New Testament
8
メアリーとの話し合いを終え、リニックとジークルーネは通路を歩いていた。
「……宇宙と言ったってどうすりゃいいんだ」
溜め息をつくようにリニックは呟いた。
リニックは弁論大会の後、いざこざがあって指名手配されている(ということはリニックは知らない。リニック本人はまだそこまで事が大きくなっていないだろう、とポジティブシンキングを見せている)。
ならば、どうするべきか。
「……なぁ、どうすればいいんだ?」
リニックはジークルーネに尋ねる。
ジークルーネは素早いタイピングで携帯電話にその返答を打ち込んだ。
「……トライヤムチェン族の村があるんだけど、そのあたりに宇宙船の発着場がある。そこから忍び込めば問題はない」
「問題あるわ! 忍び込めば、って正式な手段で宇宙に向かわないってことだろ!?」
「そういうことだね」
まずこの人間には様々な常識を叩き込まねばいけないのではないか、とリニックは頭を抱えた。
◇◇◇
次の日、荷物を詰め込んだトラックにリニックとジークルーネは乗り込んでいた。運転席にシルバ、助手席にメアリーが乗り込み、リニックとジークルーネは荷台に身を潜めていた。
「君らを隠して運ぶにはこれしか方法がないんだよ。本当にごめんね、大変かもしれないが、暫く我慢してくれよ」
シルバは荷台に向かって言った。メアリーは流れ行く景色をただ見つめているだけだった。
「……メアリーさん、どうしました?」
「この辺りを見るのも久しぶりだな、と思ってね」
「大分変わったでしょう? なんせメアリーさんたちが旅をしたのは百年以上も昔の事ですし」
「……ハイダルクではいろいろあったよ」
シルバとメアリーの会話は、図らずともリニックやジークルーネにも聞こえていた。
「なぁ、メアリー……さんは昔もここを通ったのか?」
リニックは声量に気をつけてジークルーネに訊ねた。
返答は直ぐに(もちろん携帯電話で)返った。
「……確か、百年近く前に世界を旅したというのは聞いたことがある。だけれど、そこまで詳しくは知らない。恐らく直接本人に聞けば教えてくれるかもしれないよ? ……けっこう、あなたのことお気に入りらしいし」
「……どうなんだか。どうも底が見えないよ、あの人は」
リニックはそう言って会話を区切り、荷台と運転席をつなぐ窓を見た。
窓を見ると、どうやら港に着いたようだった。後ろを見ると、雲よりも高く聳える樹木がリニックの視界に入り込んだ。
「『妖精の樹』だ……! となるとここはラズタルド港か」
「流石だねぇ。ここはその通り、ラズタルド港だよ。ここから船に乗り込みトライヤムチェン族の村……えーと、名前は『ダクシンタ』だっけかな、そこへ向かう。そこからは宇宙船で宇宙だよ。そこまで行けば、僕らは何も関与出来ない。無事に戻ってくることを願うだけだ」
「縁起でもないことを言わないでくれ。必ず五体満足で帰ってきてやる」
「果たしてどうなるかな? 君ら二人は一応『お尋ね者』扱いだからね。捕まったら……まず確実に処罰が重くなるのは確定だよね」
「……え?」
「弁論大会を逃げただろ。あれで君は僕らと同じ扱いにされたからね。……まぁ、捕まらなきゃいい話だよ」
「そういう訳じゃないだろ! 今知ったよ、その事実!」
リニックはそれを聞いて頭を抱えることしか出来なかった。
それと同時に彼は、もう普通の日常というものは望めないということを悟った。
◇◇◇
ラスタルド港は快晴で航海日和だった。
リニックたちを乗せたトラックは船に乗り込むため、第三船乗り場に到着していた。
「……さてと、少しだけ待ってもらいますね」
そう言ってシルバは運転席から降り、何処かに向かった。
「しかし……まさか宇宙に行くことになるなんて思いやしなかった」
「そうかな? 君には宇宙に行く相が出ていたよ」
「占い出来るんですか? だったら占ってくださいよ。この旅の安全を願って」
リニックはすこし冗談半分にメアリーに訊ねた。
メアリーは考える時間も無く、答えた。
「……たくさんの困難が待ち受けているだろうが、それでも乗り越えていける。君たちならそれが出来るはず」
「そんなもんですかね?」
「私は何だかんだで世界を救った。けれど、世界からは祝福されなかった。……偉人になる人材っていうのかな、私はそういうのにはなれなかったんだよ」
メアリーは何処か遠くを見つめて、そう言った。
シルバが船舶の乗船許可をもらって、車に戻ってきたのはちょうどそのときだった。
「……許可はちゃんともらえましたよ」
「もちろん、正規の方法で……?」
「当たり前だろう」
シルバはばつの悪そうな顔をして、アクセルを踏み込んだ。
そして、車はゆっくりと動き始めた。
船は車が載ることが出来るのだから巨大なものかとリニックは勝手に思い込んでいたのだが、実際には思ったものよりこじんまりとしたものだった。
「これ、せいぜい三台載ったらもう車無理ですよね?」
リニックは不安になり訊ねた。車三台も載れば、実際この船は沈んでしまうことを、リニックは知らない。
「……こういうときの『魔法』だよ」
そう言ってシルバが取り出したのは小さな卵だった。
リニックが首を傾げているのを無視して、シルバは卵をトラックの目の前に置いた。
「見てろ」
小さく呟いて、シルバは空に十字を切った。
そして、息を吸って、
「……これが『マジック・エッグ』だ」
そう言うと、みるみるうちにトラックは卵に吸い込まれていった。
そしてものの数秒もしないうちにトラックは卵の中に飲み込まれ、最後には卵の殻が閉じられた。
「……すごい」
リニックはそれを見て、ただ驚いた。驚きを隠せなかった。
「これで船も窮屈にはならない」
シルバはそう言って船内へと向かった。
それについていく形でリニックたちも追った。
「……宇宙と言ったってどうすりゃいいんだ」
溜め息をつくようにリニックは呟いた。
リニックは弁論大会の後、いざこざがあって指名手配されている(ということはリニックは知らない。リニック本人はまだそこまで事が大きくなっていないだろう、とポジティブシンキングを見せている)。
ならば、どうするべきか。
「……なぁ、どうすればいいんだ?」
リニックはジークルーネに尋ねる。
ジークルーネは素早いタイピングで携帯電話にその返答を打ち込んだ。
「……トライヤムチェン族の村があるんだけど、そのあたりに宇宙船の発着場がある。そこから忍び込めば問題はない」
「問題あるわ! 忍び込めば、って正式な手段で宇宙に向かわないってことだろ!?」
「そういうことだね」
まずこの人間には様々な常識を叩き込まねばいけないのではないか、とリニックは頭を抱えた。
◇◇◇
次の日、荷物を詰め込んだトラックにリニックとジークルーネは乗り込んでいた。運転席にシルバ、助手席にメアリーが乗り込み、リニックとジークルーネは荷台に身を潜めていた。
「君らを隠して運ぶにはこれしか方法がないんだよ。本当にごめんね、大変かもしれないが、暫く我慢してくれよ」
シルバは荷台に向かって言った。メアリーは流れ行く景色をただ見つめているだけだった。
「……メアリーさん、どうしました?」
「この辺りを見るのも久しぶりだな、と思ってね」
「大分変わったでしょう? なんせメアリーさんたちが旅をしたのは百年以上も昔の事ですし」
「……ハイダルクではいろいろあったよ」
シルバとメアリーの会話は、図らずともリニックやジークルーネにも聞こえていた。
「なぁ、メアリー……さんは昔もここを通ったのか?」
リニックは声量に気をつけてジークルーネに訊ねた。
返答は直ぐに(もちろん携帯電話で)返った。
「……確か、百年近く前に世界を旅したというのは聞いたことがある。だけれど、そこまで詳しくは知らない。恐らく直接本人に聞けば教えてくれるかもしれないよ? ……けっこう、あなたのことお気に入りらしいし」
「……どうなんだか。どうも底が見えないよ、あの人は」
リニックはそう言って会話を区切り、荷台と運転席をつなぐ窓を見た。
窓を見ると、どうやら港に着いたようだった。後ろを見ると、雲よりも高く聳える樹木がリニックの視界に入り込んだ。
「『妖精の樹』だ……! となるとここはラズタルド港か」
「流石だねぇ。ここはその通り、ラズタルド港だよ。ここから船に乗り込みトライヤムチェン族の村……えーと、名前は『ダクシンタ』だっけかな、そこへ向かう。そこからは宇宙船で宇宙だよ。そこまで行けば、僕らは何も関与出来ない。無事に戻ってくることを願うだけだ」
「縁起でもないことを言わないでくれ。必ず五体満足で帰ってきてやる」
「果たしてどうなるかな? 君ら二人は一応『お尋ね者』扱いだからね。捕まったら……まず確実に処罰が重くなるのは確定だよね」
「……え?」
「弁論大会を逃げただろ。あれで君は僕らと同じ扱いにされたからね。……まぁ、捕まらなきゃいい話だよ」
「そういう訳じゃないだろ! 今知ったよ、その事実!」
リニックはそれを聞いて頭を抱えることしか出来なかった。
それと同時に彼は、もう普通の日常というものは望めないということを悟った。
◇◇◇
ラスタルド港は快晴で航海日和だった。
リニックたちを乗せたトラックは船に乗り込むため、第三船乗り場に到着していた。
「……さてと、少しだけ待ってもらいますね」
そう言ってシルバは運転席から降り、何処かに向かった。
「しかし……まさか宇宙に行くことになるなんて思いやしなかった」
「そうかな? 君には宇宙に行く相が出ていたよ」
「占い出来るんですか? だったら占ってくださいよ。この旅の安全を願って」
リニックはすこし冗談半分にメアリーに訊ねた。
メアリーは考える時間も無く、答えた。
「……たくさんの困難が待ち受けているだろうが、それでも乗り越えていける。君たちならそれが出来るはず」
「そんなもんですかね?」
「私は何だかんだで世界を救った。けれど、世界からは祝福されなかった。……偉人になる人材っていうのかな、私はそういうのにはなれなかったんだよ」
メアリーは何処か遠くを見つめて、そう言った。
シルバが船舶の乗船許可をもらって、車に戻ってきたのはちょうどそのときだった。
「……許可はちゃんともらえましたよ」
「もちろん、正規の方法で……?」
「当たり前だろう」
シルバはばつの悪そうな顔をして、アクセルを踏み込んだ。
そして、車はゆっくりと動き始めた。
船は車が載ることが出来るのだから巨大なものかとリニックは勝手に思い込んでいたのだが、実際には思ったものよりこじんまりとしたものだった。
「これ、せいぜい三台載ったらもう車無理ですよね?」
リニックは不安になり訊ねた。車三台も載れば、実際この船は沈んでしまうことを、リニックは知らない。
「……こういうときの『魔法』だよ」
そう言ってシルバが取り出したのは小さな卵だった。
リニックが首を傾げているのを無視して、シルバは卵をトラックの目の前に置いた。
「見てろ」
小さく呟いて、シルバは空に十字を切った。
そして、息を吸って、
「……これが『マジック・エッグ』だ」
そう言うと、みるみるうちにトラックは卵に吸い込まれていった。
そしてものの数秒もしないうちにトラックは卵の中に飲み込まれ、最後には卵の殻が閉じられた。
「……すごい」
リニックはそれを見て、ただ驚いた。驚きを隠せなかった。
「これで船も窮屈にはならない」
シルバはそう言って船内へと向かった。
それについていく形でリニックたちも追った。
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