Cat's World

りょう

第39匹 どんなに離れていても家族

       第39匹 どんなに離れていても家族

1
二日後、俺はチルを引き連れてある場所へと向かった。そこは…。
「来たな、チル、ミケ」
「おかえりなさい、二匹とも」
それはチルが本来戻るべき場所、そして俺の親がいる場所でもある。
「お父さん、お母さん…」
「少し遅れたけど、一ヶ月前に出来なかった話の続きをしに来たんだけど、いいよな?」
「当たり前じゃない。まだしっかり話ししてないもの」
一ヶ月前はブラックキャット王国の襲撃により、中断させられてしまった話の続き。十五年の空白の話。
「聞きたい事はどんどん聞いてくれ」
「じゃあ…」
チルが一番最初に聞いたこと、それは…。
「私が元は人間で、ミケとは兄妹だったのは本当なの? そしてミケだけは今も生きているの?」
やっぱりそれか…。前に少しだけ記憶を取り戻したとは言っていたけど、やはり気になるのだろう。
「それは事実だ。今ここに居る四匹は皆、家族だった。私とリーシャは人間の頃の記憶がしっかり残っている。ミケ、お前がこの世界に来てしまった時は驚いたよ。何があったんだ?」
「それは…」
自分も十五年前と同じような目にあった、とは言えない。何でか分からないけど話せない。
「話したくないなら構わないが、お前はまだ生きているって本当なのか?」
「ああ。一度だけ元の世界に戻ってる」
「どうやってもう一度この世界に戻ってきた?」
「詳しくは分からない。でもひたすら願ったら、戻ってこれたんだ。この世界に」
「なるほどな…」
うーん、話しづらいな。久しぶりにゆっくり話が出来るのに。家族って、こんなんだっけ?
あ、でも俺しっかり話さなきゃいけない事があるんだった。
「あのさ父さん、母さん、チル」
「ん? どうした?」
「どうしたの?」
「何?」
それは十五年間胸にしまい続けた言葉。
「ごめんなさい」
「え? どうして謝るの?」
2
「十五年前、俺はまだ小さくてあの事件の日も何もできなかった。男なのに家族を守る事ができなくて、怖くて、隠れ続けていた。悲鳴とか全部耳を塞いで聞こえないようにしていた。皆が酷い目にあっている間、俺は押入れの隅で隠れて、自分だけ難を逃れてしまった。家族もろくに守れなくて…、終いには皆殺しなんて…。馬鹿だよ」
「ミケ…」
俺はただ謝りたかった。何にもできなかったこと、逃げてしまったこと。自分だけが生き残ってしまったことを…。
「謝らなくていいんだぞ優斗」
「どうして? 俺は皆殺しにしたんだぞ!」
「そんな事私も母さんも、一度も思ったことなんてない。むしろ私達が謝るべきなんだよ。お前だけ残して悪かったって」
「そ、そんな事言われても…。俺は…」
「私達はあなたが今も生きていることに喜んでいるのですよ。ですから、恨んでなんかいませんからね」
「父さん、母さん…」
俺は過去に囚われすぎていたのか? もしかしてこの世界に来たのも、俺がいつまでも後悔をしていたから。前に進もうとしていなかったから…。俺は誰かに背中を押してもらいたかったんだ。多分…

「それにお前は、もうすぐこの世界を去って、元の人間生活に戻るんだろ? 私達がその背中を押さないでどうする」
「え?」
チルが驚きの声をあげる。
やっぱり俺の心、読まれていたんだ。俺が今日ここに来た真の目的は、父さんと母さんに謝って、最後にちゃんとお別れをすることだった。だから本当は、この世界の秘密を知るとか何とかとか、別にどうでも良かった。ただ俺は謝りたかった。それだけ…。
「いつ帰るんだ?」
「五日後ぐらい」
「そうか…。じゃあ次会うことはないか…」
「まあそうなるな、多分」
「だったらこの世界から発つ一人の家族に、言葉を捧げよう」
父さんは上を仰ぎ見て、高らかに言った。
「どんなに離れていても、お前と私達は家族だ。いつかまた、会えるかもしれない。常に信じる心を胸に生き続けてくれ。私達も見守る。だから…」
父さんはいつの間にか涙を流していた。母さんも。親として子供と別れるのがどれだけ辛いのかは分からない。ただ…。
「前を向き、強い志を持つ人間として生きてくれ」
親はいつまでたっても、俺達子供にとって大きな存在なんだ。
「ありがとう…、そしてさようなら。父さん、母さん」
                   第40匹お別れの日の前夜 へ続く

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