Cat's World

りょう

第42匹 また会えるその日まで

          第42匹 また会えるその日まで

1
翌朝、まだ皆が寝静まっている頃に、俺はこっそり家を出た。もうこの家に戻る事は無いだろう。
(この家にも長年お世話になったな)
玄関を出て、家を眺めると、ここであった事が蘇ってくる。
初めて来た時には色々苦労をした。まさか自分が猫になっているなんて、想いもしなかったから。
ブラックキャットが攻めて来た時には、ここで戦いが繰り広げられた。と言ってもムムが突っ込んで来ただけだけど。
一度この世界を離れて、再び戻ってきた時には、この家で皆が暖かく迎えてくれた。
ここでユキとの再会を果たし、それと同時に、大切な話をした。
この半年間でこの家では沢山の出来事があった。そこにはいつも彼女が居た。大切な妹が。でも俺には彼女を置いて帰る以外の選択はないのだ。彼女は死んでいるけど、俺は今生きているんだ。俺が前を進まなくて、誰が進むんだ。
「チルには申し訳ないけど」
俺は一人で始まりの地へと向かおうとした。その時、
「誰に申し訳ないだって?」
「え?」
あの声が聞こえた。眠ってるはずなのに…。
「何でチルがここに居るんだよ?」
「何でって見送る為に決まってるじゃない」
「見送るってお前…」
しばらく口も聞いてくれなかったくせに。とりあえず目的地を目指す為に歩き出す。チルも一緒に。
「何か文句でもある?」
「文句なんてあるかよ。だってお前怒ってたんだろ?俺が勝手に帰ろうとしている事に対して」
「確かにまだ怒ってるよ。でもね」
「でも?」
「昨日のムムとの会話聞いていて分かったの。私には私の生き方がある様に、ミケにもミケの生き方があるんだって」
「聞いてたのか、昨日の話」
何となく気配はしていたけど、やっぱりそうだったか。あえて何にも言わなかったが…。
「それに気づきながらも私は、やっぱり別れるのが怖くて部屋を出れなかった。もう誰かとさよならをするのは嫌だったから」
「そうか…」
チルの本当の気持ちを聞きながら歩き続けて十分、目的地に到着する。そこは俺の始まりの地である草原のど真ん中。チルと再び再会した場所。
「ここって…」
「ああ。お前が言っていた場所だよ。その時は眠ってて分からなかったけど、この場所で俺とお前は出会い、そして再会も果たしたんだろ?」
「うん…」
「ここしかないと思ったんだよ。俺が人間の世界に戻れる場所が」
だからユキにもユキの場所があるはずだから、一緒に居ない。
それぞれの生まれた場所から、元の世界に戻るんだ俺達は…。
まるでそれを歓迎するかの様に、その場所にだけ光に包まれていた。この中に入れば俺は…。
2
「チルともここでお別れだな」
「ミケ…」
光を眺めながら俺は言う。チルは後ろに居るが、振り向かない。あいつの顔を見ると、また妹の事を思い出して、帰れなくなりそうだから…。
「なあチル」
「何?」
「昨日の話聞いていたなら分かると思うが、俺はもう一度この世界に戻ってくるかもしれない。その時は…」
「その時は?」
「またいつもの笑顔で迎えてくれよな」
「う…ん…分かっ…た」
次第に涙声になっていくチル。馬鹿、お前が泣いたら俺も…。
「俺達は…また会えるさ。だって…だって…」
我慢していたが、ついに俺は振り向いてしまった。でもこの言葉だけは伝えたい。
「家族なんだからな」
「うぅっ…ミケ…」
「チル…」
お互いの目線が合う。どちらも涙で滲んでいて、前が見えないけど…。
「じゃあな…奈穂」
「じゃあね…お兄ちゃん」
俺は再び向き直る。よし、これで…。
俺は光の中へと足を踏み入れた…。
光が俺を包む
眩しくなって思わず目を瞑ってしまう
次開けた時にはもうこの世界にはもう居ない
さよなら チル
さよなら ムム
さよなら クポ
さよなら 父さん 母さん
さよなら ニャンコワールド
                         エピローグ~始まり~ へ続く

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