Cat's World

りょう

第38匹 残り少ない時間

        第38匹 残り少ない時間

1
戦いは終わった。深手を負った俺は、しばらく治療する事になったが、それほど長い期間を使わずに無事に退院。チル達が居る家へと帰宅。
『おかえりなさない、ミケ』
皆に笑顔で迎えられた俺は、思わず泣きそうになってしまった。俺は皆の笑顔をただ守りたかった。たとえ自分が傷ついたとしても、この笑顔だけは守りたかったんだ。
「ただいま、みんな」
俺もそれに笑顔で答えるのであった。
戦いが終わった事によって、今まで起きていた争いは収束。ニャンタ王国とブラックキャット王国は再び併合する事になり、この世界はまた新しいスタートを迎えようとしていた。だがその中で俺とユキも決断の日が迫られていた。
「なあユキ、話したい事がある」
「うん。そろそろ話し合わなきゃいけないと思ってた」
戦いが終わって、一ヶ月が経った頃、そろそろ俺達は元の世界に戻らなければならなければならなかった。全てが終わり新しい未来へ向かい始めている今だからこそ、俺達は帰るべきなのだ。
2
「帰るならなるべく早い方が良いのは分かるよな?」
「うん。分かってる」
「ただその前にお前も俺も、やるべき事がある」
「うん」
「それを考えると、残りは一週間だな」
「うん…」
さっきから同じ返事しかしないユキ。どうも様子が変だな。
「お前様子が変だけど、どうかしたか?」
「別に何も…」
やっぱり変だ。もしかしたら…。
「お前クポの事が心配なんだろ?」
「やっぱり分かる?」
「当たり前だろ。お前の唯一の気がかりな事は、クポの事ぐらいだからな」
「そうなのよね…」
一応こいつが育ててきたんだから、手放すのは寂しいのだろう。でも仕方がない話だ。それに、
「別れは辛いだろうけど、その後の事を心配する必要はないんじゃねえか?」
「どうして?」
「だってチルやムムが居るじゃねえか」
「あ…」
もうクポの周りにはちゃんとした仲間が居る。だったら、彼女の未来を任せられると俺は考えている。問題は…。
「でもミケの方が辛いんじゃないの?」
「ああ」
俺には半年一緒に過ごしてきた家族がいる。大切な妹が。でも一緒に帰る事はできない。彼女は既に死んでいて、俺はまだ生きている。生きている者と死んでいる者が同じ世界で過ごす事はできない。だからあいつとも、父さんと母さんとも別れなければならない。勿論クポやムムとも。俺は残り少ない時間の中で、沢山の別れをしなければならないのだ。
「でもそれが運命だから、仕方がないか…」
運命
そう考えればきっと、俺は…皆と…。
「ミケ?」
「うぅっ…」
あれ、何で涙が…。まだ別れの日じゃないのに…。
「泣くなんて情けないわね。でも今日だけは泣いていいよ。そうすれば、最後は笑って別れられると思うから」
「ユキ…」
「ほら、私の胸貸してあげるから」
「うわぁぁ」
俺はこの日、にゃんこワールドに来て以来初めて泣いた。
    第39匹  どんなに離れていても家族 へ続く

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