこともある。
ならば、オリジナルフォーズもそうしてしまえばいい――そう考えたのだが。
『お前も、私をどうにかしようとするのか……!』
オリジナルフォーズにある無数の顔。そのうちの一つについている口が開いて、そう言ったのだ。その顔つきはとても人間には見えなかったが、しかし話した言葉ははっきりと聞き取れるくらい流暢だった。
そして、シルバはそれを聞いて一瞬狼狽えてしまった。
それが、それが不味かった。
刹那、オリジナルフォーズの巨大な腕がシルバの身体にモロに命中した。
「がはっ……!」
オリジナルフォーズの攻撃をモロに食らったシルバだったが、倒れることはなかった。
ここで倒れたらリニックを誰も救えない――シルバはそんな強い思いを抱いていたからだ。
リニック・フィナンスはあの時ジークルーネに会うことが無ければこんなことにはならなかっただろう。それどころか、今は生きているかどうかすら怪しい。
リニックはこの僅かな時間で様々なことを知った。いや、知りすぎたのだ。知らなくていいことまで知ってしまった。『知るべきこと』でもあったその出来事は、もしかしたら『知らなくてよかったこと』なのかもしれなかったのだ。
「……リニック、君はこんなところで死ぬような人間ではないはずだ!」
シルバはそう言って手を叩く。
生み出したのは巨大な槍だった。
シルバはその槍を持つと、それを思い切りオリジナルフォーズに突き刺した。
目的は知恵の木の実だ。それを取り出すことで、オリジナルフォーズは行動を停止すると考えていたからだ。
しかし、それを見ていたオール・アイは高らかに笑い出した。
「そんなもので知恵の木の実を取り出せるものですか……! あぁ、まったく滑稽な話だ!」
知恵の木の実は取り出せない。
そんなことは知っていた。
だが、諦めたくはなかった。リニックを救うために……諦めるわけにはいかなかったのだ。
「知恵の木の実を抜き取ってオリジナルフォーズを停止させる……考えとしてはまずまずだろうが、そんなちんけな槍じゃあ、無理に決まっている。何故なら……」
そこまでぺらぺらと話していられるのは、『絶対に倒されない』といった余裕があるからなのだろう。
そして、オール・アイが言ったその事実はシルバたちに大きな絶望を与えることとなった。
「……このオリジナルフォーズはエネルギーの固まり。知恵の木の実が集まって出来たものなのだから。この世界で一番のエネルギーを持つ存在……それがオリジナルフォーズ」
◇◇◇
リニックは微睡みの中に沈んでいた。
どちらが上だかどちらが下だか解らない世界にリニックは居た。
「ここはいったい……」
リニック自身にもここが何処なのかははっきりしない。
そしてリニックは、自分が生きているのか死んでいるのかも解らなかった。
「自分はたしか……十字架に磔にされて……」
――そしてオリジナルフォーズの体内に吸い込まれた。
それを思い出して、リニックは確信する。
ここはオリジナルフォーズの体内なのだ。
オリジナルフォーズに溶け込まれ、意識のみがオリジナルフォーズの体内に居着いているだけなのだ――と。
ならば、はやく脱出せねばならなかった。
だが、どうやって脱出すれば良いのだろうか? 今の彼は完全に肉体が崩壊し、精神のみと化している。リニックがリニック自身でここから脱出するのは不可能に近いだろう。
ならば、何も出来ないのか。何もすることが出来ないのか――。
それは誰にも解らない。
だからリニックも無理に空間をじたばたと暴れるなどということはしなかった。
聞こえるからだ。外から、シルバたちが戦っている音が。
「……彼らに任せるしかないかな……」
そうリニックが呟いた、その時だった。
「なんだ、あれは……?」
光が、見えた。
仄かな光ではなく、はっきりとした光だった。
「なんだ、あれは」
再び同じ言葉を呟く。
それほど衝撃的なことだったからだ。
そしてリニックは気になって――そちらへと向かっていった。
◇◇◇
人間がオリジナルフォーズを封印したのは、過去二回存在する。
一回目は『偉大なる戦い』でのこと。ガラムドが莫大なエネルギーを知恵の木の実から得て、封印した。
二回目は『喪失の一年』でのこと。予言の勇者フル・ヤタクミが自身の記憶エネルギーを糧にして封印した。
オリジナルフォーズは元から莫大なエネルギーを手に入れていたわけではない。
オリジナルフォーズは無限の生命こそ持っていたが、無限のエネルギーは持ち合わせていなかった。
さて。
ここからはただの推測に過ぎない。
無限の生命と無限のエネルギーを兼ね備えたオリジナルフォーズは……カミサマと同義とはいえないだろうか?
そして、オリジナルフォーズがエネルギーを吸収することが出来るとするならば?
そして、そのエネルギーがはっきりとしたかたちで残っているとしたら?
それはあくまでも推論に過ぎない……のだろうか。
◇◇◇
光に向かって、リニックは進んでいた。そして漸くリニックは光にたどり着いたのである。
『……お前も閉じ込められたのか。或いは吸い込まれたのか』
光はリニックが近付くまで朧気な球体だったが、リニックが近づいた時になると、それはゆっくりと形を為していく。
そして、それは、ある人間になっていった。
それはリニックにも見覚えのある人間だった。
「あなたは……!」
『俺は……人間だ。予言の勇者とかどうとかいってちやほやされた。そして現に倒した……はずなのに、どうしておれはここに居るんだ?』
そこに居たのは、予言の勇者フル・ヤタクミだった。
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