Cat's World

りょう

After World ④

part4
チルが自分で出した選択。それは間違っていない。自分の親の元で暮らしたいのは一人だった俺には、痛いほど分かる。でもその代償として、ムムとクポを置いて行くなんて、ましてやクポは他の猫に預けるなんてあまりにも可哀想すぎる。
「お前はそれでいいのか?」
「私が出した答えなんだもん。いいに決まってるじゃない」
「ムムとクポを置いてまでお前は幸せを手に入れたいのか?」
「二匹とも成長した。だからきっと、生きていけるわよ」
あまりに素っ気ない言葉に俺は何かが切れた音がした。
「馬鹿かお前は!」
思わずチルを殴ってしまう。
「っ! 何をするのよ」
「お前にとってクポとムムは家族じゃなかったのかよ!」
「そんなの当たり前でしょ」
「当たり前なら、家族を置いて行くという選択はしねえよ。成長したから大丈夫だって? そんなのお前が勝手に決めつけるなよ」
「だって事実でしょ! 二匹とも成長してくれたもん。だから、そろそろ独立していくべきじゃない」
「クポはまだ子供じゃねえか。やっと自分の居場所を見つけたのに他の猫に預けるだなんて、あまりにも酷すぎるだろうが!」
俺はチルの肩を掴み、更に言葉を続ける。
「家族はそう簡単に離れちゃいけないんだよ! いつまでも一緒に居るのが家族だ! 人も猫も一人じゃあ生きていけない。それはお前が一番分かってるだろ!」
少しきつめに言っているかもしれないがこれでいいんだ。ムムが言っていた言葉『みんなと離れたくない』を聞いたら、このまま放置するわけにはいかないのは当然だ。だからチルに厳しく言ったのだ。
「ミケ…」
力が抜けたかのように、ふらふらと座り込むチル。彼女の目からは大粒の涙が流れている。
「悪い、俺もちょっと言いすぎた」
「いいの…」
「え?」
「私にもう二人に家族なんて名乗る資格がないんだよね」
「そ、そういう訳じゃ」
「ごめんねミケ」
チルはそう言うと俺の部屋を飛び出して行ってしまった。
「チル…」
俺はそれを追うこともできず、ただただ立ち尽くしていた。

数日後の大晦日、
「ねえミケ、チルちゃんに何があったの?」
あれからチルは自分の部屋から出てくることはなかった。この家に居ることは間違いないのだけれど、まるで居ないかのように家は静まり返っていて、折角の大晦日が台無しになりかけていた。
「ちょっと色々あって…」
「ちょっとって何?」
「ごめん、説明と長いから、後で皆に説明する」
「分かった…」
果たして誰がこんな事を望んだのだろうか? 俺はただ今を大切にしたかっただけなのにどうして…。
「あ、チルちゃん…」
「え?」
ユキが見ている方に目を向けるとそこには、死人の目をして居るチルが立っていた。
「皆に話したいことがあるの」
                                                     part5 へ続く

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